器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

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強化編

060ハウザー達の武器

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 朱王と一緒に旅に出る事にした千尋達。
 観光も兼ねて期間は六ヶ月。

 アルテリアを空ける事になるので少し心配はある。
 信頼の置ける仲間に街を託そうと決め、千尋と蒼真がハウザー達を呼びに行く。
 今日は休みをとっているはずだ。

 待っている間に予備のベンチを用意し、グラスや食器も洗っておく。



「おーっす。呼ばれたから来てみたぞ。朱王さんも久しぶり!」

 ハウザーはいつもの軽いノリだ。
 飲み物にサイダーを出して本題に移る。

「オレ達しばらく旅に出るからさぁ、アルテリアを空ける事になるんだ」

「少し寂しくなるな、どれくらいだ?」

「半年くらいよ。各国を回ってくるの」

「ああ、それでアルテリアを頼む的な感じか? 任せとけよ!」

「まぁそれなんだが、ここは一度魔族に襲われてるからな。念には念を入れておきたくてハウザー達を呼んだんだ」

「確かに魔族に襲われた街なんて他にないからな。で? 念を入れるって何するんだ?」

 ハウザーだけでなくリンゼやアニー、ベンダーも首を傾げる。

「武器の強化をするんだよ」

「は? これまだ強くなるのか?」

「ハウザーのダガー今は魔力量を300ガルドまで溜めれるんだけど、今後は2,000ガルドまで溜めれるようにするんだよ」

「「「「2,000ガルド!?」」」」

 驚きの表情をするハウザー達。

「ハウザー達なら魔族も倒せると思うけどどうかな?」

「王国の聖騎士達のも明日2,000ガルドにする予定だぞ」

 蒼真も付け加えて言う。

「王国の聖騎士並みの武器になるって事かよ! すっげーな!」

 今も聖騎士並みの武器なのだが。

「ただじゃ嫌だって言うだろうけどさ、シルバーランクのお祝いって事で受け取ってよ」

 実は先週シルバーランクに上がったハウザーパーティー。
 お祝いを何か渡すつもりでいたので丁度いい理由になった。

「言っとくけどお祝いにそんなとんでもねーもん渡すもんじゃねーぞ?」

「念には念をって言ってるじゃないか」

「お金には困ってないからオレにとってはお祝いで渡すもんだよ!」

「うーん。まぁ変な理屈だが千尋の好意だ。受け取らせてもらうわ」

 ハウザーのダガー二本。
 ベンダーの直剣と盾。
 アニーの十字槍。
 リンゼのスタッフに魔力量2,000ガルドのエンチャントを施す。

「皆さん。一つ良い事を教えます」

 エンチャントが終わって笑顔で言うアイリ。

「皆さんの武器は今のエンチャントで聖剣と同等の能力となりました。もう値段の付けられない装備だそうですよ」

 固まるハウザー達。
 引き攣った表情を見て嬉しそうなアイリだった。



「ハウザー君。私からも魔法陣をエンチャントできるけどどうする?」

「ん? 朱王さんもか? 魔法陣をエンチャントってどういう事だ?」

「魔力量2,000ガルドだから選択は二つだな。一つ目は上級魔法陣を手に入れて魔導士になる事だ」

「二つ目は下級精霊と下級魔法陣を手に入れて精霊魔導士になる事だねー。左右に武器あれば片方に上級魔法陣も組めるけど」

「あー。その、なんだ? 突然とんでもない事言い出したな……」

 困惑するハウザーパーティー。

「もう一つ召喚魔法陣を手に入れて召喚魔導士になるって方法もあるね。」

「突然言われても困るよなぁ。そういうお前らはどれ選んだんだ?」

「全員精霊魔導士だよ」

「どうするのが一番強いんだ?」

「上級魔法陣は下級精霊の魔法よりも威力が高かったが、魔力の消費がかなり大きいと思う。下級精霊と下級魔法陣の組み合わせでも上位魔法陣には威力で劣るだろうな。それでも魔力の消費が少ない分、長期戦なら優位になる。一番強いのは下級精霊と上級魔法陣の組み合わせだな」

「召喚魔導士は呪文で下級精霊を召喚するんだけどいろんな魔法を使えるのが利点だね。威力はこの三つで一番劣るけど万能ではあるかな」

 冒険者である彼らの場合、魔力量が低い事から下級精霊と下級魔法陣の組み合わせの精霊魔導士が最も良いだろう。
 その事を告げると、四人で相談を始める。

 少し考えた末に選んだ結果…… 。

 ハウザーは上級魔法陣ボルテクスと上級魔法陣エアリアル。
 ダガーを使うハウザーは火魔法よりも風魔法の方が戦いに向いており、蒼真を参考にして日々研鑽している。
 さらに千尋の雷魔法が気に入って教えてもらった。
 どちらも多用する魔法。
 普段の戦闘では通常魔法を使い、いざという時の上級魔法陣を選んだようだ。

