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強化編
059 魔石の使い方
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工房に戻ってフレンチトーストを食べる準備をする。
お昼時なので、千尋とリゼはエイルの食堂にサンドイッチを受け取りに行く。
今朝頼んでおいたのでできているはずだ。
朱王とミリーはフレンチトーストを皿に三つずつ盛り付け、ホイップクリームと解凍されたフルーツで飾る。
アイリは全員分の紅茶を淹れる。
蒼真はフライパンに蓋をしてポンポンと弾けるような音を鳴らしている。
どうやらポップコーンを作っているようだ。
ほんのりバターの香りがして美味しそうだ。
朱雀は人の街を見た事がなかったらしく、工房の中や外の景色を見たりと忙しなく動き回っている。
準備が終わって全員席に着く。
まずはサンドイッチを食べて腹を満たす。
ほとんどの魔力を消費した千尋達は空腹だ。
レイラには大量に作ってくれるように頼んであったのでたくさん食べても無くならない。
朱雀も両手にサンドイッチを持って頬張り、美味しかったようでたくさん食べていた。
腹がある程度満たされたところでフレンチトーストを食べる。
誰もが美味しいと言う中、蒼真は無言で噛みしめるように食べている。
美味しいのだろう、表情が崩れている。
同じような表情をしている朱雀もいたが。
「人間の食事とはなんという…… こんな美味いものを…… 云々」
フレンチトーストを食べ終えるとポップコーンに手が伸びる。
食べ出すとついつい手が伸びてしまうのがポップコーン。
蒼真の好みで少し塩加減が強めだ。
リゼが冷蔵庫から冷えた水を取り出して魔石に魔力を込める。
完成したサイダーをグラスに人数分注ぎ、レモンスライスを入れてテーブルに置いていく。
炭酸を始めて飲む朱雀はビックリした表情をしながらちびちびと飲んでいた。
朱雀はたくさん食べて満足したのか、朱雀丸へ飛び込んで寝てしまった。
誰もが朱雀を子供だなと思った。
ポップコーンとサイダーを手にした朱王。
「これで映画があれば最高なのに……」
「そうだな。映画が見たいな……」
「アニメでもいいよ……」
空を見上げながら物思いにふける男三人。
「エイガってなんですか?」
ミリーが問いかける。
映画などこの世界にはないので当然だ。
「演技をする役者さん達がね、物語の内容に沿って演技をするんだ。その光景を映して保存する事が出来るカメラという物があってね、真っ白な壁に映し出すことで何度でもその物語を観ることができるんだ」
朱王がザックリと説明する。
「物語が見られるんですか?」
ミリーだけでなくアイリも興味津々だ。
「そうだよ。映し出された映像は絵とは違って動くし声も聞こえる、それに音楽も一緒に流れるんだよ」
「ふおぉぉぉお! 楽しそうですねぇ!」
「例えばそうだな……」
朱王は魔石を作り出してイメージを込める。
二つ作ってミリーとアイリに一つずつ渡す。
「目を閉じて額に当てて魔力を込めてみて」
言われた通りに魔力を込める。
十五分ほどコロコロと表情を変えながらも魔力を込め続けたミリーとアイリ。
「すっごーーーい! 何ですかこれは?」
「おもしろかったです! もっと見たいです!」
頬を紅潮させて喜ぶミリーとアイリ。
二人ともお気に召したようだ。
リゼと千尋も手にとって魔力を込める。
「これは以前魔王に自分の記憶から地球の事を見せる為に考えた方法なんだ。イメージだけを切り出して保存する事もできるけど、深層心理から見たものや聞いたものを完全に記録する事もできるんだよ」
「まだ見てないが映像が見えるのか?」
蒼真は順番待ちなので聞いてみる。
「自分視点での世界を記録できるから、映像というより私の記憶を見せる事になるね」
「もっと見せてください!」
「私も見たいです!」
目をキラキラさせて期待するミリーとアイリ。
「えー、何がいいかなぁ」
魔石を作り出して考える朱王。
「ホラーとか良いんじゃないか?」
悪い顔をして言う蒼真だが、ミリーもアイリもホラーが何かわからない。
「なんだかわかりませんがそれでお願いします」
