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ゼス王国編
105 ゼス王国へ
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およそ五十日程のクイースト王国での生活を終え、車に乗ってゼスへと向かう一行。
クイースト王国からゼス王国までは、およそ八時間ほどで着くそうだ。
たくさんのお土産を買い込み、後部座席ではお菓子を食べながらの映画鑑賞を楽しんでいる。
この日も朱王と千尋、蒼真の三人が交代で運転しながらゼスへと車を走らせる。
「クイースト王国は楽しかったねー!」
「毎日が充実してたな」
「カミン達次第ではまたすぐ来る事になるけどね」
カミン達はこれから魔人族の北の国、ディミトリアス大王に会いに行く。
ディミトリアス大王は人間族との戦争を望んではいない。
あくまでもフィディックから聞いた噂でしかないが、もし本当であれば今後友好関係を結びたいと考えている。
なにも理性や知性のある魔人族や人間族が争う事はないだろうというのが、朱王のみならず千尋達の考えだ。
「ゼス王国も楽しみだよね! 最大の王国らしいしどんなとこだろう? それに強い魔獣とかいるのかな!?」
「どうだろう。いるとしたら倒しに行きたいよな。しかしデヴィル戦ではオレもまだまだ未熟だという事がわかったし、ゼスでも聖騎士達と訓練しようと思うんだが……」
「たぶん今の蒼真君ならデヴィルにも勝てると思うけどね。魔力量も上がったし邪魔が入らなければ倒せるでしょ」
「もっと強くなりたいんだよなぁ」
蒼真はデヴィルに負けた事を悔やんでいる。
自分が倒れた事でアイリまでデヴィルに殴られてしまった。
そしてパーティーメンバー全員が危機的状況に陥ってしまったのだ。
自分がもっと強ければ…… と思っているのは蒼真だけではないのだが。
車は山道に差し掛かり、それ程急でもない坂道を登っていく。
しばらく登っていくと【ランドロエの滝】と書かれた看板が立っている。
昼食を摂るのに丁度いい場所かもしれないので向かう事にする。
ランドロエの滝は看板からしばらく進んだ先に右に逸れる道があり、そこから2キロほど走ると巨大な滝が目の前に現れた。
滝からは山の麓へと川が流れ、壮大な景色を楽しむことができる。
ここもやはり絶景スポットだ。
弁当を広げる事を忘れてその景色に魅入ってしまう。
千尋達が立つ位置からおよそ50メートルもあるだろう高さから落ちる水は、さらに30メートルほど下の滝壺へと飲み込まれていく。
滝の横幅も広く、およそ20メートルといったところか。
物凄い水量が滝壺へと落ちていき、山に反響して轟音が辺りに響き渡っている。
千尋や蒼真も滝は見た事はあるが、これ程の規模のものを生で見るのは初めてだ。
その迫力に息を飲み込む。
リゼやミリー、アイリは滝を見るのが初めてだ。
ザウスやクイーストには大きな川もなかった為、これ程の水量を目にする事はこれまでなかった。
圧倒的な迫力に口を開けて水の流れを見つめている。
朱雀も滝を見るのは初めてだったらしく、興奮した様子で滝壺を覗き込んでいた。
滝壺では水飛沫が霧となり、七色の虹が弧を描いて向こう岸へと橋をかける。
轟音と迫力の中にある美しさに目を引かれ、暑い日差しにひんやりとした霧状の水飛沫が心地いい。
ひとしきり景色を楽しんだ後は弁当を食べるのだが、やはり絶景の中での食事は美味しい。
レイヒムの料理には比べられるようなものではないが、この広大な自然、そして美しい景色の中で食べる弁当は格別だ。
この景色を写真に残したい。
早速リルフォンのシャッターを切る。
リルフォンで写真を撮影する場合も、意識するだけで記録が可能だ。
自分の目がレンズとなる為、自分の写真を撮る事は出来ないが、写真のデータを転送する事も可能な為問題はない。
転送にはメール機能を利用して、写真の記憶データを添付して送るだけの簡単仕様。
みんなで入れ替わりながら写真を撮りまくった。
