器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

文字の大きさ
上 下
243 / 297
魔人領編

223 開戦

しおりを挟む
 カミンが東の魔人一人を爆破すると同時にリルフォンの通信が遮断。
 朱王は逃げるよう指示を出しているが、カミンはおそらく一戦交えてから逃亡をはかるはず。
 それも数を減らし、王宮を破壊して逃亡する事だろう。
 そして全員が逃げるとしても速度の速い魔人からは逃げる事が難しい。
 どこかに隠れる必要もあり、あちらに渡したリルフォンで連絡を取り合われても面倒だ。
 朱王は遠隔操作で東の魔人達の通信を遮断し、リルフォンでの連絡を取れないようにした。
 それでも通信以外の機能は生きている為捨てられる事もないはずだ。
 カミン達には東の魔人の位置情報を一分毎に送信する事にして逃亡に役立ててもらう。

「よし、これでたぶん逃げ切る事はできるはず。私は東の国に行ってくるから北の国はこれまで通り…… 花火作りを続けてくれ。帰って来たらみんなで勝利を祝おう」

「我は行くぞ。朱王の精霊じゃからのぉ」

「私も…… いえ、朱王様の勝利を信じております」

「朱王様、御武運を。カミン様とフィディックをお願いします」

「マーリンとメイサは今は花火作りに専念してくれ。君達には南との戦いに協力してもらいたいからね」

 東の国との戦いが始まっているというのに、花火を気にする朱王は誰よりも楽しみにしているのかもしれない。

 朱王と朱雀は空へと舞い上がり軽く手を振ると、高速で上昇してそこから急降下による加速度を得ながら東へと消えて行く。

「スタンリー! 朱王殿を追えるか!?」

「え!? めっちゃ速いんすけど!? いや、追える! 追ってみせる! 行って来ます!!」

 スタンリーは風の魔人として速度で負けるわけにはいかない。
 風魔法を駆使して加速し、朱王と朱雀の後を追う。



「なあディミトリアス。東の国とはどうなったんだ? 朱王が行ったって事は戦争か?」

 リルフォンでの東の国との会談に参加しなかったエリオッツが最近開発したばかりのクリームソーダを二つ手にしてやって来た。
 一つをディミトリアスに渡して二人は空を見つめる。

「残念だが朱王殿は東の国の大王代理とかいう者と敵対する事になった。北の国は南に備えよとの事だが…… 私も人の親だ。アリスが心配でな」

「ああ、娘も行ってるんだったか。だがそう心配するな。朱王が着くまで生き延びられれば大丈夫ではないか?」

「しかし……」

「大王が動けば国が動くのだ。ディミトリアスは彼奴らを信じて待てばいい」

「うむ…… ここ最近、ただ待つという事がなかなかに苦痛でな」

「やる事はあるだろう。これ飲んだら花火作りにまた行こうではないか」

「そう、だな。うん、美味い」

 北の国の大王として、ここは娘や部下を信じて待つほかないのだ。
 そこに速度に優れた朱王や朱雀、スタンリーが時間稼ぎをすれば全員が無事帰れるだろうと思えなくもない。
 朱王も朱雀もその放出する魔力から高い実力を持つ事がわかるとはいえ、その強さは未知数なのだ。
 ディミトリアスから見ても守護者以上である事はわかるがどれ程までかは想像がつかない。
 しかし大王の思いとは裏腹に、自分よりも強い事が予想される竜人エリオッツが大丈夫だと言う事や、朱王の部下であるマーリンやメイサの見せる余裕。
 朱王が無事帰ってくる事への絶対的信頼を思わせる程に自然体だ。
 アイスクリームを三段積みで楽しんでいる。
 ここで自分だけが焦っていても仕方がない。
 ディミトリアスも気持ちを落ち着かせて帰りを待つ事とした。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 高速で空を舞う朱王と朱雀。
 スタンリーがついて来ている事に気がついて速度を少し落として待つ。

