器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

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クイースト王国編

076 夏はプール

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 朝食をがっつりと食べ過ぎて、昼食は少ししか食べれなかった一行。
 朱雀だけはそうでもなくたくさん食べていた。

 水着に着替えてホールに集まる。

 蒼真と朱王は水着だけ。
 ミリーとアイリは水着の上にラップタオルを巻く。
 そして何故か千尋もラップタオルを胸から巻かれている。

「なんで君達はタオルを巻いているんだい?」

「ちょ、ちょっと恥ずかしいです」

「私もです」

「オレはリゼに巻かれた!」

「千尋は胸を出したらダメよ!」

「なんで!?」

 クスクスと笑いながら朱王が一枚の服を取り出した。

「千尋君、これ着なよ。じゃないとリゼさん納得しないだろうから」

 千尋に渡した服はラッシュガード。
 サーファーが上着として着る水着だが、千尋の水着に合わせて黒字に黄色のラインが入っている。

 リゼに連れられて千尋は隠れて着せられた。
 リゼは満足そうに、千尋は不満そうに戻ってきた。

「千尋。カッコいいじゃないかそれ。オレも買えば良かった」

「ほんとか!? 朱王さんこれありがとう!! 今度蒼真も買いなよ!」

 嬉しそうに言う千尋だった。

「さぁて! プールで遊ぶよ!! ミリーとアイリもタオル取って行くよ!!」

 蒼真と一緒に走り出す千尋。リゼも続いて走って行く。

「ミリーもアイリもあの水着似合うと思うよ。先に行ってるね」

 朱王もプールに向かって歩いていった。

 意を決したミリーとアイリは目を合わせ、ラップタオルに手を掛ける。
 すぐ横にはタオルを受け取る為カミンが待つ。

「…………」

 ラップタオルのまま外に出る事にした。



 プールに飛び込む千尋と蒼真。
 同じく飛び込もうとして泳げない事に気付いたリゼ。
 咄嗟にプールの表面を凍らせて着地するリゼだったが、その横では突き刺さるように凍る千尋と蒼真の姿があった。
 プールから出て氷を解除し、千尋と蒼真に平謝りするリゼだった。

 それを見て腹を抱えて笑う朱王と朱雀。
 ガチガチと顎を震わせる千尋と蒼真がプールから這い出てくる。朱雀の熱風で体を温めてもらった。

「のぉ朱王。我もプールに入りたいのじゃができるかのぉ?」

「試しに入ってみる? もし危なかったら朱雀を燃やしてあげるよ」

 言動は異常だが朱王は朱雀の額に手を当てて水着をイメージする。
 朱雀の体が光を放ち、上着が消えて水着に変化した。

「おお…… 服がなくなった…… ちと怖いが入ってみるぞ。朱王、しっかり見ておるのじゃぞ!?」

 恐る恐るプールに近づき、手をプールにチョンとつける朱雀。

 チョン、チョン、チョン……

 手をつけるだけの朱雀。
 まるで水を怖がる猫のようだ。

「朱王様。これをどうぞ」

 メイサとマーリンが浮き輪を複数持っており、一つ受け取って朱雀に被せる。

「これを付けてると沈まないから入ってみなよ」

「ほんとか? では入ってみるぞー」

 ザブンと足から飛び込む朱雀。
 どうやら水に入っても平気なようだ。

 リゼもメイサから浮き輪を受け取ってプールに入る。
 千尋と蒼真も飛び込む。

 千尋と蒼真、リゼと朱雀が水を掛け合って楽しそうに遊んでいるのをミリーとアイリが見つめる。

「ミリー様、これを」

「アイリ様もこれを」

 メイサとマリーンが浮き輪を渡し、タオルをバサリと取り払う。
 焦るミリーとアイリは浮き輪で必死に隠そうとする。

「うん、二人共似合ってるね!」

「「うぅ……」」

 朱王が褒めた事で決心がついたらしい。
 浮き輪を腹部に回してプールに飛び込み、朱王も続いて飛び込む。

 全員で水を掛け合う。
 水遊びをする事がなかった女性陣と朱雀は、大はしゃぎで水飛沫を上げる。

 しばらく水の掛け合いを楽しんで一度休憩とした。



 全員分のビーチチェアとテーブル、パラソルが設置されており、冷たい飲み物をもらう。
 炭酸の入ったトロピカルジュース。
 昨夜、炭酸水の瓶を渡してあったので作ってくれたようだ。

