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ノーリス王国編
138 エレクトラの冒険
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三日間の勉強会を終えて魔法だけでもいろいろ出来るようになったエレクトラ。
様々な知識を得る事で風魔法に対するイメージ力にも繋がった。
「今日は簡単なクエストを受けようと思うんだがどうだろう」
「私は貴族用ドロップを作るから留守番するよ。皆んなで行ってくるといい」
「我は芋屋のおっちゃんと約束があるのじゃ」
芋屋のおっちゃんって何だ? とも思ったが毎日市民街に通っている朱雀も知り合いができたのだろう。
クエストに向かうメンバーは千尋、蒼真、リゼ、ミリー、アイリ、エレクトラの六人。
どう考えても過剰戦力だが、エレクトラの訓練のつもりでクエストを受けよう。
まずは役所の受付でエレクトラの冒険者登録だ。
受付の女性がエレクトラが王女である事に気付いて、所長を呼びに駆け出したのは言うまでもない。
所長もダラダラと大量の汗を流しながらエレクトラの冒険者登録を行った。
そしてアイリのクエスト達成履歴を確認してすぐにゴールドランクに昇格させる事が決定。
五人のゴールドランクパーティーにエレクトラ王女が参加する。
履歴を見ればこのパーティーがどれだけ強いのかがわかってしまう為、どのクエストを受けようが所長も文句はない。
そしてエレクトラ王女のランクは最初からブルーランクとなった。
このままゴールドランクパーティーに審査も丸投げしようと考えたようだ。
ブルーランクであれば難易度7までは受注できるがパーティーでクエストを受注するので高難易度クエストを選択。
クエスト内容:ベアトロル討伐
場所:ノーリス王国南部森林地帯ザルガ洞窟内
報酬:一体につき2,000,000リラ
注意事項:地属性魔獣
報告手段:魔石を回収
難易度:10
最初から難易度10だ。
地属性魔獣という事は強度が高くて刃が通り難い。
そして名前から予想するに巨大な熊だろう。
ただの大きいだけの熊が難易度10というのも考えづらいので、それ相応の強さを持った魔獣なのかもしれない。
弁当を購入して飛行装備で南部へと飛び立つ。
南部の森林地帯はゼス王国から来た道を戻り、右に逸れた山の中がそれに当たるそうだ。
森林に突っ込むわけにもいかないので、手前の道に降り立った。
蒼真とアイリが先頭を進み、ミリーとエレクトラが続き、後ろを千尋とリゼが歩く。
森林に入ってすぐに出てきた魔獣はコボルトの群れ。
すでに周囲を囲まれており、数はおよそ十五体程。
「誰やる?」
「たまには私がやるわ」
珍しくリゼが名乗り出た。
ルシファーを薙いで左右に二振りすると、一瞬で切り裂かれる全てのコボルト。
何の抵抗する事もなく腹部から内臓をぶち撒けて膝から崩れ落ちた。
見た目にグロいので地属性魔法を放って即魔石に還して回収して終了。
「さ、次行くわよ」
「えっ? えっ!?」
あまりの一瞬の出来事に、エレクトラも思考が追い付いていかない。
パーティー内では当たり前のような光景でも、側から見ればエレクトラのように驚くのも当然だ。
その後出て来たゴブリンの群れを千尋がサイレントキラーで瞬殺。
再び出てきたコボルト四体はアイリのイザナギとイザナミに噛み付かれて感電死。
蒼真は何もしないが、ランが出てきて少し離れた位置にいる魔獣にサイレントキラーを試している。
遭遇してすらいない魔獣の魔石が蒼真のバックに回収されていく。
エレクトラはパーティーのあまりの強さにどうしていいかわからない。
隣を歩くミリーを見れば鼻歌まじりに飴を舐め、警戒心などかけらも見えない。
それもそのはず、咄嗟にミリーに飛びかかったところで範囲の爆破に遮られ、動きが止まったところにミルニルでとどめを刺すだけだ。
ミリーから飴を受け取って口に含みながら心を落ち着かせるように歩いて行く。
出てくる魔獣を物ともせず、一方的に葬っては魔石に還す作業を繰り返しながら洞窟の前までたどり着いた。
