275 / 297
人間領vs魔人領
255 舌戦?
しおりを挟む
守護者の一人と向かい合うミリー。
爆焔による一撃でその攻撃を弾き返したものの、豪炎を放つ守護者の斬撃は重く鋭い。
ミリーの右薙ぎの一撃を精霊剣で右袈裟に受け、爆音を轟かせながら連続した攻防を繰り広げる。
ミリーの高速の乱打も全て防ぐ守護者の実力はさすがと言っていいだろう。
以前サディアスと戦った事のあるミリーも今ではあの頃に比べて倍近い出力があり、守護者相手に互角の戦いをみせる。
威力が互角であれば魔力総量の少ないミリーが長期戦で不利になる。
ミリーは爆焔の威力を加速に利用して高速飛行戦闘へと切り替える事にした。
守護者は炎を撒き散らしながらミリーを追い、速度の乗ったミリーは旋回して七色の魔力を放出しながら守護者へと向かう。
向かって来るミリーへとその方向を変えた守護者だが、速度で勝るミリーの爆焔は守護者の豪炎を上回る。
受けた精霊剣が後方に押しやられ、飛行装備が爆風を受けて後方へと吹き飛ばされる。
爆焔の凄まじい威力に体勢を保てない守護者は回転しながら飛んでいき、強引に風を起こして向きを修正したところに追い討ちの爆焔が頭上から振り下ろされた。
咄嗟に振り上げた精霊剣で受けるも威力を落とす事のないミリーの爆焔は凄まじい。
相殺できずに爆焔の余波を浴び、地上に向かって落ちていく。
しかし守護者がこの程度で終わるはずはない。
ミリーは上級魔法陣インフェルノを発動し、ホムラを纏って爆炎竜となり、最大威力でのブレス【爆轟】を放つ。
落下しながらも追い討ちがあると予想した守護者は呪文を唱えて精霊化。
全身から業火を放って耐えようとするも、爆轟をその身に受ければ精霊化した守護者といえども耐えられる威力ではない。
体勢が定まらず全身を抱え込むようにして防御した守護者だったものの、全てを消し去る程の爆発に弾き飛ばされ地面に突き刺さる。
四肢が千切れる事はなかったものの、全身から血を流して意識を失っていた。
「コール! …… ユユラさん、この戦いで倒された魔貴族さん達の回収もお願いします! 私ちょっとやり過ぎちゃいました!」
『え!? 魔族の回収もするんですか!? こちらの主力軍だけでなく!?』
「そうですよ! 死んじゃいそうな場合は回復もしてあげてください! お願いしますね!」
『わかりましたミリー様! 今すぐ指示を出します!』
地面に落ちて魔獣群に踏み潰されれば、如何に魔貴族といえども意識がない状態では命はないだろう。
朱王の意思にそえば魔族との殺し合いではなく、共存する為に力を示す事がこの戦いの目的である。
「随分と甘いな、人間は。負けた者が生きるか死ぬかはその者次第。生きようとする意志が強ければ生き残るだろう」
声を掛けてきたのは守護者のケレン。
最初の戦闘位置から離れたこの場にいるという事はミリーを追って来たという事だろう。
「んん? んー、ああっ! なるほど! 自己回復ができるならそうかもしれませんね!」
「意識のない者が死ぬのも仕方のない事だ」
「ダメですよ~。ちゃんと回復してあげれば大丈夫ですからね!」
ミリーは回復術師として怪我人がいればその傷を癒すのは当然の行いと考える。
「ふむ。人間には回復魔法というのがあるんだったな。確かに助かるかもしれんが我らは敵だ。敵国の敗者に情けをかけるべきではない」
「なぜ情けをかけたらダメなんですか?」
「戦士は誇りを持って戦っている。情けをかけられては誇りを踏みにじられるようなものだ」
「それは魔人の考え方でしょう。私は人間ですし回復術師です。困ってる人がいたら助けますし怪我をしている人がいれば治します。誇りだと言うなら怪我人を放っておく事は私の誇りを汚す事になりますね!」
「自分の手で怪我をさせ、他の者に回復させてもか?」
「私も回復術師ですが主力部隊に数えられちゃってますからね。仲間に回復をお願いするのも仕方がありません」
自分が戦闘員でなければ今すぐにでも回復しに向かうつもりのミリーだ。
「ふむ。其方も良いな。守護者を倒せるだけの実力があるうえ、なかなかにおもしろい。どうだ、私の部下にならぬか?」
「えー。やですよ。お友達ならイイですけどねー。ん? もしかしてそれ新手のナンパですか?」
「なんぱとは何だ?」
「異性を誘う口実に部下に誘ってるのかと……」
