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クイースト王国編
085 暇なのでキマイラ討伐
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千尋と朱王が聖剣改造や魔剣作りをしている間、蒼真達は自由行動とする。
リゼは意外にも大魔導師リアスのところで勉強するとの事。
蒼真はクエストが受けたいとの事で、ミリーとアイリが同行する。
役所で受注したクエストはもちろん難易度10。
クエスト内容:キマイラ討伐
場所:クイースト王国北部山中
報酬:一体につき4,000,000リラ
注意事項:火を吐く
報告手段:魔石を回収
難易度:10
以前クイースト王国の市民街を襲ったキマイラの討伐だ。
キマイラは山の中に多く住み着いており、他の魔獣や通りがかった人を襲い食うという。
普段食料となるのはカトブレパス。
カトブレパスも成長して大きくなると難易度10の巨大な魔獣となるのだが、キマイラは怯むことなく襲い掛かるという。
クエストを受注するとやはり役所内が騒然となった。
三人の男女だけで難易度10の魔獣討伐など、普通であれば役所側としても断っている。
しかしこれまでの経歴が、難易度10のクエストを短期間に複数達成している事から断る理由がない。
受付の女性も一度所長に確認し、ようやくクエストの受注が承諾された。
三人分の弁当とマカルォンの詰め合わせを購入して北部へと向かう。
山の中にいるという事で、少し遠いが徒歩での冒険だ。
市民街を抜けて森へと入り、山道を登って行く。
しばらく登っていくと山道も終わり、いよいよこの先は獣道となる。
ところどころに大きな足跡が付いており、足跡に見合った魔獣がいる事が予想される。
「臭うな……」
蒼真が眉間に皺を寄せて呟く。
「確かに獣のような臭いがプンプンします」
「魔獣の糞尿の臭いがくっさいですねー」
アイリとミリーも口と鼻を押さえながら答える。
「この森燃やしたい……」
ボソっと危険な事を言い出す蒼真。
さすがに森林火災などはやめて頂きたい。
『蒼真の為に臭いを飛ばしてあげるよ!』
ランがクルリと回転しながら、風の魔法で蒼真を中心に風の向きを変える。
これで風上が常に蒼真となり、周りからの臭いは蒼真には注がれない。
代わりに蒼真が使っている魔法の香水が森林をいい香りで満たす。
いい香りで包まれて蒼真もとても嬉しそうだ。
蒼真の表情を見てランも大満足。
そのまま少し獣道を草木を掻き分けながら登って行くと、大きな魔獣に遭遇する。
遭遇どころか横にも背後にも複数の魔獣。
獅子の顔に山羊の角が生えた巨大な魔獣【キマイラ】の群れに囲まれていた。
前方に四体、右に一体、左に二体、背後に五体。総数十二体の群れだ。
個体差があり、鬣の生えたキマイラと生えてないキマイラは雄と雌の違いだろうか。
体の大きさや、頭から生えた山羊の角の大きさも違う。
「いつの間にか囲まれてるな。慎重に進んで来たのに何故だろう」
「…… 蒼真さんの香水の香りが魔獣をおびき寄せたとしか思えませんけど」
『おや?』とランは首を傾げて兼元に戻った。
自分の所為だと気付いたらしい。
「まぁいい。探す手間が省けた」
「よーっし! やっちゃいますか!!」
「一人四体ずつですね!」
蒼真は風を纏い、前方にいるキマイラA (わかりやすいように)の真横に一瞬で詰め寄る。
反応できないキマイラAの首筋目掛けて逆風に斬り上げる。
ギリギリで蒼真の刃に気付いたキマイラAは真横に飛び退り、首筋に深い傷を受けつつも致命傷を避ける。
その隣にいたキマイラBによる右脚爪の攻撃が振り下ろされ、蒼真は振り上げた刀で爪を受け流す。
地面に打ち付けられた右脚に向けて刀を横薙ぎに払い、同時に風刃を放ってキマイラBの右脚首から斬り落とした。
悲鳴をあげて悶絶するキマイラB。
首筋を斬られたキマイラAと、その奥にいたキマイラCが同時に蒼真に襲い掛かる。