 ベンダーはフラウと下級魔法陣アイス。
 盾にはウィンディーネと下級魔法陣ウォーターをエンチャント。
 盾役として氷魔法による炎からの防御を目的とし、蒼真から習った氷魔法を多用している。
 上級魔法陣で威力を上げるよりも盾役としての安定感を優先したようだ。

 アニーはサラマンダーと下級魔法陣ファイアを選択。
 元々得意な火の魔法。
 槍による突きと火の破壊力の相性が良く、迷うことはなかった。

 リンゼはヴォルトと下級魔法陣サンダー。
 エアリアルの話を詳しく蒼真から聞いた結果、上級魔法陣は自分には過ぎたものとなると判断した為だ。

 ついでに朱王と千尋がそれぞれの武器に1センチ程の穴を加工する。
 この穴には朱王の魔石を組み込んで固定する。
 そして各々好みの色をイメージして完成。
 これで魔力に色がつく武器となる。
  
 工房前でエンチャントと精霊契約を行い、強くなった武器を試したいという事でハウザー達は岩場に向かった。



 残った2,000ガルドの魔石は朱王にプレゼント。
 300ガルドの魔石は朱王の魔石と四十個ずつ交換した。

「ありがとう千尋君。うちの部下も少し強化しないといけないからね」

 各国を回るついでに部下達の装備を強化する予定だ。



 まだ時刻は十五時を回ったところだ。
 明日王国に向かう準備をする。
 武器は五本作ってあり、また武器屋に卸すつもりだ。
 前回卸した分の金額も受け取る予定だが、八億程の儲けがある。

 リゼはアイリを連れてロナウドへのお土産を買いに行き、朱王もミリーの家へのお土産を買いに行った。





 千尋と蒼真は朱王から受け取った魔石にイメージを込める。
 覚えている記憶を記録する事は簡単にできたのだが、深層心理から記憶を呼び出すのはなかなかできない。
 深層心理から記憶の断片を引き出せれば、魔石の補助もあってか自動的に引き出す事ができるらしい。
 朱王が見せてくれた魔石は深層心理から記憶を切り出したもの。
 映画のあらすじからクライマックスへ繋がるように編集された特別性だ。
 およそ二時間奮闘したができなかった。

 朱王がその後で深層心理に繋げる為の、訓練用の魔石を作ってくれた。
 訓練用の魔石とはいうものの、実際は催眠効果を持たせている。
 催眠状態から集中力を高め、自分の心理へと意識の水滴を落とす。
 水滴が記憶の水面から飛沫を跳ねさせ、魔石へと繋げる。
 落とし込んだ意識の水滴から必要なイメージを引き出し、魔石へと記録する事を可能とする。
 もちろんこれは全てイメージだ。
 朱王が自分のイメージから深層心理へと繋ぐ方法に催眠効果を持たせた魔石。
 集中力を増すこの魔石は別の効果も持つ。
 集中力を高める事は魔法のイメージ力にも繋がる為、魔法の威力も上がる事になる。
 全員分欲しいという事で、朱王はこの催眠の魔石を五個作る事になった。

 それでもできない千尋と蒼真。
 理由は簡単。
 魔力が尽きかけていて集中力がそれほど上がらないのが原因だ。
 明日以降にしようとこの日は断念した。



 朱王はこの日はエイルに泊まる事にした。
 食材を買って朱王の手作りのお土産を複数作る為だ。
 チョコレートの在庫が家にあるので取りに行って戻ってくる。
 ミリーの家へのお土産はガトーショコラがいいと言い張るので綺麗な容器を購入。
 買い物途中でリゼとアイリにも会い、ミリーからガトーショコラの話を聞いたリゼはロナウドの家のお土産も同じのがいいと言う。
 今夜は宿の厨房を借りて作る事にする。

 レイラにその話をすると快く厨房を貸してくれた。
 自分も覚えたいとの事で、夜は朱王の料理教室が開催されるのだった。





 夕食時のハウザーはグッタリしていた。
 上級魔法陣を展開して派手に魔法を使用したらしい。
 恐ろしい威力で放たれた魔法は、一撃で10,000ガルド以上の魔力を消費したようだ。
 ハウザーの魔力色は緑色。
 朱王の魔力を見て緑を選んだそうだが、少し色味は違ったとの事。
 しかしこの緑の魔力色にも満足していたようだ。



