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強化編
029 ハウザーパーティー
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カーテンの隙間から差し込む日差しを受けて目を覚ます。
体を起こして背筋を伸ばしていると隣のベッドで横たわるリゼと目が合う。
お互い挨拶を交わし、着替えや準備をして部屋を出る。
朝のひんやりとした空気を感じながらテラスへ出るリゼとミリー。
千尋はすでに起きていて真剣な表情をしている。
魔力の訓練を行っているのだろう。
千尋がいるのを確認したミリーは、三人分のコーヒーを食堂にもらいに行き、リゼは真剣な表情をする千尋を少しの間見つめてから話しかける。
「おはよう千尋」
「ん? あっ、おはようリゼ」
千尋は集中していてリゼが話しかけるまで気づかなかったようだ。
「千尋のその訓練てどうなってるの?」
以前から気になっていた千尋の魔力操作を質問してみる。
普段から千尋の魔力の使い方はおかしいのだ。
戦闘の多くを素手で行う事、その威力も高く、ミスリルのような媒体を介さなければ連続してあれだけの攻撃は不可能だ。
魔力を練る時間もなく高出力で魔法を発動できる千尋はやはり異常と言える。
「えーとね、訓練ていうか体外魔力量を増やしてるんだー」
さっそく意味のわからない回答をしてくる千尋。
「んん? どういう事?」
「リゼから最初に教わった魔力操作あるでしょ? 魔力球を遠くに移動させるやつ」
「魔力操作の基本よね?」
「あれを無意識下で常時やってるんだよ。今作ったので体外魔力球も六十個目だよー」
「ええ!? 嘘でしょ!?」
「今は一つにつき魔力量も500ガルド程度かなー。攻撃する度に引き戻して使ってるんだ」
「そんな使い方する人いないわよ……」
「魔力量が少なかったからね。体外に魔力を出した状態だと体内魔力が回復する事に気付いてさぁ。上空50メートルあたりに浮かせてあるけど慣れると便利だよー」
「常時魔力訓練してるってわけね…… 千尋の強さの秘密がよくわかったわ……」
「魔力3万ガルド分を打ち続けても魔力は何も減らないよっ!」
「ズルいわね……」
引き攣った顔が戻らないリゼ。
「今後の課題は魔力量を増やす事だけどさぁ、魔力量増やすと視覚化されちゃうから隠蔽が難しいんだよねー」
さすがに六十個もの魔力球を常時発動、魔力量を維持したまま隠蔽となると、魔力量を少しでも増減させるとブレが生じてしまう。
千尋の場合は意識の外で魔力球を維持している為、夜寝ている間も魔力球は浮いている。
意識の外での魔力の維持では、わずかな魔力量の差でもコントロールが途切れて魔力球は霧散してしまうのだ。
そもそも魔力制御を意識から外して、予備魔力とするなど考え方自体がおかしい。
千尋は普段の戦闘では強めの攻撃以外は体内から魔力を放出して使用している。
咄嗟の攻撃や高出力での打ち合いのみ体外魔力を利用して魔法を発動している。
複数の炸裂弾を作る場合なども500ガルドを分割して大量の魔法を生み出している。
「おはようございます、千尋さん!」
ミリーがコーヒーを持ってきてくれた。
「おはよう。コーヒーありがとう!」
「あれ? リゼさんどうしたんですか? 表情が変ですよ?」
「ミリーには今千尋が何してるかわかる?」
「コーヒー飲んでますね」
上空を指差すリゼ。
「50メートル上空に千尋の魔力球が六十個あるって」
「ほえ?」
「魔力操作あるでしょ? これを普段から魔力量500ガルドで六十個も浮かせてあるんだって」
右手に魔力球を出して言うリゼ。
「…… やはり千尋さん。変ですね!」
「変じゃないし!」
「私から見ても変よ!」
呆れ顔で千尋を見るリゼとミリー。
「むう…… まぁ普通のやり方じゃないのは認めるけど。あ、そうそう! 蒼真がさぁ、オレとリゼで武器作りしろって言ってたー」