魔石にイメージを込める朱王。
まずは蒼真に渡して見てもらう。
他にも二つ作ってイメージを込め、ミリーとアイリも見始める。
「私は暇になっちゃったな……」
全員朱王の魔石映像を見ているので話し相手がいなくなってしまった。
とりあえずコーヒーを淹れた朱王は、しばらく外を見て時間を潰す。
「蜘蛛男だった!」
見終わった千尋が笑顔で言う。
「私見たのは指輪の主人だったわ!」
頬を紅潮させて言うリゼ。
千尋とリゼは魔石を交換してまた見始める。
「いいな。これは怖いだろう」
見終わった蒼真が悪い顔をしている。
見終わる直前にビクッとしていたので蒼真も少し怖かったのだろうと思う。
少し待ってミリーとアイリが目を開く。
「なんかカッコいい車? 凄いスピードでした!」
「剣士さん強かったですー!」
蒼真はアイリに魔石を渡し、アイリの魔石をミリーに、ミリーの魔石を蒼真が見る。
見始める前に、アイリは一分待ってから見るように言う蒼真。
首を傾げながらも素直に従うアイリ。
「久しぶりに指輪の主人見た!」
「蜘蛛男もおもしろかったわ!」
見終わった千尋もリゼも満足そうだ。
朱王はソファーに寄りかかって寝ている。
少し待つと蒼真とミリーが見終わったようだ。
「レース物もいいな。おもしろい」
「剣士さん強いですね! 蒼真さんみたいに刀を振るってカッコ良かったです!」
しみじみ言う蒼真と今にも叫びそうなミリー。
そして蒼真はアイリを見つめる。
不安そうな表情のアイリ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
盛大な悲鳴をあげて目を開くアイリ。
嬉しそうな蒼真とびっくりして起きる朱王。
「超怖かったです! もう夜一人じゃ寝れません! ミリーさん今夜一緒に寝てください!」
泣きながらミリーに懇願するアイリ。
「子供じゃないんですからダメですよ!」
あっさり断るミリーだが、次に見て自分からアイリにお願いするミリーだった。
「朱王さん。これオレにもできるの?」
「イメージを切り出すだけなら簡単だけど、深層心理から記憶を引き出すのは難しいよ。もし何度でも見たい記憶があるなら残しておいても良いかもね」
「じゃあオレの魔石といくつか交換しない?」
「いいよ。実は千尋君の魔石を大量に欲しいと思ってたんだよね」
「ついでに魔剣にエンチャントもしちゃおう! って大量に?」
「暇な時に作ってくれればいいから交換しようよ。思い出としても記憶を残せるから、たくさんあっても良いだろう?」
「うん! それなら喜んで交換するよ!」
魔石用のアルバムでも作ろうかと考える千尋。
「千尋さん。私のミルニルもエンチャントして欲しいです。激震が良いかなと思うんですけど」
思い出したかのように手を挙げるミリー。
「良いよー。あとオレのとアイリのもエンチャントしよっか」
千尋は宿に魔石を取りに行く。
少し待つと300ガルドの魔石を八十個と、2,000ガルドの魔石を五十個持って来た。
朱王は魔石を頑張って作っている。
アイリは魔剣クラウ・ソラス両方に魔力2,000の魔石で迅雷をエンチャントする。
魔法で電流を発動する事はできるようになったのだが、雷魔法の威力を上げるなら迅雷がいい。
剣に迅雷をエンチャントしてあれば、ヴォルトの威力も上がるだろう。
魔法陣は下級魔法陣を左右に施した。
下級魔法陣が一つだと、一体の精霊分しか魔力を引き出せない為だ。
魔法陣の発動箇所はサーベルの柄頭部分とした。
鞘がミスリル製ではない為、上級魔法陣をエンチャントする空きが無い。
自分にミスリルの持ち物がないか探してみるとすぐに見つかった。
首元に下がっているペンダント、伝説の逸品だ。
魔力2,000ガルドを溜め込むようにエンチャントし、上級魔法陣ボルテクスを組み込んだ。
上級魔法陣は下級精霊の容量を大幅に超えてしまう為、魔力の消費量に威力が追いつかない。
二体の下級精霊に上級魔法陣を使用した場合、かなり効率的に魔力を運用してくれるだろう。
朱王は朱雀丸に火炎をエンチャント。
これで炎の熱量調整が魔力次第となる。
切られた魔獣は切断面から燃え尽きること必至だろうと予想される。
