48 / 297
強化編
047 馬の骨
しおりを挟む
ドロロロロロロロロロ…… ガチャリ。
朱王が運転席から降りて来る。
「ただいま! やっと着いたよー」
笑顔で話しかけてくる朱王。
「お帰りなさい朱王さん! っわぁ!?」
リゼに突き飛ばされたミリーは朱王の手に支えられる。
赤面するミリーに「大丈夫?」と笑顔で問う朱王。
再びガチャリ。
車の左側の席からも誰かが降りて来た。
歳の頃はリゼと同じくらいであろう一人の女の子。
薄紫の髪を腰まで長く伸ばし、黄緑がかった目は凛としてミリーを見つめている。
白いローブを羽織り、身長は165センチほどのとても綺麗な女の子だ。
「アイリ。ご挨拶をしなさい」
「皆様はじめまして。私はアイリと申します。皆様お見知り置きを。ところであなたは…… 朱王様とはどういう関係ですか?」
ミリーに向かって問うアイリ。
「私はミリーです。朱王さんの…… ゆ、友人です!」
「今はね」
笑顔で朱王が付け足す。
「朱王様。御自分の立場をお考えください。我々の主人である貴方様が何処の馬の骨ともわからない娘に現を抜かすなどあってはなりません!」
はぁ…… と溜め息を漏らす朱王。
「馬なんてこの世界にはいないけどね。ゴメンね、ミリーさん。アイリがどうしてもと言うから連れて来たんだけど、ミリーさんに迷惑をかけてしまいそうだよ」
「朱王様。貴方様に好意を寄せる部下が大勢いる中、何故そちらのミリーさんなのですか!?」
「何故? …… 何故だろうね。好きになるのに理由がいるのかな?」
顎に手を当てて考える朱王。
「な、なんだか恥ずかしいですね……」
顔を赤くしたミリーは少し期待した表情で朱王を見る。
ニヤニヤと傍観をきめ込んでいるリゼは放っておく。
「そうだね、一緒にいて楽しいからかな。まぁ見た目も好みだけどね。顔も可愛いしスタイルだって鍛えられてるのかすごく良い。腰がキュッと引き締まってて、胸のかたっ…… むぐぐっ」
「うわぁ!? それ以上はやめてください!」
余計に顔を赤くして朱王の口を押さえるミリー。
「立ち話も何だしとりあえず中に入ってよ」
リゼが工房に入るよう促す。
笑顔で言うリゼはなんだか普段よりもご機嫌な様子だ。
ソファに座り、コーヒーを受け取る朱王とアイリ。
ゼス特産のお土産、チョコレートの詰め合わせを人数分差し出す。
あとは今食べる分としてもう一つテーブルに出す。
「ゼスはチョコレートで有名なんだ。この辺には売ってないでしょ?」
甘党のパーティーが喜ばないはずはない。
お礼を言って早速テーブルに置かれたチョコに手を伸ばす。
「朱王さん、刀完成してるよ!」
千尋が工房に置いてあった刀を持って来て手渡す。
渡す瞬間に刀に溜まった自分の魔力を一気に引き抜く。
「わぁ。これは見るのが楽しみだね!」
嬉しそうに受け取る朱王。
「朱王様が武器を頼んだんですか!?」
「うん、そうだよ。あれ? なんかすごい魔力を吸われたような…… あと長いし大きいような……」
鞘から刀を抜き取る。
「おお…… すごい綺麗に仕上がってるね! ただ図面よりもかなり大きいよね?」
「うん! せっかくのミスリルの塊だったから目一杯大きくしてみたんだ! あと今まで見てきたミスリルとは違う性質もあったから、その部分だけで作り込んでみたよ!」
「さすが千尋君だね。見た目も良いが、あの塊の一番魔力の高いところを使ってる。完璧だよ!」
満足そうに刀を眺める朱王。
アイリもじっくりと朱王の刀を見つめている。
「あ、そうだ。朱王さんさぁ、魔力の色はそのブレスレットの能力なの?」
千尋は朱王の手首を指差して問いかける。
「あの一瞬で気付いたの? そう、これは発売前の新作で魔力に色を付けられるアイテムだよ」
「オレは青があったら欲しい」
蒼真も気付いていたようだ。
朱王が以前蒼真やリゼと戦った際に一瞬だけ魔法を発動したのだが、剣に緑色の炎を纏っていた。
「そんなのあるんですか!? 私も欲しいです!」
ミリーは身を乗り出して手を挙げる。
「私あの時頭に血が上ってたのよね…… 朱王さん、良ければ見せてくれないかしら?」
「いいけどまた攻撃してこないでね?」
笑いながら答える朱王は、外に出て刀を抜いて魔力を練る。