「先程の騎士は男だったと思うが?」
「ケレンさんはどっちもイケるのかと……」
「そんなわけないだろう。其方は私を何だと思ってるのだ。私は優秀な部下が欲しいだけだ」
「人間も魔人も関係なくですか?」
「うむ。人間にも強い者がいる事はこの戦いで充分にわかったのでな。魔人よりも人間が劣るという事もないだろう」
「もしかしてケレンさん人間が好きなんですか?」
「優れた技術や知識を持つ人間を嫌う理由はない。だが我らは戦いに身を寄せる魔人なのだ。戦いに勝って手に入れようとするのは当然ではないか?」
「えー、話し合えばいいじゃないですか!」
「我ら魔人を恐れる人間が話し合いの場を設けると思うか?」
「朱王なら喜んで話し合いますよ。最初から襲って来るようだと話し合いは無理ですけどね。サディアスさんとか最初から殺しに来ましたし」
「サディアスか…… デーモンの捕獲に向かって戻らなかったのだが其方と戦ったのだな?」
「戦いましたよー、負けましたけどね!」
「ではあの…… デーモン二体を引き連れて行った男が倒したのか?」
「ん? 誰ですかデーモン二体相手とかバカな人ですね!? 死んじゃいますよ!? 助けに行かないと!」
「最初にデーモンをくれとか言っていた青い風の精霊魔法を使う男だな。相当な実力者のようだが無謀だな」
「あー、蒼真さんなら…… 何とかなりそうな気もしますね。放っておきましょう。サディアスさん倒したのは朱王ですけど蒼真さんもめちゃくちゃ強いんです。私の師匠でもありますからね!」
「何とかなるのか…… 人間がそこまで強くなれるのか? ふむ、まぁいい。朱王とはどの者かは知らぬが守護者に匹敵するとみていいのだろうな」
「今は魔王領にいますよ。さっきゼルバードさんのお墓を作るって言ってました」
「南と戦っているのは北ではないのか? それに人間が魔王の墓を? わからんことばかりだな」
「南の国との戦争は終わったみたいですよ。南の大王さんは北の大王さんが倒したそうです。朱王はゼルバードさんの最後のお友達ですからね。お墓を作って弔いたいって魔王領に行ったんです」
「そう、なのか…… では我らが次に戦う事になるのは北か……」
「私達が勝ちますから次の戦いはありませんけどね」
「いや、我々西が勝つとも。勝って其方らを部下に加えれば北に勝機はない」
「部下にはなりませんってば」
「私の部下になれば美味いものをいくらでも食わせてやるぞ?」
「え、じゃあ私の部下になれば飴ちゃんあげますよ?」
「あめちゃんとは何だ?」
「これです。こうして包みを取るとー、ほら! これが美味しい飴ちゃんです!」
「ふむ。綺麗な宝玉のようだが食えるのか。しかし私の持つユニパスの燻製肉には敵わんだろう。ユニパスの乾酪も舌の上でとろけるこの旨味は人間領にもあるまい」
「トロけるというのなら私だってチョコ持ってますよ。こーんな美味しい食べ物、魔人領にはないはずです!」
「私の乾酪にも勝てると?」
「勝負しますか?」
「いいだろう」
紙に包まれたチョコと茶色の葉で包まれた乾酪を交換する二人。
包みを取って互いの誇る食べ物を確認。
視線を交錯させてから口に含む。
「「美味である!!(うんまっ!!)」」
「何なのだこれはぁぁぁあ!!」
「何っという旨味ですかぁ!!」
互いの想像を超える味に驚愕する。
口いっぱいに広がる甘さと苦味に魔法のような口どけがケレンの味覚と心を捕らえて離さない。
たった一粒のチョコが破壊的な衝撃を与える。
食欲そそる香りに表面のほど良い弾力、中からは熟成された滑らかで風味豊かなチーズが流れ出る。
その濃厚な味わいに乾酪ってチーズなんだという驚きでいっぱいだ。
しばらくその味の余韻に浸った二人は視線を交わし、喉を鳴らして言葉を交わす。
「なかなかやりますね…… 引き分けと言っていいでしょう」
「うむ。このチョコには驚かされたぞ。さぞかしそのあめちゃんとやらも美味い事だろうな」
「燻製肉も相当な実力がありそうですね」
沈黙。
「試してみるか?」
燻製肉がつつまれているであろう茶色の葉包みを出すケレン。
「臨むところです」
飴ちゃんを袋ごと取り出すミリー。
お互いの切り札を右手に持って近付き、視線をぶつけ合いながら交換する。
わずかに距離を取って受け取った品を見定める。