朱雀丸の容量がまだ少しあるようなので、下級魔法陣ファイアをエンチャントした。
朱王の下級魔法陣を見て、蒼真の兼元にも下級魔法陣ウィンドをエンチャントしてもらう。
それを見ていたランが嬉しそうに飛び回る。
ミリーは朱王が火焔をエンチャントした事により自分も同じがいいと言い始める。
朱王がミリーの場合は爆発する炎がいいだろうということで爆炎にした。
そして下級魔法陣ファイアを組み込もうと思ったができなかった。
ミリーに聞くと、精霊であるサラマンダーが翼の生えた火竜であるという。
サラマンダーよりも魔力量が増えてしまったと考えられる。
アイリ同様に伝説の逸品に組み込んだのは上級魔法陣エクスプロージョン。
爆炎系の魔法陣となる。
千尋は魔剣エクスカリバー、魔剣カラドボルグに激震をエンチャント。
千尋の装備は多い。
それぞれの武器に能力や魔法陣、精霊を宿していく。
エンヴィには上級魔法陣グラビトン。
インヴィには上級魔法陣アース。
ベルゼブブには上級魔法陣インプロージョン。
エクスカリバーに精霊リクを移し、下級魔法陣グランドもエンチャント。
カラドボルグにも精霊ノームを契約してシンと名付けた。当然こちらにも下級魔法陣グランドをエンチャントする。
そんなに使うのかと思うほど詰め込んだ千尋だった。
ちなみに地属性の魔法陣。
下級魔法陣はグランドしかないのだが、上級魔法陣は三種類。
物質の強化や操作をするアース。
重力を操るグラビトン。
圧縮のインプロージョン。
他の属性よりも多彩な事ができるのが地属性の良いところかもしれない。
リゼのルシファーは、剣先二枚の刃がフラウ、三枚目から六枚目までがウィンディーネの器としている。
残りの刃十四枚で魔力は3,500ガルド分の空きがある。
千尋から魔力2,000ガルドの魔石をもらって、連結を再エンチャントして魔力量を分割。
二枚ずつで下級魔法陣アイスとウォーターをエンチャントし、さらに八枚を再連結して上級魔法陣ブリザードをエンチャント。
リゼの伝説の逸品にも上級魔法陣アクアも組み込んだ。
「ミリー! 明日も訓練付き合って! また朱王さんに挑むから!」
やはりリゼは負けず嫌いなようだ。
「いいですよ! 魔法陣を使うのが楽しみです!」
強化した装備を試したいのは皆んな同じだ。
「ねぇその前に! 明日は王国に行くよ」
千尋が思い出したかのように言う。
「そういえば聖騎士全員が相当強くなったって書いてあったわね」
「オレも行く! 久しぶりに聖騎士と訓練したい」
蒼真は随分と乗り気なようだ。
「私はザウス王国は行ったことないです!」
「よーし! 王国に行きましょう!」
アイリとミリーも行く気満々だ。
「うん。気を付けて行ってくるんだよ」
笑顔で言う朱王。
「「「ん?」」」
女性陣の頭上にハテナが見える。
「朱王も行くんですよ!」
「そうよ! ミリーの親に挨拶くらいしないと!」
「…… ミリーの家だけでいいかい?」
「朱王様! ザウス王国の者達に会うべきです! きっと会いたがってますから!」
「先週会ったし……」
「朱王さん行きたくないの?」
「どうしてだ?」
何故かみんな朱王を連れて行きたがる。
「私が一緒だとみんなも大変だよ?」
「あ…… そ、そうですね」
アイリが苦笑いで答える。
理由は朱王が王国の騎士団の元を訪れるという事は、王宮に呼ばれて王に謁見する事になる。
「うーん。でも一緒に行こうかな。来月あたりにはまた旅に出るつもりだし、顔を出しておこう」
少し考えてから行く事にした朱王。
「旅に出るんですか?」
ミリーが少し寂しそうな表情をする。
「うん。各国を回るつもりだよ。聖騎士長用に魔剣を作ってるんだけどそれを渡してくるんだ」
「私も行きたいです……」
ボソりと呟くミリー。
「どれくらいの旅になるの?」
千尋が聞いてくる。
「ただ行ってくるだけだと約一ヶ月間かな。まぁそれじゃ済まないだろうから最低でも二カ月はかかると思う」
「オレ達も行っちゃダメかな?」
千尋は他の国も見たいらしい。
「オレも行きたい」
「私もゼスに一度戻りたいです!」
「私も他の国を見て回りたいわ」
全員旅に出たいと言い出した。
「全員で行くなら観光もするかい?」
少し予想していたのか嬉しそうに問う朱王。
「「「「「する(します)!」」」」」
来月、今は月の中ほどなので半月後に旅に出る事が決まった。
お昼時なので、千尋とリゼはエイルの食堂にサンドイッチを受け取りに行く。
今朝頼んでおいたのでできているはずだ。
朱王とミリーはフレンチトーストを皿に三つずつ盛り付け、ホイップクリームと解凍されたフルーツで飾る。
アイリは全員分の紅茶を淹れる。
蒼真はフライパンに蓋をしてポンポンと弾けるような音を鳴らしている。
どうやらポップコーンを作っているようだ。
ほんのりバターの香りがして美味しそうだ。
朱雀は人の街を見た事がなかったらしく、工房の中や外の景色を見たりと忙しなく動き回っている。
準備が終わって全員席に着く。
まずはサンドイッチを食べて腹を満たす。
ほとんどの魔力を消費した千尋達は空腹だ。
レイラには大量に作ってくれるように頼んであったのでたくさん食べても無くならない。
朱雀も両手にサンドイッチを持って頬張り、美味しかったようでたくさん食べていた。
腹がある程度満たされたところでフレンチトーストを食べる。
誰もが美味しいと言う中、蒼真は無言で噛みしめるように食べている。
美味しいのだろう、表情が崩れている。
同じような表情をしている朱雀もいたが。
「人間の食事とはなんという…… こんな美味いものを…… 云々」
フレンチトーストを食べ終えるとポップコーンに手が伸びる。
食べ出すとついつい手が伸びてしまうのがポップコーン。
蒼真の好みで少し塩加減が強めだ。
リゼが冷蔵庫から冷えた水を取り出して魔石に魔力を込める。
完成したサイダーをグラスに人数分注ぎ、レモンスライスを入れてテーブルに置いていく。
炭酸を始めて飲む朱雀はビックリした表情をしながらちびちびと飲んでいた。
朱雀はたくさん食べて満足したのか、朱雀丸へ飛び込んで寝てしまった。
誰もが朱雀を子供だなと思った。
ポップコーンとサイダーを手にした朱王。
「これで映画があれば最高なのに……」
「そうだな。映画が見たいな……」
「アニメでもいいよ……」
空を見上げながら物思いにふける男三人。
「エイガってなんですか?」
ミリーが問いかける。
映画などこの世界にはないので当然だ。
「演技をする役者さん達がね、物語の内容に沿って演技をするんだ。その光景を映して保存する事が出来るカメラという物があってね、真っ白な壁に映し出すことで何度でもその物語を観ることができるんだ」
朱王がザックリと説明する。
「物語が見られるんですか?」
ミリーだけでなくアイリも興味津々だ。
「そうだよ。映し出された映像は絵とは違って動くし声も聞こえる、それに音楽も一緒に流れるんだよ」
「ふおぉぉぉお! 楽しそうですねぇ!」
「例えばそうだな……」
朱王は魔石を作り出してイメージを込める。
二つ作ってミリーとアイリに一つずつ渡す。
「目を閉じて額に当てて魔力を込めてみて」
言われた通りに魔力を込める。
十五分ほどコロコロと表情を変えながらも魔力を込め続けたミリーとアイリ。
「すっごーーーい! 何ですかこれは?」
「おもしろかったです! もっと見たいです!」
頬を紅潮させて喜ぶミリーとアイリ。
二人ともお気に召したようだ。
リゼと千尋も手にとって魔力を込める。
「これは以前魔王に自分の記憶から地球の事を見せる為に考えた方法なんだ。イメージだけを切り出して保存する事もできるけど、深層心理から見たものや聞いたものを完全に記録する事もできるんだよ」
「まだ見てないが映像が見えるのか?」
蒼真は順番待ちなので聞いてみる。
「自分視点での世界を記録できるから、映像というより私の記憶を見せる事になるね」
「もっと見せてください!」
「私も見たいです!」
目をキラキラさせて期待するミリーとアイリ。
「えー、何がいいかなぁ」
魔石を作り出して考える朱王。
「ホラーとか良いんじゃないか?」
悪い顔をして言う蒼真だが、ミリーもアイリもホラーが何かわからない。
「なんだかわかりませんがそれでお願いします」
魔石にイメージを込める朱王。
まずは蒼真に渡して見てもらう。
他にも二つ作ってイメージを込め、ミリーとアイリも見始める。
「私は暇になっちゃったな……」
全員朱王の魔石映像を見ているので話し相手がいなくなってしまった。
