器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

文字の大きさ
上 下
167 / 297
ノーリス王国編

159 建国

しおりを挟む
 紫音が思っているのと同じように、ライオネルもこの1ヶ月本当に幸せだった。

 実は紫音がたまにじっと座り込んだりしているのは見た事があったが、紫音自身が心配かけないように隠しているようだったので、見て見ぬ振りをしていた。

 それがこの間はとうとう隠しきれなかったようで執務室で倒れた。

 毎日こっそり回復魔法をかけているが、最近急激にかかりが悪くなった。

 ーーもういよいよ別れの時間が迫っているかとでも言うように。

 認めたくない。
 せっかく心が繋がったようなのに。
 
 何が龍人の血が流れているだ。
 何も役にたたないじゃないか。
 俺は龍人の血が割と濃いらしく、魔力量が人より多いし、生命力も強い。どの種類の回復魔法も得意だ。
 だが、紫音の症状は全く分からない。異世界特有の病なのか。。。


 龍人はかつて番と呼ばれる伴侶がいてお互いその1人だけを愛し続けたという。そして、愛した者を事故等で失うと気が狂ってしまう者も多数いたという。

 今なら理解出来る気がした。

 紫音が現れるまで、恋などしたことがなかったし、そもそも恋愛に興味が無かった。
 それが紫音が現れてから世界が変わった。紫音と過ごす世界は輝いて見えたのだ。

 そんな紫音が失われようとしているなんて狂ってしまいそうだ。

 ……俺は諦めない。

 まだ紫音と会って1年も経って無いのだ、お互い離れていた期間もある。まだまだ一緒に過ごしたい。

 紫音は平気そうにしてるが、体は平気では無いのだろう、日々寝てる時間が増えている。
 俺は紫音の寝ている時間を利用して、あらゆる病気について調べている。早くしないと逝ってしまいそうだから。

 最近紫音の眼差しが申し訳なさと諦めを抱いているように見える。気を使う紫音だから申し訳なさは分かるが、諦めはなぜなのか?
 まさか紫音はこうなる事が分かっていたのだろうか? 

 そして、今日はヤらないかと誘ってきた。

 平常時であれば乗りたいくらいだが、今は少しでも体力を温存してほしい。少しでも時間を稼ぎたいのだ。


 ーー紫音の熱が出始めて2週間が経過した頃。

 紫音の起きている時間が極端に減ってきた。日中は細切れで4時間位しか起きていられないようだ。
 容態が急変してしまわないか怖くて、良くないとは分かっていても、また執務室に連れてソファで寝させるようになった。

 絶望がひしひしと伝わる中でも仕事はしなくてはいけない。
 今日も無言で執務を行なっていると、ルイスが話しかけてきた。

「ライオネル様酷い顔をしていますよ。寝る時間を削って調べ物をしているとうかがいました。少しお休みになられないと、シオン君が心配しますよ」
 
 暫く無言だったが、寝ている紫音をチラッと見た後、ライオネルはポツリと呟く。
「……ダメだ。このままではもう逝ってしまうんだ」
 今まで堪えていた弱音をルイスに吐く。

 紫音は熱がある事と起きている時間が少ない事を除けば、顔色が悪い訳でも痩せ細ってきている訳でもない為、見た目は健康そのものなのだ。

「やはりシオン君の言う通りライオネル様はご存知だったんですね」
「シオンは自分が弱っている事を知っていたのだな……」
「シオン君は逆にライオネル様が寿命を感じ取っている事に驚いていましたよ」
「…………寿命!? どう言う事だ? まだ18歳だろう? 詳しく話せルイス!」
「あれ? そこ辺りはご存知無かったのですね。これはシオン君から聞いた話なのですが……」

 興奮して聞いてくるライオネルに、ルイスは以前シオンから聞いた”ドール”の体質や特殊能力、寿命について話していた。

「寿命……。(本当に寿命なら何とかなるかもしれない)明日の執務は休む! 2人でなんとかしてくれ。今日も最低限終わったらあがる! いいな」

 ライオネルは有無を言わせず、手元にある書類を終わらせると、紫音を抱き抱え自室に戻って行った。

 アインとルイスは何だか良く分からないが、ライオネルの憂いを少しでも晴らせるようなら良かったと思った。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...