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強化編
033 心の声
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オークの群れを倒し終えたルーンパーティー。
「じゃあそろそろごはん食べましょうか!」
「ここは臭いから嫌だ」
「お腹空きましたよ! ねぇ皆さん?」
「汚いのは嫌だ!」
「帰るまで時間かかるじゃないですか!」
ミリーと同じくお腹空いたと訴えるルーンパーティー。
「んん…… わかった。だがせめてここを綺麗にさせてくれ……」
渋々といった表情で少し離れた平らな場所まで行き、炎を刀に纏わせて岩に突き立てる蒼真。
半径5メートル程の炎の渦が巻き、地面が焼かれ薄汚れた苔なども炭になる。
そしてポケットから出した小瓶を持ち、大気から水を集めて蒼真を中心に地面を洗い上げる。
次に風を纏った蒼真は、熱い竜巻を起こして地面を乾燥させた。
「いいぞ。弁当にしよう」
それを見てルーン達も笑いだす。
自分達の魔法とは全然違うのだしもう笑うしかなかった。
弁当を食べながら少し話をする。
「蒼真はレベル10で魔力量はどれだけなったんだ?」
ルーンが気になったので聞いてみる。
「まだ8だからわからない」
「私も8なのでわかりません」
蒼真とミリーは魔族と戦った次の日にはレベルが8に上がっていた。
千尋は戦っていないので上がらないのはわかるが、魔族を倒したリゼも上がらなかった。
「嘘だろ…… オレ達もレベル8なのにこの差はなんだ!?」
「オレは今魔力量35,000程だがな」
「私は63,000ガルドくらいです」
「すげーな。ミリーとかなんだそれ? 」
「私達で一番高いのがルーンで23,000くらいよね」
「千尋より高いじゃないか」
「千尋さんの話題はやめましょうよ……」
「え? 千尋はオレより低いのか?」
「18,000ガルド程ですね」
「結局答えるんじゃないか……」
「良いじゃないですか。魔力量がそれでも蒼真さん並みの強さですよ!」
「オレ達でもそこまで強くなれるって事か!?」
「魔力量と強さは別問題だからな」
「うぉぉお! やる気出てきた!」
「ルーンは蒼真さんの訓練を受けるの?」
「…… そ、そうなるの?」
「ルーンもそうだが魔力の練度が甘いな。ある程度生活できてるならクエストより訓練に時間をさく事を勧める」
「それはどうすればいいんだ?」
「魔力制御の基本だけでいい」
「へ? それだけ?」
「やってみればわかる」
蒼真は目の前に魔力球を作り出す。
直径30センチほどの魔力球は一切のブレもなく淡く光っている。
透き通るボールのようだ。
ルーン達は掌から魔力球を作り出す。
直径10センチほどの魔力球は揺らめきながら煌々と光り輝いている。
「まずは揺らめきがある時点で制御できていない。あと眩しいくらい光っているだろ。それは魔力の拡散だ」
「これ地味だしすぐ辞めたんだよなー」
「ね。一日で辞めたもんね」
「魔力球出せれば魔法もできたしな」
「私は強化しかできないけど……」
「千尋はこれを極めてるからな。あの強さは魔力の練度が大きいだろう」
「あ…… そう…… ですね……」
ミリーが昨日聞いた千尋の魔力制御。
千尋だから普通だろうと相変わらず変な事をできるなーと軽く考えていたのだが、よく考えるととんでもない。
千尋が魔力を隠蔽しているという事は、完璧な制御をしているという事。
それを無意識で六十個もしているというのだ。
そう考えたら変な汗が出てくるミリーだった。
以前言われた物理操作を歩きながら常にやる。
常時魔力制御をしている千尋に文句を言ってしまった自分が恥ずかしくなった。
「ミリーどうした? 汗がすごいぞ?」
「ナ、ナンデモナイデース」
(とりあえず誤魔化しておきます……)