風魔法を発動して剣から放出すると、刀身から輝く緑色の刃が現れる。
「少し癖があるけど…… すごいねこれ。加減が難しいかも」
朱王も驚くほどの性能だ。
試しに刀を振るってみる。
朱王の剣舞はとてつもなく速い。
風魔法を発動してるのも相まって朱王を中心に爆風が舞う。
緑色の光の乱舞は美しく、見る者を魅了する。
「うん、いいね。重さも大きさも気にならない。バランスも良いからか振られる感じもしないし魔力も安定してる」
乱舞を終えた朱王は刀を鞘に収める。
「ありがとう千尋君、リゼさん。最高の刀だよ! ところで名前は? つけてあるんだよね?」
「あはは。気に入ってくれて良かった! 銘は朱雀丸。魔力を吸い上げる妖刀だよ!」
「魔力に色が付くとすごく綺麗ね…… 私も一つ欲しいわ」
リゼも欲しくなったようだ。
「今はこれしか無いからね。皆んなの分を作ったらプレゼントするよ」
「朱王様。その剣…… カタナ? は彼等が作ったんですか?」
マジマジと刀を眺めたアイリが問う。
「そうだよ。すごい良い腕だよね!」
「少し見直しました。でもミリーさんの事はまだ認めてませんよ!」
「認めないって言ってもねぇ……」
「朱王様のお側にいるのなら、まずは強くないといけません!」
「たぶんうちの組織の誰よりも強いと思うよ?」
「そんなはずはありません!」
「蒼真君やリゼさんと以前剣を交えてみたけど、魔族相手でも問題なく勝てるレベルだったよ?」
「ミリーさんとは交えてないんですよね?」
「ミリーならオレ達と同等の強さだぞ」
蒼真が口を挟む。
「それに性格も良いよね」
千尋も口を挟む。
「可愛いしスタイルもいいわよ」
リゼも口を挟む。
「もっと褒めて欲しいです!」
さらに要求するミリー。
「口では何とでも言えます。証拠を見せて頂けないと納得できません!」
「それじゃあミリーさん。申し訳ないんだけどアイリの相手してくれないかな?」
「はい、良いですよ!」
「え!? ちょっと待っ!? 朱王様がミリーさんと模擬戦お願いします! 組織には私より強い者もおりますので!」
「…… まじですか!?」
「ミリーなら大丈夫だ」
蒼真が勝手に決めつける。
「ゴメンね、ミリーさん」
以前と同じ西側の岩場に立つ朱王とミリー。
ミリーはメイスを構えて魔力を放出する。
朱王は刀を持って強化する。
「朱王さんは朱雀丸だけどミリーは平気かな?」
「エンヴィの比じゃないわよ?」
「もしかして早まったか?」
「朱王様の強化は魔法攻撃以上ですからね」
朱王がゆらりと駆け出し、横薙ぎの一撃を打ち込む。
ミリーはメイスで防御するが弾き飛ばされる。
普段通りの魔力では受けきれない。
そう判断したミリーは防御にも魔力量を増やす事にする。
再び駆け寄る朱王の攻撃。
袈裟斬りに振り下ろし、ミリーはメイスで受ける。
しっかりと相殺できている事を確認し、朱王は次々と斬り込んでいく。
朱王に操作された刀は恐ろしく速いが、全てを捌き受けきるミリー。
そこからさらに反撃を繰り出す。
朱王の攻撃に反撃をする事は容易ではない。
速いだけではない、魔法攻撃並みの重い連撃。
ミリーは全ての攻撃を爆破で相殺し、さらに反撃の際には空気中の爆裂魔法でメイスを加速させる。
スピードのないミリーが自ら編み出した戦い方だ。
ミリーの攻撃は千尋達他のメンバーに比べて攻撃力が高い。
防御以上に爆破も強く、反撃を受ける朱王も刀を弾かれる程の威力だ。
お互い距離を取ることもなく打ち合う事数分。
「もういいんじゃない?」
「そうですか? アイリさん納得しますかね?」
「私とこんな長時間張り合える人はそうそういないからね。充分だと思うよ?」
魔力を収める朱王。
ミリーも戦闘状態を解く。
「ミリーって体力あるわよね……」
「パワーもあるよな」
「精霊なしであの強さだもんね」
「朱王様とまともに戦えるだけでも普通じゃないです。認めざるを得ませんね……」
落ち込むアイリ。
アイリは今回、組織の女性陣の代表として朱王について来た。
ミリーの事を楽しそうに話す朱王。
組織内では抜け駆けが禁止されていたのにも関わらず、余所者であるミリーの存在が浮かび上がった。
これは一大事。
誰かミリーという人物の調査をしなければ!