「ところで光の魔石は誰か持ってるのか?」
全員横に首を振り、誰も持っていなかった。
「千尋なら光くらい出せるだろ」
「そうは言うけどできるかなー」
と言いながらもあっさり光球を作り出した。
錬成した本人も驚いているあたりは千尋らしい。
洞窟の入り口は広く、縦横3メートル程もある大きな穴だ。
内部に入るとさらに広く、魔獣のものであろう獣臭さが立ち込めている。
「ラン。これはキツい」
『任せて蒼真!』
ランの魔法で蒼真の魔法の香水の香りが広がり、洞窟内がとてもいい香りで満たされた。
「あの、蒼真さん? これだと敵に私達が来ましたよって知らせているようなものですよ?」
「そうか…… でも臭いのは辛い」
本当に嫌そうな顔をする蒼真にアイリも仕方ないかと諦める。
諦めていい事ではないはずだが諦める。
大概アイリも蒼真には甘いと思う。
すると遠くから複数の唸り声が聞こえてくる。
ベアトロルの声だろう、反響してどこから聞こえてくるのかはわからない。
「じゃあベアトロルを発見したらエレクトラに戦ってもらう。落ち着いて対処すれば問題はないはずだ」
「で、でも難易度10の魔獣ですよ!? わたくし一人で倒せるでしょうか!?」
「夜桜があれば大丈夫ですよ! 一撃でズバァッといっちゃいましょう!」
一撃でズバァッといける相手とは限らないと思うのだが。
千尋の光球で辺りを照らしながら奥へと進んで行くと、重い足音が聞こえてくる。
ベアトロルもこちら同様近づいて来ているようだ。
エレクトラは警戒しつつ、夜桜に手を添えながら先頭を進む。
洞窟を右に緩く曲がったところでベアトロルに遭遇。
エレクトラは一瞬で距離を詰めると同時に抜刀を発動し、夜桜の暴風によってベアトロルを後方へと吹っ飛ばす。
手応えはあったものの斬り伏せた感触はない。
地属性魔獣というだけあって毛皮に耐刃効果があるのだろう。
「ルーシー! お願いしますね!」
エレクトラの契約した精霊シルフ。
エンチャントの暴風の密度を上げ、夜桜を桜色の風の刃が包み込む。
蒼真が使用する風刃のようだ。
吹っ飛ばされて蹲っていたベアトロルが起き上がり、怒りの咆哮とともにエレクトラに向かって駆け出した。
再び納刀からの抜刀を発動し、桜色の風刃が襲い掛かるベアトロルの顔を横一線に斬り裂いた。
しかしベアトロルの強度は高く、表面を浅く斬っただけ。
ベアトロルが勢いのまま飛び込んで来るのを回避し、すれ違いざまに右袈裟、左薙ぎと連続で斬撃を放つ。
「エレクトラ、訓練のような斬撃だと斬り込みが浅い! 踏み込みを深くして刀身全てを使って斬るつもりでいけ!」
「はい!」
訓練のような打ち込みではない、相手を斬る為に刀を振るう。
その踏み込みは自分の安全圏を超える必要がある。
隙を突き、普段の踏み込みよりも半歩前へ。
または相手の知覚を超えるだけの速度で踏み込んで一瞬で斬り伏せる、か。
だが今の自分にはそれ程の技術も速度もない。
ベアトロルの動きを見切って斬るしかない。
千尋達を威嚇するベアトロルにエレクトラは向き直り、魔力を練って狙いを自分に向ける。
まだ慣れない抜刀ではなく、抜き身で右に構えて風刃を纏わせる。
ベアトロルが駆け出すと同時にエレクトラも間合いを詰め、飛び込むベアトロルの下に潜り込むように踏み込んで斬撃を放つ。
風刃がベアトロルの首元から腹部にかけて深く斬り込まれ、内臓に達する斬撃はベアトロルの命を刈り取るのに充分な一撃となった。
返り血を浴びつつも、自分の限界を超えた始めての斬撃にその手が震えるのを感じた。
その震えは怯えではない、自分がさらに一歩踏み出せた事への歓喜の震えだろう。
「いい一撃だった。エレクトラはこれからもっと強くなりそうだな」
「ありがとうございます!」
普段から褒められる事が多いエレクトラだが、自分の納得のいく斬撃を褒められた事が嬉しく、普段見せる事がない程に顔が綻んでしまう。
その後さらに奥へと進み、次に遭遇したベアトロルとはアイリが戦って見せた。