頭上から飛び掛かるキマイラAに対し、蒼真は周囲の空気を収縮させて軌道上に添える。
飛び掛かっていたキマイラAは回避する事ができずに圧縮空気に触れ、破裂音と共に弾き飛ばされる。
先に仕掛けていたキマイラAが弾き飛ばされた事で、奥にいたキマイラCが頭上を超えていく仲間を目で追い隙を見せる。
上方を向いたキマイラC目掛けて左袈裟に風刃を放って首を刎ねる。
ゴトリと落ちたキマイラCの頭は、キョロキョロと目を泳がせながら最後には白目を剥いて絶命した。
すぐ横で右脚を持ち上げて唸るキマイラB。
蒼真は一瞬で顎下に潜り込んで逆風に刀を振り上げる。
その奥にいたキマイラDに向かって駆け出し、蒼真がいた場所にはキマイラBの大量の血が流れ落ちる。
キマイラDは向かってくる蒼真に炎のブレスを吐き出して目眩し。
蒼真が風の防壁で払い除けるとキマイラDはそこにはいない。
後方から駆けてくるキマイラAに向き直る蒼真はまだキマイラDの位置が補足できない。
キマイラAも炎のブレスを吐き出し、風刃で相殺した瞬間に頭上から巨大な影。
蒼真の上に飛び降りてくるキマイラD。
真横に回避した蒼真にキマイラAの右前脚の爪が襲いかかる。
キマイラAとD。
こちらが弱い人間だと油断していたのだろう。
仲間があっさりと殺された事で、油断する事なく連携を取り出した。
どちらも鬣があり、山羊の角も体も先に倒したキマイラよりも大きい。
一方でミリーは右手後方のキマイラの群れへと歩み寄る。
巨大なキマイラは自分達を恐れる事なく歩み寄ろうとする生物を見ることなどこれまでなかった。
警戒しつつミリーの出方を見る。
キマイラEの足元に立つミリー。
口をポカンと開き、構える事なくキマイラEと視線を合わせるミリーは何を考えているのか。
隙だらけのミリーに口を開いて咬みつこうと頭を突き出す。
ミリーの胴体に咬みつき咀嚼した。
はずだった。
眉間を叩き潰され、目玉が飛び出した状態で絶命するキマイラE。
噛みつかれる瞬間にバックステップをし、口が閉じた瞬間にメイスを叩き込んだミリー。
一瞬で仲間が殺された事に驚き、さらに警戒を強める他のキマイラ。
唸り声をあげて意思の疎通をはかる。
ミリーの周囲のを囲み、三体のキマイラが同時に飛び掛かる。
ミリーはミルニルを地面に打ち付けて爆破。
目眩しの粉塵が舞い上がると同時に飛び上がり、ミリーのいた場所に右前脚を突き出したキマイラFの頭を叩き潰す。
キマイラFの頭に乗るミリーに向かって、キマイラGから炎のブレスが吐き出される。
ミリーはホムラの炎をミルニルから放出してブレスを相殺。
キマイラHがその隙にミリーに詰め寄り、咬みつこうと牙を剥き出して飛び掛かる。
飛び上がって回避したミリーにキマイラHの尻尾が襲い掛かる。
尻尾についた蛇のような口がミリーの首筋を襲う。
飛び上がる瞬間に振り上げている両手。
向かって来た尻尾にメイスを振り下ろして爆破。
着地する瞬間にキマイラGの左前脚が爪を剥き出して横薙ぎに向かってくる。
咄嗟にミルニルで受けて弾き飛ばされる。
キマイラの膂力は尋常ではなく、物凄い速度で吹っ飛ばされるミリー。
飛ばされた先にある大木に叩きつけられる瞬間に体を翻してメイスで爆破。
直径1メートル程の大木を叩き折る。
バキバキと周りの枝を折りながら倒れていく大木。
倒れていく方向には蒼真がいるが大丈夫だろうか。
倒れていく大木を眺めていたミリーの左横から襲いかかるキマイラH。
ミリーはメイスを振りかぶって爆破で受ける。
キマイラHの鬣と前脚の爪からは炎があがり、ミリーの爆破を相殺する。
ここまできて気付いたが、鬣のあるキマイラは強い。
頭も良く炎も操る事から、キマイラの中でも上位の個体となるのだろう。
キマイラHの爆破して無くなったはずの尻尾も炎を放ち、新たな蛇のような尻尾が生えている。
ミリーが観察していると頭上から巨大な影。
キマイラGが飛びかかってくる。
キマイラGにも鬣があり、炎を纏ってブレスを吐き出す。
