器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

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ウェストラル王国編

166 怒ると疲れる

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 クラークメンバーを引き摺りながら役所へと向かい、所内へ入ると朱王が叫ぶ。

「所長を連れて来い!! 犯罪者を捕まえて来たと伝えろ!!」

 朱王にしては珍しい怒気を孕んだ口調。
 殺気も篭っている事から相当に怒っているのだろう。
 その迫力に飛び上がるように所長室へと駆け込む所員の女性。



 嫌そうな表情で出て来た所長と、焦った表情をして背中を押す所員。

「シェルベンス役所所長のザギルです。なっ、その者達はクラーク!? なんなのですか貴方は……」

「緋咲朱王だ。この犯罪者共を野放しにし、ゴールドランクを与えたお前も同罪だ。警備騎士に引き渡すからついて来い」

「なっ、何を根拠に犯罪者だと仰るのでしょう……」

「こいつらの記憶だ」

 言うと同時にザギルの頭を鷲掴みにして記憶を流し込む朱王。

「これでも犯罪者ではないと言うつもりか?」

「あ、彼奴らの記憶…… ? むぅ…… しかし…… この街を守ってきたのも事実ですし」

「街を守れば何をしてもいいとでも言うつもりか? どうやらお前にも後ろめたい事がありそうだな」

「そ、そんな事は何もありませんっ!! ぬあぁぁぁあ!?」

 頭を鷲掴みにしたまま吊るし上げ、記憶を漁ってザギルの悪事も調べる朱王。
 その記憶の中にはクラークとの裏でのやり取り、過去の奴隷への非道な行為なども引き出した。

 震える程に拳を握り締めた朱王の怒りは殺気となって放たれ、役所の所員や冒険者に失禁する程の恐怖を与えた。

「くさ…… 朱王さんやり過ぎ!」

「何人か漏らしたみたいだな」

「朱王は何を見たんですか?」

「ああ? 少し黙ってくれるか」

「めっちゃ怒ってますね……」

「ミリーさん今話しかけては駄目です」

 朱王は掴んだ頭から手を放し、崩れ落ちるザギル。
 怒れる朱王に話しかけるのは自殺行為と判断した千尋と蒼真は、周りの冒険者達に指示を出す。

「漏らしてない人はザギルとクラークメンバーを運ぶのを手伝って! 警備騎士に引き渡すよ!」

「他にも漏らしてない奴は掃除しろ。この後クラーク被害者が集まるからな。オレ達が戻って来るまで待たせておけ」

「私漏らしてないですよ!?」

「私だって漏らしてないわよ!」

「え!? 疑われてるんですか!? 私も漏らしてません!」

「わたくしも!」

「お主らには言ってないと思うがのぉ」

 立ち上がった冒険者達は漏らしていないのだろう。
 それでも震えながら立ち上がり、クラークメンバーと所長を担ごうとしたところで朱王から命令が下る。

「担ぐな。穢れる。髪掴んで引き摺って来い」

「「「「「はっ、はひっ!!」」」」」

 瞳孔が開いた朱王に笑いはない。
 普段の朱王からは想像がつかない、姿そのままに悪魔といった表情だ。
 激痛を伴う空気を放ち、並みの冒険者では呼吸をするのもままならないだろう。
 一緒について来た冒険者達は息を乱しながら激痛に耐え続けている。



 異様な空気に屯所兼訓練場から出てきた騎士達。
 先頭を歩く怒れる朱王と目が合った瞬間に全員が目を逸らす。
 誰もが殺されると思ったのだろう。
 恐怖から神に祈りを捧げる者、土下座をする騎士も複数名出る始末。
 仕方ないので蒼真が説明してクラークのメンバーを引き渡し、所長の件はどうしたものかと朱王を見る。

「めちゃくちゃ怒ってるが朱王さん。オレは記憶を見てないから説明できないんだが」

「オレも気になるなー」

 ここで朱王を介して記憶を見れば、全身に激痛が伴うのは以前のミリーを見ればわかる。
 朱王は千尋と蒼真の手を取り、失禁して失神しているザギルの頭に手を当てる。

 一気に過去の記憶を脳内に直接流し込まれ、目眩を起こす感覚に囚われながらもその記憶に怒りを覚える。
 見終えた蒼真と千尋は怒りのままにザギルを蹴る。

「こんの糞ヤローがぁ!! 寝てんじゃねー! 起きろコルァァア!!」

 胸ぐらを掴み、右へ左へと頬を叩く千尋。
 数十発叩いてようやく目を覚ましたザギル。

「お前は許せん!!」

 気絶させまいと腹を蹴る蒼真。
 ブチ切れた千尋と蒼真がひたすら蹴り続け、次第に朱王が落ち着きを取り戻す。
 怒りの無表情から少しずつ笑顔になっていく朱王がちょっと怖かった。



 怒りを鎮めた朱王がザギルについて説明し、怯えながら聞く警備騎士は王国に報告する為の調書をとる。

 およそ一時間に渡ってザギルとクラークメンバーについて話し込み、その間一度も千尋と蒼真の蹴りを止める事はなかった。
 そして朱王の話にミリーも怒りを覚えてクラークメンバーを蹴りに向かう。
 リゼとアイリ、エレクトラも怒りを覚え、朱王の話を聞きながら千尋と蒼真の蹴りを見て怒りを抑えるのだった。



 警備騎士に預けたら今度は役所に戻る。
 役所には百人を超えるクラークからの被害を受けた人々が集まっていた。

 役所内に入り、カーテンで仕切りを作って裏口を出口として使用。
 千尋が順番に案内を進めてカーテンを潜らせ、アイリが被害届を受け取る。
 エレクトラが役所から出る方向を指示して蒼真はそのまま連れて街に戻るよう促す。