「そうだ、ゼスに着く前に言っておかないといけない事があったんだ。アイリ、君には今日をもってクリムゾンを抜けてもらうよ」
朱王が突然アイリの解雇を言い渡す。
「「「…… え?」」」
「ちょっと待て朱王さん。それは一体どういう事だ?」
アイリは口元を押さえて涙ぐみ、蒼真は訝しげに朱王を睨む。
「朱王、先に理由を言わないと駄目ですよ! 急にそんな事を言われたらアイリさんが可哀想です!」
「あー、そうだね。ゴメンねアイリ。ゼスに着いたらアイリはマネージャーの仕事に戻らないといけないだろう? 今のような旅を続けるにはアイリにはマネージャーから降りてもらわないといけなくてね」
ゼスは朱王の組織、クリムゾンの本拠地がある王国だ。
アイリはその幹部という重要な立場にある為、ゼスに戻れば仕事に戻るのは当然の事だろう。
ゼス王国は最大の王国の為マネージャーも三人いるが、幹部のマネージャーはアイリのみ。
緋咲宝石と緋咲美容のゼス王国内全店舗の運営管理がアイリの仕事だ。
朱王がアルテリアにアイリを連れて行った事で、現在は代理を立ててゼス王国内の運営管理を行なっている。
このままアイリを連れて旅を続ける事で、幹部マネージャーのポジションを空けておくわけにもいかないだろう。
「朱王様…… 私はクビという事ですか?」
「アイリはどうしたい? クリムゾンにいれば仕事をしなくてはいけないだろう? できれば蒼真君達と同じように客人としていてもらった方が話は簡単に済むんだけど」
「私は朱王様のお力になりたくてクリムゾンに入りました。幹部としてまだまだお仕えしたいと思っていますが…… できれば私は皆さんと一緒に旅を続けたいです!」
「よし、じゃあ今日から冒険者のアイリだね。今までクリムゾンをありがとう。これからは友人としてよろしくお願いするよ」
「朱王様……」
別れではないのに涙が出てくるアイリ。
「様付けも禁止ね」
朱王は笑顔でアイリに握手を求め、アイリも両手で朱王の手を握る。
昼食を終えて再び車で走り出し、しばらくは山道を走ることになる。
途中ですれ違う大型の竜車には大勢の人が乗っており、クイースト王国への観光客だろうと予想する。
遊園地や映画の日など是非とも楽しんで頂きたい。
時刻は十七時を過ぎた頃。
遠くにゼス王国が見えてくるが、朱王の運転する車は街道から外れて南へと回り込む。
回り込む際に見るゼス王国は周囲を全て石壁で覆われていて中が見えないが、朱王の説明ではこの石壁は直線距離で50キロほどもあるそうだ。
正方形に近い形で、内部に入れば田畑が広がっているという。
本来人が住む土地というのは魔力濃度の低い場所を開拓されて街などが作られている。
魔獣は魔力濃度の低い場所に住むことはなく、余程な理由がない限りは街に入ってくる事がない。
ゼス王国は周囲を石壁で覆っているという事は、魔力濃度の高い土地にも人々が住んでいるのだろうと考えられる。
東側の街道から真っ直ぐに行くと門があるのだが、朱王はどうやら東門からではなく南門から入ろうとしているようだ。
回り込んで一時間程で南門へと到着し、門番は朱王の車を見るなり審査する事なく中へと通してくれた。
門を抜けるとすぐに街が広がっていた。
王国の入り口には街があり、冒険者が多く住んでいるという。
ゼス王国に到着してすぐに泊まれるようにと宿場街にもなっており、多くの人々で賑わっている。
お土産を売る露店も多くあり、ミリーと朱雀がわいわいと騒いでいるが、時間も時間なだけにこの街は素通りする事になる。
朱王は二ヶ月に一度はゼスを訪れる為朱王の車も何度も目撃されているはずだが、やはりこの世界に一台だけの車は物珍しく道行く人々は誰もが驚愕の表情だ。
街の中を見回しながらゆっくりと進んで行くと建物が無くなり、今度は広大な田畑が広がっている。
所々に農村が建ち並んでいるが、王国の領地内であれば魔獣に襲われる心配もないのだろう。
道路も整備されており、とても快適に走る事ができる。
舗装はされていなくても綺麗に区画されている為直線道路となっており迷う事もない。
