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異世界での生活
025 防衛戦
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宿屋を後にし役所へ向かう。
役所には二十組ほどのパーティーが集まっていた。
「お、来たな! 昨夜はありがとな! みんな疲れきってたから助かったぜ」
ハウザーが話しかけてくる。
「やぁハウザー。こっちこそご飯ありがとねー。もうみんな集まってるの?」
「昨日広場に集まってたメンバーだけじゃなく、魔法医院でミリーに回復してもらった奴らも集まってるぜ!」
「んな!? 皆さんまだ寝てないとダメですよ! 傷や体力は回復しても痛みはなかなか抜けませんから!」
「それでもミリーさんにお礼が言いたいんですよ。昨夜はありがとうございました!」
アウラもミリーに感謝している。
「ところで千尋達のリーダーって誰なんだ? あとパーティー名が知りたいんだが……」
「ん? リーダー? 誰だ?」
四人で顔を見合わせる。
「ミリーがリーダーだよ!」
「ええ!? なんで私なんですか!?」
周りから女神がリーダーか! などと聞こえてくる。
そして千尋がボソッと(オモシロイから)と呟く。
「ミリーがリーダーか。良いパーティーだよな。で? パーティー名は?」
また四人で顔を見合わせる。
「天照だよ!」
「なんですか!? アマテラスって!」
( オレ達の国の女神だよ!)と千尋はコソコソ説明する。
(女神ってミリーが言われてたからか)と蒼真も小声で言う。
「ふーん、アマテラスねぇ。初めて聞く言葉だかまぁいいや。みんなに紹介させてくれ!」
横一列に並ばされて紹介される。
「彼らが昨夜この街の魔獣を殲滅してくれたアマテラスのメンバーだ。リーダーはミリー。みんなよろしく頼む!」
「じゃあリーダーから挨拶があるよー!」
「ええ!? 千尋さんなにを!?」
「ミリー、リーダーなんだから一言くらい挨拶しろ」
「ミリーがんばってー……」
「リゼさん眠そうですね…… ええと、ミリーです。皆さん昨日までお疲れ様でした! 今日もまた魔獣が来るかもしれませんので怪我には気をつけてくださいね!」
男共数名から女神、女神と呼ばれて赤面するミリー。
千尋と蒼真も面白がって女神と呼んでいる。
小一時間ほどこれまでのアルテリアの話を聞き、何者かの狙いがあるのだろうと予想する。
これまでは夜通し戦って、生き残った魔獣は夜明けには退散するという事を繰り返していた。
そして昨夜は夜が更ける前に殲滅した為、今夜は何か起こるだろう。
蒼真とミリーは東側にハウザーパーティーとともに待機。
北側は千尋とリゼ、アウラのパーティー。
西と南は騎士団と他の冒険者パーティーを分割して待機。
時刻は十七時。
警鐘が鳴り響く。
東側からズシンズシンと巨大な魔獣が二体歩いて来る。
その後ろから十体ほどのリザードマン。
巨大なモンスターの一体もリザードマンのようだが爪と牙が生えている。
もう一体は巨大なワーウルフ。
体毛が無く鱗がある。
どちらも二種の混成体のようだ。
蒼真が巨大リザードマン、ミリーが巨大ワーウルフに向かい合い戦いが始まる。
他の冒険者達は残りの魔獣と戦いになるが、数が優位な事であっという間に殲滅できた。
蒼真は魔力を練り、刀に冷気を纏う。
リザードマンが爪で蒼真を攻撃するが、刀によって阻まれる。
冷気を浴びて動きが鈍いリザードマン。
亜種の為か動きは鈍いがまだ戦えそうだ。
ランの放つ風刃に冷気を乗せた一撃。
正中から真っ二つにされてリザードマンは絶命した。
ミリーが向かい合う巨大ワーウルフ。
大きな身体で物凄いスピードで向かって来る。
右爪の攻撃をメイスで受けて爆破。
爪が二本折られても構わず左爪を振り抜く。
再度左爪を爆破し、頭を叩き潰したところでワーウルフも絶命した。
「ミリーまであんなに強いのか!?」
ハウザーだけでなく誰もがミリーの強さに驚いた。
ヒーラー自体が戦闘できるなど、これまで見たことも聞いたこともなかったからだ。
遠くからまた大きな足音が聞こえて来る。
北側から近づいて来るようだ。
千尋とリゼはしばらく北側通路を見つめていると、現れたのは十五体のリザードマンとワーウルフ。
そしてミノタウロスの亜種、単眼のミノタウロスだ。
サイクロプスの魔石を食ったのだろうが、元々筋骨隆々なミノタウロスがさらに大きな体躯となっている。
千尋は腕を組んだまま棒立ち。
視界に入る魔獣をサイレントキラーで一斉に瞬殺する。
しかしミノタウロスは顔に魔力が触れた瞬間に突進して来る。
リゼがルシファーを抜いて一薙ぎ。
ミノタウロスは石斧でガードするも、直後にリゼのルシファーによる連撃。
石斧によるガードなど物ともせずミノタウロスを切り刻む。
全身を刻まれ、最後には心臓を貫かれて絶命した。
それを見ていたアウラ達のパーティーメンバーは驚きのあまり言葉が出なかった。
それから約十五分程待ったが何も現れない。
千尋とリゼは他のパーティーと合流してあたりの様子をみる。
しばらくすると西側から何かが歩いてくる。
人のようだが…… 人ではない何か。
人の形をした魔獣? それが二体。
肌や髪の色は二体とも違うが、目の色が赤と黒。人の白目の部分が黒い、長く尖った耳。
衣服は簡易な皮布を巻き付けた程度の、男と女のようだが亜人種か?
「やっと見つけたわね」
「ああ。お前達だな? 以前オレが作ったサイクロプスを倒したのは」
男の方が蒼真を指差して言う。
「言葉が話せるのか…… 確かにサイクロプスを倒したのはオレ達だ」
「あれにはこの街で暴れさせる予定だったんだがなぁ……」
「どういうつもりでサイクロプスの亜種なんて作ってるんですか!?」
「ああ? 実験だよ実験! 戦争するのに駒が必要だろ?」
「最近この街に魔獣を引き入れてるのはお前らか? 何なんだお前らは」
蒼真は疑問をぶつける。
「ふん、我ら魔族を知らんのか」
「んん? 魔族が何しに来たの?」
「力を持つ人間を見つけたら殺して食うに決まっているだろう」
「ねぇ、クエス。あの男は綺麗だな。あれは殺さずに持って帰りたい」
千尋を指差す魔族の女。
「何を言っているんだネイ。全部食えばいいだろう」
「ダメよ。私はあれを持って帰る!」
「…… チッ、好きにしろ」
「千尋、あれは敵みたいだな。狙われてるぞ?」
「気を付けて! あいつらは魔族…… とんでもない強さよ!」
「リゼは戦った事あるの!?」
「以前私のパーティーを全滅させたのが魔族よ…… ヘインズとミランダは魔族に殺された!」
「なるほどな、ロナウドさん以上かもしれないって事か……」
「ハウザーさん! 皆さんとなるべくここから離れてください!」
魔力を練り上げる魔族の男、クエス。
一瞬で間合いを詰め、殴り飛ばされる蒼真。
同時にブシュッとクエスの頬から血が流れ、蒼真も殴られる瞬間に刀を薙いでいた。
血を拭いニタリとしながら黒い爪を伸ばすクエス。
風魔法を発動させて全身に纏う蒼真。
蒼真を中心として強風が巻き起こる。
ボッという音と共に二人が走り出す。
刃と爪の応酬。
蒼真が僅かに距離を取り風刃を放つ。
しかしクエスの方が若干速い。
風刃を躱したクエスは蒼真の左肩に爪を突き刺し、その勢いのまま吹っ飛ばす。
そこにミリーの爆裂魔法。
顔面目掛けて振り抜くメイスを左腕でガードするクエス。
爆破の威力で20メートルほど弾き飛ばされ、転がりながらも立ち上がる。
クエスの左腕は肉が捲れ上がり、血がダラダラと流れ出す。
左腕を握りしめ、捲れた肉を押さえ込む。
ミリーに怒りを込めた表情を見せるが、すぐに蒼真に向き直る。
蒼真は起き上がるがかなりのダメージを負っている。
左肩から血を流し、弾き飛ばされた事でフラフラだ。
額から流れ出す汗にも血が混じる。
初めて見せる蒼真の危機。
神経を研ぎ澄ませてイメージを固める。
魔力を練り上げ身体に風を、刀に風の渦を纏わせる。
クエスも魔力を練り、炎を身体から放つ。
再び駆け寄り、ぶつかり合う二人の攻撃。
爪を弾き、炎をかき消してクエスの左腕と共に脇腹ごと斬り裂く蒼真。
刀に纏った風の渦がクエスを吹っ飛ばす。
蒼真の攻撃で飛ばされたクエスは斬られた左腕を拾い、魔力を集中して腕をくっ付ける。
魔族は魔力による自己治癒が可能なようだ。
「貴様らなかなか強いな…… 必ず食ってやるからな!」
「クエス。次は私が遊ぶ番よ! そこの貴方、遊びましょう?」
クエスの前に出る魔族の女。
千尋を指差している。
「オレの相手か? イイよ!」
「待って千尋。私に譲って……」
構える千尋の前にリゼが割って入る。
「…… わかった。無理はしないでね」
躊躇いながらもリゼの強さなら問題ないと判断する千尋。
「なによー。貴方はどうでもイイのよー。どうでもイイから…… すぐ殺してあげる!」
魔力も練らずに突進して来る魔族の女、ネイ。
リゼは魔力を練りながらルシファーを振るう。
避けきれずに身体を切り裂かれるネイ。
驚いた表情をしながら全身にグッと力を入れて止血、止血されるだけでなく切り口もくっ付いたようだ。
ネイは魔力を練り、黒い爪を剣のように伸ばしてリゼに襲いかかる。
リゼはルシファーを薙いでネイに再度切り込む。
最初とは違い、ルシファーを爪で受け、躱し、弾く。
ネイは反撃は出来ずにいるが全ての斬撃を受けきっている。
「リッカ!」
リゼはリッカの氷魔法で魔族の女を凍りつかせる。
手加減は一切なし。
さらに凍らせた魔族をルシファーで貫き、ひたすら切り刻む。
「シズク!」
シズクの水魔法で大量の水を集め、複数の巨大な氷の槍をネイに叩き込む。
身体を砕いて凍りつき、次弾でまた砕いては凍らせるを繰り返す。
バラバラになったネイの体が氷の中に散っていく。
圧倒的な強さでリゼは魔族を倒した。
「チッ…… ネイの奴死んじまったのか」
ネイが死んだ事で舌打ちをするクエス。
リゼが戦っている間にミリーは蒼真の肩を回復させていた。
蒼真は腕が動くようになった事を確認し、刀を構えて魔力を練る。
「ラン。力を貸せ」
蒼真の体から暴風が吹き荒れ、刀を構える。
クエスも腕や脇腹の傷が消え、両手に黒爪を伸ばして構える。
お互い一拍の間を置いて疾走する。
目で追いきれない程の蒼真の速度にクエスは驚く。
蒼真の刀を全て受け、爪で反撃するクエス。
蒼真も受け流し、躱しながらも隙を探す。
両手のクエスに対し、一刀の蒼真は手数で不利になる。
魔族の腕力は尋常ではなく、蒼真の刀を片手で受けてなお弾き返すほどだ。
しかし蒼真は風刃を放ち、一撃斬り込むたびに爪をすり抜けてクエスの体を刻む。
それに対してクエスも風魔法で打ち返しているが、相殺しきれず次々と身体に切り傷が刻まれる。
全力で斬り込む蒼真に押され、クエスも受けきれなくなっていく。
防戦一方だになるクエスは、傷を受けながらも蒼真を払いのけて距離を取る。
魔力で傷を修復しながら蒼真を睨む。
「ぐうっ…… 人間ごときが…… 今日のところは引いてやる。次は貴様をバラバラァァア!!! 」
ミリーがメイスを振り抜いて爆破させた。
後頭部から弾け飛び、クエスも絶命した。
「引いてやるじゃないんですよ。黙って見逃がせるわけないじゃないですか」
容赦無いミリーだった。
魔族を魔石に還して回収する。
「なんか魔石でかいね!」
「サイクロプスのよりデカイな」
「この魔石は何に使えるんでしょうね?」
「爆発したりして……」
「私も魔族の魔石は初めてみたわ。人間の魔石だと魔法は発動しないけど…… 魔族のはどうなるのかしら」
「刀を当てればわかるか」
魔石を地面に置いて刀で触れるが何も起こらなかった。
戦闘が終わったことで騎士団と冒険者達が駆け寄り、全員無事である事を確認する。
「さっきの奴ら魔族って言ってたよな? まさか本当に魔族がいるとは思わなかったぜ」
「ハウザーも初めて見たの?」
「魔族なんて東の遥か向こうに住んでると聞いた事があるだけで、実際見たなんて奴は今までいなかったな」
「とりあえず奴らがこの街に魔獣を引き入れていたみたいだから今後街が襲われる事はないだろう」
エドワードは話をまとめ、王国に報告する必要があると言う。
冒険者パーティーのリーダーと騎士団は屯所で話をまとめる事となった。
ミリーもパーティーリーダーである為行かなくてはならないが、ミリーは魔力が回復出来ていない為表情が疲れきっている。
天照メンバーも全員が寝不足とダメージがある為、後日報告を受ける事となり解散となった。
冒険者達は千尋達に駆け寄り、話しをしたかったようだがアウラが引き止める。
疲れているだろうから休ませてあげようと必死で訴えていた。
四人の顔を見てみんな納得してくれたようだ。
後日お話しましょうと約束してそれぞれ解散した。
冒険者達は酒場に向かい店を開けてもらうそうだ。
酒場の店主も久々に夜に店を営業出来ると、大喜びで店を開けてくれたらしい。
役所には二十組ほどのパーティーが集まっていた。
「お、来たな! 昨夜はありがとな! みんな疲れきってたから助かったぜ」
ハウザーが話しかけてくる。
「やぁハウザー。こっちこそご飯ありがとねー。もうみんな集まってるの?」
「昨日広場に集まってたメンバーだけじゃなく、魔法医院でミリーに回復してもらった奴らも集まってるぜ!」
「んな!? 皆さんまだ寝てないとダメですよ! 傷や体力は回復しても痛みはなかなか抜けませんから!」
「それでもミリーさんにお礼が言いたいんですよ。昨夜はありがとうございました!」
アウラもミリーに感謝している。
「ところで千尋達のリーダーって誰なんだ? あとパーティー名が知りたいんだが……」
「ん? リーダー? 誰だ?」
四人で顔を見合わせる。
「ミリーがリーダーだよ!」
「ええ!? なんで私なんですか!?」
周りから女神がリーダーか! などと聞こえてくる。
そして千尋がボソッと(オモシロイから)と呟く。
「ミリーがリーダーか。良いパーティーだよな。で? パーティー名は?」
また四人で顔を見合わせる。
「天照だよ!」
「なんですか!? アマテラスって!」
( オレ達の国の女神だよ!)と千尋はコソコソ説明する。
(女神ってミリーが言われてたからか)と蒼真も小声で言う。
「ふーん、アマテラスねぇ。初めて聞く言葉だかまぁいいや。みんなに紹介させてくれ!」
横一列に並ばされて紹介される。
「彼らが昨夜この街の魔獣を殲滅してくれたアマテラスのメンバーだ。リーダーはミリー。みんなよろしく頼む!」
「じゃあリーダーから挨拶があるよー!」
「ええ!? 千尋さんなにを!?」
「ミリー、リーダーなんだから一言くらい挨拶しろ」
「ミリーがんばってー……」
「リゼさん眠そうですね…… ええと、ミリーです。皆さん昨日までお疲れ様でした! 今日もまた魔獣が来るかもしれませんので怪我には気をつけてくださいね!」
男共数名から女神、女神と呼ばれて赤面するミリー。
千尋と蒼真も面白がって女神と呼んでいる。
小一時間ほどこれまでのアルテリアの話を聞き、何者かの狙いがあるのだろうと予想する。