「オレ達も頑張れば強くなれるぞ!」
(死ぬ気で頑張ってください)
「これからは毎日魔力制御だな!」
(今からお願いします)
「朝と夜は欠かさずやりましょう!」
(寝ててもやってください)
「明日から本気出すよー!」
(それはやらない人のセリフです)
「ミリー、心の声が漏れてるぞ」
(そんなはずはないです)
「…… んん!? 声に出てました!?」
「ああ、ボソボソ言ってたぞ」
「ミリーさん何言ってたの?」
「ナ、ナンデモナイデース!」
ここからは誤魔化しきろうとするミリーだった。
「充分休めたしそろそろ帰るか」
二時間かけて街へ戻った六人。
クエストを報告して報酬を受け取る。
総額1,750,000リラとなった。
役所側は蒼真とミリーの報告を受け、ルーンパーティーをグリーンランクに昇格させた。
今日蒼真達が同行した為審査も免除になるかと思ったが、後日審査は行われることになった。
決まりですから! と例外は認められなかった。
「すごっ…… 今まで多くても20万リラくらいだったのに」
「今日はそんなに倒してないからな。ミリー、40万でいいか?」
「そうですね、それくらいで良いです!」
「ほんとかー? 悪いな、たくさん助けてもらったのに」
ひとまず取り分の交渉は済ませた。
時刻は十五時半。
「少し時間もあるし訓練するか?」
「え!? 付き合ってくれるんですか?」
「お手柔らかに頼むよ」
嬉しそうに問うチュリと少し怯むカール。
また西部の岩場に行って訓練する事にした。
西部へ向かう途中、千尋の店舗前を通ると見違えるように綺麗になっている。
青い外壁にピンクの縁取り。
リゼの好みで塗り分けられているように見える。
店内は壁のレンガを白っぽく塗られ、床には大きな石の板を組んでいる。
天井も白く塗られ、窓も取り付けられて光が差し込んでいる。
千尋もリゼもいない事から買い物にでも行っているのだろう。
「蒼真さん、ここは何のお店なの?」
「ここは千尋の工房だ。武器を作るはずだが随分と綺麗に作り込んでるな」
「すごい綺麗ですね。完成が楽しみですよっ!」
「千尋の店かぁ。すげー気になるな」
千尋達がいないので、とりあえず見るだけにして西部へ向かう。
「ミリー、なんかルーンとカールが怯えてるのは気のせいか?」
「私は蒼真さんの言う通り攻め続けただけですよ!」
「まぁそれくらいなら問題ないか」
「あと蒼真さんは厳しいと言いました」
「そうか…… まぁ別にあまり構えなくていい。魔力制御は自分達でやってもらうとして少し魔法に慣れてもらおうと思う」
「私の出番は無いですね」
「ミリーの真似は誰もできん」
「ソーデスカ……」
「全員に必要な魔法として、アザレアが使っていた物理操作を教える。武器に魔力を溜める事ができるようになっているだろう? その魔力は自分の魔力だ。つまりその武器内の魔力を操作するだけでこれは可能だ」
「それできると何かメリットあるのか?」
「攻撃速度が大幅に上がるのと、多少威力も上がるな。アザレア、普通の攻撃を全力でこれに打ってくれ」
言って岩の壁を作り出す。
思いっきり右ストレートを放つアザレア。
ズガッ! と殴りつけると岩の表面からパラパラと欠片や粉が落ちる。
「次は魔法込みで打ってくれ」
拳を引き、右ストレートと同時にナックルを魔法で操る。
ズドンッ! と物凄いスピードで岩に食い込む拳。
バラバラと崩れる岩は通常攻撃よりも高い威力を物語っていた。
「確かに速いし威力も高いけどその攻撃と火属性魔法だとどっちがいいんだ?」
「なにか勘違いしてないか? あのパンチに属性魔法の威力が乗るんだぞ?」
「まじか!?」
「私はそれだけですからねー」
全員ミリーに振り向く。
「アザレアがやってる事をオレ達もやれば一気に強くなるって事か」
「私も属性魔法使えればできるって事?」
「そういうことですねー」