包み紙を剥がして、その煌く飴ちゃんをしばらく見つめたケレンはそっと口に含む。
歯を当てると充分な固さがある事から舌の上を転がして楽しむものであろう事はすぐにわかった。
口に広がる甘さとフレッシュな果実のような風味。
ツルツルとした舌触りはいつまでも舌の上を転がしていたくなる。
領地の管理や戦いなどを忘れてこの味を楽しみ続けたい。
幸せがケレンを包み込む。
しかしケレンの幸せの時間はそう長くは続かなかった。
クイクイと袖を引くミリーが悲しそうな表情でケレンを見つめる。
「どうしたのだ?」
「これ、このまま齧ったら勿体ないじゃないですか。今食べれないなぁと思いまして……」
「それもそうか。では陣営に戻って食して来るといい。その間は待っていてやろう」
「でも私お腹も空いてるんですよ。これ食べたらご飯も食べてデザートも食べますけど待っていてくれますか?」
「デザートとはなんだ?」
「チョコや飴ちゃんは持ち運べるお菓子ですけど、デザートは食後に楽しむ甘味です。持ち運べない分その美味しさは格別ですよ」
「これより美味いものがある…… と?」
「一緒に食べますか? 今アルフレッドさんがザウス王国来てるのですごい美味しいのが食べられますよ」
「それは是非とも挑戦せねばならんな。人間と魔人との食の戦いにも決着をつけねばなるまい」
「こちらは最高の料理ですからね。ケレンさんも出し惜しみをせず全部出した方がいいですよ」
「まずはその実力を確かめてからだ」
対峙してから一度もミルニルを振るう事なく、食事をしに敵国の代表を連れて本陣に戻るミリー。
恋人である朱王に劣らない自由さを持つミリーなのだ。
今現在本陣には誰もいないものの、ミリーはアルフレッドに連絡をとって食事の準備をするよう指示を出していた。
爆焔による一撃でその攻撃を弾き返したものの、豪炎を放つ守護者の斬撃は重く鋭い。
ミリーの右薙ぎの一撃を精霊剣で右袈裟に受け、爆音を轟かせながら連続した攻防を繰り広げる。
ミリーの高速の乱打も全て防ぐ守護者の実力はさすがと言っていいだろう。
以前サディアスと戦った事のあるミリーも今ではあの頃に比べて倍近い出力があり、守護者相手に互角の戦いをみせる。
威力が互角であれば魔力総量の少ないミリーが長期戦で不利になる。
ミリーは爆焔の威力を加速に利用して高速飛行戦闘へと切り替える事にした。
守護者は炎を撒き散らしながらミリーを追い、速度の乗ったミリーは旋回して七色の魔力を放出しながら守護者へと向かう。
向かって来るミリーへとその方向を変えた守護者だが、速度で勝るミリーの爆焔は守護者の豪炎を上回る。
受けた精霊剣が後方に押しやられ、飛行装備が爆風を受けて後方へと吹き飛ばされる。
爆焔の凄まじい威力に体勢を保てない守護者は回転しながら飛んでいき、強引に風を起こして向きを修正したところに追い討ちの爆焔が頭上から振り下ろされた。
咄嗟に振り上げた精霊剣で受けるも威力を落とす事のないミリーの爆焔は凄まじい。
相殺できずに爆焔の余波を浴び、地上に向かって落ちていく。
しかし守護者がこの程度で終わるはずはない。
ミリーは上級魔法陣インフェルノを発動し、ホムラを纏って爆炎竜となり、最大威力でのブレス【爆轟】を放つ。
落下しながらも追い討ちがあると予想した守護者は呪文を唱えて精霊化。
全身から業火を放って耐えようとするも、爆轟をその身に受ければ精霊化した守護者といえども耐えられる威力ではない。
体勢が定まらず全身を抱え込むようにして防御した守護者だったものの、全てを消し去る程の爆発に弾き飛ばされ地面に突き刺さる。
四肢が千切れる事はなかったものの、全身から血を流して意識を失っていた。
「コール! …… ユユラさん、この戦いで倒された魔貴族さん達の回収もお願いします! 私ちょっとやり過ぎちゃいました!」
『え!? 魔族の回収もするんですか!? こちらの主力軍だけでなく!?』
「そうですよ! 死んじゃいそうな場合は回復もしてあげてください! お願いしますね!」
『わかりましたミリー様! 今すぐ指示を出します!』
地面に落ちて魔獣群に踏み潰されれば、如何に魔貴族といえども意識がない状態では命はないだろう。
朱王の意思にそえば魔族との殺し合いではなく、共存する為に力を示す事がこの戦いの目的である。
