器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

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旅の終わり編

209 お土産

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 所長が気絶したのでソファに寝かせて戻る事にした。

 役所の職員さん達へのお土産とは別に冒険者用のお土産も用意してあり、先程頼んであったので受付に置かれてある。
 役所を訪ねた冒険者達がそれぞれ受け取っていくだろう。

 待合席には冒険者達がまだ複数残っており、懐かしい顔ぶれもあって少し話しをする。
 その多くが知らない顔であったが、新規の冒険者達であろう。
 アルテリアの冒険者が新規冒険者の教育に力を入れていると噂があり、また街の周辺に強力な魔獣がいない事もあって、初心者の街として王国や他の街から集まってきているのだそうだ。

 アルテリアで蒼真達が同行していた冒険者の多くは他の街へと拠点を移し、それぞれが新たな拠点で活躍しているという。
 武器の装飾を希望している者も多く、千尋が帰って来たら依頼する為に戻ってくると言っていたそうだ。
 これから少し忙しくなるなと思いつつ、自分の好みで加工できる事を嬉しく思う千尋だ。
 ただ今回は半月ほどしかザウス王国にはいないので、依頼を受けても対応できない可能性も高い。
 今後どうするかはあとで相談するべきだろう。

 また、アルテリア仕様に武器強化の依頼が多くあり、役所に置いていった魔石では足りなかったという事で後日魔石を持ってくる事にした。
 ちなみに強化に使用した魔石の代金は千尋の口座にすでに振り込まれている。
 口座にいくら入っているかなど気にすることもない千尋なので、もし振り込まれていなくても気づく事はないのだろうが。
 思い返せばアルテリア仕様への武器強化をヨルグの街では無料でしてしまっている。
 他の者達から代金を受け取っている事から少し問題あるかとも思ったのだが、クリム達が人間領を守る為前線に出る事、その際にヨルグの街の防衛が出来なくなる事の暫定処置として強化をしたのだという理由を付けて、今後は代金を受け取る事にする。

 話は盛り上がっていたが、日も少し傾きだしたので役所をあとにする。



 役所の次に向かうのは研究所だ。

 守衛さんに挨拶をしてお土産を渡して所内へと入っていくと、すぐにこちらに気付いた者がいた。
 真っ赤なロングヘアが特徴のライルだ。

「みんな帰って来てたの!? 久しぶりね!」

「ただいまライル。みんな元気にしてるかしら」

 ライルと長い間一緒に過ごしていたリゼも久しぶりに会えて嬉しそうだ。

 旅の話しをしながら研究室へと向かい、以前お世話になった所員達を集めてもらってお土産を配った。
 そして購入してきたお土産の他に、千尋達お手製のお土産が複数ある。

「研究所へのお土産として三つ程持って来たんだけど…… そうね、まずはミスリルモニターから説明しようかしら」

 役所には置いてこなかったが、研究所の者達にこそ必要であろうと小型の物を用意してきた。
 この最新の魔道具に研究員全員が立ち上がった。
 カラオケはまた別に作らなければならない為、今回は映画を見る事ができるミスリルモニターだけだが。
 映画の日の映像も受信する事はできない仕様だ。

 リゼがミスリルモニターを簡単に説明したのだが、その仕組みを説明して欲しいと言われても朱王の魔石でほぼ全てを機能させている為、説明したくてもできるものではない。
 五感に作用する魔石に機能をもたせて、ミスリルで反応させて再生しているとして説明したが、やはりそれでは不十分だろう。
 しかし何でと問われても誰も理解していない。
 もう朱王の魔石だから、あの人なんでもありだからと説明する以外になかったのが辛いところ。
 説明できない事から逃げるように映画を再生させ、その映し出された映像に釘付けになる研究員達を見てホッと一息をつく。
 今後また問われたとしても答えられないのでこのまま逃げるつもりだ。
 ちなみにこの研究員の中の数名は、ザウス王国で映画の日が開催される事になってから調査を目的に観に行っている。
 ただ調査をしたといっても映画を楽しんできた事以外は何もわからなかったのだが。



 十分程で映画を停止して、次のお土産へと移る。

「今度はこれ。耳につけるリルフォンよ。蒼真、いくつ持ってきてる?」

「んん、六つあるな」

「じゃあ六つをこの研究所に置いていってもいいかしら? これは遠く離れた位置にいる相手とすぐそばで会話ができる優れものよ。他にも手紙みたいに文章を送れるメール機能や自分の視界を映像として切り出したり、動いている動画を記録する事もできるわ。あと何故か魔力量も測定できるようにしてあったりナイトスコープ機能もあったりと必要かどうかわからない機能もついてるわね」