「あとは慣れと魔力練度だな。アザレア以外は武器を腕の力を使わずに操作、アザレアは魔力制御の訓練だ」
武器を操作する三人はワイワイ騒ぎながら操れているようだ。
アザレアの魔力制御を見る蒼真。
やはりアザレアの魔力制御は粗い。
気持ちを落ち着かせ、ブレのないように制御させようとするのだが不器用なのだろう、すぐに乱れてしまう。
集中の仕方は人それぞれ違うと思う蒼真は、目を閉じさせたり遠くを見させたりしながらいろいろと試してみる。
そこにふと思いついたミリー。
そっとアザレアに耳打ちをする。
一点を見つめるアザレアは自分のパーティーを見つめている。
それまで乱れていた魔力球が徐々に安定していく。
しばらく様子を見る蒼真も不思議に思い、少し離れてミリーに質問する。
「好きな相手を思い浮かべてくださいと言ったんです」
小さな声で答えるミリー。
「そんな事でで安定するのか?」
「女性の気持ちは複雑なようでいて単純なところもあるんですよ!」
「ミリーは単純だしな。むしろ複雑な部分なんてあるのか?」
「んな!? ありますよ!! 私だってすっごく複雑なんですよ!?」
「そうか。ミリーにも複雑な部分があるんだな。それに気付けないとはオレもまだまだ未熟なようだ」
「わかってくれればいいんです。蒼真さんは完璧主義なように見えて、自分の非を素直に認められるところがいいと思います!」
「すまんな、常に勉強することばかりだ」
適当にあしらう蒼真だった。
十分くらい見ていたが、安定した状態で保たれる魔力球。
「アザレア。どうだ調子は、安定したか?」
「え? どうかな…… 」
話しかけても安定している魔力球。
ミリーを心の中で褒めると、本人からピースと笑顔が返ってきた。
「じゃあ少し魔力を前に移動してみようか」
言われたように前方へ10センチほど移動したところでブレ始める。やはり安定しそうにはない。
「また仲間の方見てて良いぞ」
言ってルーン達の方へ歩いていく蒼真。
ある程度操作に慣れてきた三人に、攻撃の動作で行うよう指示を出してアザレアの元へ戻る。
やはり魔力球は安定している。
「もう少し前に出してみるんだ」
さらに10センチ程移動したところでまた乱れ始める。
「じゃあまた仲間を見てて良いぞ」
ミリーの元へ戻る蒼真。
蒼真の指示によって各々離れて訓練する三人。
蒼真とミリーはアザレアの視線を追う。
「カールさんを見てますね」
「そのようだな」
「アザレアさんの魔力球安定してますね」
「また行ってくる」
これを何度も繰り返して1メートル程まで距離を伸ばせたところで終わりにする。
「じゃあ今日はこれで解散だ。お疲れ様」
「お世話になりましたー!」
「いろいろ勉強なったありがとな!」
お互いお礼を言い合って街に戻る。
ルーン達もまだ訓練を続けるそうなので先に戻った。
工房に向かうと千尋とリゼがいた。
「ただいまリゼさん! 千尋さん!」
「おかえり! どお? 綺麗になったでしょう」
「かなり綺麗になったな。見違えたぞ」
「すごいですね! まだまだ広さありますから何か置けますね!」
「機材も運び込んだし役所から魔力鍵ももらってきたよー!」
「ポットや食器も買ってきたからお茶も飲めるわよ!」
「もうここは完成か?」
「そうだね、明日はルーンパーティーの審査も頼まれちゃったから行かないとだしー」
「私達今日ルーンさん達と一緒でしたよ」
「そうなんだ。クエストは余裕な感じなのー?」
「パーティーで難易度5がギリギリといったところだな」
「手は出されないんだよね……」
「私は明日何しようかな……」
「千尋と行けばいいじゃないか」
「リゼも行こうよ! オレついてくだけじゃ暇だしっ!」
「じゃあそうするわ。そうだ、お茶淹れるから座ってよ! 最初のお客様はミリーと蒼真よ!」
「何も買いませんけどね!」
ソファに座って紅茶を啜りながらくつろぎ、日が暮れる前に戸締り。
