器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

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ウェストラル王国編

193 海洋戦

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 蒼真が待ちに待ったこの日。
 久し振りにクエストを受注する為に役所に向かう一行。
 役所はメインストリートである七番通りと大通りが交差する中央広場にあり、七番街Fブロックが役所の住所となる。

「ウェストラルに来て半月か。やっとクエストに行けるな」

「行こうと思えばいつでも行けたんだけどねー」

「海の魔獣ってどんなのかしらね!」

 メインストリートで当たり前のように買い食いをしながら役所に到着した。



 まだ朝という事で役所内には多くの冒険者がおり、初めて見る千尋達に注目が集まる。
 その辺の冒険者とは一線を画す装備、そして精霊を顕現させたうえに美男美女揃いのこのパーティーは目立たないわけがない。

 とりあえずクエストボードへと向かう蒼真とアイリ。
 千尋とリゼはウェストラルの冒険者達の装備を見回し、ミリーとエレクトラは受付へと向かう。
 朱王と朱雀は冒険者というわけでもない為、ミリー達に続いて受付の話を聞きに行く。

「アマテラスの皆様、ウェストラル中央所にようこそお出くださいました」

 と、受付嬢は何故かこちらの事を知っている。

「おや? 私まだ名乗ってませんけどどうして知ってるんですか?」

「わかりますとも。ニコラス様がアマテラスの方々がウェストラルに到着したと報告に参りましたので、私共も近々いらっしゃるのではないかとお待ちしておりました」

「ニコラスさんは私達の特徴とか言ってたんですかね?」

「美男美女の八人パーティーとお聞きしていましたのですぐにわかりました」

「エレクトラさん…… 私も美女のうちに入ってるんですか!?」

「ミリーさんは美人ですよ」

 嬉しそうな表情をするミリーは未だに自分を美人だと思っていないようだ。
 朱王が他の女性に取られてしまうのではないかと時々不安になるのはそのせいだろう。

「お連れの皆様はクエストをお探しのようですが、どのようなクエストをお求めですか?」

「では難易度10以上のがいいです!」

 最初から通常クエストを受けるつもりはないのか。
 難易度10の上位魔獣ともなれば本来役所からはクエストを発注されないはずだ。
 人的被害のない放置された魔獣が上位魔獣とされているがここは海のある王国だ。
 何かしら厄介な上位魔獣もいるだろうと思われる。

「そうですね…… 皆様のこれまでの経歴から見ても問題はないでしょう。所長室にお入り下さい」

 という事でどうやら上位魔獣の討伐クエストを受けれるようだ。



 所長室に入ってソファに座るよう促されるが、人数が多い為職員用のカウンターチェアを二つ借りて朱王と朱雀が座る。
 二人とも冒険者ではないからというのが理由だが、朱雀は回転するこの椅子が気に入ったようだ。

「私は所長のルーゴだ。君達が望む上位魔獣の討伐クエストはいくつかあるんだが本当にいいのかね? ワイバーンの上位個体も強敵だとは思うが、ウェストラルの上位魔獣は海に生息するのでこれまでとは勝手が違う。陸地がないうえ海上、それに船も出してもらえるかもわからんのだよ」

「私達は空を飛ぶ事ができますし船は無くても平気です。どんなクエストがあるんですか?」

「空を? ふむ、非常に興味深いが聖騎士の方々も空を飛べると聞いている。それと同じという事なのだろう。船が無くてもいいのであればどれでも構わん。この中から好きなクエストを選んでくれ」

 ルーゴ所長が出してきたクエスト書類は四枚。
 全て海に生息する魔獣の討伐クエストとなるが、その中からあれこれ相談しながらクエストを選ぶ。
 四枚の中に超級魔獣は無いが、海洋戦は初めてとなるのでまずはお試しに上位魔獣の討伐だ。



 クエスト内容:メルビレイ討伐
 場所:ウェストラル王国沖合
 報酬:一体につき22,000,000リラ
 注意事項:超巨大魔獣
 報告手段:魔石を回収
 難易度:SA



 まずはその中でも最高難易度の、メルビレイという超巨大鯨のような魔獣の討伐クエストだ。
 問題は討伐後の魔石の回収で、100メートルを超える巨体ともなれば魔石の大きさも直径1メートル以上となる可能性がある。
 それ以前に地属性魔法で魔石に還せるかという問題もあるが、地属性上級精霊と契約する千尋がいればなんとかなるだろう。
 そして難易度がSAとあるが、これは通常考えられる難易度Sの魔獣よりもさらに強力だと判断された魔獣に二つ目のS~Cのランクが設定されるとの事。
 このメルビレイという魔獣には、巨大な船で沖合に出た漁師達がこれまでにも相当な被害にあっており、これまでの目撃証言から難易度SAと位置付けされているそうだ。

「ほ、本当にいいのかね!? 命の保証はできないんだぞ!?」

「まぁ大きいだけなら平気です! 超級魔獣に挑む前の肩慣らしには丁度いいと思いますし!!」

 うん、肩慣らしには丁度よくありません。
 しかしこの高難易度クエストには全員が嬉しそう。
 海洋戦ともなれば陸地や空中での戦闘というわけにもいかないのだが気付いているのだろうか。
 巨大鯨のような魔獣である為、海中に潜る必要も出てくるだろう。
 そんな事は考えている様子もないが、クエストをそのまま受注して役所を後にする。