 ベンダーは精霊魔法と魔法陣に満足していた。
 ベンダーのイメージ力に比べると操る水量が数倍となり、氷魔法も瞬時に凍りつくようになったそうだ。
 防御しやすくと考えた精霊ウィンディーネ、フラウとの契約だったが、攻撃にも有用との事。
 攻守ともに安定した仕様となったようだ。
 ベンダーは紫色の魔力色となり、アメジストのような氷柱が乱立する様はとても綺麗だったという。



 アニーはこれまでの自分の魔法を遥かに凌ぐ威力を発揮できたらしい。
 全力で放てばこれまでの二倍ともなる火力。
 今まで以上に使いやすくなったうえ、威力も上がったと大満足といった表情だ。
 魔力色はやはり赤を選択。
 炎の色が真紅に染まり、今までと違った魔法に見えたそうだ。



 リンゼは範囲魔法を捨てて雷魔法を選んだが、蒼真から説明を受けた水と雷の掛け合わせで範囲攻撃を可能とした。
 リンゼのヴォルトは人型の雷で小さな精霊だが、威力に違いはないと思われる。
 下級魔法陣サンダーと相まって威力も相当なものだった。
 やはりハウザーのボルテクスに比べれば威力は劣るものの、魔力の消費と威力を考えれば精霊魔法の方が優れている。
 リンゼは水色の魔力色。
 青白い放電がとても綺麗だったと満足そうだ。



 この日の夕食には朱雀も席に着く。
 エイルの料理はどれも美味しく、朱雀も満足そうだ。
 誰もが朱雀の存在が気になり、朱王とそっくりな事から朱王の子供と思われている。
 気になるがミリーもいるので聞くに聞けない。

「のぉ。この料理は其方が作っているのか? とても美味しかったぞ」

 朱雀がレイラに話しかける。
 それを機にレイラも朱雀と話しをする。

「そうですよ。私はこの宿の主人の娘、レイラです。よろしくね朱雀さん」

「うむ。よろしく頼む」

「朱雀さんは朱王さんと似てますねぇ?」

「我の姿は朱王の姿を模したのじゃ。おかしいかのぉ?」

「模した? どういう事ですか?」

「我は朱王と契約した…… 精霊じゃ」

「精霊?」

「うむ。朱王の刀を器として精霊契約をしたのじゃ。我の姿はほんとはもっとこーんなに大きいのじゃぞ?」

 手を大きく広げながら言う朱雀。

「それなのに今は小ちゃい朱王さんなのは何でですか?」

「我にもわからん。朱王が小さくなれと言うから小さくなったのかもしれぬ」

 精霊である事に驚きはしたものの、朱王も千尋達と一緒にいる時点で変な事が出来ると勝手に解釈。
 精霊と名乗る子供がいてもそれほど不思議に思わないレイラだった。
 一通り会話をしたレイラと朱雀。
 他の女性陣も混ざって談笑している。
 朱雀も笑っているので楽しいのだろう。



 そんな中、ハウザーの消耗が激しいようなので、上級魔法陣ボルテクスを消す事を決める。
 ハウザーもそうしてくれと頼んできた。
 下級魔法陣のウィンドをエンチャントし直し、夕食後にシルフとの契約を済ませてこの問題は解決した。



 ついでに朱王は自宅に戻った際に持ってきた貴族用ドロップの在庫二つ。
 伝説の逸品は既に手元にないが貴族用ドロップの在庫はまだまだある。
 煌き魔石用の穴を追加工して埋め込んでアニーとリンゼに一つずつプレゼントし、二人の属性に合わせた上級魔法陣もエンチャントして渡した。

 煌き効果を付与されたアニーとリンゼ。
 弱っていたハウザーもリンゼを見てなんだか元気になった。

 アニーは凛とした綺麗な女性なのだが、男らしい性格の為か浮いた話が出てこない。
 そしてこの煌き効果によりなんだか神々しさまで出てしまっている。
 余計に男が寄り付かなくなるのかもしれない。
 それでも煌き効果は好評で、見る者を魅了する力がある。
 リゼ達の煌きを常々羨ましいと思っていたそうで、ドロップを貰ったアニーとリンゼが朱王にベッタリとくっ付いていた。

 その横で頬を膨らませるミリーとハウザーだった。

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