道なりに王都に向かって車を走らせる。
王都は他の国と同じように小高い丘の上にあり、市民街や周辺の田畑からも見える。
西門から真っ直ぐに王都までの道が延びているが、何故か朱王は途中で道を変えて右へと逸れて行く。
再び左へと曲がり、また王都に向かって車を進め、そのまま車を走らせる事十五分程で小さな滝になっている場所に辿り着いた。
滝の前には魔石が埋め込まれた門があり、朱王は車を門の横につけると魔石に向かって魔力球を飛ばす。
すると滝の奥側の岩壁と川の底がが持ち上がり、水の流れを塞き止めてその先にトンネルが現れた。
「す、すごいね…… 秘密基地みたい」
「どこに向かうのかと思ったらこんな仕掛けがあるとはな……」
「特に意味はないけどこれも時間をかけて作らせたんだよ。王都は広いから車だと目立っちゃうしねー」
もう充分目立っている朱王だが、その目立つという感覚が少しズレているのかもしれない。
朱王がする事なら大概のことは驚かなくなっている千尋や蒼真も、こんな大掛かりな仕掛けには興奮してしまう。
門を抜けてトンネルに入ると、今度はパッパッパッと灯りが点いていき、トンネルの道が照らし出される。
トンネル内は広く、縦横およそ6メートルもあるのではないだろうか。
トンネル内の道はゆるい勾配となっており、坂道を登りながら邸へと直通となっているそうだ。
このトンネルは北と南に延びており、今後ノーリス王国へ向かう際は北側のトンネルから出発するそうだ。
およそ十分程でトンネル内に機械的な物が現れた。
円形の金属の床と、縦穴が真上に向かって延びている。
金属の床に車を載せ、中央で停車。
前方にある魔石に魔力球を飛ばして装置を起動する。
機械音の後に床が持ち上がって縦穴を登り始め、ゆっくりと地上へ向けて上昇していく。
これは大型のエレベーターのようだ。
およそ二分程でエレベーターは停止し、朱王に促されて車を降りる。
どうやら倉庫のような広い建物に着いたようだ。
建物内もライトストーンが灯されており、内部も明るい。
千尋達が辺りを見回していると、車の前方にあるシャッターが徐々に開いていく。
クイースト王国からゼス王国までは、およそ八時間ほどで着くそうだ。
たくさんのお土産を買い込み、後部座席ではお菓子を食べながらの映画鑑賞を楽しんでいる。
この日も朱王と千尋、蒼真の三人が交代で運転しながらゼスへと車を走らせる。
「クイースト王国は楽しかったねー!」
「毎日が充実してたな」
「カミン達次第ではまたすぐ来る事になるけどね」
カミン達はこれから魔人族の北の国、ディミトリアス大王に会いに行く。
ディミトリアス大王は人間族との戦争を望んではいない。
あくまでもフィディックから聞いた噂でしかないが、もし本当であれば今後友好関係を結びたいと考えている。
なにも理性や知性のある魔人族や人間族が争う事はないだろうというのが、朱王のみならず千尋達の考えだ。
「ゼス王国も楽しみだよね! 最大の王国らしいしどんなとこだろう? それに強い魔獣とかいるのかな!?」
「どうだろう。いるとしたら倒しに行きたいよな。しかしデヴィル戦ではオレもまだまだ未熟だという事がわかったし、ゼスでも聖騎士達と訓練しようと思うんだが……」
「たぶん今の蒼真君ならデヴィルにも勝てると思うけどね。魔力量も上がったし邪魔が入らなければ倒せるでしょ」
「もっと強くなりたいんだよなぁ」
蒼真はデヴィルに負けた事を悔やんでいる。
自分が倒れた事でアイリまでデヴィルに殴られてしまった。
そしてパーティーメンバー全員が危機的状況に陥ってしまったのだ。
自分がもっと強ければ…… と思っているのは蒼真だけではないのだが。
車は山道に差し掛かり、それ程急でもない坂道を登っていく。
しばらく登っていくと【ランドロエの滝】と書かれた看板が立っている。
昼食を摂るのに丁度いい場所かもしれないので向かう事にする。
ランドロエの滝は看板からしばらく進んだ先に右に逸れる道があり、そこから2キロほど走ると巨大な滝が目の前に現れた。
