57 / 72
57
しおりを挟む気に食わない。
俺が首席合格で挨拶するはずだったのに。いや、しなければいけないはずだった。
入学式の日俺は入学試験の順位表が貼り付けられた掲示板の俺の上にある名前とそいつの点数を睨んでいた。
「ユーマ・アバーテ」
首席合格した奴の名前はユーマ・アバーテ。点数はなんと498点。俺は470点だったからかなり差が開いている。
それも気に食わない。
「試験2位だったか。流石にあの点数を超えての1位は無理だな。相手が優秀すぎた」
断トツの1位を取って父に褒められるはずだったのに。父は1位を取れなかった俺には見向きもしなかった。昔から父に褒められた記憶はない。出来て当然だと思われている。俺のことを褒める周りの奴は俺の背後、父や爵位のことしか考えていない下心のある奴ばかりだ。
「大変優秀です」
入学式の次の日の授業であいつは気難しく滅多に生徒を褒めないし笑顔も見せないと評判の教師から笑顔で褒められていた。
しかも俺があてられ分からなかった問題をさらっと答えている。教師に褒められた後のあの得意そうな笑顔、腹が立つ。
俺が握りしめていたペンがミシリと音をたてた。
「まだ授業1日目なのにもう質問に来たのか」
俺が放課後職員室に行くと奴は先に来ていた。先を越されたことにイライラする。
俺は職員室には入らず引き返して陰であいつが出てくるのを待つ。
奴が出てきたからもう一度職員室に向かう。
中ではさっきあいつが質問していた教師と俺たちの担任が話をしていた。
「アバーテ君大変優秀ですね。でもあんなに優秀な子をなぜ副級長にしたんですか?級長にして当然だと思うんですが」
「うちのクラスにはビアシーニ君もいるでしょ。やっぱり学園長のお子さんだから」
「あぁ、なるほど」
中から聞こえてきた会話に俺は中に入ることをやめた。
「くそっ」
教師まであんな考えの奴ばかりなのか。俺の親の機嫌を取る事ばかり考えている。
次のテストではあいつを抜かして1位を取ってやる。あいつら全員覚えてろ。俺が父の後を継いでこの学園の学園長になった時には首にしてやる。
俺はイライラしながらその場から離れた。
「それもあるんですがアバーテ君は誰かを引っ張っていくような感じではないんですよね。リーダーシップはビアシーニ君の方があるような気がします」
「なるほど、先生の感は鋭いですからね」
その場を離れた俺にはその後の教師の会話は聞こえてこなかった。
寮に戻った俺は寝る間も惜しんで勉強した。夕食も部屋で軽く摘まめるものを食べる。それも全てあいつに勝つため。
それなのに、
「他の人の点数は気にならなかったんですか?」
「うん、全く」
あいつは俺のことなど眼中にないような発言をしていた。
授業2日目の昼休みあいつはミコト・バルバロと一緒に教室でお弁当を食べていた。俺も自分の席で教科書を広げながら昼食を取っていた。
俺はこんなにあいつの点数を気にしているのに、あいつは。
本当にイライラする。
イライラしすぎるそんな俺の気配を感じ取ったのか午後からの授業では1度も教師にあてられることがなかった。
1週間後にあるテストではあいつを超える。
「この問題分からないな、辞典は......ないな。仕方ない図書館に行くか。あそこはうるさいから行きたくないが仕方ない」
明日がテストだから最後の追い込みとして寮に戻って勉強をしていた。分からない所を調べようと辞典を探したが教室に忘れてきたのか寮の部屋になかった。
図書館に行くことにしたがあそこは沢山の生徒がいて落ち着かない。あんな所で勉強する奴の気が知れない。
「ちっ、余裕だな」
図書館で目当ての辞典を見つけたが持ち出し禁止だったため自習室で解こうと思い行くとアバーテがそこで寝ていた。
奴の前にはノートや教科書が広げてあったからどんな風に勉強しているのか気になり近寄ってみる。
寝ている奴に近付くと奴の周りにある教科書やノートを見る。
色々な書き込みがしてありまだ始まって1週間だというのに使いこまれていた。
俺は誰より努力をしていると思ったけどこいつはそれ以上だった。
俺は自分が恥ずかしくなった。
その場から離れようとした時夕陽が入り込んできていつもは冷たそうに見える奴の銀髪に反射してその髪は温かみのあるオレンジに染まっていた。
「綺麗だ」
俺は思わず呟いて奴の髪に触れた。
「うぅ~ん」
奴が唸り向こう側を向いていた顔をこちらに向ける。何かいい夢でも見ているのか笑っている。
その顔を見た俺は何故か胸が苦しくなってきた。
それ以上そこにいられなくて俺は慌てて片付けて寮に帰る。
寝ようとしても奴の笑顔が頭から離れず中々眠ることができなかった。
6
お気に入りに追加
311
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

異世界では総受けになりました。
西胡瓜
BL
尾瀬佐太郎はある日、駅のホームから突き飛ばされ目が覚めるとそこは異世界だった。
しかも転移先は魔力がないと生きていけない世界。
魔力なしで転移してしまったサタローは、魔力を他人から貰うことでしか生きられない体となってしまう。
魔力を貰う方法……それは他人の体液を自身の体に注ぎ込んでもらうことだった。
クロノス王国魔法軍に保護され、サタローは様々な人物から魔力を貰うことでなんとか異世界を生き抜いていく。
※アホ設定なので広い心でお読みください
※コメディ要素多め
※総受けだけど最終的には固定カプになる予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる