器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

文字の大きさ
上 下
239 / 297
魔人領編

222.1 東の国へ

しおりを挟む
 北の国大王領を出て今日で二十二日。
 ようやく東の国大王領に到着しました。

 アリス王女とエルザ侯には大王様との謁見ができるよう手配してもらっており、準備が整い次第呼びに来るとの事ですのでこちらの宿でゆっくりとさせて頂きましょう。
 おそらくは明日以降になるだろうとの事でしたし。

 東の国でもやはり車を見るのは初めてでしょうからね、武装した魔人の方々に囲まれてしまったのは仕方のない事かもしれません。
 アリス王女とエルザ侯が説得してくださいましたが、お二人とも見た目が変わっていますからお話だけでは武装解除して頂けませんでした。
 やむを得ずお二人は魔力を放出し、北の国からの使者として来た上位魔人と魔貴族である事をご理解頂けたようです。

 しかし北の大王領から東の大王領まではもっと時間が掛かるものと思っていたのですが、東の領地は平原が多く、二十二日のうち十八日が北の国の移動に要した時間となります。
 北の国は雑木林が多いですから時間が掛かるのも当然なのですがね。



 こちらの宿…… 
 来客を宿泊させる宿と言っておられましたが、宿?
 土壁で作られていて天井は木と大きめの葉っぱを載せてあるだけという我々の知る建物とは違う作りをしています。
 屋根に乗っている葉もまだ青々としている事から、頻繁に貼り直してあるのではないかと思われます。
 まだ外も明るいですからね、葉の隙間から光が差し込んでいて今は明るさが確保できていますが、夜になれば光もなくな不便でしょうねぇ。
 部屋にはベッドもあるようですが、木を組んだだけのもので寝心地は悪そうです。
 我々は車から野営道具を出して、部屋をある程度快適に過ごせるようにして今夜は眠る事にしましょう。

 しかし同じ魔人領とはいえ、北の国と東の国でこれ程までに違うものでしょうか。
 北の国は多くの人間も住んでいますから物作りもそこそこ盛んですし、建ち並ぶ家々も人間領に比べれば粗雑なものの、それなりにしっかりとした作りとなっていて区画も整っていました。
 人々も彩り豊かとは言いませんが染料で染められた衣服を身に纏っており、食事もそこそこ美味しいと思える料理を食べていましたしね。

 東の国では点々と建っている家? とも呼べない住居? そうですね、今私がいるこの宿よりも作りが粗雑と言っていいでしょうか。
 多くはない人々がそこに住んでいるようです。
 衣類も粗雑に切られた獣の皮を纏った魔人達でしたし、武装していたと言っても肉体から作り出した爪の刃ですから魔人の方々がもつ能力なのでしょう。

 なんと言いますか時代を巻き戻したような世界に迷い込んだ気分です。
 もしかすると北の国が特別なだけで西や南もこのような国なのかもしれません。

 確かフィディックも……
 最初会った時は上半身裸にカーテンを纏っていましたか。
 下半身にはそこそこ上位種と思われる魔獣の皮を巻いていましたが、粗雑である事には変わりはありませんね。



 夕方になると私の部屋…… 部屋にアリス王女とエルザ侯が来て、食事は自分達で用意するよう言われたとの事でした。
 我々客人に対して食事を自分達で用意するようにとはどういう事なのでしょう。
 しかしここは魔人のみが住む東の国ですからね。
 魔人領の文化ではそうなのかもしれませんし、我々も食事の準備をしましょうか。

「私とフィディックで獲物を捕獲してきますのでレイヒムは調理の準備をしていてください」

「私も何か手伝うぞ」

 アリス王女は我々と旅をする様になってからとても協力的で私としても嬉しい限りです。
 エルザ侯も頷いている事からお二人共手伝ってくれるのでしょう。

「では何か野草を採取して頂けますか? あと、果実もあると嬉しいですね」

「わかった、任せろ!」

 もう少し口調が整えば本当に美しい女性なのですが、と思うのは私の勝手でしょうか。
 今後人間領の貴族が主催するパーティーなどにも呼ばれる事がないとも限りませんし、その辺の教育も進めておいていいかもしれませんね。



 この日の夕食は野営しているのとほぼ変わらないとはいえなかなかに豪勢でしたね。

 フィディックが捕まえた獲物が大きかった事もあり、大量のお肉を使った料理が振る舞われました。
 肉のソテーに風味豊かな果実のソースがとても美味しく、添え物の野草も肉の油を含んだソースを絡めるとまた美味しい。
 骨で出汁をとったスープも格別でした。

 我々がこの美味しい夕食を堪能していると、領地に住む魔人の方々がずっと覗いています。
 他の国に住む我々の料理が珍しいのかもしれませんね。

「カミン様。このままでは食材が余ってしまいますし、あちらの方々に振る舞ってもいいですか?」

 料理人であるレイヒムとしてはこの東の国でもご自分の料理を食べてもらいたいのは当然ですか。
 北の国では多くの弟子まで抱えていたくらいですからね。
 東の国でも喜んで頂けるでしょう。

「余った食材はレイヒムがお好きなように使ってください」

「ありがとうございます。では早速」

 と、レイヒムはまたお肉を焼き始めました。
 果実や野草もアリス王女とエルザ侯がレイヒムの行動を予想していたのかは知りませんが、とても多く用意してくれています。
 ここに集まっている魔人の方々には行き渡るだけの量もありそうです。

