器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

文字の大きさ
上 下
290 / 297
人間領vs魔人領

270 勝利宣言

しおりを挟む
 線路を引いて列車を走らせる。
 誰もがこれ程大きな事業が動き出すとは思っていなかったが、これが朱王から提案されたとすれば協力を惜しむ国王達ではない。
 研究者達だけでなく、様々な技術者を導入してでも成功させる必要がある。
 資源の運搬だけでなく多くの人々の移動も可能となれば、アースガルド全て者の世界が広がる事になる。
 小さな仕事をして細々と生活していた人々も世界へと飛び出して大きな仕事に従事する。
 誰もが豊かになり笑顔溢れる世界が広がっていく。

 朱王一人の夢見た世界が千尋達に伝わり、各国の王達に伝わり、魔人領の上位者達にも伝わった。
 そして今度は全ての人々にこの夢の世界を広げる段階まで進んだのだ。

 会議では誰もが意見を出し合い、アースガルドの全てが動き出す事業計画を煮詰めていく。

 会議が盛り上がりながらもアルフレッドの料理は次々と運び込まれ、その美味しそうな料理を頬張りながらまた意見を述べる。
 一つの意見に複数の言葉を重ねる事で厚みが増し、事業の一部分として組み込まれていく。
 発言する事で新しく何かが生まれるこの会議は世界を動かす大きな力となるのだ。



 王達の会議は二時間が経過しようと尽きる事はない。

『人間領連合軍は撤退せよ。我らの勝利は確定した』

 連合軍に指示を出したロナウド。
 魔貴族軍もほとんどが戻ってきており、魔獣群も残るところ数体となっているようだ。
 そして千尋の精霊ガクとエンがいつもの姿となって戻って来ており、魔剣を千尋の鞘に納める。
 千尋が鞘に魔力を込めると、ゴーレムに使用したミスリル粉末が砂塵のように舞いながら鞘の表面へと戻る。

「ガクとエンは負けたの? 全部倒して戻って来ると思ったのに」

 《魔力が尽きた》

『強い者がいたのだ。我も魔力が尽きてしまった』

 ゴーレム化したガクとエンが魔力切れを起こす程の相手ともなれば、相当な強さを持つと考えられる。
 今も残る魔獣がこの二精霊で倒せなかったとなれば千尋が出るべきかもしれない。

「それはどこにいるの? オレが行くよ」

 千尋が前に出て前線を見下ろす。
 遠くにいくつか戦闘している姿が見えるが、魔獣群もほぼ倒れており連合軍も撤退を始めている。
 どこだろうと目を凝らす千尋だが、ガクとエンは本陣の後方を指差している。

「ブルーノ様、デオン様、大丈夫ですか!? お二人が苦戦する程の魔獣など…… まさかデーモン以上の存在が!?」

 右翼と左翼の二人にルディが駆け寄る。

「いや、魔獣を相手に暴れ回るおかしな魔獣がいると思って挑んだのだがな。まさか精霊とは思わなかった」

「危うく殺されかけたぞ……」

 どうやらゴーレム化したガクとエンを魔獣と勘違いして戦いを挑んだようだ。
 あまりの強さに連合軍を下がらせ、敢えて二人はこの二精霊に挑んだのだが、まさか味方とは思いもよらなかった。

「あの二人と戦ったの?」

『うむ。異様に固かった』

 《我のブレスも相殺しおったぞ》

 ブルーノとデオンの装備はデーモン素材でできており、二人の強大な魔力からその防御性能は格段に引き上げられている。
 しかしガクとエンの強さも二人の予想を大きく上回っており、全身の至るところに傷を負い血を流している。
 ミリーは朱王から紹介されたルディが話しかけた事からブルーノとデオンの回復を始め、目に見えて傷が癒えていく回復魔法に二人も驚いていた。

 そしてエルフの五名も要塞から本陣へとやって来て、女王であるクラウディアは王達の会議に参加して今後の人間領と魔人領との関係がどうあるのかを聞く。
 ヴァイス=エマは建国したとはいえ、その特殊な立地からノーリス王国を通して他の国との繋がりを持つ必要があり、ある程度話がまとまってからの参加でいいだろうと、これまで魔獣群討伐に協力していた。
 しかし実際のところ、クラウディア自身が資金稼ぎをしたかったのも大きな理由だったりもする。
 環境の良さから野菜や魔獣などの食材で資金を稼ぐ事はできているが、国の発展にはもっと大きな資金が必要だろうと考えた為だ。



 戻って来た魔貴族連合軍も席に着いて食事を始め、これまで食べていたレイヒムの料理とはまた違った色彩豊かな料理に舌鼓を打つ。
 本陣のすぐそばに設置されたモニターにも驚いているが、なによりも建造物の精巧さに目を奪われ、料理を楽しみながらこの本陣を見回しては自分の座る椅子やテーブルなどの作りも確認していた。
 装飾の施された椅子やテーブルも美しいの一言に限るだろう。

 王達の話し合いもさらに盛り上がっており、最初から聞いていない魔貴族達も理解が追いつかず、皿が空くとこの戦争の最後を見届けるロナウドに近寄って挨拶を交わす。
 複数のモニターから魔獣の討ち漏らしがないかと確認するジェイラスも、援軍として来てくれた魔貴族連合軍に挨拶と感謝の言葉を伝える。
 そして人間領最強の老人であろうニコラスも、朱王が会議を始めた事で戦況を見守っていた。
 普段は話し好きの優しい老執事も、戦争とあればその雰囲気は別人のように鋭く勇ましい。
 魔貴族から見ても確実に自分達よりも強いと思えるこの二人は、残りわずかとなった魔獣相手にもまだ真剣な表情を崩してはいない。
 人間領の本物の戦士に魔貴族軍も息を飲む。



 魔獣群の掃討も終わり、戦地では地属性部隊が魔獣の死体を魔石に還しながら整地作業を進めている。
 ロナウド達もこれで戦争が終わったと、ようやく笑顔を見せて料理を頼む。

「線路を王国のどこま……」

「失礼致します国王様。戦争が終結しましたので全世界に報告を」

 今後の話も確かに大事な事ではあるのだが、戦争が終結したのであればその報告を最優先とするべきだろう。
 マイクを渡して宣言を促す。
 誰もが戦いを見守ってはいるが、国王が宣言してようやく戦争は終結となる。

『各国全ての者達に告ぐ! 戦争は終結、我々は勝利した! 皆も知っての通り、魔人領北の国、東の国もこの戦いに参加し、我々人間領に協力してくれた! 私はこの魔人達を友とし、魔人と人間とが共存していく事を宣言する!』

 王国領内から大きな歓声があがる。
 勝利した事だけでなく、魔人と共存するという事にも理解があると捉えていいだろう。

『各国の国王達も私と同じ意見であり、これまで以上に国の往来を増やし、国同士の繋がりを強く持とうと話し合っているところだ! その第一歩として! 皆も知っておろう…… 各国を線路で繋ぎ、列車を走らせたいと思う!!』

 さらに大きな歓声があがり、他国でも大いに盛り上がっているのではないだろうか。

『魔人領とも融和を結んだ!!』

「おお!!」という掛け声が夜空に響く。

『全世界を線路で繋ぐぞ!!』

 返事をするかのように歓声が返ってくる。

『世界を旅しよう!!』

 本陣まで聞こえる拍手喝采盛大な歓声があがり、これに応えるかのようにスタンリーは準備していた一発の花火を夜空に打ち上げる。
 打ち上げ筒はない為風魔法で打ち上げたが問題はないはずだ。

 大きな花火が夜空に咲き、ドーンと響く破裂音が見る者の心を震わせる。

 調整の成果もあってかなり真円に近い花火となり、打ち上げたスタンリーも、作った北の魔人達も満足そうだ。

「いいねぇ北の国の花火は。スタンリーさんありがとう!」

「朱王さんのおかげで上げ損ねた花火だけどな!」

 本当は南に勝利したのを祝う為に用意した花火だが、朱王が火山を作り出すという巨大な花火…… を地面に咲かせた事で打ち上げ花火はやめたのだ。
 ちなみに今回北の国からは守護者はスタンリーだけが来ており、他の守護者は今後忙しくなるだろうと国に戻っている。

「素晴らしい。良い物を見せてもらった」

「これは北の国の技術か……」

 花火は人間領にもない技術だ。
 魔法で炎を打ち上げる事はあるが、これ程までに巨大な火の花は見た事がないだろう。

「ところでクリシュティナ大王よ」

 ゼーンがクリシュティナに話し掛ける。

「人間領と我ら魔人領とが共存していくとした場合に、魔王の座はどうするつもりなのだ? すでに我ら西は人間領に敗北し、南の国のマクシミリアンはディミトリアスに討たれておる。そして東と北は和平を結んだのであろう?」

「ああ、それなら問題はない。私とディミトリアス大王はすでに魔王と認める者がいるからな。なぁ朱王殿…… いや、【魔王】緋咲朱王様」

「ん? 私が魔王でもいいんですか?」

「ディミトリアス大王も西の大王に伝えてほしいとの事でな。この機会に伝えたまでだ」

 まさかここで魔王に任命されるとは思っていなかった朱王はやや呆けている。

「朱王が魔王なら納得だな」

 ゼス王の言葉に他の国王達も頷き、南のマリクとアレンも強く頷いている。

「んん、でもこの戦いが終わったら魔王戦でもやろうかなって思ってたんだけどね。クリシュティナ大王、私と戦いませんか?」

「勘弁してくれ。私はまだ死にたくはない」

 心底嫌そうな顔をするクリシュティナ大王を意外に思う西の大王。
 間違いなくクリシュティナを相手にすればフェルディナンでも勝てるかわからない。
 そのクリシュティナが戦いもせずに負けを認める朱王とはどれ程のものか気になるというもの。
 同じくゼーンも魔王の最後の友と名乗るこの朱王に興味がある。
 どれ程の実力を持ち、次代の魔王に相応しいかどうか確かめてみたい。

「はいはーい! オレ朱王さんと戦いたい!」

「魔王になるつもりはないがオレも戦いたい」

 モニター越しに聞いていた千尋と蒼真が名乗りをあげる。

「いいね、魔王戦やろう。西の大王もゼーンさんも参加しませんか? スタンリーさんは?」

「あ、オレはやめとく。たぶん死ぬだろ」

「千尋殿が挑むのであれば私は辞退しよう。序列を決める戦いには参加させてもらいたい」

「私も蒼真殿が挑むのであれば勝てぬ」

「そっか。ブルーノさんとデ……」

「「断る!」」

「そっか。人間だけで魔王戦ってちょっと変な感じだけどまあいいか。そうだな…… 来週この戦場で魔王戦をしよう」

 朱王と千尋と蒼真。
 落ち人三人の魔王を決める最後の戦いを約束し、この日はザウス王国の騎士達が戦場の処理に残り、他の者達は部屋を割り当てられて眠りについた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

処理中です...