 弁当を持って行っても陸地がないのであれば食事をする事も出来ない。
 水筒にジュースと串焼きを袋に入れてもらって弁当代わりに持って行く事にした。



 空へと飛び立ち、ウェストラルの海に向かって翼を羽ばたかせる。
 討伐場所は沖合とあるが、どこからが沖合となるかもわからないまま沖へと向かう。

 うーみーはーひろいーな、おおきーいーな~♪

 と歌でもあるように、途轍もなく広い海でよくわからない魔獣を探す。
 無謀過ぎるような気もするが、巨大な魔獣は基本的に魔力の高い生物を襲う傾向にある。
 その体の大きさから人間よりも遥かに高い魔力を持っており、高い魔力の餌を捕食する事で自身の魔力が上昇する事でさらに強い個体へと成長していく。
 その性質を利用してメルビレイを誘き寄せるのも一つの方法だろう。
 通常強化でもその辺の魔獣よりも魔力の放出量が多い千尋達であれば、メルビレイも感知しやすいだろうと予想する。
 だがそう簡単には見つからない。
 串焼きを頬張りながらもメルビレイ探しを続ける。



 沖に出てしばらく空を飛んでいると、海の中に十数メートルもあろうという影が映り、飛び上がると同時に口を広げて襲い掛かってくる。
 確かに巨大だが目的であるアルビレイではないようだ。
 サメとも恐竜とも言えない巨大魚。
 硬質な体に巨大な牙を持ち、人間であれば一飲みにされてしまう程の巨大さだ。
 巨大魚が襲い掛かったのは海面に近い位置で飛んでいた千尋。
 影が見えた直後に上昇したがそれを追うように巨大魚は飛び上がったのだ。
 千尋の上昇速度は巨大魚の飛び上がる速度をわずかに上回り、噛みつかれる事は無かったのだが千尋も正直相当に焦っている。
 巨大魚の跳躍が最高点に達したところで千尋は体を翻し、双剣を構えて重力操作グラビティを乗せた斬撃を放つ。
 しかし鱗は強度が高い上に表面にはヌメりがあり、通常の斬撃では傷つける事は出来ない。
 大きな水飛沫を上げながら着水した巨大魚。

「でっかーーー!!」

「あれでまだ20メートルもないくらいだぞ? メルビレイはあれより遥かにデカいみたいだ」

「なんか怖いわね…… 想像つかないもの」

「んー、あれはダンクルオスっていう魔獣みたいだね。今魔獣研究所に問い合わせてみたよ」

 魔獣研究所はウェストラル王国にもある。
 そこにはクリムゾンからも数人勤めている為、リルフォンを介して映像を転送して調べてもらっている。

 ちなみにこのダンクルオスは難易度C級相当の魔獣だが、あくまでも海上に出た状態での強さがC級相当となる。
 ダンクルオスは海中の魔獣である為、海に潜った場合にはC級の強さとは限らないのが実状だ。

「それとね、言いにくいんだけど…… 私と朱雀は海中戦は出来ないと思う。炎熱系の魔法だとみんなを巻き込んじゃうからね」

「んん? どうして朱王さんの炎熱系では皆さんを巻き込んでしまうんですか?」

「朱王さんの場合はたぶん熱量が高過ぎて水蒸気爆発を起こすんだろう」

 蒼真の見解は正解だろう。
 高水圧が掛かった位置での朱王の超高熱魔法により、一瞬で海水が蒸発して水蒸気となる。
 周りを海水に囲まれた海中で、一気に膨張した水蒸気が爆発を起こす事で仲間を巻き込む恐れがあり、そしてまともな戦闘にもならない事が予想される。
 もし海中で戦うとすれば周りを気にせず水蒸気爆発を起こし、海水を全て押し退けて一瞬で焼き殺す、または斬り倒す事が朱王の戦闘方法となるだろう。

 朱王と朱雀は上空へと舞い上がり、千尋達の戦闘を見守る。
 危険もあるかもしれないが初の海洋戦でのスリルを味わってもらいたい。



 双剣を構え、ガクとエンに魔剣を持たせた千尋は海中に視線を向けて警戒する。

「じゃあ今日はオレ達だけでやるよ! また来そうだから気をつけてね!」

 時々真っ暗な影が海中に見えるが、先程の一匹だけではないようだ。
 他にも同じような大きさの影が映る。
 全員精霊を顕現させ、下級魔法陣を発動して待機する。

 そして真っ暗な影が浮かび上がり、次にダンクルオスが飛び掛かったのはアイリ。
 迅雷と魔法陣による強化された雷刃が放たれ、向かい来るダンクルオスに直撃。
 海面から飛び上がっていた為、その雷撃はダンクルオスの体内を全て破壊するかのように暴れ狂う。
 水棲魔獣に雷撃は絶大な威力を誇り、ダンクルオスは一撃の下に絶命した。



 大きな水飛沫を上げて海へと落ちたダンクルオス。
 もしかすれば共食いを始めるのかと見守っていたがそうでもない。
 また海中からこちらを狙おうとタイミングを図っているようだ。



 また海面に向かって広がる影の後に飛び上がるダンクルオスだが、海中で戦った方が利があるのだろうがそこは所詮魔獣の頭。
 餌が上空にいたら危険だとわかっていても、跳躍して食らいついてしまう程度の知能しかない。
 次に狙われたのはエレクトラだが、焦らずにしっかりとイメージを込めて精霊魔導を放つ。
 抜刀を発動すると共に放たれた蒼真直伝の風刃は、ダンクルオスの口から数メートルを斬り裂いた。
 まだ死んではいないようだがまともに動けなくなったダンクルオスは海に向かって落ちていく。

 ところがエレクトラが倒したダンクルオスと入れ違いに飛び上がるもう一体がミリーに向かう。

「よーし、私に来ましたね!!」

 ミルニルを右上方に構えてダンクルオスを迎え討とうとするミリー。
 魔力を放出し、いざ振り抜かんと上体を傾けた瞬間に全身が凍り付くほどの怖気が走る。

 海面に見えた巨大な目玉。

 世界がスローモーションとなり死を予感させる程の恐怖が全身を襲った。
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