二振りのサーベルを扱うアイリだが、その速度、踏み込み、斬撃の正確さなど、エレクトラが学ぶ事が多くある。
風魔法と雷魔法の違いはあるものの、魔力を使っての斬撃であれば出力としてはそれ程違うわけではない。
一撃の重さがない分、斬れ味に特化した全身を使った斬撃がアイリの特徴だ。
刀身の付け根から切っ先まで全てを使った斬撃はベアトロルの体を容易く斬り裂く。
そして迅雷による高出力の電流が内臓を焼き、切り口からは焼き焦げた匂いが漂う。
「アイリの斬撃は相変わらず鋭いな」
と蒼真が声を漏らす程にアイリの攻撃は凄まじい。
エレクトラもアイリの斬撃を思い返しながらその動きのイメージを頭に叩き込む。
奥まで進んで入り口に戻り、合計四体のベアトロルを討伐した。
そのうち二体はエレクトラが討伐している。
入り口から反対方向に向かえばまだいるかもしれないが、唸り声も聞こえてこないので帰る事にする。
せっかく弁当を買って来ているし洞窟を出たところで昼食にした。
いつものように魔法の洗剤で手を洗い、地面を洗浄して弁当を食べる。
始めての外での食事にエレクトラも楽しそう。
完全にピクニック気分だが冒険者なんてこんなもの。
楽しく食事をして街へと戻って行った。
役所でクエストの報告。
ベアトロル他様々な魔獣の魔石を提出して、報酬の総額は9,435,000リラ。
そこそこな金額を稼げたが千尋達にとってはいつもの事。
しかし役所からすればこれ程までに稼ぐ冒険者は初めて見るわけで、驚きのあまりまた所長を呼びに行く受付の女性だった。
そしてエレクトラがベアトロルを一人で倒せる事も報告し、あっさりとゴールドランク冒険者となった。
冒険者になったその日のうちにゴールドランク冒険者になった者などこれまで始めてではないだろうか。
「さすがは王女様!」と煽てる所長の汗が半端ない。
エレクトラはミリーに所長が病気ではないかと問いかけているが決してそんな事はない。
王女に対して冒険者としてランクを付けている事に冷や汗が出ているだけだろう。
エレクトラの口座に400万リラを預けて、他は倒した分を分け合って口座に預けて本日の冒険は終了。
役所からの帰り道には買い食いしながら邸へ戻るのだった。
様々な知識を得る事で風魔法に対するイメージ力にも繋がった。
「今日は簡単なクエストを受けようと思うんだがどうだろう」
「私は貴族用ドロップを作るから留守番するよ。皆んなで行ってくるといい」
「我は芋屋のおっちゃんと約束があるのじゃ」
芋屋のおっちゃんって何だ? とも思ったが毎日市民街に通っている朱雀も知り合いができたのだろう。
クエストに向かうメンバーは千尋、蒼真、リゼ、ミリー、アイリ、エレクトラの六人。
どう考えても過剰戦力だが、エレクトラの訓練のつもりでクエストを受けよう。
まずは役所の受付でエレクトラの冒険者登録だ。
受付の女性がエレクトラが王女である事に気付いて、所長を呼びに駆け出したのは言うまでもない。
所長もダラダラと大量の汗を流しながらエレクトラの冒険者登録を行った。
そしてアイリのクエスト達成履歴を確認してすぐにゴールドランクに昇格させる事が決定。
五人のゴールドランクパーティーにエレクトラ王女が参加する。
履歴を見ればこのパーティーがどれだけ強いのかがわかってしまう為、どのクエストを受けようが所長も文句はない。
そしてエレクトラ王女のランクは最初からブルーランクとなった。
このままゴールドランクパーティーに審査も丸投げしようと考えたようだ。
ブルーランクであれば難易度7までは受注できるがパーティーでクエストを受注するので高難易度クエストを選択。
クエスト内容:ベアトロル討伐
場所:ノーリス王国南部森林地帯ザルガ洞窟内
報酬:一体につき2,000,000リラ
注意事項:地属性魔獣
報告手段:魔石を回収
難易度:10
最初から難易度10だ。
地属性魔獣という事は強度が高くて刃が通り難い。
そして名前から予想するに巨大な熊だろう。
ただの大きいだけの熊が難易度10というのも考えづらいので、それ相応の強さを持った魔獣なのかもしれない。