 しばらくして追いついたが、風の魔人と呼ばれるスタンリーでさえも距離をなかなか縮める事ができない程に朱王と朱雀の飛行速度は速い。

「スタンリーさん。もっと速度上げるけど大丈夫? 通常飛行より落下加速を乗せると速度を出し易いからさぁ」

「朱王さんの言ってる事がわかんねーよ。どうすりゃいいんだ?」

「ここから高い位置まで上昇したら重力魔法で重さを加えて落下するだけだよ。速度が乗ったらそのまま滑空すれば良いだけだから簡単!」

「ほぉぉ。朱雀はできんのか?」

「我は重力魔法は使えんがのぉ。飛行速度には自信があるのじゃ」

 スタンリーが理解したところで朱王は上昇を始める。
 ここでも重力魔法で軽くし、風魔法で上昇を促す。

 上空2千メートル付近からの重力魔法を乗せた落下。
 大きく広げた飛行装備で横から風魔法を受ける事で落下加速度を乗せた飛行が可能となるのだが、スタンリーの飛行装備は朱王の物より性能が低い。
 危うく林に突っ込みそうになりながらも超加速を可能とした。
 朱雀は落下加速度の初速は遅いものの、その飛行能力の高さから余裕でついてくる。
 風の魔人であるスタンリーが最も遅い。

 速度が低下するまではそのまま滑空し続け、スタンリーが追いついたところで朱王がバッグから取り出したミスリルナイフを渡す。

「今これしかないから貸しておくよ。飛行装備の性能上がる魔石組み込んであるから使って」

 普段の作業で使っていたミスリルナイフに、飛行装備の補助機能を付与した朱王の魔石が組み込まれている。
 再び上空へと舞い上がって加速を狙う。

 さらに速度を上げた朱王が加速していく。
 スタンリーもこれまで以上の強力な重力、翼の強度、攻撃魔法に近い突風を巻き起こす事で更なる加速が可能となった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 およそ六時間で東の国の魔人達と戦うカミンを捕捉。
 フィディックも数人に追われながら耐え忍んでいるようだ。

 時速300キロともなる速度のまま接近した朱王は、カミンに襲いかかる魔人の背後から蹴り飛ばす。
 その蹴りの威力は尋常ではなく、爆発音を響かせて魔人の体を吹き飛ばす。
 背骨を砕かれ内臓を破裂させた魔人の生死は定かではない。

「待たせたね、カミン。無事で良かった」

 朱王が到着を知らせると同時にスタンリーも他の魔人を蹴り飛ばす。

「っああ!! 顔が痛え!! 朱王さん速度出し過ぎだろ!?」

「あははっ。スタンリーさんは強化も鍛えないとだね」

 風の魔人スタンリーといえど六時間もの間300キロ近い速度で移動した事はない。
 顔の形が変形する思いだろう。

「おう。来たのか朱王とやら。そっちのは北の魔人か? ははっ。お前ら二人来たところで何になる」

 メレディスがジャンと呼んでいた魔人が笑う。
 カミンが相手にしていたのは魔人四十人以上。
 カミンの攻撃力の高さに攻めきれずにいたものの、体力を削る為に追い回していたようだ。

