器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

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魔人領編

232 道作り

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 装備作りを始めて五日目。

 毎晩宴会とカラオケ大会、映画を楽しみながらではあったものの、北の国に行く魔貴族達の装備を作り終えていた。
 クリシュティナとデオンには当然のようにデーモン素材での装備を作り、最初のうちは空を飛ぶどころかまともに翼を展開する事もできなかったが、現在は頑張れば翼を広げる事ができるまでになっている。
 ブルーノはさすが地属性の魔人だけありデーモン素材であってもあっさりと空を飛ぶ事ができている。
 以前の飛行装備よりも速度が出やすく、安定した飛行が可能となって嬉しそうだ。
 そして朱王はルディにもデーモン素材の装備を作っており、未だ翼を展開できずにいる。
 しばらくは以前の飛行装備を使う事になりそうだ。
 しかしこの扱いにくいデーモン素材の装備であっても体を覆う部分は体によく馴染み、動きを阻害するどころか体の一部のような感覚で伸び縮みする。

 それと元々下着類を身に付けないらしい魔人達にも魔獣素材の下着を作り、柔らかくて肌触りのいい、そして通気性に優れたものを渡してある。
 いくら肌に馴染む装備とはいえ、やはりデリケートな部分はもっと着心地の良いものがいいだろう。
 女性が喜ぶようなおしゃれな物は用意できないものの、ボクサータイプのものでサラリとした質感に満足してくれたようだ。

 全員にミスリルナイフを一つずつ渡し、全て飛行性能を引き上げるよう朱王の魔石を組み込み、敵仲間の区別が付きやすいよう魔力の色を変化させる魔石も組み込んだ。
 ミスリルナイフに二つの魔石が埋め込まれた事で、また宝飾品のようになったナイフに誰もが満足そう。

 ちなみにこの王都? と呼べるかは不明だが、大王領にいる魔貴族はそれ程高い戦闘力を持っておらず、朱王達が戦った者達はこの大王領の魔貴族がほとんどだ。
 大王領の周辺に守護者や右翼、左翼がいるので当然といえば当然でもある。
 辺境に領地を持つ魔貴族も中位クラスとなるが、それより少し内部に領地を持つ魔貴族は相当な実力者が多いのだとか。
 今回北の国に連れて行く魔貴族は大王領の周辺に領地を持つ者達であり、実力は高くないとしてもその分大王への忠誠心は強い。
 大王と行動を共にする朱王の命令であっても指示通りに動いてくれるだろう。



 北の国へと向かう事が決まったクリシュティナとブルーノ、デオンとステラに守護者一人と魔貴族が二十名。
 ルディは守護者の座を降りて、今後は人間領と東の国との架け橋となるとして朱王の部下となっている。
 クリシュティナも人間領に滞在する魔人がいれば行き来しやすくなるだろうし、守護者という重要な地位にある者が降りたとしても、一新された装備の能力の高さから戦力的には落ちると考えていない。
 それに精霊契約したサニーが異常なまでに強くなった事で守護者の穴埋めもできているような状態だ。
 元々魔貴族の地位にある程には実力があったサニーだ。
 フィディックよりも強く、北の守護者であるエルザとも互角に戦える程に強い。

 それならばとアリスも受け取っていたナイフの魔法陣を変更して精霊契約を済ませている。
 属性は人間領でも仲の良かったアイリと同じ雷属性を選び、蛇のような姿をした二精霊と契約した。
 空から落ちる雷を長い蛇のように連想したらしく、両腕に巻き付く精霊に本人も満足そう。
 ナイフに一つずつ朱王の魔石を埋め込み、ドロップには上級魔法陣ボルテクスも組み込んだ。

