器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

文字の大きさ
上 下
50 / 297
強化編

049 アイリ

しおりを挟む
 いつものように六時にはテラスにいる千尋。
 そしてリゼとミリー、今日はアイリも一緒だ。
 コーヒーを飲みながら他愛もない話をする。

 アイリはリゼから千尋の事をいろいろ聞かされたので、ある程度は千尋を知っている。
 女の子のような容姿をし、何でも出来てしまう器用な人間。
 アイリも身近に何でも出来る人間をよく知っている。
 クリムゾンの長、朱王だ。
 彼ほどの能力をこの千尋も持っているというのは俄かには信じがたい。
 しかし、ここにいる彼等は聞いていた情報そのままの実力を兼ね備えている。

「千尋さんとリゼさんは普段工房にいるんですか?」

「そうだよ。ミスリルの武器を作ってるんだ」

「蒼真さんとミリーさんは冒険に出るんですよね?」

「そうです。他のパーティーに混ざったりもしますよ!」

「私はミリーさんと蒼真さんに着いて行けば良いんでしょうか?」

「朱王さんはそう言ってましたね」

「蒼真さんとはあまり話せてないんですが、どんな方ですか?」

「強くて優しい人ですよ。ただし…… 教えは厳しいです!」

「ちょっと怖いですね……」

「安心してください。私が回復しますから!」

「…… 危険な匂いがします」

「アイリの強さに合わせてくれると思うよ?」

「蒼真は頭も良いからいろいろ教えてもらうと良いわよ」

 何となく不安を拭い切れないアイリだった。



 時計をチラチラ見ているミリー。

「たっ、頼まれてたので朱王さんを起こしてきます!」

 頬を赤くして、足早に朱王の部屋に行く。

「なんでミリーさんは赤面してたんでしょう?」

「昨日の夜も真っ赤だったわね」

「チューでもしたんじゃないの?」

「「え!?」」

「ミリーったらそういう事なのね!?」

「ああ…… 朱王様……」

「今夜も女子会ね!」

「やめてあげなよ……」

 女子って何でこうなんだろ、と思う千尋だった。



 朱王の部屋をノックするミリー。

 返事がなかったら入って良いと言われていたので部屋に入る。
 鍵を掛けずに不用心だなとも思ったが、朱王なら余程のことがない限りは大丈夫だろう。
 ベッドの側まで行くミリー。
 ベッドに腰をかけて朱王の肩を揺する。

「朱王さん。起きてください。もうすぐ七時ですよ」

 優しく声をかけるミリー。
 しかし朱王は起きようとしない。

「朱王さん! 朝ですよ!」

 声を高くして肩を揺する。

「う…… ん…… んん? ミリーさん?」

 寝惚けながらミリーを見る朱王。

「おはようございます。起こしに来ましたよ」

 笑顔で言うミリーを見つめ、頬に手を添える。

「綺麗だね。抱き締めてもいい?」

 言って答えを聞く前にミリーを抱き寄せる。
 朱王の温もりを感じ、ミリーの鼓動は高鳴る。
 顔が熱い。
 朱王の左肩に顔を乗せ、ミリーも朱王の背に腕を回す。
 そっと髪の隙間から指が通り、後頭部に手が添えられる。
 肩から顔を離し、朱王を見つめると笑顔が返ってくる。
 ミリーも笑顔を返すと顔を引き寄せられる。
 目を閉じたミリー。
 触れ合う唇。
 少しの間をおいて唇を離しまた見つめ合う。
 そして再び唇を重ねる。