 エルザ侯がこちらを覗いている魔人の方に声をかけ、各々皿を持ってくるよう指示を出したようですね。
 魔人の方々が見えなくなりました。



 少しして恐る恐ると近付いて来た東の国の魔人男性。
 やはり魔人の方は男性も女性も整ったお顔をしていますが……
 体中に怪我が目立ちますね。
 たしか魔人とは高い回復能力を持っていたはずなのですが、回復しても傷跡は少し残るという事でしょうか。

 レイヒムは焼けた肉を差し出された皿? 平らな石に乗せて野草の添え物と果実のソースをかけました。
 この石の皿以外には食器を持っていない事から手掴みで食べるのでしょう。
 気を利かせたレイヒムは肉を食べやすいようスライスしてお渡ししています。
 ただレイヒムの場合、包丁捌きと言うよりも精霊魔法捌きと言っていい切り方ですから、魔人の方がとても驚いておりました。

 レイヒムの料理を受け取った方々は少し離れた位置に座り込んで食事を始めました。
 どうも私の知る魔人とは違った印象を受けましたので少し観察させて頂きます。
 焼き立てのお肉は熱いですから手掴みで食べるのは難しいでしょう。
 彼らは伸ばした爪で突き刺してお肉を食べています。
 指の一本一本を別に爪の伸ばし縮みができるようで、串のように使う事ができるようです。



 ふと、エルザ侯に問いかけてみると魔人はこの爪の操作は当たり前にできるとの事。
 ただし、この伸ばしているのは爪ではなく、体内にある魔力の物質化でありイメージを形にしたものがこの爪のようなものなのだそうです。
 ほぼ全ての魔人ができる事であり、もちろんフィディックもできましたが、アリス王女の場合は人魔である為物質化する事ができないとの事。

 そういえばアリス王女とセシール侯の戦うところを見ていませんが、アリス王女は武器を持っていませんでしたね。
 こちらはアリス王女に質問してみたところ、人魔で高い戦闘能力を持つ者は、過去の魔人が所有していた精霊剣で自分の体に合った物があれば受け継ぐ事ができるそうです。
 セシール侯は自らに合った精霊剣を手にする事ができましたが、北の国の精霊剣の中にはアリス王女に合うものがなかったとの事。
 ただこの精霊剣を受け継いだ場合には精霊の能力は得られず通常魔法のみで戦うしかないのだそうです。

 エルザ侯は魔人ですので精霊剣を自ら生み出し、精霊を取り込んでその能力を得たわけですから守護者たる力を持つのも頷けます。
 しかしセシール侯は精霊剣を持つ以外は通常魔法のみで守護者の地位に就いているわけですか。
 と、思い至ったところでエルザ侯はこう仰いました。

「セシールには天賦の才がある。どの属性魔法においても高い能力を発揮できるが身体強化のみでも恐ろしく強いぞ」

 なるほど。
 朱王様も火属性魔法を使わずともあの強さですから、セシール侯も天賦の才があるとすればそのような事も可能なのでしょう。
 ふむ。
 今度手合わせ願いたいものです。

 おや?
 アリス王女が浮かない表情で東の国の方々を見ていますね。
 もしかしたらまだ食べたかったのでしょうか。

「アリス王女。如何なさいましたか?」

「む? ああ、その…… 私は精霊剣を手にしていないから少しその話はな。あまり好きではないのだ。大王様の娘ともあろう者が武器も持てないとは情けない話ではないか」

 ふむ。
 強さが重視される魔族であればそうなのでしょうか。
 アリス王女に何故精霊剣が合わないのかはわかりませんが、いえ、合う合わないが何かはよくわかりませんが武器を持つのに我々は合わないなどという事も特にありませんね。
 せいぜい武器の使い方くらいでしょうか。

 この旅で朱王様から頂いたこのミスリルナイフ。
 サバイバル用にと頂いたのですが、何にでも使えるようにと魔法陣グランドが組み込まれた擬似魔剣です。
 こちらはどうだったのでしょうか。
 以前使用した事もあったと思いますが。

「アリス王女。我々人間の武器を使ってみては如何ですか? フィディックも使っておりますし我々人間は合わないという事はありませんので」

「私のはカミン様から頂いた物ですがとても使いやすい武器ですよ。アリス王女もこの国にいる間はこちらをお持ちください」

 フィディックも私が買ってあげた剣を大事に使ってくれていますし、特に不具合もなさそうです。
 東の国にいる間は必要ありませんしアリス王女に何かあっても困りますので、私とフィディックが持つミスリルナイフをお渡ししました。

「良いのか!? これは魔力も流れやすくて使いやすかったしな! それにとても綺麗だし精霊剣よりもこっちの方が私は好きだったのだ!」

「確かに我々が持つこのミスリル製の武器というのは魔力が流れやすい事が最大の利点ではあるのですが、擬似魔剣化したこちらのナイフは魔力を溜め込む性質を持ちます」

「うむ。私の魔力が溜まっているようだな」

「はい。その溜め込んだ魔力量が一定に達した状態で魔法陣をイメージすると、現在組み込まれている地属性魔法陣グランドが発動する仕組みとなっています」

「お、おお!? すごい! フィディックと同じ丸いのが出た! それに…… 体に力が漲るようだぞ!」

 できれば精霊とご契約頂きたいところですが、魔人の魔力では精霊が逃げてしまうとの事ですからね。
 我々の契約している精霊では説得はできないでしょうし、魔法陣の発動するミスリルナイフにご満足頂けているようですの今は諦めましょう。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...