「随分と甘いな、人間は。負けた者が生きるか死ぬかはその者次第。生きようとする意志が強ければ生き残るだろう」
声を掛けてきたのは守護者のケレン。
最初の戦闘位置から離れたこの場にいるという事はミリーを追って来たという事だろう。
「んん? んー、ああっ! なるほど! 自己回復ができるならそうかもしれませんね!」
「意識のない者が死ぬのも仕方のない事だ」
「ダメですよ~。ちゃんと回復してあげれば大丈夫ですからね!」
ミリーは回復術師として怪我人がいればその傷を癒すのは当然の行いと考える。
「ふむ。人間には回復魔法というのがあるんだったな。確かに助かるかもしれんが我らは敵だ。敵国の敗者に情けをかけるべきではない」
「なぜ情けをかけたらダメなんですか?」
「戦士は誇りを持って戦っている。情けをかけられては誇りを踏みにじられるようなものだ」
「それは魔人の考え方でしょう。私は人間ですし回復術師です。困ってる人がいたら助けますし怪我をしている人がいれば治します。誇りだと言うなら怪我人を放っておく事は私の誇りを汚す事になりますね!」
「自分の手で怪我をさせ、他の者に回復させてもか?」
「私も回復術師ですが主力部隊に数えられちゃってますからね。仲間に回復をお願いするのも仕方がありません」
自分が戦闘員でなければ今すぐにでも回復しに向かうつもりのミリーだ。
「ふむ。其方も良いな。守護者を倒せるだけの実力があるうえ、なかなかにおもしろい。どうだ、私の部下にならぬか?」
「えー。やですよ。お友達ならイイですけどねー。ん? もしかしてそれ新手のナンパですか?」
「なんぱとは何だ?」
「異性を誘う口実に部下に誘ってるのかと……」
「先程の騎士は男だったと思うが?」
「ケレンさんはどっちもイケるのかと……」
「そんなわけないだろう。其方は私を何だと思ってるのだ。私は優秀な部下が欲しいだけだ」
「人間も魔人も関係なくですか?」
「うむ。人間にも強い者がいる事はこの戦いで充分にわかったのでな。魔人よりも人間が劣るという事もないだろう」
「もしかしてケレンさん人間が好きなんですか?」
「優れた技術や知識を持つ人間を嫌う理由はない。だが我らは戦いに身を寄せる魔人なのだ。戦いに勝って手に入れようとするのは当然ではないか?」
「えー、話し合えばいいじゃないですか!」
「我ら魔人を恐れる人間が話し合いの場を設けると思うか?」
「朱王なら喜んで話し合いますよ。最初から襲って来るようだと話し合いは無理ですけどね。サディアスさんとか最初から殺しに来ましたし」
「サディアスか…… デーモンの捕獲に向かって戻らなかったのだが其方と戦ったのだな?」
「戦いましたよー、負けましたけどね!」
「ではあの…… デーモン二体を引き連れて行った男が倒したのか?」
「ん? 誰ですかデーモン二体相手とかバカな人ですね!? 死んじゃいますよ!? 助けに行かないと!」
「最初にデーモンをくれとか言っていた青い風の精霊魔法を使う男だな。相当な実力者のようだが無謀だな」
「あー、蒼真さんなら…… 何とかなりそうな気もしますね。放っておきましょう。サディアスさん倒したのは朱王ですけど蒼真さんもめちゃくちゃ強いんです。私の師匠でもありますからね!」
「何とかなるのか…… 人間がそこまで強くなれるのか? ふむ、まぁいい。朱王とはどの者かは知らぬが守護者に匹敵するとみていいのだろうな」
「今は魔王領にいますよ。さっきゼルバードさんのお墓を作るって言ってました」
「南と戦っているのは北ではないのか? それに人間が魔王の墓を? わからんことばかりだな」
「南の国との戦争は終わったみたいですよ。南の大王さんは北の大王さんが倒したそうです。朱王はゼルバードさんの最後のお友達ですからね。お墓を作って弔いたいって魔王領に行ったんです」
「そう、なのか…… では我らが次に戦う事になるのは北か……」
「私達が勝ちますから次の戦いはありませんけどね」
「いや、我々西が勝つとも。勝って其方らを部下に加えれば北に勝機はない」
「部下にはなりませんってば」
「私の部下になれば美味いものをいくらでも食わせてやるぞ?」
「え、じゃあ私の部下になれば飴ちゃんあげますよ?」
「あめちゃんとは何だ?」
「これです。こうして包みを取るとー、ほら! これが美味しい飴ちゃんです!」