魔力鍵で施錠をし、千尋とリゼも嬉しそうに見合う。
「イチャついてるな」
「本人達は自覚ないですね」
「じゃあそろそろごはん食べましょうか!」
「ここは臭いから嫌だ」
「お腹空きましたよ! ねぇ皆さん?」
「汚いのは嫌だ!」
「帰るまで時間かかるじゃないですか!」
ミリーと同じくお腹空いたと訴えるルーンパーティー。
「んん…… わかった。だがせめてここを綺麗にさせてくれ……」
渋々といった表情で少し離れた平らな場所まで行き、炎を刀に纏わせて岩に突き立てる蒼真。
半径5メートル程の炎の渦が巻き、地面が焼かれ薄汚れた苔なども炭になる。
そしてポケットから出した小瓶を持ち、大気から水を集めて蒼真を中心に地面を洗い上げる。
次に風を纏った蒼真は、熱い竜巻を起こして地面を乾燥させた。
「いいぞ。弁当にしよう」
それを見てルーン達も笑いだす。
自分達の魔法とは全然違うのだしもう笑うしかなかった。
弁当を食べながら少し話をする。
「蒼真はレベル10で魔力量はどれだけなったんだ?」
ルーンが気になったので聞いてみる。
「まだ8だからわからない」
「私も8なのでわかりません」
蒼真とミリーは魔族と戦った次の日にはレベルが8に上がっていた。
千尋は戦っていないので上がらないのはわかるが、魔族を倒したリゼも上がらなかった。
「嘘だろ…… オレ達もレベル8なのにこの差はなんだ!?」
「オレは今魔力量35,000程だがな」
「私は63,000ガルドくらいです」
「すげーな。ミリーとかなんだそれ? 」
「私達で一番高いのがルーンで23,000くらいよね」
「千尋より高いじゃないか」
「千尋さんの話題はやめましょうよ……」
「え? 千尋はオレより低いのか?」
「18,000ガルド程ですね」
「結局答えるんじゃないか……」
「良いじゃないですか。魔力量がそれでも蒼真さん並みの強さですよ!」
「オレ達でもそこまで強くなれるって事か!?」
「魔力量と強さは別問題だからな」
「うぉぉお! やる気出てきた!」
「ルーンは蒼真さんの訓練を受けるの?」
「…… そ、そうなるの?」
「ルーンもそうだが魔力の練度が甘いな。ある程度生活できてるならクエストより訓練に時間をさく事を勧める」
「それはどうすればいいんだ?」
「魔力制御の基本だけでいい」
「へ? それだけ?」
「やってみればわかる」
蒼真は目の前に魔力球を作り出す。
直径30センチほどの魔力球は一切のブレもなく淡く光っている。
透き通るボールのようだ。
ルーン達は掌から魔力球を作り出す。
直径10センチほどの魔力球は揺らめきながら煌々と光り輝いている。
「まずは揺らめきがある時点で制御できていない。あと眩しいくらい光っているだろ。それは魔力の拡散だ」
「これ地味だしすぐ辞めたんだよなー」
「ね。一日で辞めたもんね」
「魔力球出せれば魔法もできたしな」
「私は強化しかできないけど……」
「千尋はこれを極めてるからな。あの強さは魔力の練度が大きいだろう」
「あ…… そう…… ですね……」
ミリーが昨日聞いた千尋の魔力制御。
千尋だから普通だろうと相変わらず変な事をできるなーと軽く考えていたのだが、よく考えるととんでもない。
千尋が魔力を隠蔽しているという事は、完璧な制御をしているという事。
それを無意識で六十個もしているというのだ。
そう考えたら変な汗が出てくるミリーだった。
以前言われた物理操作を歩きながら常にやる。
常時魔力制御をしている千尋に文句を言ってしまった自分が恥ずかしくなった。
「ミリーどうした? 汗がすごいぞ?」
「ナ、ナンデモナイデース」
(とりあえず誤魔化しておきます……)
「オレ達も頑張れば強くなれるぞ!」
(死ぬ気で頑張ってください)
「これからは毎日魔力制御だな!」
(今からお願いします)
「朝と夜は欠かさずやりましょう!」
(寝ててもやってください)
「明日から本気出すよー!」
