器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

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クイースト王国編

097 アースガルドに娯楽を

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 数日前に時間は遡る。

 リルフォンを渡したクリムゾンメンバーを集めてテレビについて話し合う事にした朱王。

 千尋と蒼真、勇飛と朱王もテレビが大好きだ。
 映画やドラマ、アニメに至るまで物語は人の心を満たす。
 よし、クイースト王国にテレビ局を作ろう。
 それにはまずクリムゾンクイースト支部社長のテティに頑張ってもらわなければならない。
 そしてテティを幹部が手助けする。
 もうクイースト王国は聖騎士達だけでなく勇飛達やカミン達もいる。
 はっきり言って戦力的には充分だ。
 この際いろいろとクリムゾンの隊員達にも協力してもらおう。
 思いのほかテンクスも乗り気だし、ニシブなんかは自分も仲間に入れて欲しいとヴォッヂの元へ向かう。
 ヴォッヂに頼み込んでみるとあっさりとニシブの手伝いが認められた。
「また面白い事やるんだろ?」と何かを期待したような表情で送り出された。
 ニシブの部下である上位騎士達はヴォッヂが見てくれるとの事。

 こうして集められたクリムゾンのメンバー達。
 まずは映画を観てもらおう。

 朱王の邸で観てもよかったが、研究用にいつでも観られるようにとクリムゾンの訓練場会議室内にミスリルモニターを設置。
 新しく朱王が作ったものだ。
 映画の魔石は千尋達が既に保存された魔石からコピーを作成している。
 映画の上映が始まると、その映像に驚愕するのはアースガルド人誰もが同じ。

 クリムゾンメンバーでの上映会は休む暇なく行われ、ご飯を食べる事さえ忘れて観続けたそうだ。
 まだまだ映画のストックはあるが、日々研究していってほしいものだ。



 同時にミスリル板を大量に手配し、貴族街の広場に巨大なモニターを設置。
 クリムゾンメンバーに千尋達も協力して上映する為の機器を設置していく。
 同じように市民街の広場にも同じように巨大なミスリルモニターを設置する。
 王宮の北側は山となる為、東西と南の広場にモニターと機材を設置した。
 ちなみにこの機材の代金は全てクイースト王国が支払う。
 王宮内にも朱王の邸と同じサイズのモニターを設置済みだ。

 映像の送信にはリルフォンを改造した物を使用する事とし、クリムゾン訓練場に設置したモニターに接続した送信装置。
 朱王の魔石を複数組み込んでおり、人の魔力を使用せずに安い魔獣の魔石から魔力を取り出す事も可能にしてある。
 送信装置から映画の魔石を再生し、受信専用の四ヶ所のモニターで映像を映し出す。
 最初の放送は地球産の映画となるが、ここは異世界である為著作権その他諸々全て無視して構わない、はずだ。



 多くの人々の協力で、十日程で完成したこの設備。
 クイースト王国内各地で情報を出して映画の日を発表した。
 まだしばらくの間はテレビ局として活動はできない。
 映画のストックにも限りがある為、週末を放送の日とした。
 売れ行きが期待できる商店では休みにはならないだろうが、年中無休の店も多くあるので問題ないだろう。



 週末、まだ日が沈みきっていない十九時。

 モニターの前には溢れんばかりの人集り。
 この週の最後の仕事を終えて集まった人々。

 広場の周りには多くの露店が立ち並び、食べ物や飲み物が売られている。
 全員立ち見となるが、モニターを高い位置に設置したので問題ないだろう。

 まずは放送の第一回目はクイースト王国国王に挨拶をしてもらう。
 各地でモニターに映し出されたシダー国王。

「我が国の国民達よ。皆の協力もあってクイースト王国もこれまでにない発展を遂げている。その働きに感謝する。そして今日この時より、週末を映画の日とする。これは日頃の感謝の意を込めて皆にも楽しんでもらいたい」

 騒めく広場の人々。
 初めて観る映像に驚愕と戸惑いを覚えているようだ。
 映画などと言われても何の事だかわからない。

「そしてこのクイースト王国に映画の日を設けてくれた緋咲グループ、クリムゾンのメンバーに心から感謝を。我が国で絶望に落ちた子供達を救い、さらにはこの国に強さと誇り、娯楽を与えてくれた事を嬉しく思う。ありがとう」

 シダー国王は挨拶を終えると視点が変わり、画面に映し出されたのはテティとイーユ。

「こんばんは! クリムゾン緋咲社長のテティと~っ!」

「クリムゾン緋咲マネージャーのイーユですっ! よろしくお願いします!」

「今日から毎週週末には二日続けて映画の日となりますが、皆さん映画って知らないですよねぇ? 知らなくても大丈夫です。今日観るのが映画ですからっ!」

「テ、テティさん!? そんないいかげんな説明でいいんですか!? えーとですね、ここアースガルドには迷い人と呼ばれる異世界人がいるのはご存知と思います。我々クリムゾンの神もその迷い人なんです!」