滝からは山の麓へと川が流れ、壮大な景色を楽しむことができる。
ここもやはり絶景スポットだ。
弁当を広げる事を忘れてその景色に魅入ってしまう。
千尋達が立つ位置からおよそ50メートルもあるだろう高さから落ちる水は、さらに30メートルほど下の滝壺へと飲み込まれていく。
滝の横幅も広く、およそ20メートルといったところか。
物凄い水量が滝壺へと落ちていき、山に反響して轟音が辺りに響き渡っている。
千尋や蒼真も滝は見た事はあるが、これ程の規模のものを生で見るのは初めてだ。
その迫力に息を飲み込む。
リゼやミリー、アイリは滝を見るのが初めてだ。
ザウスやクイーストには大きな川もなかった為、これ程の水量を目にする事はこれまでなかった。
圧倒的な迫力に口を開けて水の流れを見つめている。
朱雀も滝を見るのは初めてだったらしく、興奮した様子で滝壺を覗き込んでいた。
滝壺では水飛沫が霧となり、七色の虹が弧を描いて向こう岸へと橋をかける。
轟音と迫力の中にある美しさに目を引かれ、暑い日差しにひんやりとした霧状の水飛沫が心地いい。
ひとしきり景色を楽しんだ後は弁当を食べるのだが、やはり絶景の中での食事は美味しい。
レイヒムの料理には比べられるようなものではないが、この広大な自然、そして美しい景色の中で食べる弁当は格別だ。
この景色を写真に残したい。
早速リルフォンのシャッターを切る。
リルフォンで写真を撮影する場合も、意識するだけで記録が可能だ。
自分の目がレンズとなる為、自分の写真を撮る事は出来ないが、写真のデータを転送する事も可能な為問題はない。
転送にはメール機能を利用して、写真の記憶データを添付して送るだけの簡単仕様。
みんなで入れ替わりながら写真を撮りまくった。
「そうだ、ゼスに着く前に言っておかないといけない事があったんだ。アイリ、君には今日をもってクリムゾンを抜けてもらうよ」
朱王が突然アイリの解雇を言い渡す。
「「「…… え?」」」
「ちょっと待て朱王さん。それは一体どういう事だ?」
アイリは口元を押さえて涙ぐみ、蒼真は訝しげに朱王を睨む。
「朱王、先に理由を言わないと駄目ですよ! 急にそんな事を言われたらアイリさんが可哀想です!」
「あー、そうだね。ゴメンねアイリ。ゼスに着いたらアイリはマネージャーの仕事に戻らないといけないだろう? 今のような旅を続けるにはアイリにはマネージャーから降りてもらわないといけなくてね」
ゼスは朱王の組織、クリムゾンの本拠地がある王国だ。
アイリはその幹部という重要な立場にある為、ゼスに戻れば仕事に戻るのは当然の事だろう。
ゼス王国は最大の王国の為マネージャーも三人いるが、幹部のマネージャーはアイリのみ。
緋咲宝石と緋咲美容のゼス王国内全店舗の運営管理がアイリの仕事だ。
朱王がアルテリアにアイリを連れて行った事で、現在は代理を立ててゼス王国内の運営管理を行なっている。
このままアイリを連れて旅を続ける事で、幹部マネージャーのポジションを空けておくわけにもいかないだろう。
「朱王様…… 私はクビという事ですか?」
「アイリはどうしたい? クリムゾンにいれば仕事をしなくてはいけないだろう? できれば蒼真君達と同じように客人としていてもらった方が話は簡単に済むんだけど」
「私は朱王様のお力になりたくてクリムゾンに入りました。幹部としてまだまだお仕えしたいと思っていますが…… できれば私は皆さんと一緒に旅を続けたいです!」
「よし、じゃあ今日から冒険者のアイリだね。今までクリムゾンをありがとう。これからは友人としてよろしくお願いするよ」
「朱王様……」
別れではないのに涙が出てくるアイリ。
「様付けも禁止ね」
朱王は笑顔でアイリに握手を求め、アイリも両手で朱王の手を握る。
昼食を終えて再び車で走り出し、しばらくは山道を走ることになる。
途中ですれ違う大型の竜車には大勢の人が乗っており、クイースト王国への観光客だろうと予想する。
遊園地や映画の日など是非とも楽しんで頂きたい。
時刻は十七時を過ぎた頃。