「まだこっちは二人いるだろ。今呼ぶからちょっと待てよ。コール……」

 スタンリーはアリスとエルザを呼ぶつもりだろう。
 ジャンとしては隠れている二人が姿を現すのであれば都合がいい。

「朱王様。あの後ろのお二人が右翼のブルーノ様と左翼のデオン様。その実力も大王様に届くと言われているそうです」

「そうか。たしかに強そうだけど…… あまり戦う気はしないかな。私はメレディスを倒しに来たんだし。一応聞くけど君達は私の敵か?」

「「……」」

 二人は応えない。

「この二人は当然お前の敵だ。どんなに足掻こうが右翼と左翼がいる限りお前らに勝ち目はねえよ」

「返事がないね。まあいいけど……」

「朱王様。あの魔人は私が戦ってもよろしいでしょうか?」

 朱王は興味がないようだが、カミンは朱王に対するジャンの物言いに黙っていることはできない。

「うん。ただ生かしておいてくれるかな?」

「はい。ではあの者を叩き伏せます」

「なんでオレがわざわざ相手をしてやる必要がある。おいお前ら、やれ」

 アリスとエルザの到着を待たずに開戦となりそうだ。
 周囲を囲んでいた魔人達が同時に動き出すが、朱王は神速の抜刀で二人同時に斬り裂いた。

「珍しくカミンが君の相手を望んだんだ。邪魔はさせないよ」

「カミン。やっちまえよ」

 スタンリーも目の前の魔人と斬り結び、そこから乱戦が始まる。



 朱王は魔人の中から魔力量で判断して軍団長クラスと思われる者を片っ端から斬り伏せる。
 魔力を放出する事もなく、強化のみの刀で信じられない程の強さを持つ。
 スタンリーは耳にリルフォンを付けた魔人、おそらくはメレディス直属の部下二人を引きつけ、飛行装備の能力が高くなってからの初戦闘。
 これまで以上となった機動力は、魔人二人を相手にも立ち回れる程に滑らかでありながら鋭さを持つ。
 その間、カミンもジャンも動かずにお互いの動向を見る。

 気付けばわずか数分で魔人の数も半数となり、アリスとエルザも合流。
 朱王が圧倒している魔人の集団に斬り掛かり、アリスはメレディス直属の部下を相手取る。
 エルザはおそらくは東の守護者だろう、リルフォンを付けた強大な魔力を持つ魔人に斬り込む。

 高速飛行戦闘で優位に戦いを運んだスタンリーは一人を斬り捨て、残る一人も限界が近い。
 相手の強さとしては魔貴族の中位といったところか。
 部分的に精霊化した魔人を相手に圧倒する。

 朱王は軍団長クラスを全て斬り捨て、残るは魔貴族と思われる八人の男女。
 実力の高い者から距離をとっては精霊化して朱王に挑むものの、豪炎を放つ朱王の一撃が自身の最大の攻撃力をも上回る。
 全力で挑んでも斬り結ぶ事すら出来ない人間に恐怖さえ覚え始める。

 離れた場所で複数の魔人に追われていたフィディックも、朱王の到着に気付いてすでに戦闘を開始しており、魔貴族の一隊を相手に残る魔人は二人となっていた。

 カミンが精霊化、もとい悪魔化してジャンと向かい合い、ジャンも精霊化して剣を構える。
 炎の竜魔人となったジャンだが、その実力はどれほどのものか。
 その実力差は最初の一合で明らかとなる。
 ジャンの業炎がカミンの爆水がぶつかり合った瞬間。
 その爆発力によって弾き飛ばされ、背後にいた右翼に受け止められる。
 剣を持つ手には力が入らず、超速回復の為魔力を腕に集中させた。

「おいブルーノ! デオン! 奴らを殺せ!!」

 肩に担いだ剣を握るブルーノ。
 腰に下げた剣を構えるデオン。
 放出する魔力はカミンのリルフォンにも映し出され、強化のみでも五桁に届きそうな数値に自分の悪魔化した姿に近い出力がある事が予想される。

「おや? 貴方は逃げるのですか?」

「うるせぇ!! 指揮官が戦う必要なんざねぇんだよ!!」

 後方に下がるジャンと入れ替わり、前に出るブルーノとデオン。

「待ちなよ。邪魔はさせないと言ったはずだ」

 朱王は残る魔貴族三人をスタンリーに押し付け、右翼と左翼の相手を受け持つ。

 残っている魔貴族もすでに限界が近く、超速回復があるとはいえ残る魔力量もそう多くはない。
 スタンリーは精霊化した魔貴族数人を相手ならと自身も精霊化。
 飛行装備の能力が上がった事で、精霊化した風の魔人としての本領を発揮できるだろう。

 しかしこの三人とスタンリーの戦いは決着がつく事はなかった。
 東の守護者と互角に戦い、傷を負うエルザも戦いを中断せざるを得なかった。
 何故なら大王に届くであろう実力を持つ右翼と左翼を相手に、一人で挑む朱王の戦いが始まったのだから。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

女神様、もっと早く祝福が欲しかった。

しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。 今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。 女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか? 一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

処理中です...