「え…… 神? 神って紹介しちゃうの? 名前出し厳禁? もういいんじゃない? あっ、ダメかぁ。じゃあ神で!」

 テティのいいかげんなコメントは陰でやってほしいものだが、大勢の国民の前で当たり前のように映しだされている。

「つ、続けますね! その迷い人であるクリムゾンの神が異世界の物語を観る事ができる装置を開発したんです!」

「そう! 今から映し出される映画は、我々の知らない異世界の物語! 今夜私達は禁断の扉を開く事になるのです!」

「それでは上映開始しまーす!!」

 いろいろと問題ありだが、拍手喝采、盛り上がっているので良しとしよう。
 騒めく広場も上映が始まると静まり返る。



 二時間の映画が放送され、その世界観、迫力、ストーリーに感動し、涙を流す者も多くいたようだ。

 映画の上映は大盛況に終わった。

 この日、クイースト王国では革命が起こったと言える程の衝撃を人々に与えた。
 映画を観ていたのは貴族街の人々も同じ。
 クリムゾンテレビ局のスポンサーになりたいという貴族が多く現れ、今後の活動に協力してくれるそうだ。
 より良い国づくりの為、楽しい娯楽の為、貴族のみならず市民達とも協力していってほしいものだ。

 その夜は酒場も大いに盛り上がり、夜が明けるまで呑んでいる者も多くいたようだ。





 翌日も大盛況。
 初日よりも多くの人々が集まったようだ。
 
「こんばんは! クリムゾン緋咲の施設長ポニパです!」

「こんばんは。クリムゾンクイースト部隊隊長テンクスです。お集まり頂きありがとうございます」

 この日はテンクスも参加。
 今後はクリムゾンメンバーのみならず、聖騎士達にも上映前に出てもらおうと考えている。

「皆さん、昨夜の映画はどうでしたでしょうか? 面白かった、楽しかったと言う人はポニパコールをお願いします!!」

 クイースト王国の全ての広場で「「ポニパ!! ポニパ!!」」と言う声が響き渡る。
 その声にポニパも満足そうな笑顔を見せる。
 ポニパが映画を作ったわけでもないのに何をしてるのか。

「えー、ポニパコールはもういいです。今オレ達…… じゃない、私達は娯楽の発信源としてテレビ局を設立しました。今は映画を週末のみ放映としていますが、いずれはテレビ局で作った番組を放映したいと考えています。その為には皆さんの協力も必要です。良い番組を放映したいと思いますので皆さんご協力お願いします」

「私達が番組を作ればその分放映する回数も増えますよ! 映画ではないですけどクイースト王国のこんなところ、あんなところをいろいろとリポートしちゃいます! あ、まだ案だけでした!」

 何故こんなグダグダなのか。
 しっかりと話や説明ができるメンバーと、ボケ担当みたいなメンバーとが組み合わせられているのかもしれない。

 それでも言いたい事は王国中に一気に伝えられる。
 このミスリルモニターを使って映画の日だけでなく、他の日にも娯楽として番組を作っていこうと言う意思は伝わったはずだ。
 朱王が言うにはテレビとはコマーシャルあってのもの。
 貴族のスポンサー達の紹介や、商人のお店などの紹介。
 最初はコマーシャルから作成して放送の良さを知ってもらい、国を挙げてこの企画を成功させようではないか。

 ポニパとテンクスの話も終わり、映画の上映が開始する。



 この日も上映が終わると、昨日に引き続きもの凄い盛り上がりを見せた。

 翌日も休みの為、朝まで酒場が盛り上がる。
 露店も商品が売り切れる程の大盛況。
 今後も週の仕事が終わればこうして楽しい二日間が味わえると思えば仕事にも意欲が湧く。
 また来週も頑張ろうと思う国民達。



 クリムゾン各店舗には貴族街、市民街問わず人々が押し寄せた。
 テレビ局で働きたいという者も多く、今後面接等が必要となるだろう。
 まずは各企業の紹介をする番組を作りたい。
 商人達を集めて説明会を行い、抽選で第一回企業紹介、および店舗の紹介としよう。

 クリムゾンの宝石店や美容院に人が殺到しても説明ができない。
 リルフォンで連絡を取り合い、説明会を各広場で十八時から行う事とした。
 説明会には幹部達が各所に散って行う。

 各企業も自分達の商会や店舗をもっと人々に知ってほしいと考えている。
 認知度が高ければその分人は集まるのだし当然の考えだろう。
 客が集まり売り上げが大幅に伸びると考えれば、番組を作る為の資金の援助も厭わない。
 それに自分達があの大きなモニターに映し出されると考えれば是非とも参加したい。
 各所で抽選が行われ、四つの企業のコマーシャル作成が決定した。
 決まったからといってすぐに放映されるわけではないが、撮影の日取りや場所、番組の流れなども考えながら今後作り込んでいくだろう。



 毎日クタクタになる程に仕事漬けの幹部達だが、このテレビ局の仕事を絶対に成功させたい。
 その意欲が自分を仕事へと押し進める。
 嫌々やるわけではない、自分から楽しいと思ってする仕事だ。
 毎日が充実した日々。
 いくら忙しくてもやりがいのある仕事がある事は幸せだと感じるもの。
 貴族達の協力もあって、次々と仕事が片付いてはまた新たな仕事が舞い込んでくるといった状況だ。
 貴族達はこのテレビ局で儲けようなどとは考えていない。

【この世界に娯楽を】

 テレビ局の在り方は貴族にとって最高のコンセプトの元にある。
 退屈を感じる事の多いこの世界で、協力しない手はないだろう。

 テレビ局はこのまま軌道に乗れそうだし、安心して任せられる。
 まずはクイースト王国からだが、このまま世界へと広げていこう。
 夢の膨らむ仕事となりそうだ。
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