 他にも精霊を捕らえる事ができていない二人の魔貴族にも精霊契約してもらい、この二人は地属性と風属性を選択。
 東の魔族は火と風、地属性が主流のようだ。

 崩れた大王城も今後建て直す事となるが、人間領から職人を招いて建設したいと考えた為一旦保留。
 まずは南との問題解決を優先する。

「ではサニー。しばらくの間、東の国を任せたぞ。必ずお土産を持って帰るからな」

「私も行きたいのですが…… わかりました。大王様の期待に添えるよう努力致します。お気を付けていってらっしゃいませ」

 サニーと多くの領民達に見送られて空へと舞い上がるクリシュティナと朱王達。
 東の国には六日間の滞在だったが、毎日宴会していた為かなかなかに楽しく過ごす事ができた。
 北の国へは向かう人数も多い為、先行する飛行部隊が車の通る道をある程度整えながら進む事で短時間で移動をするつもりだ。
 車で移動するのは使者として来たカミン達とデオン、ステラ夫妻。
 人間領のカミン達とも北の国のアリス達とも交流がはかれる為、この二人を同行させる事にしている。
 クリシュティナやブルーノも車での移動を考えたが、北の国に少しでも早く着くと考えればと空の移動を選んでいる。



 朱王を先頭に北の国へと向けて空を舞う。
 もちろん北の領地までは高速移動となる為、朱王からの指示通り上空からの落下加速で一気に速度を上げる。
 朱王に追従できるのは朱雀は当然としてスタンリーとクリシュティナのみ。
 位置情報を共有している為はぐれる事もなく目的地へと移動ができる。
 最速組は二度目の加速ではさらに速度を上げ、目的の北の国の林まで競争だ。
 速度は時速400キロをも超えるだろう、異常なまでの速度で空を舞う。

 結果として朱雀が最も速く、朱王、スタンリーと続き、クリシュティナが遅れて到着。
 朱王の飛行装備は能力が高いとはいえ、スタンリーもクリシュティナも風の魔人であり飛行能力は元々他の追従を許さない程に高い。
 ただしクリシュティナはデーモン装備にまだ苦戦しているのか速度が乗り切らないようだ。



 北の国の林へと着いたのが東の大王領から三時間といったところか。
 他の者はまだ一時間以上はかかるだろう。
 待っているのも退屈なので林の木々を処理する事にした。
 朱王の指示はこうだ。

「まずは木を掴むでしょ。そしたら地属性魔法で大地を緩めて~…… 力づくで引っこ抜く!」

「アホか!?」

「いや、この人たまにこんな感じ」

「朱王じゃしのぉ」

 クリシュティナがツッコむものの、スタンリーや朱雀にとっては朱王がする事なので驚きもしない。

 しかし残念ながらこの場にいる誰も地属性魔法が得意ではない為木を引っこ抜く事ができなかった。
 仕方なく朱王が木を引っこ抜き、クリシュティナとスタンリー、朱雀とで運…… べない。
 重すぎて運べなかった。
 やむを得ずクリシュティナは木と地面の間に突風を巻き起こして浮かせ、邪魔にならない場所まで押し除けた。
 朱王が次々と木を引っこ抜き、それを順番にホバリングさせて移動する。
 大きな魔獣なども闊歩する雑木林となる為か木の間隔はそれ程狭くなく、それ程多くの木を抜く必要はないが、雑草や倒木などがある為車での移動は難しい。
 クリシュティナとスタンリーは倒木も移動させ、朱雀は範囲を限定させて草木を焼却。
 超高熱をもって一瞬で炭化させていく。
 すでに朱王は見えない程先に進んでおり、遠くで木が倒れるところが見えるあたりにいるのだろう。
 朱王の進む方向へと後を追う。



 しばらくすると追いついて来たブルーノ達。
 地属性の使い手には朱王と同じように木を抜く作業をしてもらい、風属性の使い手には木の移動、火属性の使い手には朱雀と同じように草木を燃やしてもらう。
 そして右翼のブルーノには荒れた大地を慣らしてもらい、ある程度しっかりとした道にしてもらう。
 今後交易が始まる頃には石畳にしようとも思うのだが、今はまだ道を作る事が優先だ。
 朱王が指示を出して魔貴族が数人がかりで木を抜き、始めてから一時間程で5キロ以上もの距離を進んでいる。