そんなわけでアイリがついて来たのだ。
アイリはゼスを拠点とする幹部の一人。
実力も組織内では上位であるものの、朱王が相手では戦いにすらならない。
今見たミリーの実力は、アイリの知る限り朱王を除いては最強と言えるほどのものだった。
そのミリーと同等の実力を持つという四人の冒険者に、アイリは戦慄を覚える。
「アイリ。せっかくアルテリアに来たんだ。ゼスはサフラ達に任せてしばらく滞在するか?」
落ち込んで俯くアイリに声をかける朱王。
「い、いいんですか!?」
少し涙目だったアイリに笑顔が戻る。
「まぁ私の仕事を手伝ってもらうけどね」
「ありがとうございます!!」
満面の笑みでお礼を言う。
「で、ミリーさんの事は認めてくれるんだね?」
「はい…… 実力だけは申し分ありません」
言って視線を逸らすアイリに、朱王は頬を摘んで引っ張る。
「なかなか強情な子だなぁ。少し稽古をつけてやろうか?」
笑顔で頬をグイグイ引っ張る。
「いひゃい! いひゃいれふ!」
「わぁ! ダメですよ朱王さん! 女の子の顔を痛くしてはいけません!」
朱王の手を払い、アイリの背後から頬に回復魔法をかけるミリー。
回復するほどの事ではないのだが。
「ミ、ミリーさんはヒーラーなんですか?」
驚いた表情で問うアイリ。
「そうなんですよ。親がヒーラーなので!」
アイリの頬を揉むミリー。
「まさか…… ヒーラーであの強さとか反則ですよ……」
力なく嘆くアイリの頬を揉むミリー。
「何という手触り! すごく伸びます!」
すべすべでモチモチで伸びる頬のアイリ。
リゼもアイリの頬に触ってみる。
「朱王さん、アイリはどこに泊めるの?」
「エイルはまだ空きあるよね? 今日は私も話があるから泊まっていこうと思うし、そのままアイリは宿をとればいいかな」
「ええ!? 朱王様のご自宅じゃないんですか?」
「それは許せません!」
とりあえず宿泊できるか確認をする為、エイルに戻る事にした。
空き部屋は幾つかあり、一人部屋、二人部屋、三人部屋がある。
アイリは朱王と二人部屋と言っていたが却下され、リゼとミリーがチェックアウトしてアイリと三人部屋を借りる。
三人部屋の料金は一泊80,000リラ。
二人部屋をさらに広くし、ベッドのサイズも大きい。
ソファやテーブルも大きく、千尋達が集まってもゆっくりとくつろげるだけの広さがある。
お風呂場の湯船もまた大きく、三人一緒に入る事も可能な大きさだ。
朱王は今日だけの宿泊という事で一人部屋。
車は倉庫が空いていたので入れさせてもらった。
別に外に停めてあっても盗難などの心配はないのだが、とにかく目立つ。
とりあえず閉まっておこうという事になった。
朱王が運転席から降りて来る。
「ただいま! やっと着いたよー」
笑顔で話しかけてくる朱王。
「お帰りなさい朱王さん! っわぁ!?」
リゼに突き飛ばされたミリーは朱王の手に支えられる。
赤面するミリーに「大丈夫?」と笑顔で問う朱王。
再びガチャリ。
車の左側の席からも誰かが降りて来た。
歳の頃はリゼと同じくらいであろう一人の女の子。
薄紫の髪を腰まで長く伸ばし、黄緑がかった目は凛としてミリーを見つめている。
白いローブを羽織り、身長は165センチほどのとても綺麗な女の子だ。
「アイリ。ご挨拶をしなさい」
「皆様はじめまして。私はアイリと申します。皆様お見知り置きを。ところであなたは…… 朱王様とはどういう関係ですか?」
ミリーに向かって問うアイリ。
「私はミリーです。朱王さんの…… ゆ、友人です!」
「今はね」
笑顔で朱王が付け足す。
「朱王様。御自分の立場をお考えください。我々の主人である貴方様が何処の馬の骨ともわからない娘に現を抜かすなどあってはなりません!」
