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 翌朝目覚めると冷やしたおかげか目は腫れていなくて安心した。
 体は軽かったが自己嫌悪で心は重かった。気持ち良さに負けてしまった。

 「ユーマ様今日は元気がないようですが何か心配事ですか?」

 ぼんやりとしながら朝食を食べているとそんな様子の僕を心配したレンが声をかけてきた。

 「いや、あ、うん。家庭教師の先生どうなっているのかなって思って」

 自慰が気持ち良すぎて怖かったなんて言えないから嘘をつくけど家庭教師の先生がどうなっているのか気になっているのも本当だ。
 僕がお願いしてから一ヶ月近く経つのにまだ何も言われていない。

 「僕が言ったこと忘れられてないか心配」
 「忘れられてはいないと思いますが旦那様もお忙しい人ですからね。今日の午前中は執務室にいらっしゃるようですから直接お尋ねになってはいかがですか?私がお時間作ってもらえるようにお願いしておきますから」
 「そうだね、レンお願い」
 「承知しました」

 それからすぐレンはお父様の所へ行き午前中ならいつ訪ねてもいいという許可を貰ってきてくれた。近頃お父様はものすごく忙しそうだからお父様に会うのは家庭教師をお願いしたあの日以来だった。
 食後の休憩を挟み僕はお父様の書斎へと向かう。
 コンコン

 「どうぞ」
 「お父様失礼します」

 僕は扉をノックしお父様の返事を聞くと僕の部屋の扉よりも重い扉を開けて中へ入った。
 書斎は真ん中にソファとテーブルがあり両脇の壁は一面本棚でびっしり本が入っていた。ソファを挟んで扉の正面には大きな机がありその後ろの窓ガラスからは庭に植えられた花がよく見える。お父様は仕事に疲れた時や休憩する時よく窓を開けて庭の花を眺めていた。
 お父様は沢山の本や書類が積まれた机の前に座っていた。僕の方を見ているその顔には疲れが見える。

 「そこに座りなさい」

 僕はお父様が指差したソファに大人しく座った。お父様も座っていた椅子から離れて僕の隣に座る。

 「お父様!」

 隣に座ったと思ったら僕を抱き上げ自分の膝の上に座らせ抱きしめる。
 相変わらずお父様からはいい香りがする。安心するその香りをもっと嗅ぎたくお父様の胸に顔をうずめる。

 「久しぶりだねユーマ。そんなにお父様に抱きついて寂しかったのかい?」

 僕に甘えられ嬉しそうなお父様の声がする。お父様は僕の頭を撫でながら笑っているようだった。

 「クッキー焼いたから食べてくれ」
 
 突然ノックもなしに扉が開いた。入ってきたのはお母様だった。
 お母様は全身から甘い匂いを漂わせている。その匂いの元は手に持っている籠の中のクッキーだった。
 この筋肉ムキムキのお母様の趣味はお菓子作りと花の世話だったりする。お父様がよく眺めている花もお母様が世話をしている花だ。

 「ユーマもいたのか今日のクッキーは自信作なんだぞ、ほらユーマあーん」

 お母様は僕の隣に座るとクッキーを一つ僕に食べさせた。

 「とっても美味しいですお母様」

 そのクッキーは甘さ控えめだったがサクサクで優しい味がしてとても美味しかった。

 「そうか、また作ってやるからな」

 お母様は僕の言葉を聞くと嬉しそうに僕の頭を撫でた。

 「全くあなたはいつもノックして下さいって言っているでしょう」

 頭の上からお父様の呆れたような声が聞こえてくる。

 「いいじゃないかちゃんと執事に客は来ていないこと確認してきたんだから。ほらお前もクッキー食べろ」
 「そういう問題ではないんですけどね。そのクッキー食べたいんですけどご覧の通り両手が塞がっているので食べさせてください」

 お父様の両手は僕を抱きしめているけど別に抱きしめていなくても僕は落ちたりしないのに。

 「しょうがないな、ほら」

 お母様は深く考えずに言われた通りクッキーをお父様の口元まで持っていく。お母様騙されていますよ。

 「ちょうど私好みの甘さですごく美味しいですよ。もう一つ下さい」

 この甘さ控え目のクッキーはお父様の好みの味で作られたものだった。そこにお母様のお父様への愛を感じる。

 「ほら。お、おい。指まで舐めるな」
 「このクッキーに負けずあなたの指もとっても美味しいですよ」

 二つ目のクッキーを食べるときお父様はクッキーを持っていたお母様の指まで口に含み舐め出した。
 いちゃつき始めた2人、僕がここに居ることちゃんと覚えていますか?

 「僕はお部屋に帰りますね」

 僕は早々にその場を後にすることにした。
 お母様は少し困ったように、お父様はお母様の腰に手を当てて僕を見送ってくれた。

 「ユーマ様家庭教師のお話はどうでした?」
 「あっ、忘れてた......」

 僕は自室に戻りレンに言われてお父様に会いに行った理由を思い出した。でも今戻るとあの2人の邪魔をすることになる。それはできない。今日は諦めることにした。
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