遠くにゼス王国が見えてくるが、朱王の運転する車は街道から外れて南へと回り込む。
回り込む際に見るゼス王国は周囲を全て石壁で覆われていて中が見えないが、朱王の説明ではこの石壁は直線距離で50キロほどもあるそうだ。
正方形に近い形で、内部に入れば田畑が広がっているという。
本来人が住む土地というのは魔力濃度の低い場所を開拓されて街などが作られている。
魔獣は魔力濃度の低い場所に住むことはなく、余程な理由がない限りは街に入ってくる事がない。
ゼス王国は周囲を石壁で覆っているという事は、魔力濃度の高い土地にも人々が住んでいるのだろうと考えられる。
東側の街道から真っ直ぐに行くと門があるのだが、朱王はどうやら東門からではなく南門から入ろうとしているようだ。
回り込んで一時間程で南門へと到着し、門番は朱王の車を見るなり審査する事なく中へと通してくれた。
門を抜けるとすぐに街が広がっていた。
王国の入り口には街があり、冒険者が多く住んでいるという。
ゼス王国に到着してすぐに泊まれるようにと宿場街にもなっており、多くの人々で賑わっている。
お土産を売る露店も多くあり、ミリーと朱雀がわいわいと騒いでいるが、時間も時間なだけにこの街は素通りする事になる。
朱王は二ヶ月に一度はゼスを訪れる為朱王の車も何度も目撃されているはずだが、やはりこの世界に一台だけの車は物珍しく道行く人々は誰もが驚愕の表情だ。
街の中を見回しながらゆっくりと進んで行くと建物が無くなり、今度は広大な田畑が広がっている。
所々に農村が建ち並んでいるが、王国の領地内であれば魔獣に襲われる心配もないのだろう。
道路も整備されており、とても快適に走る事ができる。
舗装はされていなくても綺麗に区画されている為直線道路となっており迷う事もない。
道なりに王都に向かって車を走らせる。
王都は他の国と同じように小高い丘の上にあり、市民街や周辺の田畑からも見える。
西門から真っ直ぐに王都までの道が延びているが、何故か朱王は途中で道を変えて右へと逸れて行く。
再び左へと曲がり、また王都に向かって車を進め、そのまま車を走らせる事十五分程で小さな滝になっている場所に辿り着いた。
滝の前には魔石が埋め込まれた門があり、朱王は車を門の横につけると魔石に向かって魔力球を飛ばす。
すると滝の奥側の岩壁と川の底がが持ち上がり、水の流れを塞き止めてその先にトンネルが現れた。
「す、すごいね…… 秘密基地みたい」
「どこに向かうのかと思ったらこんな仕掛けがあるとはな……」
「特に意味はないけどこれも時間をかけて作らせたんだよ。王都は広いから車だと目立っちゃうしねー」
もう充分目立っている朱王だが、その目立つという感覚が少しズレているのかもしれない。
朱王がする事なら大概のことは驚かなくなっている千尋や蒼真も、こんな大掛かりな仕掛けには興奮してしまう。
門を抜けてトンネルに入ると、今度はパッパッパッと灯りが点いていき、トンネルの道が照らし出される。
トンネル内は広く、縦横およそ6メートルもあるのではないだろうか。
トンネル内の道はゆるい勾配となっており、坂道を登りながら邸へと直通となっているそうだ。
このトンネルは北と南に延びており、今後ノーリス王国へ向かう際は北側のトンネルから出発するそうだ。
およそ十分程でトンネル内に機械的な物が現れた。
円形の金属の床と、縦穴が真上に向かって延びている。
金属の床に車を載せ、中央で停車。
前方にある魔石に魔力球を飛ばして装置を起動する。
機械音の後に床が持ち上がって縦穴を登り始め、ゆっくりと地上へ向けて上昇していく。
これは大型のエレベーターのようだ。
およそ二分程でエレベーターは停止し、朱王に促されて車を降りる。
どうやら倉庫のような広い建物に着いたようだ。
建物内もライトストーンが灯されており、内部も明るい。
千尋達が辺りを見回していると、車の前方にあるシャッターが徐々に開いていく。
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