はぁ…… と溜め息を漏らす朱王。
「馬なんてこの世界にはいないけどね。ゴメンね、ミリーさん。アイリがどうしてもと言うから連れて来たんだけど、ミリーさんに迷惑をかけてしまいそうだよ」
「朱王様。貴方様に好意を寄せる部下が大勢いる中、何故そちらのミリーさんなのですか!?」
「何故? …… 何故だろうね。好きになるのに理由がいるのかな?」
顎に手を当てて考える朱王。
「な、なんだか恥ずかしいですね……」
顔を赤くしたミリーは少し期待した表情で朱王を見る。
ニヤニヤと傍観をきめ込んでいるリゼは放っておく。
「そうだね、一緒にいて楽しいからかな。まぁ見た目も好みだけどね。顔も可愛いしスタイルだって鍛えられてるのかすごく良い。腰がキュッと引き締まってて、胸のかたっ…… むぐぐっ」
「うわぁ!? それ以上はやめてください!」
余計に顔を赤くして朱王の口を押さえるミリー。
「立ち話も何だしとりあえず中に入ってよ」
リゼが工房に入るよう促す。
笑顔で言うリゼはなんだか普段よりもご機嫌な様子だ。
ソファに座り、コーヒーを受け取る朱王とアイリ。
ゼス特産のお土産、チョコレートの詰め合わせを人数分差し出す。
あとは今食べる分としてもう一つテーブルに出す。
「ゼスはチョコレートで有名なんだ。この辺には売ってないでしょ?」
甘党のパーティーが喜ばないはずはない。
お礼を言って早速テーブルに置かれたチョコに手を伸ばす。
「朱王さん、刀完成してるよ!」
千尋が工房に置いてあった刀を持って来て手渡す。
渡す瞬間に刀に溜まった自分の魔力を一気に引き抜く。
「わぁ。これは見るのが楽しみだね!」
嬉しそうに受け取る朱王。
「朱王様が武器を頼んだんですか!?」
「うん、そうだよ。あれ? なんかすごい魔力を吸われたような…… あと長いし大きいような……」
鞘から刀を抜き取る。
「おお…… すごい綺麗に仕上がってるね! ただ図面よりもかなり大きいよね?」
「うん! せっかくのミスリルの塊だったから目一杯大きくしてみたんだ! あと今まで見てきたミスリルとは違う性質もあったから、その部分だけで作り込んでみたよ!」
「さすが千尋君だね。見た目も良いが、あの塊の一番魔力の高いところを使ってる。完璧だよ!」
満足そうに刀を眺める朱王。
アイリもじっくりと朱王の刀を見つめている。
「あ、そうだ。朱王さんさぁ、魔力の色はそのブレスレットの能力なの?」
千尋は朱王の手首を指差して問いかける。
「あの一瞬で気付いたの? そう、これは発売前の新作で魔力に色を付けられるアイテムだよ」
「オレは青があったら欲しい」
蒼真も気付いていたようだ。
朱王が以前蒼真やリゼと戦った際に一瞬だけ魔法を発動したのだが、剣に緑色の炎を纏っていた。
「そんなのあるんですか!? 私も欲しいです!」
ミリーは身を乗り出して手を挙げる。
「私あの時頭に血が上ってたのよね…… 朱王さん、良ければ見せてくれないかしら?」
「いいけどまた攻撃してこないでね?」
笑いながら答える朱王は、外に出て刀を抜いて魔力を練る。
風魔法を発動して剣から放出すると、刀身から輝く緑色の刃が現れる。
「少し癖があるけど…… すごいねこれ。加減が難しいかも」
朱王も驚くほどの性能だ。
試しに刀を振るってみる。
朱王の剣舞はとてつもなく速い。
風魔法を発動してるのも相まって朱王を中心に爆風が舞う。
緑色の光の乱舞は美しく、見る者を魅了する。
「うん、いいね。重さも大きさも気にならない。バランスも良いからか振られる感じもしないし魔力も安定してる」
乱舞を終えた朱王は刀を鞘に収める。