 トロピカルジュースを飲みながらリゼからお願いが。

「ねぇ蒼真。私に泳ぎ方教えてくれない?」

 リゼが言い出した事で全員泳ぎの練習をする事にした。
 何故千尋に頼まないか? 器用すぎる千尋では教えるのに向いていない事をリゼもよく知っているからだ。



 まずは水に慣れる事からという事で口を水につける練習から始めた。
 口から息を吐いてブクブク練習。
 ちょっと子供扱いし過ぎかとも思うが焦りは禁物。ゆっくりといこう。

 今度は鼻まで水につける練習をし、鼻から息をブクブクして水から顔を出して息を吸う練習。
 しばらく息継ぎの練習をした。

 次に目を開ける練習と思ったが、魔力によって体が強化されているので水の中でも目を開けるのは皆んなできた。

 ここまできたらボビングの練習。
 水底に足をつき、軽くジャンプしてしゃがみ込み、息を吐いてジャンプして息を吸う。単純に水に沈んで息継ぎの練習だ。

 それほど時間はかけていないが、息継ぎは問題なさそうなので次のステップに移ることにしよう。



 今度は浮く練習だ。
 まずはだるま浮き。
 水に顔をつけて両手で足を抱え込んで浮かぶ練習だ。
 まぁやってみると簡単に浮くのだが。

 全員プカプカと浮いている。

 そのまま伏し浮きの練習に移る。
 だるま浮きの要領で浮かび上がったら、両手足をゆっくりと伸ばして真っ直ぐになって浮くだけ。

 目も開けるしそれほど恐怖の感じていない三人と一精霊はあっさりと伏し浮きもできた。

 浮く練習もここまで。
 あとは泳ぐ練習だ。



 まずは蹴伸びをしてもらう。
 壁を蹴った推進力で進むだけの簡単なもの。
 浮く練習をしたあとなら簡単にできる。

 そこから足をバタつかせればバタ足で泳ぐ事も可能だ。
 今日はここまでできれば泳げたと言っていいだろう。

 そもそも運動神経のいい彼女達。
 そのままバタ足で泳いでいた。

 嬉しさのあまりミリーが泳いでいるアイリにしがみつく。ミリーにはリゼが襲い掛かる。
 その光景を見る男性陣。

「女の子同士のあーゆーの良いよね」

「ずっと見ていられるな」

「そうだね。しっかり見ておこう」

 目の保養になるししばらく見ていた。
 泳げるようになったので一旦休憩する。

 しかし流石は蒼真。
 せっかくの水着にプールという楽しい遊びの時間だが、息継ぎから浮く練習まで徹底して練習する。
 可愛い水着も色気もあったもんじゃない。



 プールからあがってジュースとケーキをもらい、口いっぱいに頬張る。
 水遊びで疲れた体にこの甘さがたまらない。
 美味しい!



 ケーキを堪能した後はビーチボールを使って遊ぶ。
 周りに人がたくさんいる場所では迷惑のかかる遊びだが、このプールには自分達しかいない。
 存分に楽しもう。

 打ち上げられるボールを飛び上がって跳ね上げるリゼ。
 千尋がまた打ち上げ、アイリも同じく飛び上がって跳ね上げる。
 蒼真もボールを打ち上げて、ミリーもボールに飛びついて跳ね返す。
 今度は朱王が朱雀を持ち上げてボールを打ち返す。

 皆んなでぴょんぴょんと跳ねながら楽しむビーチボール。すごく楽しそうだ。



 気付けば十七時を過ぎるまで遊んでいた。
 プールからあがって一旦魔法で乾燥させてから邸へと戻る。
 指先がふやけているがとりあえずお風呂だ。

 この邸には各部屋にシャワールームもあるが、邸内に大浴場と露天風呂がある。
 邸の背面側にあたる部屋が大浴場となり、一階にはサウナルームも設置されている。
 二階には露天風呂。まだ明るいうちに入る露天風呂は最高に贅沢を感じられるだろう。
 この風呂は邸を改装して朱王が造らせたものらしい。

 今日は女性陣が露天風呂、男性陣が一階大浴場だ。



 全員着替えを持って入浴だ。
 千尋と蒼真、朱王と朱雀も一階の浴場に向かう。
 シャワーを浴びて身体を洗い、もちろん千尋の魔法の洗剤を使用する。
 この世界にも洗剤やシャンプーもあるが、千尋の魔法の洗剤を使った後では使えない。
 洗い足りない気がしてしまうのだ。
 しかも全身に使えて肌も荒れない、髪はツヤツヤになるすごい洗剤だ。
 全身を洗って湯船に浸かる。

「朱王さんはすっげー鍛えた体してるね。蒼真より鍛えてるじゃん」

「着痩せしてるからわからなかったな」

「魔力なしで鍛えると筋肉つきやすいよ。蒼真君もすぐにこれくらいにならなると思う。それより…… 風呂では千尋君の胸は隠さなくてよかったのかな?」

「うーん。リゼの感覚はよくわかんないや」

 ちなみに千尋の体は痩せ型ではあるが、そこそこに鍛えられた細マッチョと言える体型をしている。
 しばらく湯船に浸かってあがることにした。
 今日は水に浸かりっぱなしだったのでサウナはやめておく。



 露天風呂へ向かう女性陣。
 リゼとミリー、アイリはアルテリアのエイルに宿をとっていた時からお風呂は一緒に入っていた。
 今までのお風呂と違うと言えばここは露天風呂という事。
 まだ日も高く、空が青い。
 青い空と雄大な自然の山々を眺めながらのお風呂は格別だ。
 桶をお盆がわりに冷たいフルーツジュースを湯船に浮かべ、外の景色を楽しみながら冷えたジュースを飲むのもまた格別。
 遠くに見えるのは魔獣モンスターだろう。
 大きな魔獣が複数で別の魔獣を追い回している。襲われた魔獣は倒れ、複数の大きな魔獣に食い殺される。
 所詮野生というのは弱肉強食の世界。強ければ生き、弱ければ死ぬ。
 そんな命のやり取りを見下ろしながら風呂に入り、冷えたジュースを飲むのもまた格別。

「ちょっと! 誰!? 今妙な事言ったの!」

「妙なのはリゼさんですよ」

「時々犯罪者みたいな顔してます!」

「誰が犯罪者なのよ!!」

 リゼは自覚がないようだ。

「ところでいいんですか? 千尋さんは蒼真さん達と大浴場に行きましたよ?」

「ん? …… んん!? 大変! 千尋をこっちに連れてこないといけないわね!」

「そんなわけないでしょう! いくら可愛いくても千尋さんは男性ですよ!?」

「え…… じゃあ…… どう…… すれば……」

「リゼさんはいろいろとその辺の考えがおかしいです。千尋さんは男なので胸を隠さなくてもいいんです!」

「で、でも!? 蒼真が千尋を意識しちゃったらどうするの!?」

「ちょっとやめてくださいリゼさん! 蒼真さんをなんだと思ってるんですか!?」

「朱王から以前聞いたことがあります…… リゼさんのその考え方は腐女子と言うらしいですよ!」

「婦女子ならそうよ! 私は女の子だもの!」

「違います! 腐った女子と書いて腐女子だそうです! 男性同士の恋愛のお話しなんかを好むそうですよ!」

「え? 私そんなの別に好きじゃないわよ? まぁ…… 無しじゃないかもしれないけど……」

「充分素質あるじゃないですか!!」

「ミリーさん…… もしかしたら無しではないかもしれません……」

「アイリさんまで!? ふぉぉぉぉお!! 正常なのは私だけですか!?」

「ミリーも充分変よ!」

「ミリーさんもそんなに変わりませんよ!」

 二人に言われて少し考えてみる。
 自分でも納得してしまい少し凹んだミリー。
 結局似たような三人だった。


  
 風呂をあがってホールでブロー魔法をかける。
 もちろん魔法のヘアオイルも使用した。

 少し涼んだら夕食の時間だ。

 美味しい料理にクイーストのお酒を飲み、お腹いっぱいに食べた後は映画鑑賞をする。

 飲み物を用意し、蒼真と朱雀がポップコーンを準備。
 映画部屋へと全員で移動する。
 使用人達にも席と飲み物、ポップコーンを渡したら準備完了。

 全員で映画を楽しんだ。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あとがき

せっかくの水着回、お風呂回でしたが、だるま浮きをさせるという暴挙にでてみました。
お色気にご期待された方々には大変申し訳なく、ある意味期待されていた方々には楽しんで頂けたかと思います。
こんな物語でも良ければ今後ともよろしくお願いします。

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