とりあえずコーヒーを淹れた朱王は、しばらく外を見て時間を潰す。
「蜘蛛男だった!」
見終わった千尋が笑顔で言う。
「私見たのは指輪の主人だったわ!」
頬を紅潮させて言うリゼ。
千尋とリゼは魔石を交換してまた見始める。
「いいな。これは怖いだろう」
見終わった蒼真が悪い顔をしている。
見終わる直前にビクッとしていたので蒼真も少し怖かったのだろうと思う。
少し待ってミリーとアイリが目を開く。
「なんかカッコいい車? 凄いスピードでした!」
「剣士さん強かったですー!」
蒼真はアイリに魔石を渡し、アイリの魔石をミリーに、ミリーの魔石を蒼真が見る。
見始める前に、アイリは一分待ってから見るように言う蒼真。
首を傾げながらも素直に従うアイリ。
「久しぶりに指輪の主人見た!」
「蜘蛛男もおもしろかったわ!」
見終わった千尋もリゼも満足そうだ。
朱王はソファーに寄りかかって寝ている。
少し待つと蒼真とミリーが見終わったようだ。
「レース物もいいな。おもしろい」
「剣士さん強いですね! 蒼真さんみたいに刀を振るってカッコ良かったです!」
しみじみ言う蒼真と今にも叫びそうなミリー。
そして蒼真はアイリを見つめる。
不安そうな表情のアイリ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
盛大な悲鳴をあげて目を開くアイリ。
嬉しそうな蒼真とびっくりして起きる朱王。
「超怖かったです! もう夜一人じゃ寝れません! ミリーさん今夜一緒に寝てください!」
泣きながらミリーに懇願するアイリ。
「子供じゃないんですからダメですよ!」
あっさり断るミリーだが、次に見て自分からアイリにお願いするミリーだった。
「朱王さん。これオレにもできるの?」
「イメージを切り出すだけなら簡単だけど、深層心理から記憶を引き出すのは難しいよ。もし何度でも見たい記憶があるなら残しておいても良いかもね」
「じゃあオレの魔石といくつか交換しない?」
「いいよ。実は千尋君の魔石を大量に欲しいと思ってたんだよね」
「ついでに魔剣にエンチャントもしちゃおう! って大量に?」
「暇な時に作ってくれればいいから交換しようよ。思い出としても記憶を残せるから、たくさんあっても良いだろう?」
「うん! それなら喜んで交換するよ!」
魔石用のアルバムでも作ろうかと考える千尋。
「千尋さん。私のミルニルもエンチャントして欲しいです。激震が良いかなと思うんですけど」
思い出したかのように手を挙げるミリー。
「良いよー。あとオレのとアイリのもエンチャントしよっか」
千尋は宿に魔石を取りに行く。
少し待つと300ガルドの魔石を八十個と、2,000ガルドの魔石を五十個持って来た。
朱王は魔石を頑張って作っている。
アイリは魔剣クラウ・ソラス両方に魔力2,000の魔石で迅雷をエンチャントする。
魔法で電流を発動する事はできるようになったのだが、雷魔法の威力を上げるなら迅雷がいい。
剣に迅雷をエンチャントしてあれば、ヴォルトの威力も上がるだろう。
魔法陣は下級魔法陣を左右に施した。
下級魔法陣が一つだと、一体の精霊分しか魔力を引き出せない為だ。
魔法陣の発動箇所はサーベルの柄頭部分とした。
鞘がミスリル製ではない為、上級魔法陣をエンチャントする空きが無い。
自分にミスリルの持ち物がないか探してみるとすぐに見つかった。
首元に下がっているペンダント、伝説の逸品だ。
魔力2,000ガルドを溜め込むようにエンチャントし、上級魔法陣ボルテクスを組み込んだ。
上級魔法陣は下級精霊の容量を大幅に超えてしまう為、魔力の消費量に威力が追いつかない。
二体の下級精霊に上級魔法陣を使用した場合、かなり効率的に魔力を運用してくれるだろう。
朱王は朱雀丸に火炎をエンチャント。
これで炎の熱量調整が魔力次第となる。
切られた魔獣は切断面から燃え尽きること必至だろうと予想される。
朱雀丸の容量がまだ少しあるようなので、下級魔法陣ファイアをエンチャントした。
朱王の下級魔法陣を見て、蒼真の兼元にも下級魔法陣ウィンドをエンチャントしてもらう。
それを見ていたランが嬉しそうに飛び回る。