 昼休憩を挟んで午後からも作業を続ける。
 数時間かけて20キロ程進んだところからは草原が広がっている。
 しかし草原には大きな岩なども潜んでいる為車では走りにくく、道を整備する事で随分と走りやすくなるはずだ。
 まだ整備を担当する朱雀達が追いついていない為、先行する引っこ抜き隊としてはこの草原をなんとかしてしまいたい。
 手抜きをしたい朱王は下級魔法陣を発動し、高熱の斬撃を放つ事で一気に直線状の草花を燃やし尽くす。
 引っこ抜き隊は地属性を得意とする者の為、地面を盛り上げ灰を巻き込みながらブルーノと同じように地面を平らに整えながら進む。
 突き出た岩も横に寄せたり地面に沈めたりと妨げにならないよう位置を変えた。
 朱王は続く草原をどんどん燃やしていき、少し遠回りにはなりそうだが草原をできる限り長くとる。
 ある程度進んだところで朱王も地ならし作業を始めていたが。



 わずか一日で90キロもの距離を進んでいるが、まだまだ草原は続いている為明日はさらに距離を稼げるだろう。
 少し魔王領寄りに向かう事になるが、今後魔王領にも道を繋げる予定なので問題はない。
 できる限り走りやすい道を作る事にしよう。

 朱王とルディは草原に野営地とする広場を作り、今後はこのような広場を100キロごとに設けようと考えている。
 この広場には平らで大きな岩を配する事で見張りもしやすいようにした。

 その後二人で獲物を狩りに向かい、後続隊が追いつくまでに夕食の準備だ。
 調理道具もない為焼いた肉や野草がメインとなるが、全員に木で作った食器を持たせてある為それなりの食事を楽しむ事ができるだろう。
 また、水筒に酒を全員が持って来ており、仕事終わりの一杯も楽しむつもりだ。

 レッドディアと呼ばれる魔獣を捕まえて血抜きをし、その間に野草を採取して回る。
 このアースガルドでは土に埋めると血や肉も魔力に還元される為、血抜き用と生ゴミ処理用の穴も掘って最後に少量の土を被せればいいようにしてある。

 血抜きが済んだところで洗浄魔法で綺麗にし、腹を裂いて内蔵を取り出してまた洗浄。
 臭み取りに冷却魔法でしっかりと冷やしたら皮を剥ぐ。
 最後に肉を分割して肉の処理は終了。
 小枝を集めて焚き火をしたら準備も万端。
 肉を焼き始める。



 ここまでの道を整え終えた後続組が追い付き、肉の焼ける匂いにつられて焚き火に駆け寄ってくる。
 ここしばらく大王領でも仕事をしていたとはいえ、今日は本格的に魔力も体力も使う仕事をしたので腹ペコだ。
 全員食事前に洗浄魔法をかけ、各々皮袋から食器を取り出して朱王の配膳を待つ。
 レイヒムが作ったハーブ入りの塩のおかげで香り豊かで食欲がそそられる。
 野草のサラダにはいくつか持ってきたフルーツとハーブ入り塩を使ったドレッシングがかけられており、甘さと酸味があるサラダも美味しそうだ。

 全員に肉とサラダが行き渡り、酒で乾杯してから食事を楽しんだ。

 野営は地べたで雑魚寝になるが、全員が持つ上級魔獣で作った皮袋は密閉度が高く、空気を入れて口を丸めて塞げばクッション性が得られる優れ物。
 これを枕として使えば寝心地も多少は良くなるだろうし、現在は中身を出した状態で少しだけ空気を入れて座布団として使っている。

 見張り用の岩は用意したものの、朱王と一緒であれば必要はない。
 いざとなれば朱雀が対応してくれるはずだ。
 食事の後には焚き火を囲んで眠くなるまで人間領の話をして聞かせたのだが……
 余計に目が冴えるとの事で話をやめた。
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