(それはやらない人のセリフです)
「ミリー、心の声が漏れてるぞ」
(そんなはずはないです)
「…… んん!? 声に出てました!?」
「ああ、ボソボソ言ってたぞ」
「ミリーさん何言ってたの?」
「ナ、ナンデモナイデース!」
ここからは誤魔化しきろうとするミリーだった。
「充分休めたしそろそろ帰るか」
二時間かけて街へ戻った六人。
クエストを報告して報酬を受け取る。
総額1,750,000リラとなった。
役所側は蒼真とミリーの報告を受け、ルーンパーティーをグリーンランクに昇格させた。
今日蒼真達が同行した為審査も免除になるかと思ったが、後日審査は行われることになった。
決まりですから! と例外は認められなかった。
「すごっ…… 今まで多くても20万リラくらいだったのに」
「今日はそんなに倒してないからな。ミリー、40万でいいか?」
「そうですね、それくらいで良いです!」
「ほんとかー? 悪いな、たくさん助けてもらったのに」
ひとまず取り分の交渉は済ませた。
時刻は十五時半。
「少し時間もあるし訓練するか?」
「え!? 付き合ってくれるんですか?」
「お手柔らかに頼むよ」
嬉しそうに問うチュリと少し怯むカール。
また西部の岩場に行って訓練する事にした。
西部へ向かう途中、千尋の店舗前を通ると見違えるように綺麗になっている。
青い外壁にピンクの縁取り。
リゼの好みで塗り分けられているように見える。
店内は壁のレンガを白っぽく塗られ、床には大きな石の板を組んでいる。
天井も白く塗られ、窓も取り付けられて光が差し込んでいる。
千尋もリゼもいない事から買い物にでも行っているのだろう。
「蒼真さん、ここは何のお店なの?」
「ここは千尋の工房だ。武器を作るはずだが随分と綺麗に作り込んでるな」
「すごい綺麗ですね。完成が楽しみですよっ!」
「千尋の店かぁ。すげー気になるな」
千尋達がいないので、とりあえず見るだけにして西部へ向かう。
「ミリー、なんかルーンとカールが怯えてるのは気のせいか?」
「私は蒼真さんの言う通り攻め続けただけですよ!」
「まぁそれくらいなら問題ないか」
「あと蒼真さんは厳しいと言いました」
「そうか…… まぁ別にあまり構えなくていい。魔力制御は自分達でやってもらうとして少し魔法に慣れてもらおうと思う」
「私の出番は無いですね」
「ミリーの真似は誰もできん」
「ソーデスカ……」
「全員に必要な魔法として、アザレアが使っていた物理操作を教える。武器に魔力を溜める事ができるようになっているだろう? その魔力は自分の魔力だ。つまりその武器内の魔力を操作するだけでこれは可能だ」
「それできると何かメリットあるのか?」
「攻撃速度が大幅に上がるのと、多少威力も上がるな。アザレア、普通の攻撃を全力でこれに打ってくれ」
言って岩の壁を作り出す。
思いっきり右ストレートを放つアザレア。
ズガッ! と殴りつけると岩の表面からパラパラと欠片や粉が落ちる。
「次は魔法込みで打ってくれ」
拳を引き、右ストレートと同時にナックルを魔法で操る。
ズドンッ! と物凄いスピードで岩に食い込む拳。
バラバラと崩れる岩は通常攻撃よりも高い威力を物語っていた。
「確かに速いし威力も高いけどその攻撃と火属性魔法だとどっちがいいんだ?」
「なにか勘違いしてないか? あのパンチに属性魔法の威力が乗るんだぞ?」
「まじか!?」
「私はそれだけですからねー」
全員ミリーに振り向く。
「アザレアがやってる事をオレ達もやれば一気に強くなるって事か」
「私も属性魔法使えればできるって事?」
「そういうことですねー」
「あとは慣れと魔力練度だな。アザレア以外は武器を腕の力を使わずに操作、アザレアは魔力制御の訓練だ」
武器を操作する三人はワイワイ騒ぎながら操れているようだ。
アザレアの魔力制御を見る蒼真。
やはりアザレアの魔力制御は粗い。