「ちょっと真面目にやった方が良いですかね」
ポツリと呟いたミリーは爆炎でブレスを打ち消す。
飛び降りてくるキマイラGを前方へ回避し、振り返る瞬間にメイスを横に薙いで角をへし折る。
グオォォ!! と呻き声をあげてミリーから距離をとる。
キマイラHも右の炎の爪をミリーに振り下ろす。
メイスを振り上げ、爆炎が炎の爪を弾き飛ばす。
頭目掛けてメイスを振り上げると飛び退いて距離をとる。
そしてアイリ。
左後方のキマイラの群れに向かう。
「イザナギ、イザナミ。行きますよ」
強化したアイリからは紫電が迸り、足元に顕現する雷狼はアイリの攻撃を待つ。
膝を曲げ、グッと力を溜め込んでその場から姿を消す。
直後に最奥にいたキマイラIの背後から、右のクラウでの左逆袈裟に斬り上げるアイリ。
同時にイザナギがキマイラIへと飛び掛かり、斬撃と雷撃で瞬殺。
キマイラIはアイリに気付く事なく絶命した。
振り返った他の三体のキマイラ。
一体の鬣のあるキマイラが咆哮をあげ、キマイラJとKが同時に飛びかかる。
キマイラKに向けてソラスを振るい、イザナミを放って雷撃による一撃がダメージと麻痺を与える。
アイリは体から放電して加速し、高速の斬撃でキマイラJの全身を斬り裂く。
全身から血を流して地に伏すキマイラJ。
その隙にキマイラKにとどめを刺す。
立ち上がるキマイラJは、傷口からボウボウと炎をあげて傷を塞ぐ。
アイリのクラウ・ソラスからチャージを終えて出てきた雷狼。
飛び掛かるキマイラJを、クラウによる右袈裟斬りで一撃の下に斬り伏せる。
その直後に鬣のあるキマイラLがアイリの右側から炎の左爪で横に薙ぐ。
咄嗟にクラウで受けたアイリは、イザナギを放った事で強化が低下している。
重力操作を駆使してその威力を逃し、体から放電して後方に逸らす事で衝撃を軽減。
ダメージを与えられなかった事に気付いたキマイラLは、追い討ちに炎のブレスを吐き出す。
再び体から放電して真横に回避するアイリ。
唸るキマイラLと身構えるアイリ。
クラウからチャージを済ませたイザナギが姿を現わす。
基本的に手を抜く事のないアイリは、ここで下級魔方陣サンダーを発動。
イザナギとイザナミが一回り大きくなる。
咆哮の直後に息を吸い込んで炎のブレスを再び吐き出すキマイラL。
バチッと放電すると共にキマイラLの真横に移動したアイリは胴体目掛けて突きを放つ。
体を翻して躱したキマイラL。
アイリに咬みつこうと牙を剥く。
左のソラスを横に薙ぎ、キマイラLの口内へとイザナミを放つ。
強化された爆発の如き雷撃が全身を駆け巡り、身動きの取れないキマイラL。
飛び上がったアイリは眉間にクラウを振り下ろし、強化されたイザナギを介した斬撃は頭部を二つに斬り裂いた。
自分の受け持ち分の四体を倒したアイリ。
蒼真とミリーを見るとまだ戦闘中だ。
あれ程の強さを持つ二人が何故かまだ終わらない。
見ていると理由はすぐにわかった。
蒼真は聖騎士達との訓練で使用する程度の魔力で戦っている。
それも精霊を介しての魔法で通常の魔法と同程度の出力だ。
精霊魔法は通常魔法よりも遥かに高い威力を誇る。
それを通常の魔法と同程度まで出力を下げるのは難しい。
ほとんど魔力を消費する事なく、鬣のあるキマイラ二体と互角の戦いをする蒼真はやはり異常といえる。
ミリーはポテポテと歩きながらキマイラ二体の攻撃を全て捌く。
どちらも鬣のあるキマイラ。
その強さはアイリもたった今知った確かなものだ。
攻撃を仕掛けるキマイラが防御をするミリーに圧されて後退を強いられる。
やはりミリーの強さも異常だ。
アイリがしばらく二人の戦闘を見ていると、アイリの戦闘が終わった事に気付いたようだ。
どちらも一瞬で二体のキマイラを倒す。
全てのキマイラを魔石に還して回収する。
そして残ったのは斬り落とされたキマイラの前脚と、根元から叩き折られた巨大な角。
地属性魔法を流しても角と爪と毛皮はそのまま残るようだ。
何か素材に使えるかもしれないので持って帰る事にする。
お昼も過ぎている事だし弁当を食べる。
例に漏れず今日も洗浄魔法で辺りを浄化し、手を洗って弁当とマカルォンを広げる。
「ずっと考えてましたけど私は赤と黄色が食べたいです!」
どうやらミリーがキマイラを見ながら考えていたのは、今日食べるマカルォンの色だったようだ。
弁当とおやつを食べて帰る事にした。
役所に戻って報告をすると受付の女性も飛び上がり、所長を呼んでクエスト達成とされた。
以前市民街を襲ったキマイラの数は七体。
聖騎士と大魔導師が、およそ二百名の団員を率いた総攻撃で倒した魔獣。
それをわずか三人で十二体を討伐。
受付の女性は震えあがり、所長も声を裏返しながら受け答えしていた。
そして以前絡んできたコモンパーティーはこの日も役所にいた。
蒼真達が難易度10をその日のうちに達成してきた事に驚き、二度と絡むまいと心に誓った。
キマイラ十二体討伐で報酬もたくさん。
総額48,000,000リラとなり、三等分して全額を貯金とした。
「明日も行くか」
残る難易度10のクエストは二つ。
そのうちの一つ、グレンデル討伐クエストだ。
「明日はプールがいいです! ミリーさんはどうですか?」
「私もプールに入りたいです!」
「じゃあ明後日にしよう」
明日はプールで遊ぶ事にした。
帰りに緋咲宝石店に寄ってテティを誘うミリーとアイリだった。
リゼは意外にも大魔導師リアスのところで勉強するとの事。
蒼真はクエストが受けたいとの事で、ミリーとアイリが同行する。
役所で受注したクエストはもちろん難易度10。
クエスト内容:キマイラ討伐
場所:クイースト王国北部山中
報酬:一体につき4,000,000リラ
注意事項:火を吐く
報告手段:魔石を回収
難易度:10
以前クイースト王国の市民街を襲ったキマイラの討伐だ。
キマイラは山の中に多く住み着いており、他の魔獣や通りがかった人を襲い食うという。
普段食料となるのはカトブレパス。
カトブレパスも成長して大きくなると難易度10の巨大な魔獣となるのだが、キマイラは怯むことなく襲い掛かるという。
クエストを受注するとやはり役所内が騒然となった。
三人の男女だけで難易度10の魔獣討伐など、普通であれば役所側としても断っている。
しかしこれまでの経歴が、難易度10のクエストを短期間に複数達成している事から断る理由がない。
受付の女性も一度所長に確認し、ようやくクエストの受注が承諾された。
三人分の弁当とマカルォンの詰め合わせを購入して北部へと向かう。
山の中にいるという事で、少し遠いが徒歩での冒険だ。
市民街を抜けて森へと入り、山道を登って行く。
しばらく登っていくと山道も終わり、いよいよこの先は獣道となる。
ところどころに大きな足跡が付いており、足跡に見合った魔獣がいる事が予想される。
「臭うな……」
蒼真が眉間に皺を寄せて呟く。
「確かに獣のような臭いがプンプンします」
「魔獣の糞尿の臭いがくっさいですねー」
アイリとミリーも口と鼻を押さえながら答える。
「この森燃やしたい……」
ボソっと危険な事を言い出す蒼真。
さすがに森林火災などはやめて頂きたい。
『蒼真の為に臭いを飛ばしてあげるよ!』
ランがクルリと回転しながら、風の魔法で蒼真を中心に風の向きを変える。
これで風上が常に蒼真となり、周りからの臭いは蒼真には注がれない。
代わりに蒼真が使っている魔法の香水が森林をいい香りで満たす。
いい香りで包まれて蒼真もとても嬉しそうだ。
蒼真の表情を見てランも大満足。
そのまま少し獣道を草木を掻き分けながら登って行くと、大きな魔獣に遭遇する。
遭遇どころか横にも背後にも複数の魔獣。
獅子の顔に山羊の角が生えた巨大な魔獣【キマイラ】の群れに囲まれていた。
前方に四体、右に一体、左に二体、背後に五体。総数十二体の群れだ。
個体差があり、鬣の生えたキマイラと生えてないキマイラは雄と雌の違いだろうか。
体の大きさや、頭から生えた山羊の角の大きさも違う。
「いつの間にか囲まれてるな。慎重に進んで来たのに何故だろう」
「…… 蒼真さんの香水の香りが魔獣をおびき寄せたとしか思えませんけど」
『おや?』とランは首を傾げて兼元に戻った。
自分の所為だと気付いたらしい。
「まぁいい。探す手間が省けた」
「よーっし! やっちゃいますか!!」
「一人四体ずつですね!」
蒼真は風を纏い、前方にいるキマイラA (わかりやすいように)の真横に一瞬で詰め寄る。
反応できないキマイラAの首筋目掛けて逆風に斬り上げる。
ギリギリで蒼真の刃に気付いたキマイラAは真横に飛び退り、首筋に深い傷を受けつつも致命傷を避ける。
その隣にいたキマイラBによる右脚爪の攻撃が振り下ろされ、蒼真は振り上げた刀で爪を受け流す。
地面に打ち付けられた右脚に向けて刀を横薙ぎに払い、同時に風刃を放ってキマイラBの右脚首から斬り落とした。
悲鳴をあげて悶絶するキマイラB。
首筋を斬られたキマイラAと、その奥にいたキマイラCが同時に蒼真に襲い掛かる。
頭上から飛び掛かるキマイラAに対し、蒼真は周囲の空気を収縮させて軌道上に添える。
飛び掛かっていたキマイラAは回避する事ができずに圧縮空気に触れ、破裂音と共に弾き飛ばされる。
先に仕掛けていたキマイラAが弾き飛ばされた事で、奥にいたキマイラCが頭上を超えていく仲間を目で追い隙を見せる。
上方を向いたキマイラC目掛けて左袈裟に風刃を放って首を刎ねる。
ゴトリと落ちたキマイラCの頭は、キョロキョロと目を泳がせながら最後には白目を剥いて絶命した。
すぐ横で右脚を持ち上げて唸るキマイラB。
蒼真は一瞬で顎下に潜り込んで逆風に刀を振り上げる。
その奥にいたキマイラDに向かって駆け出し、蒼真がいた場所にはキマイラBの大量の血が流れ落ちる。
キマイラDは向かってくる蒼真に炎のブレスを吐き出して目眩し。
蒼真が風の防壁で払い除けるとキマイラDはそこにはいない。
後方から駆けてくるキマイラAに向き直る蒼真はまだキマイラDの位置が補足できない。
キマイラAも炎のブレスを吐き出し、風刃で相殺した瞬間に頭上から巨大な影。
蒼真の上に飛び降りてくるキマイラD。
真横に回避した蒼真にキマイラAの右前脚の爪が襲いかかる。
キマイラAとD。
こちらが弱い人間だと油断していたのだろう。
仲間があっさりと殺された事で、油断する事なく連携を取り出した。
どちらも鬣があり、山羊の角も体も先に倒したキマイラよりも大きい。
一方でミリーは右手後方のキマイラの群れへと歩み寄る。
巨大なキマイラは自分達を恐れる事なく歩み寄ろうとする生物を見ることなどこれまでなかった。
警戒しつつミリーの出方を見る。
キマイラEの足元に立つミリー。
口をポカンと開き、構える事なくキマイラEと視線を合わせるミリーは何を考えているのか。
隙だらけのミリーに口を開いて咬みつこうと頭を突き出す。
ミリーの胴体に咬みつき咀嚼した。
はずだった。
眉間を叩き潰され、目玉が飛び出した状態で絶命するキマイラE。
噛みつかれる瞬間にバックステップをし、口が閉じた瞬間にメイスを叩き込んだミリー。
一瞬で仲間が殺された事に驚き、さらに警戒を強める他のキマイラ。
唸り声をあげて意思の疎通をはかる。
ミリーの周囲のを囲み、三体のキマイラが同時に飛び掛かる。
ミリーはミルニルを地面に打ち付けて爆破。
目眩しの粉塵が舞い上がると同時に飛び上がり、ミリーのいた場所に右前脚を突き出したキマイラFの頭を叩き潰す。
キマイラFの頭に乗るミリーに向かって、キマイラGから炎のブレスが吐き出される。
ミリーはホムラの炎をミルニルから放出してブレスを相殺。
キマイラHがその隙にミリーに詰め寄り、咬みつこうと牙を剥き出して飛び掛かる。
飛び上がって回避したミリーにキマイラHの尻尾が襲い掛かる。
尻尾についた蛇のような口がミリーの首筋を襲う。
飛び上がる瞬間に振り上げている両手。
向かって来た尻尾にメイスを振り下ろして爆破。
着地する瞬間にキマイラGの左前脚が爪を剥き出して横薙ぎに向かってくる。
咄嗟にミルニルで受けて弾き飛ばされる。
キマイラの膂力は尋常ではなく、物凄い速度で吹っ飛ばされるミリー。
飛ばされた先にある大木に叩きつけられる瞬間に体を翻してメイスで爆破。
直径1メートル程の大木を叩き折る。
バキバキと周りの枝を折りながら倒れていく大木。
倒れていく方向には蒼真がいるが大丈夫だろうか。
倒れていく大木を眺めていたミリーの左横から襲いかかるキマイラH。
ミリーはメイスを振りかぶって爆破で受ける。
キマイラHの鬣と前脚の爪からは炎があがり、ミリーの爆破を相殺する。
ここまできて気付いたが、鬣のあるキマイラは強い。
頭も良く炎も操る事から、キマイラの中でも上位の個体となるのだろう。
キマイラHの爆破して無くなったはずの尻尾も炎を放ち、新たな蛇のような尻尾が生えている。
ミリーが観察していると頭上から巨大な影。
キマイラGが飛びかかってくる。
キマイラGにも鬣があり、炎を纏ってブレスを吐き出す。
「ちょっと真面目にやった方が良いですかね」
ポツリと呟いたミリーは爆炎でブレスを打ち消す。
飛び降りてくるキマイラGを前方へ回避し、振り返る瞬間にメイスを横に薙いで角をへし折る。
グオォォ!! と呻き声をあげてミリーから距離をとる。
キマイラHも右の炎の爪をミリーに振り下ろす。
メイスを振り上げ、爆炎が炎の爪を弾き飛ばす。
頭目掛けてメイスを振り上げると飛び退いて距離をとる。
そしてアイリ。
左後方のキマイラの群れに向かう。
「イザナギ、イザナミ。行きますよ」
強化したアイリからは紫電が迸り、足元に顕現する雷狼はアイリの攻撃を待つ。
膝を曲げ、グッと力を溜め込んでその場から姿を消す。
直後に最奥にいたキマイラIの背後から、右のクラウでの左逆袈裟に斬り上げるアイリ。
同時にイザナギがキマイラIへと飛び掛かり、斬撃と雷撃で瞬殺。
キマイラIはアイリに気付く事なく絶命した。
振り返った他の三体のキマイラ。
一体の鬣のあるキマイラが咆哮をあげ、キマイラJとKが同時に飛びかかる。
キマイラKに向けてソラスを振るい、イザナミを放って雷撃による一撃がダメージと麻痺を与える。
アイリは体から放電して加速し、高速の斬撃でキマイラJの全身を斬り裂く。
全身から血を流して地に伏すキマイラJ。
その隙にキマイラKにとどめを刺す。
立ち上がるキマイラJは、傷口からボウボウと炎をあげて傷を塞ぐ。
アイリのクラウ・ソラスからチャージを終えて出てきた雷狼。
飛び掛かるキマイラJを、クラウによる右袈裟斬りで一撃の下に斬り伏せる。
その直後に鬣のあるキマイラLがアイリの右側から炎の左爪で横に薙ぐ。
咄嗟にクラウで受けたアイリは、イザナギを放った事で強化が低下している。
重力操作を駆使してその威力を逃し、体から放電して後方に逸らす事で衝撃を軽減。
ダメージを与えられなかった事に気付いたキマイラLは、追い討ちに炎のブレスを吐き出す。
再び体から放電して真横に回避するアイリ。
唸るキマイラLと身構えるアイリ。
クラウからチャージを済ませたイザナギが姿を現わす。
基本的に手を抜く事のないアイリは、ここで下級魔方陣サンダーを発動。
イザナギとイザナミが一回り大きくなる。
咆哮の直後に息を吸い込んで炎のブレスを再び吐き出すキマイラL。
バチッと放電すると共にキマイラLの真横に移動したアイリは胴体目掛けて突きを放つ。
体を翻して躱したキマイラL。
アイリに咬みつこうと牙を剥く。
左のソラスを横に薙ぎ、キマイラLの口内へとイザナミを放つ。
強化された爆発の如き雷撃が全身を駆け巡り、身動きの取れないキマイラL。
飛び上がったアイリは眉間にクラウを振り下ろし、強化されたイザナギを介した斬撃は頭部を二つに斬り裂いた。
自分の受け持ち分の四体を倒したアイリ。
蒼真とミリーを見るとまだ戦闘中だ。
あれ程の強さを持つ二人が何故かまだ終わらない。
見ていると理由はすぐにわかった。
蒼真は聖騎士達との訓練で使用する程度の魔力で戦っている。