弁当を購入して飛行装備で南部へと飛び立つ。
南部の森林地帯はゼス王国から来た道を戻り、右に逸れた山の中がそれに当たるそうだ。
森林に突っ込むわけにもいかないので、手前の道に降り立った。
蒼真とアイリが先頭を進み、ミリーとエレクトラが続き、後ろを千尋とリゼが歩く。
森林に入ってすぐに出てきた魔獣はコボルトの群れ。
すでに周囲を囲まれており、数はおよそ十五体程。
「誰やる?」
「たまには私がやるわ」
珍しくリゼが名乗り出た。
ルシファーを薙いで左右に二振りすると、一瞬で切り裂かれる全てのコボルト。
何の抵抗する事もなく腹部から内臓をぶち撒けて膝から崩れ落ちた。
見た目にグロいので地属性魔法を放って即魔石に還して回収して終了。
「さ、次行くわよ」
「えっ? えっ!?」
あまりの一瞬の出来事に、エレクトラも思考が追い付いていかない。
パーティー内では当たり前のような光景でも、側から見ればエレクトラのように驚くのも当然だ。
その後出て来たゴブリンの群れを千尋がサイレントキラーで瞬殺。
再び出てきたコボルト四体はアイリのイザナギとイザナミに噛み付かれて感電死。
蒼真は何もしないが、ランが出てきて少し離れた位置にいる魔獣にサイレントキラーを試している。
遭遇してすらいない魔獣の魔石が蒼真のバックに回収されていく。
エレクトラはパーティーのあまりの強さにどうしていいかわからない。
隣を歩くミリーを見れば鼻歌まじりに飴を舐め、警戒心などかけらも見えない。
それもそのはず、咄嗟にミリーに飛びかかったところで範囲の爆破に遮られ、動きが止まったところにミルニルでとどめを刺すだけだ。
ミリーから飴を受け取って口に含みながら心を落ち着かせるように歩いて行く。
出てくる魔獣を物ともせず、一方的に葬っては魔石に還す作業を繰り返しながら洞窟の前までたどり着いた。
「ところで光の魔石は誰か持ってるのか?」
全員横に首を振り、誰も持っていなかった。
「千尋なら光くらい出せるだろ」
「そうは言うけどできるかなー」
と言いながらもあっさり光球を作り出した。
錬成した本人も驚いているあたりは千尋らしい。
洞窟の入り口は広く、縦横3メートル程もある大きな穴だ。
内部に入るとさらに広く、魔獣のものであろう獣臭さが立ち込めている。
「ラン。これはキツい」
『任せて蒼真!』
ランの魔法で蒼真の魔法の香水の香りが広がり、洞窟内がとてもいい香りで満たされた。
「あの、蒼真さん? これだと敵に私達が来ましたよって知らせているようなものですよ?」
「そうか…… でも臭いのは辛い」
本当に嫌そうな顔をする蒼真にアイリも仕方ないかと諦める。
諦めていい事ではないはずだが諦める。
大概アイリも蒼真には甘いと思う。
すると遠くから複数の唸り声が聞こえてくる。
ベアトロルの声だろう、反響してどこから聞こえてくるのかはわからない。
「じゃあベアトロルを発見したらエレクトラに戦ってもらう。落ち着いて対処すれば問題はないはずだ」
「で、でも難易度10の魔獣ですよ!? わたくし一人で倒せるでしょうか!?」
「夜桜があれば大丈夫ですよ! 一撃でズバァッといっちゃいましょう!」
一撃でズバァッといける相手とは限らないと思うのだが。
千尋の光球で辺りを照らしながら奥へと進んで行くと、重い足音が聞こえてくる。
ベアトロルもこちら同様近づいて来ているようだ。
エレクトラは警戒しつつ、夜桜に手を添えながら先頭を進む。
洞窟を右に緩く曲がったところでベアトロルに遭遇。
エレクトラは一瞬で距離を詰めると同時に抜刀を発動し、夜桜の暴風によってベアトロルを後方へと吹っ飛ばす。
手応えはあったものの斬り伏せた感触はない。
地属性魔獣というだけあって毛皮に耐刃効果があるのだろう。
「ルーシー! お願いしますね!」
エレクトラの契約した精霊シルフ。
エンチャントの暴風の密度を上げ、夜桜を桜色の風の刃が包み込む。
蒼真が使用する風刃のようだ。
吹っ飛ばされて蹲っていたベアトロルが起き上がり、怒りの咆哮とともにエレクトラに向かって駆け出した。
