器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

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人間領vs魔人領

256 かよわい女の子

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 リゼに向かう魔貴族は刃を薙ぎ払いながら接近し、頭上から精霊剣を振り下ろすも直剣に戻したルシファーによって防がれる。
 強靭な肉体を持った魔貴族はリゼの右腕を掴み、払い除けようと力を込めても動かす事ができない。
 そのまま抵抗できないリゼに襲い掛かる軍団長格だが、ルシファーの先端に立ったシズクからの精霊魔導が水刃の渦となってリゼの全身を覆う。
 動きを止める軍団長格三人と咄嗟にリゼから手を離す魔貴族。

「ちっ、テメー……」

 水渦は躱したものの、手を離した魔貴族の左手がリッカの氷結により凍りついていた。
 高い肉体強化で凍りついたのは体表だけだが、氷を破壊すれば多少なりとも出血する事になるだろう。

「ねぇ。あなた達、かよわい女の子に向かって四人がかりとか恥ずかしくないの?」

「四人も斬り捨てておいてかよわいとかどの口が言いやがる。テメーの持つその得物といいその使役する精霊といい普通じゃあり得ねぇ程凶悪なもんだ」

「私の可愛いシズクとリッカになんて事言うのよ!」

 下級魔法陣を発動し、会話の途中でも構わずルシファーからの神速の抜刀で直線状に魔貴族を狙うリゼ。
 目で追えない程の速度で放たれる刃を精霊剣の腹で受け流す魔貴族はさすがと言っていいだろう。
 戻ろうとする刃を払い除け、軌道が逸れたところで一気に距離を詰めて斬り掛かる。
 リゼはシズクが作り出した複数の水球を放ち、精霊剣で払われた瞬間にリッカの氷結で凍らせ、動きを阻害して腕を大きく薙ぐ。
 方向を定められたルシファーは魔貴族に向かって振り抜かれ、氷結した腕を強引に振り上げてその一撃を受ける。

 そこへ軍団長格のうち一人がリゼの攻撃に合わせて爪刃を突き出すもシズクの水球を顔面に浴びてリッカに氷結される。
 顔を凍りつかされては飛行を維持できずに落下。
 他の二人はリゼの背後に回り込み、リゼに向かうと同時にルシファーの乱舞によって翼を斬り刻まれて落ちていく。

 残るは魔貴族一人のみ。
 しかし強化のみと思った魔貴族は風の魔人であり、旋風を放って体に付いた氷を引き剥がす。
 強引に引き剥がしたが為に血が流れるも、その放出する魔力量は下級魔法陣を発動するリゼよりも高い。

「強え。強えなテメーは。久しぶりにおもしれぇ戦いになりそうだ」

「テメーとか呼ばないでよ。私にはリゼっていう名前があるわ」

「おう、オレはブレインってんだ。他の奴らも盛り上がってやがるしオレ達も楽しもうか」

「早く倒されてくれると私としては楽しめるわ」

 リゼは水刃の渦、水渦をルシファーに纏って魔貴族に臨む。
 先手必勝とばかりにルシファーによる乱撃で水渦となったシズクが暴れ狂い、リッカの氷槍を撒き散らしながらブレインに襲い掛かる。
 旋風渦巻く精霊剣で水渦を払い除け、暴風を纏って氷槍を打ち払う。
 一度払い除けたところでリゼの水渦の乱撃は終わりではない。
 そこから数十とも数百ともなる斬撃と水刃が襲い、一方的な攻撃にブレインはひたすら防御に徹する。

 風の魔人であるブレインはこの一方的な戦況を不利と見て、風の衣を爆散させると同時に翼を羽ばたかせて空を舞う。

 逃げるブレインを嬉しそうに追うリゼはこの一方的な状況を楽しんでいるのだろう、その表情は嬉しそうであり獰猛であり、悪く言えば醜悪そうでもある。
 前方を舞うブレインに氷槍を放ち、進行方向を限定させながらルシファーの水渦で薙ぎ払う。
 水渦を受ければ大ダメージとなる為、氷槍をどうにかせざるを得ないブレインは旋風を纏った精霊剣で打ち払い、その動作により速度は低下。
 リゼが距離を詰めて再び狙い撃ちにする。



 リゼの追い込みがしばらく続き、体に多くの傷を負うブレインだかその表情にはまだ余裕がある。
 リゼの得意とする間合いを把握したブレインはルシファーとは逆方向、リゼの左方向へと向かって接近。
 魔力を高めて氷槍を薙ぎ払い、ルシファーによる水渦が真横から向かうのも構わず突き進む。

 風の魔人の飛行は速く、ブレインの接近にリゼは水渦を解除せざるを得ない。
 解除と同時にルシファーを引き戻し、ブレインの旋風の一撃をわずかに戻ったルシファーの刃で受けるも出力が足りずに吹き飛ばされる。
 そこから攻防が入れ替わり、リゼの苦手な近距離、それも防戦を強いられると余裕がなくなる。
 必死に耐えるがブレインの剣技は我流とはいえ鋭く、威力も高い上に範囲も広い。
 ルシファーに水渦を纏えなければと氷刃によってブレインの旋風を受け止め、大量の水を氷槍に変えて放つ事によって足りない剣技を補う。
 しかしブレインの攻撃全てが威力が高く、氷刃による防御でも耐え切れず後方に弾かれ、必死で前に出ながら押し切られまいとルシファーを振るう。
 荒々しいブレインの強襲に旋風は体を掠め、リゼは少しずつ傷を増やしていく。

 視界を奪おうと霧を発生させても旋風によって霧散し、リゼの知る毒魔法ではブレイン程の魔人ともなれば効果はない。
 この防戦一方な戦いはリゼにとって絶望的な状況と言える。

(せめて距離を取れれば…… ん? 距離? 簡単じゃない!)