「ふむ。綺麗な宝玉のようだが食えるのか。しかし私の持つユニパスの燻製肉には敵わんだろう。ユニパスの乾酪も舌の上でとろけるこの旨味は人間領にもあるまい」
「トロけるというのなら私だってチョコ持ってますよ。こーんな美味しい食べ物、魔人領にはないはずです!」
「私の乾酪にも勝てると?」
「勝負しますか?」
「いいだろう」
紙に包まれたチョコと茶色の葉で包まれた乾酪を交換する二人。
包みを取って互いの誇る食べ物を確認。
視線を交錯させてから口に含む。
「「美味である!!(うんまっ!!)」」
「何なのだこれはぁぁぁあ!!」
「何っという旨味ですかぁ!!」
互いの想像を超える味に驚愕する。
口いっぱいに広がる甘さと苦味に魔法のような口どけがケレンの味覚と心を捕らえて離さない。
たった一粒のチョコが破壊的な衝撃を与える。
食欲そそる香りに表面のほど良い弾力、中からは熟成された滑らかで風味豊かなチーズが流れ出る。
その濃厚な味わいに乾酪ってチーズなんだという驚きでいっぱいだ。
しばらくその味の余韻に浸った二人は視線を交わし、喉を鳴らして言葉を交わす。
「なかなかやりますね…… 引き分けと言っていいでしょう」
「うむ。このチョコには驚かされたぞ。さぞかしそのあめちゃんとやらも美味い事だろうな」
「燻製肉も相当な実力がありそうですね」
沈黙。
「試してみるか?」
燻製肉がつつまれているであろう茶色の葉包みを出すケレン。
「臨むところです」
飴ちゃんを袋ごと取り出すミリー。
お互いの切り札を右手に持って近付き、視線をぶつけ合いながら交換する。
わずかに距離を取って受け取った品を見定める。
包み紙を剥がして、その煌く飴ちゃんをしばらく見つめたケレンはそっと口に含む。
歯を当てると充分な固さがある事から舌の上を転がして楽しむものであろう事はすぐにわかった。
口に広がる甘さとフレッシュな果実のような風味。
ツルツルとした舌触りはいつまでも舌の上を転がしていたくなる。
領地の管理や戦いなどを忘れてこの味を楽しみ続けたい。
幸せがケレンを包み込む。
しかしケレンの幸せの時間はそう長くは続かなかった。
クイクイと袖を引くミリーが悲しそうな表情でケレンを見つめる。
「どうしたのだ?」
「これ、このまま齧ったら勿体ないじゃないですか。今食べれないなぁと思いまして……」
「それもそうか。では陣営に戻って食して来るといい。その間は待っていてやろう」
「でも私お腹も空いてるんですよ。これ食べたらご飯も食べてデザートも食べますけど待っていてくれますか?」
「デザートとはなんだ?」
「チョコや飴ちゃんは持ち運べるお菓子ですけど、デザートは食後に楽しむ甘味です。持ち運べない分その美味しさは格別ですよ」
「これより美味いものがある…… と?」
「一緒に食べますか? 今アルフレッドさんがザウス王国来てるのですごい美味しいのが食べられますよ」
「それは是非とも挑戦せねばならんな。人間と魔人との食の戦いにも決着をつけねばなるまい」
「こちらは最高の料理ですからね。ケレンさんも出し惜しみをせず全部出した方がいいですよ」
「まずはその実力を確かめてからだ」
対峙してから一度もミルニルを振るう事なく、食事をしに敵国の代表を連れて本陣に戻るミリー。
恋人である朱王に劣らない自由さを持つミリーなのだ。
今現在本陣には誰もいないものの、ミリーはアルフレッドに連絡をとって食事の準備をするよう指示を出していた。
0
お気に入りに追加
1,028
あなたにおすすめの小説
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした
鈴木竜一
ファンタジー
健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。
しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。
魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ!
【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】
※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる