器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

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クイースト王国編

092 魔法研究所

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 魔法研究所。
 クイースト王国の最重要機密があるその場所に、観光と称して向かう一団がある。
 それはもちろん千尋達パーティー、そして帰りそびれた勇飛パーティー。

 よくクイースト国王が許可したものだと思うが、十人のうち五人が地球人。
 情報を漏らしてしまってでも新たな知識が欲しい。
 研究員達の貪欲な知識欲が国王をも動かした。

 千尋達の目的は飛行装備の実験だ。
 その為に各種魔石を取り寄せてもらっている。
 素材を車に積んで研究所へと向かう。



 出迎えてくれた研究員はいきなり度肝を抜かれる。
 まさかこんな巨大な金属の塊が自走してくるとは思いもよらなかったのだろう。
 平静を保ちつつも心臓はバクバクな研究員達。
 今すぐにでも車に飛びつきたい気分だ。

「ははははじめましてぇ! 研究所所長のカーターであります。今日はよろしくお願いにするであります!」

 緊張しているのか変な喋り方のカーター。

「やぁ、私は朱王だ。今日は少しお邪魔させてもらうよ」

 余裕の朱王に気圧されるカーターはビクビクと怯えている。

 車を研究所の中へと通され、広いスペースに停めさせてもらう。
 別に他の人には動かせないので自由に見て構わないと伝えると、喜びのあまり叫ぶ研究員もいた。
 それを見てちょっと気持ち悪いと思った。

 とりあえず飛行装備を作らないと実験も何もできない。
 素材を持って研究所内へと運ぶ。

 実はすでに乾燥させた素材。
 魔法で強制的になめし加工をした素材だ。
 皮から脂や肉を刮ぎ落とし、千尋の魔法の洗剤を使用してリゼがしっかりと洗いあげる。
 次に綺麗な水に朱王の持っていた薬品と先程洗った素材を入れる。
 全て空気中で魔法で行っているのだが。
 下級魔法陣を発動して水に圧力をかける。
 リゼが疲れたところで千尋、蒼真、アイリ、朱王と交代していき、半ば強引な鞣し加工は終了した。
 そして千尋が地属性魔法で圧力をかけ、蒼真が風を送り込み、朱王が熱で乾燥させる。
 そうして完成した素材。
 かなり強引に鞣し加工をしたのだが、さすがは難易度10魔獣の素材だ。
 なかなか良い素材となった。

 今日はこの素材を飛行装備に加工する。
 開発室を借りて朱王が飛行装備の加工をして見せる。
 今後は自分達も作るのでしっかりと覚えよう。
 まずは図面も描いてきたのでそれに沿って素材を切り出した。
 橈骨となる部分を折り畳んで形を作り込んでいく。
 折り込んで形を作る部分をまずは低めの温度でミスリル工具を当ててアイロンがけ。
 魔獣の革は熱を加えて加圧した状態で強化魔法をかけるとその形に変形する。
 そして強化を解くと普段の革の柔らかさとなる。
 また、強化をしない状態で高温の工具を当てると熱溶着する事ができる。
 折り込んだ革に熱を加えて形をつけていく。
 流線形状にする為に型を使用して整えていく。
 橈骨部分が完成したら次に指骨部分。
 細く、長く、膨らみをもたせるように加工する。
 そして橈骨の部分として折り込んだパーツに指骨部分を角度をつけて溶着していく。
 骨組み部分が完成したが、魔力を込められていないと柔らかいただの革。
 強制的に鞣した革だがそれほど悪くはなさそうだ。
 骨組み部分に今度は切り出した飛膜を溶着していく。
 飛膜もしっかりと柔らかく仕上がっており、色付けすればそのまま使えそう。

 千尋も残った素材で同じように切り出していく。
 そして折り込んで熱変形加工、熱溶着とほぼ完璧に作り上げていく。
 千尋の器用さは知っていたが、作る対象が何であれ関係はなさそうだ。



 二枚の飛行装備が完成。
 朱王はこれだけでも飛ぶ事が出来るが、千尋と蒼真はどうだろうか。
 朱王が飛び方を簡単に説明する。
 まず飛行装備に魔力を流し込んで強化する。
 腰に巻いた革が持ち上がり、脇腹から肩甲骨下までを固定する形に変形する。
 骨組みが広がり、肩甲骨下から翼が生えたような形になる。
 このままだと両手を広げた程度の小さな羽が生えただけ。
 そこからはイメージが必要との事だが、装備の形状を変形させる事になる。
 骨組み部分を延長するようにイメージし、引っ張られるように飛膜も伸びる。
 魔力強化した魔獣の素材は、ある程度意のままに操る事ができる。
 朱王の真似をして千尋は当然のように翼を拡張。
 蒼真もイメージを固めてあったのか、いとも簡単に翼を広げてみせる。
 これで飛行装備の変形は終了。
 あとは魔法で飛ぶだけだ。
 重力操作グラビティで質量を操作。
 物理操作グランドで翼の操作。
 そして風を操って翼で受ける事で空を飛ぶ事ができる。
 しかしこの三つを同時に発動、コントロールしながら戦闘するのは至難の技。
 戦闘では他の魔法も使用しなければならない為、かなりの集中力とイメージ力が必要になる。
 朱王が羽ばたいて空へと舞い上がる。
 同じように千尋と蒼真も舞い上がる。
 戦闘ではない為、三つの魔法を同時に発動するくらいなら二人ともできる。
 上空へと飛び上がり、初の飛行魔法に大興奮する二人。
 ただ飛ぶだけなのにこの初めての空中への浮遊感はたまらなく気持ちいい。
 重力操作も物理操作もそれほど魔力は消費しない為、高度が落ちてきたら風魔法で体を浮かせればいつまででも飛んでいられそう。
 飛び慣れてきたところで急旋回などを試してみるが難しい。
 風の捉え方と物理操作でできるそうだが、両方のバランスを取るのが難しい。

 ひたすら練習する二人を見守るリゼ達、勇飛達、そして研究員達。
 研究員達は口を開けて驚く。
 まさか空を飛ぶ装備を魔獣の素材のみで作ってしまうとは思いもしなかった。
 リゼ達は「ズルーい! 私も飛びたーい!」と叫んでいるが、たぶん飛ぶ事は出来ないだろう。

 叫んでいるのに気付いた朱王が舞い降りる。
 漆黒の悪魔が降りてきたような様相の朱王だが。

「あの二人はまぁあれでも飛べるんだけどね、もっと飛びやすいように改良しようか」

 千尋と蒼真を連れ戻しに向かう朱王。
 捕まるまいと逃げた二人はあっさりと捕まった。
 まだまだ朱王のようには飛べないのだ。



「よし、じゃあ魔石を組み込む為のミスリルを作るよ! 千尋君の出番だ!」

「おー! 任せてよ!」

 飛行装備はそのままでも使用が可能だが、今回はあえてベルトをつける事にする。
 ベルトのバックル部分に魔石を組み込んで操作を容易にするのが目的だ。
 魔石も大きさや形で機能の仕方がだいぶ変わってくる。
 同じ用途の魔石であってもその特性に違いが出てくる為、組み合わせの良い物を選ぶ必要がある。
 今回用意してもらったのは魔力の篭っていない魔石で、重力操作の魔石、物理操作の魔石、そして風の魔石を用意してもらった。
 この三つを組み合わせれば完成と言いたいところだが、飛行にはイメージが重要だ。
 その部分は朱王の魔石で補う。
 朱王の魔石で操作のイメージを形作り、そのイメージに応じた魔力の配分で魔石が発動。
 曲がろうと思えば曲がり、加速しようと思えば加速する。
 イメージ通りに飛び回れるような制御機能を朱王の魔石でコントロールする。
 はっきり言えば朱王の魔石があればどの組み合わせでも問題なく飛べる。
 だが、魔石の組み合わせは燃費につながる。
 燃費は戦闘においても重要だ。