再び納刀からの抜刀を発動し、桜色の風刃が襲い掛かるベアトロルの顔を横一線に斬り裂いた。
しかしベアトロルの強度は高く、表面を浅く斬っただけ。
ベアトロルが勢いのまま飛び込んで来るのを回避し、すれ違いざまに右袈裟、左薙ぎと連続で斬撃を放つ。
「エレクトラ、訓練のような斬撃だと斬り込みが浅い! 踏み込みを深くして刀身全てを使って斬るつもりでいけ!」
「はい!」
訓練のような打ち込みではない、相手を斬る為に刀を振るう。
その踏み込みは自分の安全圏を超える必要がある。
隙を突き、普段の踏み込みよりも半歩前へ。
または相手の知覚を超えるだけの速度で踏み込んで一瞬で斬り伏せる、か。
だが今の自分にはそれ程の技術も速度もない。
ベアトロルの動きを見切って斬るしかない。
千尋達を威嚇するベアトロルにエレクトラは向き直り、魔力を練って狙いを自分に向ける。
まだ慣れない抜刀ではなく、抜き身で右に構えて風刃を纏わせる。
ベアトロルが駆け出すと同時にエレクトラも間合いを詰め、飛び込むベアトロルの下に潜り込むように踏み込んで斬撃を放つ。
風刃がベアトロルの首元から腹部にかけて深く斬り込まれ、内臓に達する斬撃はベアトロルの命を刈り取るのに充分な一撃となった。
返り血を浴びつつも、自分の限界を超えた始めての斬撃にその手が震えるのを感じた。
その震えは怯えではない、自分がさらに一歩踏み出せた事への歓喜の震えだろう。
「いい一撃だった。エレクトラはこれからもっと強くなりそうだな」
「ありがとうございます!」
普段から褒められる事が多いエレクトラだが、自分の納得のいく斬撃を褒められた事が嬉しく、普段見せる事がない程に顔が綻んでしまう。
その後さらに奥へと進み、次に遭遇したベアトロルとはアイリが戦って見せた。
二振りのサーベルを扱うアイリだが、その速度、踏み込み、斬撃の正確さなど、エレクトラが学ぶ事が多くある。
風魔法と雷魔法の違いはあるものの、魔力を使っての斬撃であれば出力としてはそれ程違うわけではない。
一撃の重さがない分、斬れ味に特化した全身を使った斬撃がアイリの特徴だ。
刀身の付け根から切っ先まで全てを使った斬撃はベアトロルの体を容易く斬り裂く。
そして迅雷による高出力の電流が内臓を焼き、切り口からは焼き焦げた匂いが漂う。
「アイリの斬撃は相変わらず鋭いな」
と蒼真が声を漏らす程にアイリの攻撃は凄まじい。
エレクトラもアイリの斬撃を思い返しながらその動きのイメージを頭に叩き込む。
奥まで進んで入り口に戻り、合計四体のベアトロルを討伐した。
そのうち二体はエレクトラが討伐している。
入り口から反対方向に向かえばまだいるかもしれないが、唸り声も聞こえてこないので帰る事にする。
せっかく弁当を買って来ているし洞窟を出たところで昼食にした。
いつものように魔法の洗剤で手を洗い、地面を洗浄して弁当を食べる。
始めての外での食事にエレクトラも楽しそう。
完全にピクニック気分だが冒険者なんてこんなもの。
楽しく食事をして街へと戻って行った。
役所でクエストの報告。
ベアトロル他様々な魔獣の魔石を提出して、報酬の総額は9,435,000リラ。
そこそこな金額を稼げたが千尋達にとってはいつもの事。
しかし役所からすればこれ程までに稼ぐ冒険者は初めて見るわけで、驚きのあまりまた所長を呼びに行く受付の女性だった。
そしてエレクトラがベアトロルを一人で倒せる事も報告し、あっさりとゴールドランク冒険者となった。
冒険者になったその日のうちにゴールドランク冒険者になった者などこれまで始めてではないだろうか。
「さすがは王女様!」と煽てる所長の汗が半端ない。
エレクトラはミリーに所長が病気ではないかと問いかけているが決してそんな事はない。
王女に対して冒険者としてランクを付けている事に冷や汗が出ているだけだろう。
エレクトラの口座に400万リラを預けて、他は倒した分を分け合って口座に預けて本日の冒険は終了。
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