 アイリが被害届を見て出口へ向かわせる者と所長室に入れる者、処置室に入れる者とを分けていく。

 所長室では朱王が記憶の消去を行う。
 被害者にその時の記憶を思い出してもらわなければならないが、その一部でも記憶の欠片を掴めれば朱王が処理して記憶を消去。
 その光景が朱王に見えてしまうが、被害者の許可を得て確認と消去を行う。
 消去が済めば何故自分が記憶の消去をお願いしたのかさえわからなくなる。
 それでも肉体的な怪我と同じで、傷は消えても痛みはしばらく残る。
 記憶を消去された事で辛く悲しい記憶は無くなるものの、辛い、悲しいという感情が消えるまでは数日の時間がかかるだろう。

 処置室ではミリーが傷の手当て、または復元魔法を施す。
 朱王が見た記憶では暴行と同時に刃物で傷付けられたり殴られたりする者がいたとの事。
 回復魔法で傷を癒しているとしても、その深さによっては消えない傷もある。
 また、街で暴力を受けた者もいるだろう。
 平気で武器を振るう連中だ。
 被害者は多く、ミリーの元には多くの患者が寄せられた。
 そして以前クラークメンバーに逆らったブルーランク冒険者も被害者として来ていた。
 全員が利き腕の腱を切られ、まともに戦えなくなってしまったそうだ。
 あいつらを捕まえてくれてありがとうと涙を流し、この街が良くなる事を望むという彼らを気に入ったミリー。
 全員の利き腕に復元魔法をかけて話をする。

「私は冒険者のミリーです。みなさんのお名前をお聞きしてもいいですか?」

「オルカのリーダー、トーマスだ。仲間のヤンとペーター三人のブルーランクパーティーだ…… 元、だが、な……」

「ではトーマスさん。強くなってこの街を守るつもりはありませんか? 私はこの街の為に戦おうとしたあなた方は立派だと思います」

「腕を治してもらったからブルーランクには戻れるとは思うけどな…… そう簡単には強くなれないだろ」

 苦笑いしながら頭を掻くトーマス。

「おや? 魔力練度は結構高そうですけどね?」

「まあ利き腕がダメなら魔法を強くするしかなかったからな。毎日三人で訓練してたんだ」

「それなら大丈夫です! 千尋さんに頼んで強くしてもらいましょう!」

 彼らには最後まで待合室で待ってもらう事にした。



 今後この役所には朱王が指名した所長が配される事となる。
 もしかしたら他にもここと似たような街もあるかもしれないと考えると不快な気持ちになる朱王。
 その夜勇飛に連絡を取って今後回る街の調査を頼んでおいた。



 被害届を全て受け取り、記憶の消去や傷の回復を終えて、千尋がトーマス達の武器を確認。
 元ブルーランク冒険者では鋼鉄製の武器しか持っていない為、魔力を流れやすくする程度の強化しかできない。
 それに全員利き腕を使えなくなっていた事でダガーを装備していたが、元の装備を聞くとトーマスは巨剣、ヤンがダガー、ペーターが両手直剣との事。

「あれ? それなら全部私の車にあるんじゃない? サフラとカミンが使ってたやつがさぁ」

「ええ!? あの一級品あげちゃってもいいんですか!?」

「うん、いいよ。この胸糞の悪い時に正義感のあるトーマス君達に会えたんだ。是非とも受け取ってもらわないとね!」

「魔力練度も充分だしこれからまだ強くなりそうだしな」

「この街の英雄になってもらおうよ!」

 という事で朱王とミリーが車までひとっ飛び。



 数分で武器を持って戻って来た。
 その一級品カスタムの武器の数々に息を飲むトーマス達。
 王族や貴族でさえもこれ程のミスリル武器を持つ者はいないのだから言葉も出てこない。
 ダガーはエルフ達に渡した物の残りだが、朱王が磨き込んで装飾と着色を加えた事で宝飾品のようになっている。

 トーマスにはサフラが使っていた巨剣を渡して魔力を溜め込む仕様にエンチャント。
 精霊ヴォルトと下級魔法陣サンダーを組み込んだ。
 魔力色は悩んだ末に黄色にした。

 ヤンには左右にダガーを持たせ、精霊ウィンディーネと下級魔法陣ウォーター。
 精霊フラウと下級魔法陣アイスを組み込む。
 魔力色は二色選べるので水魔法に青、氷魔法に赤として、氷を乱立させた場合には紫になるようにした。

 ペーターにはカミンが使っていた直剣を渡してエンチャント。
 精霊シルフと下級魔法陣ウィンドを組み込んだ。
 色は装備に合わせて緑色を選択する。

 今回はすぐ側が海の為砂浜がある。
 砂浜に魔法陣を描いて精霊契約を済ませたのだ。
 普段であれば上級魔法陣をと考えるところだが、レベル8で魔力量2万ガルドとなる彼らには必要ないだろう。

 強化されたオルカのメンバーであればそう遠くないうちにシルバーランクまでは上り詰めると予想する。
 その後努力すればゴールドにも届くだろうと期待する事にした。



「なんだか疲れたね」

「めったに怒る事ないしな」

「あー、もう…… 酒に溺れたい」

「朱王、私もお酒に付き合いますよ」

 本来であれば楽しい観光となるはずだったのだが、ゴールドランクパーティー、クラークのせいで全てが台無しだ。
 オルカのメンバーに出会って少しだけ気分は回復したものの、普段感じることのない疲れから肩を落として宿へと帰る千尋達だった。
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