 ふと気付けば七時を十分ほど過ぎていた。
 時間を見て笑い、最後に抱きしめ合ってお互いに気持ちを告げる。

「皆んないるからあまり待たせるわけにもいかないね」

 顔を洗って着替えをする朱王。

「私はすでに待たせてしまってますけど……」

「本当はもっとこうしていたいんだけどね。今日はやめておくよ」

「はぅぅ……」

 真っ赤な顔をして黙り込むミリー。
 刀を持って準備が終わった朱王。





 食堂に行くと千尋達は朝食を食べ始めていた。

 ニヤニヤとミリーを見つめるリゼ。
 気にせず隣に座り、朝食を食べ始める。

 ミリーの向かいには朱王が座り、朱王の横にはアイリが座る。
 耳元で質問してくるアイリに、朱王は頷いている。
 少し落ち込んだ様子を見せるアイリだった。
 それを見たリゼもミリーに耳元で質問し、赤面しながらも「そうですよ!」と言い切った。
 リゼも赤面しながら「羨ましい!」と言う。
 蒼真も起きていて朝食を食べている。
 アイリの装備を見て、今日は先に買い物に行くと言っていた。

 ハウザー達もその後食堂に来て挨拶を交わし、アニーとリンゼは今夜の女子会に誘われていた。



「じゃあそろそろ私は行くね。蒼真君、アイリをよろしく頼むよ」

 朝食を終えて席を立つ朱王。

「ビシバシ鍛えておくから任せてくれ」

 真顔で言う蒼真。

「ひぃぃ。やっぱり怖いです……」

 怯えるアイリを見てニヤリとする蒼真。

 千尋とリゼも挨拶を交わし、リゼがミリーを前に差し出す。

「私は書類をまとめてブレスレットを作ったらまた会いに来るよ」

「むぅ…… 毎日来てもいいですけど」

 少し拗ねた表情をするミリーを朱王は抱き締める。
 リゼやアイリは赤面して顔を押さえていた。
 ミリーを離し、頭を撫でて「またね」と言う朱王。
 人前で抱き締められたのは恥ずかしいが、何だか物足りなそうな表情のミリーだった。



 朱王を見送ってミリーに抱きつくリゼ。

「くぅぅう! 羨ましい!」

「リゼさんに抱き締められても何も感じませんね!」

「私にもお願いします」

 女性陣はとても仲が良い。
 コクコクと頷く千尋と蒼真。
 とても目の保養になる光景である。



 千尋とリゼは今日からまた新しい武器作り。

 蒼真とミリー、アイリは役所へ向かう。

「ところでアイリは冒険者じゃないよな?」

「はい。冒険者登録もしてないです」

「まずは役所で登録してくるか」

「その後は防具屋さんで装備を選びますよ! 楽しみですねぇ!」



 役所の受付でアイリの冒険者登録をする。
 蒼真達と一緒の為、カリファから質問を受ける。

「蒼真さんと来たという事はある程度の実力があると判断できますが、これまでは何かなさってましたか?」

「クリムゾンの隊員です……」

 小さく呟いたアイリ。

「で、では所長とお話しして頂きますので少々お待ちください!!」

 慌てて駆け出すカリファ。

「クリムゾンは有名なのか?」

「各国で知られています。ただ朱王様の事はあまり知られていません。各国人間同士の争いがないのもクリムゾンの存在は大きいのです」

「なんで朱王さんは知られていないんだ?」

「朱王様の居場所が魔族に判明する。それは魔族の襲撃を受ける可能性が高い事を示します。街どころか国全体が危険に晒される事を懸念して、朱王様は隠れるようにして暮らしているんです」

「こう言ってはなんだが目立ってるよな」

「はい…… あれで隠れているつもりなところも素敵です」

「部下の目には分厚いフィルターが掛かってるんだな」

「どういう意味でしょう?」

 フィルターの意味をアイリは知らない。



「アイリさんお待たせしました! 所長室へお入りください!」

 カリファが戻って来て所長室へと促し、蒼真とミリーも同伴する。

「はじめまして。私はここの所長、アブドルと言います。クリムゾンゼス本部のアイリさんと言えば大幹部ではないですか! アイリさん程の方にお会いできるとは光栄です」

 所長で歳上のアブドルがアイリに敬語を使う。
 この世界では珍しい目上の者に対する言葉遣いだ。

「幹部といってもマネージャーという立場です。アブドルさん、私の事はアイリとお呼びください。皆さんと同じように普通の冒険者として扱って頂けますか?」

「わかりま…… いや、わかった。一冒険者として扱わせてもらおう。それで冒険者登録して早々だがアイリさんにはブルーランク以上になってもらいたい。難易度6以上のクエストをクリアしてくれないかね?」