「ありがとう千尋君、リゼさん。最高の刀だよ! ところで名前は? つけてあるんだよね?」
「あはは。気に入ってくれて良かった! 銘は朱雀丸。魔力を吸い上げる妖刀だよ!」
「魔力に色が付くとすごく綺麗ね…… 私も一つ欲しいわ」
リゼも欲しくなったようだ。
「今はこれしか無いからね。皆んなの分を作ったらプレゼントするよ」
「朱王様。その剣…… カタナ? は彼等が作ったんですか?」
マジマジと刀を眺めたアイリが問う。
「そうだよ。すごい良い腕だよね!」
「少し見直しました。でもミリーさんの事はまだ認めてませんよ!」
「認めないって言ってもねぇ……」
「朱王様のお側にいるのなら、まずは強くないといけません!」
「たぶんうちの組織の誰よりも強いと思うよ?」
「そんなはずはありません!」
「蒼真君やリゼさんと以前剣を交えてみたけど、魔族相手でも問題なく勝てるレベルだったよ?」
「ミリーさんとは交えてないんですよね?」
「ミリーならオレ達と同等の強さだぞ」
蒼真が口を挟む。
「それに性格も良いよね」
千尋も口を挟む。
「可愛いしスタイルもいいわよ」
リゼも口を挟む。
「もっと褒めて欲しいです!」
さらに要求するミリー。
「口では何とでも言えます。証拠を見せて頂けないと納得できません!」
「それじゃあミリーさん。申し訳ないんだけどアイリの相手してくれないかな?」
「はい、良いですよ!」
「え!? ちょっと待っ!? 朱王様がミリーさんと模擬戦お願いします! 組織には私より強い者もおりますので!」
「…… まじですか!?」
「ミリーなら大丈夫だ」
蒼真が勝手に決めつける。
「ゴメンね、ミリーさん」
以前と同じ西側の岩場に立つ朱王とミリー。
ミリーはメイスを構えて魔力を放出する。
朱王は刀を持って強化する。
「朱王さんは朱雀丸だけどミリーは平気かな?」
「エンヴィの比じゃないわよ?」
「もしかして早まったか?」
「朱王様の強化は魔法攻撃以上ですからね」
朱王がゆらりと駆け出し、横薙ぎの一撃を打ち込む。
ミリーはメイスで防御するが弾き飛ばされる。
普段通りの魔力では受けきれない。
そう判断したミリーは防御にも魔力量を増やす事にする。
再び駆け寄る朱王の攻撃。
袈裟斬りに振り下ろし、ミリーはメイスで受ける。
しっかりと相殺できている事を確認し、朱王は次々と斬り込んでいく。
朱王に操作された刀は恐ろしく速いが、全てを捌き受けきるミリー。
そこからさらに反撃を繰り出す。
朱王の攻撃に反撃をする事は容易ではない。
速いだけではない、魔法攻撃並みの重い連撃。
ミリーは全ての攻撃を爆破で相殺し、さらに反撃の際には空気中の爆裂魔法でメイスを加速させる。
スピードのないミリーが自ら編み出した戦い方だ。
ミリーの攻撃は千尋達他のメンバーに比べて攻撃力が高い。
防御以上に爆破も強く、反撃を受ける朱王も刀を弾かれる程の威力だ。
お互い距離を取ることもなく打ち合う事数分。
「もういいんじゃない?」
「そうですか? アイリさん納得しますかね?」
「私とこんな長時間張り合える人はそうそういないからね。充分だと思うよ?」
魔力を収める朱王。
ミリーも戦闘状態を解く。
「ミリーって体力あるわよね……」
「パワーもあるよな」
「精霊なしであの強さだもんね」
「朱王様とまともに戦えるだけでも普通じゃないです。認めざるを得ませんね……」
落ち込むアイリ。
アイリは今回、組織の女性陣の代表として朱王について来た。
ミリーの事を楽しそうに話す朱王。
組織内では抜け駆けが禁止されていたのにも関わらず、余所者であるミリーの存在が浮かび上がった。
これは一大事。
誰かミリーという人物の調査をしなければ!