 ブレインの左袈裟の斬撃を受けつつ重力魔法により自身の体を軽量化。
 その力によって弾き飛ばされ、降下から体勢を立て直して空を舞う。



 リゼの翼は以前のものよりも上位個体の素材を使用している為、扱いとしては難しいが直線的な速度は出やすい。
 ルシファーの能力を活かした戦い方をするのであれば扱いやすい機動力の高い素材の方が有利なのだが、装備として魔人のものよりも優れているとすれば速度が出る素材でも優位に戦闘を行える。
 そして速度が出やすいという事は威力も乗りやすく、攻撃力としては低い属性となる水魔法でも充分な威力も稼ぐ事が可能だ。
 以前見た水属性でも超威力を可能とするカミンの魔法には驚いたが、自分では再現できなかった事や、ルシファーでの戦闘には向いてない事から爆破魔法以外の戦いを続けている。

 風の魔人であるブレインをも引き離し、太陽の方向へと上昇すると共に氷槍を複数放ってその身を翻す。
 後方からリゼを追うブレインは太陽光により前方を見る事ができずに手で顔を覆ったところに氷槍が肩や足に突き刺さる。
 そこへ嬉しそうな表情をしたリゼが重力魔法により落下加速で接近し、上空から水渦を纏わせた神速の抜刀。
 氷槍が突き刺さった瞬間に絶体絶命の危機を感じていたブレインは呪文を唱えて精霊化。
 風の竜魔人としてその姿を変化させると膨大な魔力を込めた轟風のブレスを吐き出す。
 爆発したかのような轟音が鳴り響き、ルシファーに纏われた水渦を相殺してリゼをも遥か上空に吹き飛ばした。

 重力魔法による軽量化と突風を巻き起こした事で直撃は免れたものの、一瞬浴びただけのブレスで全身から血が流れ出る。
 シズクの精霊魔法によって出血を抑えているが魔人のように傷が癒える事はない。
 このままでは勝てないと判断したリゼは上級魔法陣アクア、ブリザードを同時発動し、背後に巨大な魔法陣が重なるように展開される。
 大気中の水分が瞬時に凍り付き、リゼの周囲に細氷舞う空間を作り出す。

 ブレスの後に一気に距離を詰めて来たブレインからの豪風の斬撃とリゼの最大出力の水氷魔導の斬撃とがぶつかり合い、高圧縮された豪風が爆発の如き一撃となってリゼを弾き飛ばす。
 リゼの水氷魔導は斬撃がぶつかり合うと同時に精霊剣内の魔力を侵食し、凍り付かせるとその威力のにより精霊剣を破壊。
 接触箇所から屈折したルシファーの刃はブレインの肩を斬り裂いて後方へと延長し、リゼが弾き飛ばされた事により不規則に舞いながら戻っていく。

 精霊剣を砕かれ肩から胸にかけて斬り裂かれたブレインは身動き一つとれず、体が水魔法による侵食で凍り付き血も流れず呼吸もままならない。
 このまま地面に落ちれば体が砕け散る事になる可能性も高い。
 飛行装備まで凍り付く事はなかった為地面に向かって降りて行くが、凍り付いた部分は血が流れる事もなく、魔力の循環もできずに塞ぐ事も叶わない。
 意識を朦朧とさせながら地面へと舞い降り、人間軍と魔人軍とが戦う様を見つめながら自分の死を悟る。

 爆風によりブレインが見えなくなる程まで後方へと吹き飛ばされたリゼは飛行装備を操作して体勢を立て直したが、右肩から背中にかけて激痛が走り、鼓膜が破れたのか音が全く聞こえない状態になっていた。
 消耗の激しい上級魔法陣を解除し、シズクの水魔法により鼓膜の代用として耳の中に水膜を張って音が聞こえる事を確認。
 ブレインが追って来ない事からこの戦いに勝利したとは思うが、この後の戦闘の継続は不可能と思える。



 しかしリゼへと近づく一人の魔貴族。
 サフラから知らされた先代の守護者である魔貴族の老人が精霊剣を手にしてリゼの前で停止する。

「ブレインを倒すか。あれも守護者に匹敵する力を持つというのに」

「どおりで強いわけね…… それで? 次は貴方が私と戦うつもりかしら」

 内心帰って治療を受けたいリゼだが、ここで弱みを見せるわけにはいかない。

「んん。手負いの者を甚振る趣味はないがちと相手をしてくれると助かるな。我もただ見ているわけにもいかんのだ」

「それなら手加減してくれると嬉しいわ」

「其方次第だな」

 ルシファーに水渦を纏わせて構えるリゼ。
 対する老魔人は強化のみで精霊剣を構える。

 痛む体に鞭打って水渦の乱撃を振るうリゼと、精霊剣の一振りで易々と払い除ける老魔人。
 氷槍も放ちながらの相手を圧倒する為の攻撃も全て払い除けられる事から、ブレイン以上の実力者である事がわかる。
 それこそサフラが言っていたように大王と同等の強さを持つ相手なのだろうと、気力を振り絞ってルシファーを振るう。
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