「どういう事ですか?」
「機材や素材あるんだから作って武器屋に卸せばいいって」
「おお! 千尋さんやリゼさんが作ったのならすごい値段で売れそうですね!」
「その間蒼真とミリーは他のパーティーのクエストに同行して訓練していこうってさ」
「そうね…… この街でも亜種を倒せるくらいのパーティーはいくつか必要よね」
「あと高難易度クエ出た時とかオレ達で受けようって言ってた!」
「私達が受けたいような高難易度クエストはなかなか出ませんからね」
「普通のクエストなら過剰戦力よね」
「今日はハウザーさん達キラーアントって言ってましたよね? 私達の時250体近く居ましたけど平気ですかね?」
「100体超えてからはキツいだろうね。ミリーはついでにミノタウロスも行って来たら良いんじゃない?」
「良いですね! そうします!」
「じゃあ私は千尋と倉庫探しね」
「決まりだね! もう少ししたら蒼真起こしてごはん食べよー!」
昨夜千尋と蒼真で話あった内容で今後の予定も決まった。
今日からは別行動をとる。
蒼真とミリーは早速役所へ向かう。
「いたーーー!! ハウザーさん!」
「うおっ!? なんだ?」
「キラーアント受けました?」
「…… それがな、キラーアントの大量繁殖であの辺やばい事になってるって言われたんだよ。まいったなー」
「それなら私と蒼真さんも同行させてください! ついでにミノタウロスクエスト受けますから」
「おおマジか! それならイケる! んん? ミノタウロスも!?」
「ミノタウロスはソロで狩ってもらうがな」
ニヤリとしながら言う蒼真。
「頑張ってね、ハウザー」
「リンゼもやるんだぞ?」
「ええ!? 嘘でしょ?」
「蒼真さんは間違いなくやらせますよ……」
「とりあえず今日はハウザーのパーティーに同行させてもらおうと思う。今後他のパーティーにも同行させてもらって、お互い情報交換してはどうだろう。報酬は人数で等分するって条件だが」
「そんな条件でいいのか? 蒼真やミリーがいるなら結構無理もできるし難易度高めも受けれるからな…… 皆んなはどう思う?」
役所に来ていた冒険者達にも聞いてみる。
是非! と快く了承された。
「千尋さんやリゼさんも今後は同行します!」
正直なところ千尋やリゼの戦闘は他の冒険者の参考にならないだろうと蒼真は思っている。
蒼真やミリーとは違い防御が一切ない。
千尋は回避しながらの攻撃がメインなうえ武器も銃、さらにはサイレントキラーもある。
リゼはルシファーによる一方的な蹂躙に加え、攻められても攻撃魔法で迎撃する。
かなり特殊な二人の戦い方は誰にも参考にならないだろうという見解だ。
「では皆さん、今日一日ですがよろしくお願いします! 」
ミリーと蒼真はミノタウロス討伐クエストを受注して、ハウザーパーティーとアルテリア北に向かう。
いつもより時間がかかる事を予想し、光の魔石ついでに弁当も買っていく。
ハウザーのパーティーはブルーランクの四人編成だ。
リーダーでダガー使いのハウザー。
直剣と盾を持つ前衛のベンダー。
弓から槍に変更した中衛アニー。
リンゼはスタッフを持って後衛魔法支援だ。
アニーが弓から槍に変更した理由は、ミスリル製の弓矢が売ってない為だ。
槍での戦いが不慣れなアニーは少し不安がありそうだが、魔法は遠距離向きという事なので戦えなくはなさそうだ。
槍での戦闘方法は街道でリザードマン相手に実戦で教えるとして、道中簡単に説明しておく。
アニーの購入した槍はミスリルの十字槍。
柄の部分にもミスリルが埋め込まれている為、魔力の流れにも問題はない。
重さに関しては重力操作や物理操作で操作するのだが、重力魔法はあまり使用できる者がいない。
物理操作でミリーがやったように槍を操作してもらう。
ミリーとは違い通常魔力で操作できるアニーは、それほど苦労する事なく槍を操ってみせた。
それを見たミリーは驚いていたが、粉塵系魔力で地属性魔法を使う方がはるかに難しい。
しばらく歩いていくと、ワーウルフやリザードマンが大量に集まってきた。
「ミリー、爆発音でもっと集めるぞ」
「はい? 何をすっ…… どわぁぁあ!?」
蒼真は炎の刃でミリーに斬りかかる。
ミリーはメイスで受けると同時に爆破。
ハウザー達が怯む程の爆発音が鳴り響き、次々と魔獣が集まってくる。
「さすがミリー。あれに反応できるとは」
「さすがじゃないですよ! ビックリするじゃないですか!? 」
「オレ達もビックリしたわ…… っつかめちゃくちゃ集まってきてるぞ!?」
「とりあえずワーウルフは邪魔だな」
「私がやりますよー」
蒼真が魔力を練り、凍てつく刃を地面に突き立てる。
蒼真を中心に半径10メートルほどが冷気に包まれた。
それと同時にミリーが走り出し、ワーウルフを次々と叩き伏せていく。
ミリーに繰り出されるワーウルフの攻撃も、ミリーの爆裂魔法に阻まれダメージを与えられない。
弾かれて体制を崩すワーウルフはそのままミリーに叩き伏せられてしまう為、側からみると一方的な大量虐殺。
舞うようにメイスを振るうミリーは、爆音と断末魔を響かせながらも余裕の表情だ。
口を開けて見守るハウザー達だが、すぐに蒼真から声がかけられる。
「アニー。リザードマンが練習相手だ。冷気で動きは抑えてあるからさっき説明したようにやってみろ」
「は、はい!!」
蒼真やミリーに圧倒されて萎縮するアニー。
普段は男勝りな口調のアニーもこの時ばかりは敬語になっていた。
「アニーさーん! 蒼真さんの教えは厳しいですから気合入れてやってくださいねー!!」
離れたところでワーウルフと戦いながらもミリーが言う。
「左脚を前に半身に構え…… 対象に向かって距離を詰めて、突く!!」
槍がリザードマンの胸に突き刺さり、リザードマンは血を吐いて絶命する。
「いいぞアニー。なかなか筋がいい。次は魔法を発動してみろ」
「は、はい!!」
右側にいたリザードマンに先ほどと同じように槍を突き立てて矛先から火属性魔法を放つ。
燃え上がり地に伏すリザードマン。
「アニー…… 突きはいいが魔法が遅い。やり直しだ」
蒼真の声にドスが効いている。
「はっはい!! スミマセン!!」
ビビりまくるアニー。
再び正面にいるリザードマンを突いて火を放つ。
「さっきより良いが少し違うな。こうだ、見てろよ?」
地面から刀を抜き、蒼真が構える。
駆け出すと同時に魔力を練り、刀を引いて切っ先から炎を吹き出すようにイメージをもって突く。
リザードマンが燃え上がり、胸に大きな風穴が空いていた。
「矛先が当たる瞬間に炎を吹き出すように放て。威力が格段に上がる」
「わかりました! やってみます!!」
魔力を練り槍を引いて構える。
駆け出して蒼真をなぞるように槍を突き出す。
突き抜く槍は炎を放ち、リザードマンの胸に風穴を空けていた。
「ど…… どうでしたか?」
不安そうに問いかけるアニー。
「いいぞアニー。今のは良かった。その調子でどんどん行ってみろ」
「はい! 蒼真さん!」
笑顔で褒める調教師蒼真の飴と鞭。
次々とリザードマンを貫いていくアニー。
「よし、アニー。残り十体は動けるようにするから今の調子でやってみろ」
「はい! 頑張ります!」
蒼真は冷気を解除し、熱風を放って地面ごと空気を熱する。
身体が温まったことで動きだすリザードマン。
「私達は暑いんですけどねー」
嫌な顔をしながらぼやくミリー。
ハウザー達も汗が流れている。
動き回るリザードマンはやはり突きにくく、一撃で倒せるものの狙った部分を三体続けて外す。
「狙い場所だけを見るな。全体を見ればリザードマンの動きも読めるはずだ」
集中力を高めるアニー。
立て続けに七体を完璧に仕留めていく。
息を切らし、槍に寄りかかるように立つアニーに蒼真が近づく。
「アニー、お疲れ様。最後のは良かったぞ。その調子でこれからも頑張ろうな」
「はい。ありがとうございます! 蒼真さん」
握手する二人はとても満足そうな表情だ。
「…… アニーってあんな感じだっけ?」
苦笑いで問うハウザー。
「キャラ変わったように見えるな……」
ベンダーも苦笑いで答える。
「蒼真さんって厳しいんですね……」
少し怯えているリンゼ。
「蒼真さんは仲間に傷ついてほしくないんです。だから戦闘訓練では厳しくするし良いところは褒めてもくれます。普段は無愛想ですが優しい人ですよ!」
「まぁ良いやつだってのはわかってるよ。わざわざこんなに手間かけて教えてくれるくらいだからな」
「私なんて出会った頃は戦闘できませんでしたからね!」
「その強さでか!?」
「毎日蒼真さんに稽古つけてもらいました」
「蒼真に教われば確実に強くなれるな…… 」
ちょっとビビりながらも蒼真の教えを受けようと思うハウザーパーティーだった。
ミリーに体力を回復してもらうアニー。
一旦水を飲んで少し休憩をとることにした。
蒼真は突き以外の槍での攻撃を説明し、アニーの戦闘センスならすぐに上達すると自信をもたせるよう話し込んでいる。
十五分ほどしてミリーが立ち上がる。
「そろそろ魔石を集めて行きましょう!」
「この魔獣数だと魔石集めも大変だな……」
項垂れるベンダー。
「嬉しい大変さだけどな」
苦笑いで答えるハウザー。
「蒼真さんお願いします」
「ああ、稼ぎは等分だしとりあえず回収するぞ」
疑問に思うベンダーとハウザー。
蒼真は魔力を放出して魔獣の死骸を魔石に還す。
蒼真とミリーは歩き出し、蒼真の袋に魔石が集まっていく。
ただ歩き進むだけで集まる魔石に驚いているハウザー達だが、魔石も石だから地属性魔法で集めたらいいだろうと言われて納得した。
体を起こして背筋を伸ばしていると隣のベッドで横たわるリゼと目が合う。
お互い挨拶を交わし、着替えや準備をして部屋を出る。
朝のひんやりとした空気を感じながらテラスへ出るリゼとミリー。
千尋はすでに起きていて真剣な表情をしている。
魔力の訓練を行っているのだろう。
千尋がいるのを確認したミリーは、三人分のコーヒーを食堂にもらいに行き、リゼは真剣な表情をする千尋を少しの間見つめてから話しかける。
「おはよう千尋」
「ん? あっ、おはようリゼ」
千尋は集中していてリゼが話しかけるまで気づかなかったようだ。
「千尋のその訓練てどうなってるの?」
以前から気になっていた千尋の魔力操作を質問してみる。
普段から千尋の魔力の使い方はおかしいのだ。
戦闘の多くを素手で行う事、その威力も高く、ミスリルのような媒体を介さなければ連続してあれだけの攻撃は不可能だ。
魔力を練る時間もなく高出力で魔法を発動できる千尋はやはり異常と言える。
「えーとね、訓練ていうか体外魔力量を増やしてるんだー」
さっそく意味のわからない回答をしてくる千尋。
「んん? どういう事?」
「リゼから最初に教わった魔力操作あるでしょ? 魔力球を遠くに移動させるやつ」
「魔力操作の基本よね?」
「あれを無意識下で常時やってるんだよ。今作ったので体外魔力球も六十個目だよー」
「ええ!? 嘘でしょ!?」
「今は一つにつき魔力量も500ガルド程度かなー。攻撃する度に引き戻して使ってるんだ」
「そんな使い方する人いないわよ……」
「魔力量が少なかったからね。体外に魔力を出した状態だと体内魔力が回復する事に気付いてさぁ。上空50メートルあたりに浮かせてあるけど慣れると便利だよー」
「常時魔力訓練してるってわけね…… 千尋の強さの秘密がよくわかったわ……」
「魔力3万ガルド分を打ち続けても魔力は何も減らないよっ!」
「ズルいわね……」
引き攣った顔が戻らないリゼ。
「今後の課題は魔力量を増やす事だけどさぁ、魔力量増やすと視覚化されちゃうから隠蔽が難しいんだよねー」
さすがに六十個もの魔力球を常時発動、魔力量を維持したまま隠蔽となると、魔力量を少しでも増減させるとブレが生じてしまう。
千尋の場合は意識の外で魔力球を維持している為、夜寝ている間も魔力球は浮いている。
意識の外での魔力の維持では、わずかな魔力量の差でもコントロールが途切れて魔力球は霧散してしまうのだ。
そもそも魔力制御を意識から外して、予備魔力とするなど考え方自体がおかしい。
千尋は普段の戦闘では強めの攻撃以外は体内から魔力を放出して使用している。
咄嗟の攻撃や高出力での打ち合いのみ体外魔力を利用して魔法を発動している。
複数の炸裂弾を作る場合なども500ガルドを分割して大量の魔法を生み出している。
「おはようございます、千尋さん!」
ミリーがコーヒーを持ってきてくれた。
「おはよう。コーヒーありがとう!」
「あれ? リゼさんどうしたんですか? 表情が変ですよ?」
「ミリーには今千尋が何してるかわかる?」
「コーヒー飲んでますね」
上空を指差すリゼ。
「50メートル上空に千尋の魔力球が六十個あるって」
「ほえ?」
「魔力操作あるでしょ? これを普段から魔力量500ガルドで六十個も浮かせてあるんだって」
右手に魔力球を出して言うリゼ。
「…… やはり千尋さん。変ですね!」
「変じゃないし!」
「私から見ても変よ!」
呆れ顔で千尋を見るリゼとミリー。
「むう…… まぁ普通のやり方じゃないのは認めるけど。あ、そうそう! 蒼真がさぁ、オレとリゼで武器作りしろって言ってたー」
「どういう事ですか?」
「機材や素材あるんだから作って武器屋に卸せばいいって」
「おお! 千尋さんやリゼさんが作ったのならすごい値段で売れそうですね!」
「その間蒼真とミリーは他のパーティーのクエストに同行して訓練していこうってさ」
「そうね…… この街でも亜種を倒せるくらいのパーティーはいくつか必要よね」
「あと高難易度クエ出た時とかオレ達で受けようって言ってた!」
「私達が受けたいような高難易度クエストはなかなか出ませんからね」
「普通のクエストなら過剰戦力よね」
「今日はハウザーさん達キラーアントって言ってましたよね? 私達の時250体近く居ましたけど平気ですかね?」
「100体超えてからはキツいだろうね。ミリーはついでにミノタウロスも行って来たら良いんじゃない?」
「良いですね! そうします!」
「じゃあ私は千尋と倉庫探しね」
「決まりだね! もう少ししたら蒼真起こしてごはん食べよー!」
昨夜千尋と蒼真で話あった内容で今後の予定も決まった。
今日からは別行動をとる。
蒼真とミリーは早速役所へ向かう。
「いたーーー!! ハウザーさん!」
「うおっ!? なんだ?」
「キラーアント受けました?」
「…… それがな、キラーアントの大量繁殖であの辺やばい事になってるって言われたんだよ。まいったなー」
「それなら私と蒼真さんも同行させてください! ついでにミノタウロスクエスト受けますから」
「おおマジか! それならイケる! んん? ミノタウロスも!?」
「ミノタウロスはソロで狩ってもらうがな」
ニヤリとしながら言う蒼真。
「頑張ってね、ハウザー」
「リンゼもやるんだぞ?」
「ええ!? 嘘でしょ?」
「蒼真さんは間違いなくやらせますよ……」
「とりあえず今日はハウザーのパーティーに同行させてもらおうと思う。今後他のパーティーにも同行させてもらって、お互い情報交換してはどうだろう。報酬は人数で等分するって条件だが」
「そんな条件でいいのか? 蒼真やミリーがいるなら結構無理もできるし難易度高めも受けれるからな…… 皆んなはどう思う?」
役所に来ていた冒険者達にも聞いてみる。
是非! と快く了承された。
「千尋さんやリゼさんも今後は同行します!」
正直なところ千尋やリゼの戦闘は他の冒険者の参考にならないだろうと蒼真は思っている。
蒼真やミリーとは違い防御が一切ない。
千尋は回避しながらの攻撃がメインなうえ武器も銃、さらにはサイレントキラーもある。
リゼはルシファーによる一方的な蹂躙に加え、攻められても攻撃魔法で迎撃する。
かなり特殊な二人の戦い方は誰にも参考にならないだろうという見解だ。
「では皆さん、今日一日ですがよろしくお願いします! 」
ミリーと蒼真はミノタウロス討伐クエストを受注して、ハウザーパーティーとアルテリア北に向かう。
いつもより時間がかかる事を予想し、光の魔石ついでに弁当も買っていく。
ハウザーのパーティーはブルーランクの四人編成だ。
リーダーでダガー使いのハウザー。
直剣と盾を持つ前衛のベンダー。
弓から槍に変更した中衛アニー。
リンゼはスタッフを持って後衛魔法支援だ。
アニーが弓から槍に変更した理由は、ミスリル製の弓矢が売ってない為だ。
槍での戦いが不慣れなアニーは少し不安がありそうだが、魔法は遠距離向きという事なので戦えなくはなさそうだ。
槍での戦闘方法は街道でリザードマン相手に実戦で教えるとして、道中簡単に説明しておく。
アニーの購入した槍はミスリルの十字槍。
柄の部分にもミスリルが埋め込まれている為、魔力の流れにも問題はない。
重さに関しては重力操作や物理操作で操作するのだが、重力魔法はあまり使用できる者がいない。
物理操作でミリーがやったように槍を操作してもらう。
ミリーとは違い通常魔力で操作できるアニーは、それほど苦労する事なく槍を操ってみせた。
それを見たミリーは驚いていたが、粉塵系魔力で地属性魔法を使う方がはるかに難しい。
しばらく歩いていくと、ワーウルフやリザードマンが大量に集まってきた。
「ミリー、爆発音でもっと集めるぞ」
「はい? 何をすっ…… どわぁぁあ!?」
蒼真は炎の刃でミリーに斬りかかる。
ミリーはメイスで受けると同時に爆破。
ハウザー達が怯む程の爆発音が鳴り響き、次々と魔獣が集まってくる。
「さすがミリー。あれに反応できるとは」
「さすがじゃないですよ! ビックリするじゃないですか!? 」
「オレ達もビックリしたわ…… っつかめちゃくちゃ集まってきてるぞ!?」
「とりあえずワーウルフは邪魔だな」
「私がやりますよー」
蒼真が魔力を練り、凍てつく刃を地面に突き立てる。
蒼真を中心に半径10メートルほどが冷気に包まれた。
それと同時にミリーが走り出し、ワーウルフを次々と叩き伏せていく。
ミリーに繰り出されるワーウルフの攻撃も、ミリーの爆裂魔法に阻まれダメージを与えられない。
弾かれて体制を崩すワーウルフはそのままミリーに叩き伏せられてしまう為、側からみると一方的な大量虐殺。
舞うようにメイスを振るうミリーは、爆音と断末魔を響かせながらも余裕の表情だ。
口を開けて見守るハウザー達だが、すぐに蒼真から声がかけられる。
「アニー。リザードマンが練習相手だ。冷気で動きは抑えてあるからさっき説明したようにやってみろ」
「は、はい!!」
蒼真やミリーに圧倒されて萎縮するアニー。
普段は男勝りな口調のアニーもこの時ばかりは敬語になっていた。
「アニーさーん! 蒼真さんの教えは厳しいですから気合入れてやってくださいねー!!」
離れたところでワーウルフと戦いながらもミリーが言う。
「左脚を前に半身に構え…… 対象に向かって距離を詰めて、突く!!」
槍がリザードマンの胸に突き刺さり、リザードマンは血を吐いて絶命する。
「いいぞアニー。なかなか筋がいい。次は魔法を発動してみろ」
「は、はい!!」
右側にいたリザードマンに先ほどと同じように槍を突き立てて矛先から火属性魔法を放つ。
燃え上がり地に伏すリザードマン。
「アニー…… 突きはいいが魔法が遅い。やり直しだ」
蒼真の声にドスが効いている。
「はっはい!! スミマセン!!」
ビビりまくるアニー。
再び正面にいるリザードマンを突いて火を放つ。
「さっきより良いが少し違うな。こうだ、見てろよ?」
地面から刀を抜き、蒼真が構える。
駆け出すと同時に魔力を練り、刀を引いて切っ先から炎を吹き出すようにイメージをもって突く。
リザードマンが燃え上がり、胸に大きな風穴が空いていた。
「矛先が当たる瞬間に炎を吹き出すように放て。威力が格段に上がる」
「わかりました! やってみます!!」
魔力を練り槍を引いて構える。
駆け出して蒼真をなぞるように槍を突き出す。
突き抜く槍は炎を放ち、リザードマンの胸に風穴を空けていた。
「ど…… どうでしたか?」
不安そうに問いかけるアニー。
「いいぞアニー。今のは良かった。その調子でどんどん行ってみろ」
「はい! 蒼真さん!」
笑顔で褒める調教師蒼真の飴と鞭。
次々とリザードマンを貫いていくアニー。
「よし、アニー。残り十体は動けるようにするから今の調子でやってみろ」
「はい! 頑張ります!」
蒼真は冷気を解除し、熱風を放って地面ごと空気を熱する。
身体が温まったことで動きだすリザードマン。
「私達は暑いんですけどねー」
嫌な顔をしながらぼやくミリー。
ハウザー達も汗が流れている。
動き回るリザードマンはやはり突きにくく、一撃で倒せるものの狙った部分を三体続けて外す。
「狙い場所だけを見るな。全体を見ればリザードマンの動きも読めるはずだ」
集中力を高めるアニー。
立て続けに七体を完璧に仕留めていく。
息を切らし、槍に寄りかかるように立つアニーに蒼真が近づく。
「アニー、お疲れ様。最後のは良かったぞ。その調子でこれからも頑張ろうな」
「はい。ありがとうございます! 蒼真さん」
握手する二人はとても満足そうな表情だ。
「…… アニーってあんな感じだっけ?」
苦笑いで問うハウザー。
「キャラ変わったように見えるな……」
ベンダーも苦笑いで答える。
「蒼真さんって厳しいんですね……」
少し怯えているリンゼ。
「蒼真さんは仲間に傷ついてほしくないんです。だから戦闘訓練では厳しくするし良いところは褒めてもくれます。普段は無愛想ですが優しい人ですよ!」
「まぁ良いやつだってのはわかってるよ。わざわざこんなに手間かけて教えてくれるくらいだからな」
「私なんて出会った頃は戦闘できませんでしたからね!」
「その強さでか!?」
「毎日蒼真さんに稽古つけてもらいました」
「蒼真に教われば確実に強くなれるな…… 」
ちょっとビビりながらも蒼真の教えを受けようと思うハウザーパーティーだった。
ミリーに体力を回復してもらうアニー。
一旦水を飲んで少し休憩をとることにした。
蒼真は突き以外の槍での攻撃を説明し、アニーの戦闘センスならすぐに上達すると自信をもたせるよう話し込んでいる。
十五分ほどしてミリーが立ち上がる。
「そろそろ魔石を集めて行きましょう!」
「この魔獣数だと魔石集めも大変だな……」
項垂れるベンダー。
「嬉しい大変さだけどな」
苦笑いで答えるハウザー。
「蒼真さんお願いします」
「ああ、稼ぎは等分だしとりあえず回収するぞ」
疑問に思うベンダーとハウザー。
蒼真は魔力を放出して魔獣の死骸を魔石に還す。
蒼真とミリーは歩き出し、蒼真の袋に魔石が集まっていく。
ただ歩き進むだけで集まる魔石に驚いているハウザー達だが、魔石も石だから地属性魔法で集めたらいいだろうと言われて納得した。
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第四天 ゼブル。
第五天 マオン。
第六天 マコン。
それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。
気付けば明星は、玉座に座っていた。
そこは天の最高位。
第七天 アラボト。
そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。
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