 ミスリルの加工は工具もあるので簡単だ。
 魔石を埋める為の四つの穴を加工する。
 細工は要らないだろうと思うのだが、千尋も朱王も何故か模様をつけたがる。
 実験用なのに無駄にカッコいいバックルが完成。
 ベルトは余っているワイバーンの骨組み部分に使った革を折り畳んで溶着。

 朱王が魔石を作り出してイメージを複雑に込めていく。
 使用者の意思と翼の連動、翼の形状変化から各魔石への魔力制御などを組み込む。
 念の為、魔力が尽きたり気を失った際の安全装置として、自動着陸機能も追加した。
 千尋としては朱王の魔石の汎用性が羨ましい。
 朱王は逆に千尋の魔石の能力を羨ましがっているのだが。
 朱王の魔石を一つずつセットし、リゼとミリーが飛行装備を装着して三つの魔石をセット。

 朱王のイメージが完璧に魔石をコントロールする。
 いとも簡単に変形した飛行装備。
 イメージのまま舞い上がり、そのまま空高く飛翔する。
 リゼとミリーは同じように空高く舞う。
 恐怖がないかと問われれば怖いなんてものではない。
 だがそれ以上に好奇心とスリル、興奮がそこにはあった。
 飛行を楽しむ二人をよそに、朱王は魔石の組み合わせを考える。
 十五個ずつ集めてもらったこの魔石。
 実はかなりの高額の魔石だ。
 重力操作の魔石が特に高く、この小さな一粒が6,000万リラを超えるだろう。
 朱王の車にも使用しているが、車に使用した魔石の値段は3億リラだった。
 風の魔石が最も安く、一粒5万リラ。
 それでも魔力の篭っていない魔石は珍しく、ただの風の魔石よりは遥かに高いのだ。
 そして物理操作の魔石。
 一粒で200万リラといったところか。
 操作する範囲が飛行装備であればこの値段。
 もっと大きな物を操作するとなれば高額の魔石となる。

 一つ一つ組み合わせを変えていき、燃費のいい組み合わせを複数作らなければならない。
 その回数を考えると絶望的だ。
 それならばと物理操作と重力操作の魔石の組み合わせだけ考える事にした。
 風の魔石は今こうして飛び回っている彼らに選んで貰おう。
 朱王が頑張っている間、他のメンバーは飛行装備を楽しんでいる。
 待っている間は研究員の質問に答える元地球人五人。



 全て選び終わってグッタリとする朱王。
 朱王の選んだ組み合わせに良さそうな風の魔石を千尋と蒼真が選んでくれたので一安心。
 組み合わせごとに袋に小分けにして持ち帰る事にする。
 お代はどうしようか。
 とりあえず魔石を組んだバックルと飛行装備を研究員に渡す。

「これを私共が頂けるんですか!? で、では魔石との交換という事でもよろしいでしょうか!?」

 まさか魔石がただで手に入るとは。
 全部で9億以上もするというのに太っ腹だと思う。
 が、研究員としては人間が空を飛ぶ装備が9億で買えるなら安いと思っている。
 この装備を数十億出してでも買いたいという貴族だっているだろう。
 売りはしないがこの研究所の、クイースト王国の宝となってもおかしくないとさえ思える。
 まだ着色されていないこの革に着色をし、立派な装備として一つ国王様に献上しよう。
 そしたら研究費が~などと考えているが、元々千尋達は国王の紹介で見学に来ている。
 献上しても研究費が増えることはないだろう。



 疲れ果てた朱王は助手席に、帰りは千尋が運転して帰る事にした。
 この日は全員が飛行装備に興奮して映画を見ずに語り合う。
 どんな色にするかも悩むところ。
 誰もが自分の飛行装備に想像を膨らませていた。

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