そんなわけでアイリがついて来たのだ。
アイリはゼスを拠点とする幹部の一人。
実力も組織内では上位であるものの、朱王が相手では戦いにすらならない。
今見たミリーの実力は、アイリの知る限り朱王を除いては最強と言えるほどのものだった。
そのミリーと同等の実力を持つという四人の冒険者に、アイリは戦慄を覚える。
「アイリ。せっかくアルテリアに来たんだ。ゼスはサフラ達に任せてしばらく滞在するか?」
落ち込んで俯くアイリに声をかける朱王。
「い、いいんですか!?」
少し涙目だったアイリに笑顔が戻る。
「まぁ私の仕事を手伝ってもらうけどね」
「ありがとうございます!!」
満面の笑みでお礼を言う。
「で、ミリーさんの事は認めてくれるんだね?」
「はい…… 実力だけは申し分ありません」
言って視線を逸らすアイリに、朱王は頬を摘んで引っ張る。
「なかなか強情な子だなぁ。少し稽古をつけてやろうか?」
笑顔で頬をグイグイ引っ張る。
「いひゃい! いひゃいれふ!」
「わぁ! ダメですよ朱王さん! 女の子の顔を痛くしてはいけません!」
朱王の手を払い、アイリの背後から頬に回復魔法をかけるミリー。
回復するほどの事ではないのだが。
「ミ、ミリーさんはヒーラーなんですか?」
驚いた表情で問うアイリ。
「そうなんですよ。親がヒーラーなので!」
アイリの頬を揉むミリー。
「まさか…… ヒーラーであの強さとか反則ですよ……」
力なく嘆くアイリの頬を揉むミリー。
「何という手触り! すごく伸びます!」
すべすべでモチモチで伸びる頬のアイリ。
リゼもアイリの頬に触ってみる。
「朱王さん、アイリはどこに泊めるの?」
「エイルはまだ空きあるよね? 今日は私も話があるから泊まっていこうと思うし、そのままアイリは宿をとればいいかな」
「ええ!? 朱王様のご自宅じゃないんですか?」
「それは許せません!」
とりあえず宿泊できるか確認をする為、エイルに戻る事にした。
空き部屋は幾つかあり、一人部屋、二人部屋、三人部屋がある。
アイリは朱王と二人部屋と言っていたが却下され、リゼとミリーがチェックアウトしてアイリと三人部屋を借りる。
三人部屋の料金は一泊80,000リラ。
二人部屋をさらに広くし、ベッドのサイズも大きい。
ソファやテーブルも大きく、千尋達が集まってもゆっくりとくつろげるだけの広さがある。
お風呂場の湯船もまた大きく、三人一緒に入る事も可能な大きさだ。
朱王は今日だけの宿泊という事で一人部屋。
車は倉庫が空いていたので入れさせてもらった。
別に外に停めてあっても盗難などの心配はないのだが、とにかく目立つ。
とりあえず閉まっておこうという事になった。
0
お気に入りに追加
1,028
あなたにおすすめの小説
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした
鈴木竜一
ファンタジー
健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。
しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。
魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ!
【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】
※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる