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第四章
第23話 「ここまでやるとは、物狂いか」
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「静馬っ! そなた何を――」
「お、おキヌ?」
悲鳴に近いユキの声が聞こえる。
そこに有田が呼ぶ少女の名が重なる。
しかし静馬は意に介さず、キヌと呼ばれた娘の首を締める指に力を込める。
バタつく手足は程なくして動きを止め、小さな体から一気に力が抜けた。
そこまで見届けた静馬は、グッタリとしたキヌの体を無造作に放り捨てる。
傍らに控えていた孫三郎がそれを受け止め、険しい表情で静馬を見据えた。
ユキが、弥衛門が、有田が、呆気にとられた形相で固まっていた。
惨劇を見せつけられた子供らも、全員が息を呑んで黙りこくっている。
「次はどいつだ」
低い声での静馬の問いに悲鳴が弾け、子供らは一斉に外へと逃げ散っていった。
数瞬の間を置いて我に返った有田は、頬を引きつらせながらキヌを指差す。
「こっ……ここまでやるとは、物狂いか」
「イカレた連中を討つのが探索方。手段を選んでいられるか」
静馬は感情を押し殺した声で、困惑から脱していない有田に言い放つ。
「何故なのじゃ!」
「馬鹿か! やり過ぎだ!」
ユキと弥衛門は抗議の声を上げ、孫三郎は物言わぬ少女をジッと見下ろしている。
静馬はそんな周囲に構うことなく、有田から目線を外さずに銃を抜いて弾を込める。
「さて、坊主の真似事は終いだ。表に出て尋常に勝負を致せ、有田平次郎」
「くっ……小童めが」
悪態を吐きながらも、そう広くもない室内での戦闘は不利と判断してか、有田は銃を持った静馬の手元を警戒しつつ庫裏を出る。
その後をユキと弥衛門が追い、色々と言いたげな孫三郎を置いて静馬も続く。
お誂え向きに、境内に子供らの姿はない。
いまひとつ状況を把握しきれていない様子の有田に、静馬は平らな調子で告げる。
「一対一だ。最後くらい、卑怯な真似をせずに戦ってみせろ。俺に勝ったら、盗賊でも人商い(奴隷商人)でも好きにするがいい」
「よろしいのですか、姫様?」
疑わしげな有田に問われ、渋面のユキは頷き返す。
「ん……まぁ、それならそれで、仕方ないのじゃ」
静馬を信じて任せたいユキだが、先程の出来事が物言いの歯切れを悪くさせる。
理解を超える展開に浮き足立っていた有田だが、ともあれ静馬を討てば諸々に一段落が付くと割り切ったようで、眼光と挙動が戦を前にした侍のものへと転じていく。
こいつは手強い――
自然と身が竦むような圧を受け止めつつ、静馬は射撃に適した間を作ろうとさりげなく有田から離れ、緊張で早くなる鼓動を抑えるべく深く長い呼吸を繰り返す。
銃の特殊さを悟らせないように、輪にした火縄の端に点火して、使いもしないのに左腕に通しておく。
最後まで腹が据わらなかった山室と違い、有田はこの状況を戦場と同一視している。
長大な野太刀を肩に担いで腰を落とした構えからは、刃の届く範囲に入った相手を有無を言わせず両断しようとの気迫が伝わってくる。
「何とも面倒なことだが……結構な金になるはずのメスガキを一匹、無駄死にさせられた腹癒せはさせてもらおうか」
「クハッ、そうやって本性を露にしてくれると、俺としても気が楽だ」
醜悪に微笑む有田に苦笑いで応じながら、静馬は相手の突進を誘おうと僅かに後退った。
その動作に誘われたか、或いは逆に誘うつもりか、有田は体格に似合わぬ身軽さで疾駆する。
「があああぁああああっ!」
威嚇と気合を兼ねていると思しき咆哮を発し、袈裟の裾を棚引かせて有田が猛然と迫ってくる。
一太刀を浴びれば良くても瀕死、悪ければ即死。
一度でも恐怖を感じてしまえば、体は言うことを聞かなくなる。
それがわかっている静馬は、相手の剛力を意識から追い出し、巨躯の中心を狙い澄まして銃口を向けた。
「フッ!」
肺腑の息を全て吐き出す。
指先が銃爪を引き、筒音が耳に刺さり、衝撃が掌を震わせる。
そして飛び出した弾丸は、誰もいない虚空を切り裂く。
有田は銃を持った静馬の腕が上がる動作に合わせ、砂が撒いてある地面を横滑りして弾道を避けていた。
「チッ――」
外した焦りが毒水の如く心を浸蝕していく。
だが静馬はそれを舌打ち一つに収め、慣れた手捌きで早合の中身を装填する。
「ぁあああああああっ!」
有田の吶喊は未だに続き、稲妻めいた軌道で寄せてくる。
一間半(約二・七メートル)まで詰められたところで、静馬は狙いをつける余裕もなく次弾を発射。
「――んぐっ」
鉛弾は右脇腹を抉り、血煙が派手に宙を舞い、有田は叫声を詰まらせる。
しかし足を止めることはなく、苦痛も出血も無視して静馬との距離を消していく。
「くぅぬぃいいいいいっ!」
太刀の間合いに踏み込んだ有田は、歯を食い縛った状態で奇妙な音声を吐き出し、担いだ野太刀を斜めに振り回す。
静馬はその斬撃を転がってかわすが、空振りの風圧ですら傷を生じさせかねない気魄を浴び、背筋を走る悪寒が治まらない。
身を起こし、立て膝のまま三弾目を込めようとする静馬に、今度は首を狙っての一撃が繰り出された。
咄嗟に地面を蹴り、後方へと飛び退いて避けたが、姿勢を崩して尻から地面に落ちた静馬に、逆手に持ち替えられた太刀が急降下で迫る――
「お、おキヌ?」
悲鳴に近いユキの声が聞こえる。
そこに有田が呼ぶ少女の名が重なる。
しかし静馬は意に介さず、キヌと呼ばれた娘の首を締める指に力を込める。
バタつく手足は程なくして動きを止め、小さな体から一気に力が抜けた。
そこまで見届けた静馬は、グッタリとしたキヌの体を無造作に放り捨てる。
傍らに控えていた孫三郎がそれを受け止め、険しい表情で静馬を見据えた。
ユキが、弥衛門が、有田が、呆気にとられた形相で固まっていた。
惨劇を見せつけられた子供らも、全員が息を呑んで黙りこくっている。
「次はどいつだ」
低い声での静馬の問いに悲鳴が弾け、子供らは一斉に外へと逃げ散っていった。
数瞬の間を置いて我に返った有田は、頬を引きつらせながらキヌを指差す。
「こっ……ここまでやるとは、物狂いか」
「イカレた連中を討つのが探索方。手段を選んでいられるか」
静馬は感情を押し殺した声で、困惑から脱していない有田に言い放つ。
「何故なのじゃ!」
「馬鹿か! やり過ぎだ!」
ユキと弥衛門は抗議の声を上げ、孫三郎は物言わぬ少女をジッと見下ろしている。
静馬はそんな周囲に構うことなく、有田から目線を外さずに銃を抜いて弾を込める。
「さて、坊主の真似事は終いだ。表に出て尋常に勝負を致せ、有田平次郎」
「くっ……小童めが」
悪態を吐きながらも、そう広くもない室内での戦闘は不利と判断してか、有田は銃を持った静馬の手元を警戒しつつ庫裏を出る。
その後をユキと弥衛門が追い、色々と言いたげな孫三郎を置いて静馬も続く。
お誂え向きに、境内に子供らの姿はない。
いまひとつ状況を把握しきれていない様子の有田に、静馬は平らな調子で告げる。
「一対一だ。最後くらい、卑怯な真似をせずに戦ってみせろ。俺に勝ったら、盗賊でも人商い(奴隷商人)でも好きにするがいい」
「よろしいのですか、姫様?」
疑わしげな有田に問われ、渋面のユキは頷き返す。
「ん……まぁ、それならそれで、仕方ないのじゃ」
静馬を信じて任せたいユキだが、先程の出来事が物言いの歯切れを悪くさせる。
理解を超える展開に浮き足立っていた有田だが、ともあれ静馬を討てば諸々に一段落が付くと割り切ったようで、眼光と挙動が戦を前にした侍のものへと転じていく。
こいつは手強い――
自然と身が竦むような圧を受け止めつつ、静馬は射撃に適した間を作ろうとさりげなく有田から離れ、緊張で早くなる鼓動を抑えるべく深く長い呼吸を繰り返す。
銃の特殊さを悟らせないように、輪にした火縄の端に点火して、使いもしないのに左腕に通しておく。
最後まで腹が据わらなかった山室と違い、有田はこの状況を戦場と同一視している。
長大な野太刀を肩に担いで腰を落とした構えからは、刃の届く範囲に入った相手を有無を言わせず両断しようとの気迫が伝わってくる。
「何とも面倒なことだが……結構な金になるはずのメスガキを一匹、無駄死にさせられた腹癒せはさせてもらおうか」
「クハッ、そうやって本性を露にしてくれると、俺としても気が楽だ」
醜悪に微笑む有田に苦笑いで応じながら、静馬は相手の突進を誘おうと僅かに後退った。
その動作に誘われたか、或いは逆に誘うつもりか、有田は体格に似合わぬ身軽さで疾駆する。
「があああぁああああっ!」
威嚇と気合を兼ねていると思しき咆哮を発し、袈裟の裾を棚引かせて有田が猛然と迫ってくる。
一太刀を浴びれば良くても瀕死、悪ければ即死。
一度でも恐怖を感じてしまえば、体は言うことを聞かなくなる。
それがわかっている静馬は、相手の剛力を意識から追い出し、巨躯の中心を狙い澄まして銃口を向けた。
「フッ!」
肺腑の息を全て吐き出す。
指先が銃爪を引き、筒音が耳に刺さり、衝撃が掌を震わせる。
そして飛び出した弾丸は、誰もいない虚空を切り裂く。
有田は銃を持った静馬の腕が上がる動作に合わせ、砂が撒いてある地面を横滑りして弾道を避けていた。
「チッ――」
外した焦りが毒水の如く心を浸蝕していく。
だが静馬はそれを舌打ち一つに収め、慣れた手捌きで早合の中身を装填する。
「ぁあああああああっ!」
有田の吶喊は未だに続き、稲妻めいた軌道で寄せてくる。
一間半(約二・七メートル)まで詰められたところで、静馬は狙いをつける余裕もなく次弾を発射。
「――んぐっ」
鉛弾は右脇腹を抉り、血煙が派手に宙を舞い、有田は叫声を詰まらせる。
しかし足を止めることはなく、苦痛も出血も無視して静馬との距離を消していく。
「くぅぬぃいいいいいっ!」
太刀の間合いに踏み込んだ有田は、歯を食い縛った状態で奇妙な音声を吐き出し、担いだ野太刀を斜めに振り回す。
静馬はその斬撃を転がってかわすが、空振りの風圧ですら傷を生じさせかねない気魄を浴び、背筋を走る悪寒が治まらない。
身を起こし、立て膝のまま三弾目を込めようとする静馬に、今度は首を狙っての一撃が繰り出された。
咄嗟に地面を蹴り、後方へと飛び退いて避けたが、姿勢を崩して尻から地面に落ちた静馬に、逆手に持ち替えられた太刀が急降下で迫る――
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