それも精霊を介しての魔法で通常の魔法と同程度の出力だ。
精霊魔法は通常魔法よりも遥かに高い威力を誇る。
それを通常の魔法と同程度まで出力を下げるのは難しい。
ほとんど魔力を消費する事なく、鬣のあるキマイラ二体と互角の戦いをする蒼真はやはり異常といえる。
ミリーはポテポテと歩きながらキマイラ二体の攻撃を全て捌く。
どちらも鬣のあるキマイラ。
その強さはアイリもたった今知った確かなものだ。
攻撃を仕掛けるキマイラが防御をするミリーに圧されて後退を強いられる。
やはりミリーの強さも異常だ。
アイリがしばらく二人の戦闘を見ていると、アイリの戦闘が終わった事に気付いたようだ。
どちらも一瞬で二体のキマイラを倒す。
全てのキマイラを魔石に還して回収する。
そして残ったのは斬り落とされたキマイラの前脚と、根元から叩き折られた巨大な角。
地属性魔法を流しても角と爪と毛皮はそのまま残るようだ。
何か素材に使えるかもしれないので持って帰る事にする。
お昼も過ぎている事だし弁当を食べる。
例に漏れず今日も洗浄魔法で辺りを浄化し、手を洗って弁当とマカルォンを広げる。
「ずっと考えてましたけど私は赤と黄色が食べたいです!」
どうやらミリーがキマイラを見ながら考えていたのは、今日食べるマカルォンの色だったようだ。
弁当とおやつを食べて帰る事にした。
役所に戻って報告をすると受付の女性も飛び上がり、所長を呼んでクエスト達成とされた。
以前市民街を襲ったキマイラの数は七体。
聖騎士と大魔導師が、およそ二百名の団員を率いた総攻撃で倒した魔獣。
それをわずか三人で十二体を討伐。
受付の女性は震えあがり、所長も声を裏返しながら受け答えしていた。
そして以前絡んできたコモンパーティーはこの日も役所にいた。
蒼真達が難易度10をその日のうちに達成してきた事に驚き、二度と絡むまいと心に誓った。
キマイラ十二体討伐で報酬もたくさん。
総額48,000,000リラとなり、三等分して全額を貯金とした。
「明日も行くか」
残る難易度10のクエストは二つ。
そのうちの一つ、グレンデル討伐クエストだ。
「明日はプールがいいです! ミリーさんはどうですか?」
「私もプールに入りたいです!」
「じゃあ明後日にしよう」
明日はプールで遊ぶ事にした。
帰りに緋咲宝石店に寄ってテティを誘うミリーとアイリだった。
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クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

女神様、もっと早く祝福が欲しかった。
しゃーりん
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アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。
今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。
女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか?
一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
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間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
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幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
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