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 「ユーマとうとう明日だな。これまであんなに頑張ってたんだから絶対合格できるぞ。お母様はここでユーマを応援しているからな。ユーマの好きなクッキーも沢山用意しておくぞ」
 「ユーマ緊張していますか?試験会場で他の人達のことは考えないで問題用紙と向かい合うんですよ。学園に行ったら何度も試験はあるんですから明日はそれの予行練習です」

 明日はとうとう学園の入学試験の日という晩御飯の席で不安そうな顔をしている僕に両親が優しく声をかけてくれる。

 「お父様、お母様ありがとうございます。しっかり勉強はしてきたし先生の最終テストでも満点は取れるようになったんですけどやっぱり合格できるか不安で緊張しちゃって。周りも同じかそれ以上に勉強してきてるはずだし」
 「大丈夫です。ユーマが1番頑張ってます。そんな不安そうな顔しないで。せっかく料理長が明日のユーマのためにとこんなに美味しい料理を作ってくれたんですからちゃんと食べて明日に備えないと」

 僕は緊張と不安で晩御飯にあまり手を付けていなかった。テーブルの上には料理長が僕のためにと作ってくれた僕の好物ばかりが並んでいる。
 食べたいけれど今はあまり喉を通らなかった。
 料理長には悪いなと思いながら僕は食事を半分ほど残してしまった。

 「ユーマ」

 食事も終わり部屋に帰ろうとしていたらお父様に呼び止められた。
 なんだろうと思いお父様の方へ行くとお父様は何も言わず僕を抱きしめた。そしてお母様が僕の頭を撫でてくれた。
 安心感があるが意味も無く泣きたくなってきた。
 しばらく抱きしめられ、頭を撫でられていた。離される頃にはさっきまであった不安感は無くなっていた。

 「おやすみなさい」
 「おやすみ」

 僕を離した2人は笑顔でそれだけ言った。

 「お父様、お母様おやすみなさい」

 僕は挨拶をして部屋へと帰った。
 クロードは晩御飯の席にはいたが一言も話すことなく食事を終えるとすぐに自分の部屋に帰って行った。

 コンコン

 明日の荷物の最終確認をしているとノックする音が聞こえてきた。
 レンももう自室に帰っているし誰だろうと思いながら扉を開けるとジェイドが立っていた。

 「……ジェイド、こんな夜にどうしたの?」

 あのお風呂のこと以来ジェイドとはほぼ話をしていない。こんな風に正面に向かい合うのも本当に久しぶりだ。お互いなんだか緊張している。

 「ユーマ、明日試験なんだろ。一言応援が言いたくて。それとあまり晩御飯食べてないって聞いたし料理長も心配してて。それでこれ夜食にと思って」

 ジェイドが差し出してきたお盆にはスープボウルに入った野菜スープが乗っていた。
 
 「僕のこと心配して持ってきてくれたんだね、ありがとう」
 「ユーマなら合格できるって俺信じてるから」

 ジェイドはそう言って僕にお盆を手渡すと去って行った。
 野菜スープは野菜がくたくたになるほど煮込まれていて食べやすくとても美味しくて料理長の優しさを感じた。それにさっきのジェイドの言葉、本心からの言葉のようで今までのことがあったけど素直に受け取ることができた。
 野菜スープを完食して不安も緊張も無くなっていた僕は満たされた心でベッドに入り眠りについた。 
 異変が起こったのは夜明け前だった。

 「うぅ、っ痛」

 お腹が猛烈に痛くて軽く吐き気もする。ベッドの上から起き上がることができずにレンが来るまで苦しんでいた。

 「それではお大事にして下さい」

 医者に処方された薬を飲んで腹痛も吐き気も治ったが試験の時間に試験会場まで行くことができなかった。
 お屋敷の誰一人として僕に試験という言葉は言わなかったけど全員が悲しそうな顔をしていた。
 薬の副作用でうつらうつらしていた僕のベッドにジェイドがやってきた。

 「うぅ、ユーマごめん。こんなことに、ひっく、なると思わなくて。ユーマのこと大好きだから学園になんか行ってほしくなくて、ずっとここに居てほしくて。ユーマをこんなに苦しませたくなんかないのに。ごめん、ごめんユーマ」

 ベッドの横で僕の手を握りしめたジェイドが大泣きしていた。それを僕は寝ぼけた頭で聞いていた。

 「ジェイドのこと僕も好きだよ。僕の好きは友達としてだけど。ジェイドにはずっと僕の大切な友達でいてほしい」

 寝ぼけていたからかいつもなら中々言わない本音が素直に口から出てきた。

 「ユーマ、お前の傍に居れるなら俺はお前の騎士になる。お前を守るよ。ずっと親友として傍に居させてくれよな」

 ジェイドは握っていた僕の手の甲にキスをした。その後も何か言っていたが僕は眠ってしまいジェイドが何を言っていたのか分からなかった。
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