ミリーは朱王が火焔をエンチャントした事により自分も同じがいいと言い始める。
朱王がミリーの場合は爆発する炎がいいだろうということで爆炎にした。
そして下級魔法陣ファイアを組み込もうと思ったができなかった。
ミリーに聞くと、精霊であるサラマンダーが翼の生えた火竜であるという。
サラマンダーよりも魔力量が増えてしまったと考えられる。
アイリ同様に伝説の逸品に組み込んだのは上級魔法陣エクスプロージョン。
爆炎系の魔法陣となる。
千尋は魔剣エクスカリバー、魔剣カラドボルグに激震をエンチャント。
千尋の装備は多い。
それぞれの武器に能力や魔法陣、精霊を宿していく。
エンヴィには上級魔法陣グラビトン。
インヴィには上級魔法陣アース。
ベルゼブブには上級魔法陣インプロージョン。
エクスカリバーに精霊リクを移し、下級魔法陣グランドもエンチャント。
カラドボルグにも精霊ノームを契約してシンと名付けた。当然こちらにも下級魔法陣グランドをエンチャントする。
そんなに使うのかと思うほど詰め込んだ千尋だった。
ちなみに地属性の魔法陣。
下級魔法陣はグランドしかないのだが、上級魔法陣は三種類。
物質の強化や操作をするアース。
重力を操るグラビトン。
圧縮のインプロージョン。
他の属性よりも多彩な事ができるのが地属性の良いところかもしれない。
リゼのルシファーは、剣先二枚の刃がフラウ、三枚目から六枚目までがウィンディーネの器としている。
残りの刃十四枚で魔力は3,500ガルド分の空きがある。
千尋から魔力2,000ガルドの魔石をもらって、連結を再エンチャントして魔力量を分割。
二枚ずつで下級魔法陣アイスとウォーターをエンチャントし、さらに八枚を再連結して上級魔法陣ブリザードをエンチャント。
リゼの伝説の逸品にも上級魔法陣アクアも組み込んだ。
「ミリー! 明日も訓練付き合って! また朱王さんに挑むから!」
やはりリゼは負けず嫌いなようだ。
「いいですよ! 魔法陣を使うのが楽しみです!」
強化した装備を試したいのは皆んな同じだ。
「ねぇその前に! 明日は王国に行くよ」
千尋が思い出したかのように言う。
「そういえば聖騎士全員が相当強くなったって書いてあったわね」
「オレも行く! 久しぶりに聖騎士と訓練したい」
蒼真は随分と乗り気なようだ。
「私はザウス王国は行ったことないです!」
「よーし! 王国に行きましょう!」
アイリとミリーも行く気満々だ。
「うん。気を付けて行ってくるんだよ」
笑顔で言う朱王。
「「「ん?」」」
女性陣の頭上にハテナが見える。
「朱王も行くんですよ!」
「そうよ! ミリーの親に挨拶くらいしないと!」
「…… ミリーの家だけでいいかい?」
「朱王様! ザウス王国の者達に会うべきです! きっと会いたがってますから!」
「先週会ったし……」
「朱王さん行きたくないの?」
「どうしてだ?」
何故かみんな朱王を連れて行きたがる。
「私が一緒だとみんなも大変だよ?」
「あ…… そ、そうですね」
アイリが苦笑いで答える。
理由は朱王が王国の騎士団の元を訪れるという事は、王宮に呼ばれて王に謁見する事になる。
「うーん。でも一緒に行こうかな。来月あたりにはまた旅に出るつもりだし、顔を出しておこう」
少し考えてから行く事にした朱王。
「旅に出るんですか?」
ミリーが少し寂しそうな表情をする。
「うん。各国を回るつもりだよ。聖騎士長用に魔剣を作ってるんだけどそれを渡してくるんだ」
「私も行きたいです……」
ボソりと呟くミリー。
「どれくらいの旅になるの?」
千尋が聞いてくる。
「ただ行ってくるだけだと約一ヶ月間かな。まぁそれじゃ済まないだろうから最低でも二カ月はかかると思う」
「オレ達も行っちゃダメかな?」
千尋は他の国も見たいらしい。
「オレも行きたい」
「私もゼスに一度戻りたいです!」
「私も他の国を見て回りたいわ」
全員旅に出たいと言い出した。
「全員で行くなら観光もするかい?」
少し予想していたのか嬉しそうに問う朱王。
「「「「「する(します)!」」」」」
来月、今は月の中ほどなので半月後に旅に出る事が決まった。
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