「どうしてそんな急くのでしょう?」

「蒼真君達のパーティーだからね。他の者の目というのがあるので、期待の新人としていて貰わないと困るんだ」

「…… なるほど。わかりました。お気遣い感謝します」

 アイリは頭の回転が早い。
 蒼真やミリーの強さであれば、パーティー内に入りたいと思っている冒険者も多い。
 そこに急に現れたアイリが低いランクでいるのであれば、他の冒険者から良くは思われないだろう。
 アブドルがアイリを気遣って言ってくれた事を察し、お礼の言葉も告げた。



 クエストボードの前に立つ三人。

「難易度6か…… オレ達が手伝わずに倒せる魔獣モンスターだとすれば……」

「そもそも実力すらわかりませんよ?」

「ミリーさんには遠く及びません」

「まだレッドランクだし受けれるのは少ない。砂漠で適当に魔獣を狩ろう。まずはサンドラットのクエストでも受けようか」

 クエスト内容:サンドラット捕獲
 場所:アルテリア東部砂漠地帯
 報酬:一体につき2,000リラ
 注意事項:魔石に還さない事(食用)
 難易度::1



 クエストを受注して防具屋へ向かう。

「アイリさんは綺麗なお顔ですからね! 選び甲斐があります!」

 拳を握り締め、気合いを入れるミリー。

 アイリが使用するのは両手剣。
 元々戦闘は魔法のみだったのだが、朱王が一振りのミスリル剣を渡してきたのでそれを使用する。
 どう見ても一級品なのだが、武器を購入した事もないアイリは金額など知るはずもない。

 蒼真、ミリー、アイリはそれぞれ良いと思う装備を選んで持ち寄った。

 アイリが選んだのは黒がメインの装備。
 朱王を思わせるような全身黒の装備だ。
 朱王は普段防具などは一切付けていないが、地球的なパンクな服装をしている。
 できる限りそれに似せようとした装備を選んだアイリ。



 ミリーが選んだのは白と黒を基調とした装備。
 白いシャツに黒の胸当て。
 灰色チェック柄のスカートに黒のブーツと白いニーソックス。
 差し色に濃いめの紫のラインが入っている。



 蒼真が選んだのは黒と薄紫の装備。
 薄紫のミスリルウェアは胸元が大きく開き、大人っぽさがある。
 短めの黒いスカートには紫のライン。
 薄紫のニーソックスに黒いブーツ。
 上下に分かれた黒いローブには紫の装飾が入る。



「むぅ…… 蒼真さん、やりますね……」

「私のには何も言ってくれないんですか!?」

「全身黒は却下です」

「ミリーが選んだのも良いがどうする?」

「蒼真さんので行きましょう! 私のより可愛い気がします!」

 支払いは蒼真が済ませる。
 朱王からお金はもらっていたので当然だが、アイリは知らなかったので焦っている。

「着替えを済ませたら行くぞ」



 アイリは試着室で着替えて出てくる。

「ふぉぉぉお!! 可愛いですね! なんだか美人なのに可愛いさが出ましたよ!」

「あとはこれだ。ミリー、付けてやれ」

 黒と紫の髪飾りだ。
 薄紫の髪によく映える。
 アイリもミリーのように髪がキラキラと煌めいており、リゼやミリーと一緒にいるなら使うべきと思い朱王が持たせたのだ。

「なんだか蒼真さんに負けた気分ですよ……」

「に、似合いますか?」

「ああ、オレ好みに仕上がった」

「なるほど。蒼真さん好みに選んでたんですか…… って、自分好みにしてどうするんですか!?」

「朱王様の好みにして欲しいです……」

「それもダメです!」

「まぁ似合ってるし問題ないだろ?」

「むぅ…… まぁ確かに可愛いですね」

 武器屋を後にして、クエスト前に少し早めの昼食を摂る。

 東部にある店では、薄く伸ばされた生地に食材を乗せ、チーズをかけて焼く料理、ピザが食べられる。
 三人違う食材で注文し、三分の一ずつ交換して三つの味を楽しんだ。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...