気持ちを落ち着かせ、ブレのないように制御させようとするのだが不器用なのだろう、すぐに乱れてしまう。
集中の仕方は人それぞれ違うと思う蒼真は、目を閉じさせたり遠くを見させたりしながらいろいろと試してみる。
そこにふと思いついたミリー。
そっとアザレアに耳打ちをする。
一点を見つめるアザレアは自分のパーティーを見つめている。
それまで乱れていた魔力球が徐々に安定していく。
しばらく様子を見る蒼真も不思議に思い、少し離れてミリーに質問する。
「好きな相手を思い浮かべてくださいと言ったんです」
小さな声で答えるミリー。
「そんな事でで安定するのか?」
「女性の気持ちは複雑なようでいて単純なところもあるんですよ!」
「ミリーは単純だしな。むしろ複雑な部分なんてあるのか?」
「んな!? ありますよ!! 私だってすっごく複雑なんですよ!?」
「そうか。ミリーにも複雑な部分があるんだな。それに気付けないとはオレもまだまだ未熟なようだ」
「わかってくれればいいんです。蒼真さんは完璧主義なように見えて、自分の非を素直に認められるところがいいと思います!」
「すまんな、常に勉強することばかりだ」
適当にあしらう蒼真だった。
十分くらい見ていたが、安定した状態で保たれる魔力球。
「アザレア。どうだ調子は、安定したか?」
「え? どうかな…… 」
話しかけても安定している魔力球。
ミリーを心の中で褒めると、本人からピースと笑顔が返ってきた。
「じゃあ少し魔力を前に移動してみようか」
言われたように前方へ10センチほど移動したところでブレ始める。やはり安定しそうにはない。
「また仲間の方見てて良いぞ」
言ってルーン達の方へ歩いていく蒼真。
ある程度操作に慣れてきた三人に、攻撃の動作で行うよう指示を出してアザレアの元へ戻る。
やはり魔力球は安定している。
「もう少し前に出してみるんだ」
さらに10センチ程移動したところでまた乱れ始める。
「じゃあまた仲間を見てて良いぞ」
ミリーの元へ戻る蒼真。
蒼真の指示によって各々離れて訓練する三人。
蒼真とミリーはアザレアの視線を追う。
「カールさんを見てますね」
「そのようだな」
「アザレアさんの魔力球安定してますね」
「また行ってくる」
これを何度も繰り返して1メートル程まで距離を伸ばせたところで終わりにする。
「じゃあ今日はこれで解散だ。お疲れ様」
「お世話になりましたー!」
「いろいろ勉強なったありがとな!」
お互いお礼を言い合って街に戻る。
ルーン達もまだ訓練を続けるそうなので先に戻った。
工房に向かうと千尋とリゼがいた。
「ただいまリゼさん! 千尋さん!」
「おかえり! どお? 綺麗になったでしょう」
「かなり綺麗になったな。見違えたぞ」
「すごいですね! まだまだ広さありますから何か置けますね!」
「機材も運び込んだし役所から魔力鍵ももらってきたよー!」
「ポットや食器も買ってきたからお茶も飲めるわよ!」
「もうここは完成か?」
「そうだね、明日はルーンパーティーの審査も頼まれちゃったから行かないとだしー」
「私達今日ルーンさん達と一緒でしたよ」
「そうなんだ。クエストは余裕な感じなのー?」
「パーティーで難易度5がギリギリといったところだな」
「手は出されないんだよね……」
「私は明日何しようかな……」
「千尋と行けばいいじゃないか」
「リゼも行こうよ! オレついてくだけじゃ暇だしっ!」
「じゃあそうするわ。そうだ、お茶淹れるから座ってよ! 最初のお客様はミリーと蒼真よ!」
「何も買いませんけどね!」
ソファに座って紅茶を啜りながらくつろぎ、日が暮れる前に戸締り。
魔力鍵で施錠をし、千尋とリゼも嬉しそうに見合う。
「イチャついてるな」
「本人達は自覚ないですね」
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