器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

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クイースト王国編

070 ハーピー討伐

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 カルハの街を北に向けて進む千尋とリゼ。
 二人の美女? が歩けば街行く人たちは振り返り、誰もがその姿を目で追ってしまう。
 千尋は男なのだが傍目にはわからない。
 どう見ても恋人同士には見えず、二人の美女にしか見えない。

 ハーピーは出没しやすい時間があるらしく、朝と夕方に多いらしい。
 理由は簡単で、餌となる積荷を多く運ぶ行商人は朝に出て夕方に街に到着する。
 狙いを定めるなら朝と夕方となるのは当然だろう。
 このハーピーの襲撃を知る行商人は、早朝か昼に街を出るようにしている。
 それなら今向かえば丁度いいだろうと、二人は真っ直ぐに北へ向かう。



 カルハから北へ抜けてしばらく進んで行くと、ゴブリンやリザードマン、ワーウルフにキラービーなど、多種多様な魔獣モンスターが襲って来る。
 千尋はサイレントキラーで簡単に殲滅できるのだが、今回はあえてリクとシンに戦わせる。
 千尋の魔力と同時に攻撃イメージも送り、リクとシンは思うがままに攻撃していく。

 千尋のイメージは聖騎士達の剣技。
 斬る事に特化した刀の蒼真のイメージではリクとシンが戦い辛い。
 もっとシンプルに、聖騎士のお手本のような攻撃をイメージした。
 刃で斬る蒼真の刀に対し、騎士の剣はぶった斬る。とてもわかりやすい。

 千尋の与えたイメージはリクとシンにしっかりと伝わったらしく、次々と魔獣を叩き斬る。
 討ち漏らした魔獣もいるのだが、千尋達を襲えない。
 千尋とリゼを中心に魔力球が覆っている為だ。
 襲えずに足踏みしている魔獣もリクとシンに斬られて倒れていく。

「千尋はどんどん強くなってるけどなんていうか…… 邪道を突き進んでるわよね。物語の主人公にはなれないタイプだと思うわ」

「え!? オレのどこが邪道なの!?」

 王道を突き進んでいるつもりだった千尋。
 言われてみると自分の技術よりも能力の使い方を優先しているあたり王道ではないかもしれない。
 地属性というガチ系の魔法を選択しておきながらも使い方は邪道。
 ちょっとカッコいいなと思う千尋だった。

 リクとシンが魔獣の群れを倒しきる頃には魔石の袋はいっぱいになっていた。
 あまり襲われると持ちきれなくなる。早くハーピーに出てきてもらわないといけない。



 さらに進んでいくと高速で飛んでくる鳥型の魔獣ハーピーが向かってきた。
 あらゆる方向から向かってくるハーピーに、千尋もリゼも逃げ場がない。
 魔力を練ったリゼはルシファーを抜いて一薙ぎする。
 全方位から向かってきた最初のハーピーの群れを全て切り落とす。
 同時に刃から氷の槍が放たれる。
 第二波として向かって来たハーピーも、氷槍に貫かれて地面に落ちていく。
 頭上から襲い来るハーピーは、千尋の炸裂弾が迎撃する。
 脚の爪を向けて一直線に向かってくる複数のハーピーは、炸裂弾に身体を抉られて悲鳴をあげる。
 そこにリクとシンがとどめを刺していく。
 暴風のような二人の攻撃に、残ったハーピーの群れは警戒をして様子を見ている。
 リゼは大きく振りかぶって中心にいた一体を貫く。
 同時にリクとシンに貫かれる他の二体。
 残りはおよそ三十体。
 警戒して様子を見ても危険だと察したハーピー達は、千尋とリゼを中心に周りに広がる。

「なんかしてくるみたいだね」

「ハーピーって風魔法使うはずよ」

「オレがやる?」

「私が防御するわ」

 千尋はリクとシンに魔力を渡して攻撃に向かわせる。
 リゼはルシファーを薙いで水を集める。

 ハーピーの全方位からの風魔法。
 口から竜巻のようなブレスが千尋とリゼに向かって放たれる。

 リゼはシズクの集めた大量の水を広げ、直径2メートル程の半球を作り出す。
 さらにリッカの氷魔法で、氷の結界を作り出した。

 表面からガリガリと削られる氷の結界。
 このままでは危ない。
 下級魔法陣アイスを発動すると氷の強度が上がり、削られることはなくなった。
 氷魔法の防御であれば下級魔法陣が良さそうだ。

 攻撃開始と同時にリクとシンも一体ずつハーピーを貫いていく。
 風魔法を発動しているハーピーは格好の的となり、次々と貫かれていく。
 ブレスが襲ってこなくなる頃にはハーピーは全滅していた。

 戦闘を終えて氷を解除しようとしたが、下級魔法陣を使用した為か解除できない。
 もう一度下級魔法陣を発動してこじ開けた。

 ハーピーの死骸を魔石に還していく。
 集めた魔石は魔石袋に入りきらず、ポケットにもたくさん詰め込み、両手で抱えながら帰る事にした。



 役所で報告をし、やはり魔石の数に驚かれた。
 八十七個。
 そして他にも通りすがりに倒した分の魔石が二百十個。キラービーが多かった為その数も増えた。
 衝撃を受けた受付のお姉さんは、叫びながら所長へ報告に行ったくらいだ。
 報酬も1,124万リラを受け取った。