 他にも自動計算機能や位置情報、音楽機能などもついている。
 研究員達はこのリゼの説明に驚き、まずはこのリルフォンを誰が試すかという事になるが、千尋達と仲のよかったコーザ他五人が試してみる事となった。
 恐る恐る耳につけてみると、やはり脳内視野に映像が映し出されると驚きの声をあげてしまう。
 その後使用マニュアルが脳内に直接ダウンロードされ、使用方法を全て理解した六人は一人を残して外に出て通話を開始し、それぞれ場所を変えてどこからでも通話できる事を確認。
 それも脳内に相手の姿が映し出され、目の前で会話しているかのように錯覚するほどに鮮明だ。
 楽しそうにその機能を試しているので一旦彼らは放っておこう。



 三つ目のお土産としてはやはり誰もが欲しがる飛行装備だろう。

「これが飛行装備よ。王国の聖騎士達が装備していると思うけど見た事あるかしら。この腰布に魔力を流すと翼に変形して空を飛ぶ事ができるのよ。二着分だけ置いていくからみんなで試してみて」

 今後の魔族問題に戦力となる者に与えるつもりではあるが、有事の際には研究員にも偵察などを行なってもらうとすれば渡しても問題はないだろう。

 飛行装備を使ってみたいと思っていた研究員は多く、くじ引きで順番を決めて使用する事になった。

 外に出た研究員二人が腰布を巻いて魔力を流し込むと巨大な翼が広がり、それを見た者達からわぁっと歓声があがる。
 やはり通常素材で作った飛行装備は扱いやすいらしく、それほど魔力練度の高くない者でも簡単に操作ができるようだ。
 次は風魔法をイメージして揚力を得れば、広げた翼に風を受けてフワリと浮き上がる。
 あとは空へと舞い上がるようにイメージするだけで翼を羽ばたかせて勢いよく上昇できる。
 翼の操作はイメージを必要とせず、移動したい方向を思い浮かべるだけで翼や風魔法がある程度は操作してくれるよう朱王の魔石に組み込んである。
 戦闘中であれば翼を折り畳んだり方向を変えたりと操作する事もあるが、それによって体勢が崩れた場合であっても自動で立て直してくれるので墜落する心配もない。
 ただし、翼を切られたりした場合にはその限りではないが。

 空へと舞い上がった研究員達はその高さや速度に恐怖を覚えつつも、空を飛ぶという感動から右へ左へと流れるように飛行装備を楽しんでいるようだ。
 順番待ちをする他の研究員達は早く降りて来いと騒ぎ立てるものの、空を飛ぶ楽しさを覚えればそうそう交代などしたくはないだろう。



 お土産も渡し終えた事だし、彼らはまだこの後も遊んでいるだろうと、管理人にキャンプの許可をもらって帰る事にした。
 管理人も研究員達が空を飛んだり様々な場所で独り言を言う様を見て、リゼ達が持ってきたお土産がとんでもない価値ある物と判断し、キャンプはいつでもどうぞと許可をくれた。



 お土産も配り終えたのでエイルへと戻り、早めに風呂に入ってからの夕食だ。
 この日はオーナーが豪勢にしてくれた事もあって、いつもの家庭的な料理ではなく、店で出されるようなアルテリア料理を振る舞ってくれた。
 普段の家庭的な料理が他の店を凌駕するエイルの料理だが、店で食べたアルテリア料理とはまた別物のように感じるほどに美味しい。
 朱王邸の一流料理人達にも負けない美味しさに、食べる手が止まらない。
 次々と皿が空になり、また新たな料理が運ばれては美味しい料理を頬張る。
 久しぶりのエイルの料理はやはり格別だった。

 この日エイルに宿をとっているはずであるハウザー達はおらず、どうやら泊まりがけでのクエストに行っているようだ。



 食事を終えてテラスにコーヒーを持って出る。

「あー、美味しかった! やっぱエイルの料理は最高だね!」

「一流料理人のもいいけどやっぱり私はここの素朴な味が好きね」

 朱王邸の料理は美味しい。
 味だけでいえばエイルの料理よりも美味しいのかもしれないが、特別美味しい料理というのは少しだけ食べるから美味しいとも言える。
 お腹いっぱい食べて尚も美味しいと思えるのがエイルの料理のいいところだ。

 テラスでは明日からの予定を話し合い、朝には街の騎士団にお土産持っていく以外に全員で行動する必要もないだろうと、五日後にはキャンプをする事にしてそれ以外の時間は自由に行動する事にした。

 それならばと、千尋とリゼは今後殺到しかねない武器の装飾依頼を対応しようと決め、今アルテリアの街にいる冒険者限定で受けるつもりのようだ。

 蒼真は簡単なクエストでもいいから受注したい、他のパーティーの同行でもいいからと役所で依頼を受けてくるようだ。
 蒼真が行くなら自分もと、アイリも一緒に行くとのこと。

 ミリーはエレクトラにアルテリアの街を見せて回りたいというので観光だ。
 蒼真がバイクにも乗りたいと言うのを聞いて、一緒にツーリングにも行くつもりだ。
 千尋とリゼはズルイなーなどとは言うものの、バイクは二台しかないので仕方がない。
 王国に行く時はバイクで行こうと決めて、他の誰かに車を運転してもらえばいいだろうとツーリングは諦めた。
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