 とりあえずお昼時だし昼食を食べに行く。
 報酬もたっぷりあるし高級な料理店に向かう。

 歩き出してすぐに千尋が足を止める。
 不思議に思ったリゼに千尋が手を差し伸べる。
 少し頬を赤く染めながら千尋の手をとる。二人で手を繋いで料理店に向かう事にした。
 これで恋人同士に見えるだろう。そう思うのは千尋とリゼだけ。
 やはり傍目には仲のいい女の子二人に見えた。
 まぁ本人達が嬉しそうなので問題はないだろう。



 この料理店はどんなお店だろう。
 料理名を見てもよくわからないので今日のオススメメニューを注文した。
 他のお客さんのテーブルを見ると鍋が置かれ、食材を浸けて食べている。

 鍋に火の魔石がかけられ、鍋が運ばれてきた。どうやらチーズフォンデュのようだ。
 一口サイズに切り分けられた食材がテーブルに並ぶ。
 パンや野菜、ボイルされた肉など、種類も豊富だ。

 さっそく串にパンを刺してチーズの中に突っ込む。チーズを絡ませて取り出すと、とろ~りとしたチーズがパンに絡んでとても美味しそう。

 千尋は一口パクリ。そして跳ね上がる。
 熱々のチーズが口内を焼く。猫舌の千尋には衝撃の熱さだった。
 口内を強化して咀嚼する。

「うまーーーーーい!!」

 火傷しても美味しそうに食べる千尋。
 リゼも同じようにパクリ。

「美味しーーーーーい!!」

 リゼも大満足の美味しさだ。
 肉や野菜もどんどん食べる。

 飲み物にカルハのお酒を注文した。
 お酒の名前はカルパリ。
 どうやらフルーツで割って飲むようだが、よくわからないのでオススメをお願いした。
 オレンジのような風味と甘くて酸味のあるお酒で、炭酸はないようだ。

 熱々のチーズフォンデュと冷たいお酒を堪能し、最後にデザートを注文する。
 カルハ名物カルハスター。
 まぁチュロスなのだが。
 甘い揚げ菓子にも満足して昼食を終えた。





「魔石袋をもう少し大きいのにしようか」

「そうね、全然足りないもの。可愛いのを選びましょう!」

「カッコいいのが欲しい!」

 二人でまた手を繋いで鞄屋に向かう。
 今使っている魔石袋は茶色の布袋。
 たくさん入る物が欲しいのと可愛いデザインが良いなと思うリゼ。
 そして千尋と色違いで同じデザインをと考えている。
 千尋が求めているのはカッコいい物……
 リゼは心の中で却下する。



 色とりどり、様々なデザインの鞄があり、二人でいくつか候補を挙げる事にする。

 千尋が選んだのは二つ。
 真っ黒な革の鞄にたくさんのスタッズが付いた物。
 もう一つも黒い革だが、爬虫類系の魔獣モンスターの皮を使用した禍々しい鞄に剣をデザインした装飾が施された物。
 どちらも今までのよりも一回り小さく、千尋の好みで選んだだけだろうと思われる。

 リゼが選んだのは四つ。
 黒地の袋に複数のピンクのラインが入る鞄。
 同じデザインの白地に黒いラインの鞄。
 次にショッキングピンクの皮の鞄。ところどころに黒が使用され、装飾に金色のチェーンと複数の金具が取り付けられる。
 三つとも腰から下げる事も可能なショルダーバッグのような物だ。
 そして白いリュック型のバッグ。金色の装飾と縫い糸、裏地には赤が使用される物。

 リゼはとりあえず千尋に鞄を当てて見る。
 同じデザインの色違いを考えていたのだが、千尋は左右の腰に四本もの剣を下げている。
 さらに白い鞄を付けるとどうしても腰回りに集中してしまい、リゼの思うような千尋の姿ではない。
 白いリュック型の鞄を背負ってもらう。
 ジッと見つめ、無言で自分に鞄を当てて鏡を見る。
 どうやら自分のを確認し始めたようだ。

「リゼはそのピンクのが良いねー。オレのはどれが良いかなー」

 千尋はまだ自分のが決まったとは思っていない。
 リゼは首を傾げながら答える。

「千尋のはこれよ? 似合うから」

 白いリュックを持って突き付ける。

「ええ!? またなんか女の子っぽくない!?」

 確かに女の子が背負っていたら可愛いだろう。
 だがリゼは千尋にはこれが良いと言う。

「私が千尋にプレゼントするわ。支払いしてくるわね!」

 と、勝手に決められてしまった。
 少し不満を感じつつもリゼが喜ぶのならいいかと思う千尋だった。

 これまでの魔石袋を引き取ってもらい、新しい鞄を装備して店を後にした。

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