これまでは夜通し戦って、生き残った魔獣は夜明けには退散するという事を繰り返していた。
そして昨夜は夜が更ける前に殲滅した為、今夜は何か起こるだろう。
蒼真とミリーは東側にハウザーパーティーとともに待機。
北側は千尋とリゼ、アウラのパーティー。
西と南は騎士団と他の冒険者パーティーを分割して待機。
時刻は十七時。
警鐘が鳴り響く。
東側からズシンズシンと巨大な魔獣が二体歩いて来る。
その後ろから十体ほどのリザードマン。
巨大なモンスターの一体もリザードマンのようだが爪と牙が生えている。
もう一体は巨大なワーウルフ。
体毛が無く鱗がある。
どちらも二種の混成体のようだ。
蒼真が巨大リザードマン、ミリーが巨大ワーウルフに向かい合い戦いが始まる。
他の冒険者達は残りの魔獣と戦いになるが、数が優位な事であっという間に殲滅できた。
蒼真は魔力を練り、刀に冷気を纏う。
リザードマンが爪で蒼真を攻撃するが、刀によって阻まれる。
冷気を浴びて動きが鈍いリザードマン。
亜種の為か動きは鈍いがまだ戦えそうだ。
ランの放つ風刃に冷気を乗せた一撃。
正中から真っ二つにされてリザードマンは絶命した。
ミリーが向かい合う巨大ワーウルフ。
大きな身体で物凄いスピードで向かって来る。
右爪の攻撃をメイスで受けて爆破。
爪が二本折られても構わず左爪を振り抜く。
再度左爪を爆破し、頭を叩き潰したところでワーウルフも絶命した。
「ミリーまであんなに強いのか!?」
ハウザーだけでなく誰もがミリーの強さに驚いた。
ヒーラー自体が戦闘できるなど、これまで見たことも聞いたこともなかったからだ。
遠くからまた大きな足音が聞こえて来る。
北側から近づいて来るようだ。
千尋とリゼはしばらく北側通路を見つめていると、現れたのは十五体のリザードマンとワーウルフ。
そしてミノタウロスの亜種、単眼のミノタウロスだ。
サイクロプスの魔石を食ったのだろうが、元々筋骨隆々なミノタウロスがさらに大きな体躯となっている。
千尋は腕を組んだまま棒立ち。
視界に入る魔獣をサイレントキラーで一斉に瞬殺する。
しかしミノタウロスは顔に魔力が触れた瞬間に突進して来る。
リゼがルシファーを抜いて一薙ぎ。
ミノタウロスは石斧でガードするも、直後にリゼのルシファーによる連撃。
石斧によるガードなど物ともせずミノタウロスを切り刻む。
全身を刻まれ、最後には心臓を貫かれて絶命した。
それを見ていたアウラ達のパーティーメンバーは驚きのあまり言葉が出なかった。
それから約十五分程待ったが何も現れない。
千尋とリゼは他のパーティーと合流してあたりの様子をみる。
しばらくすると西側から何かが歩いてくる。
人のようだが…… 人ではない何か。
人の形をした魔獣? それが二体。
肌や髪の色は二体とも違うが、目の色が赤と黒。人の白目の部分が黒い、長く尖った耳。
衣服は簡易な皮布を巻き付けた程度の、男と女のようだが亜人種か?
「やっと見つけたわね」
「ああ。お前達だな? 以前オレが作ったサイクロプスを倒したのは」
男の方が蒼真を指差して言う。
「言葉が話せるのか…… 確かにサイクロプスを倒したのはオレ達だ」
「あれにはこの街で暴れさせる予定だったんだがなぁ……」
「どういうつもりでサイクロプスの亜種なんて作ってるんですか!?」
「ああ? 実験だよ実験! 戦争するのに駒が必要だろ?」
「最近この街に魔獣を引き入れてるのはお前らか? 何なんだお前らは」
蒼真は疑問をぶつける。
「ふん、我ら魔族を知らんのか」
「んん? 魔族が何しに来たの?」
「力を持つ人間を見つけたら殺して食うに決まっているだろう」
「ねぇ、クエス。あの男は綺麗だな。あれは殺さずに持って帰りたい」
千尋を指差す魔族の女。
「何を言っているんだネイ。全部食えばいいだろう」
「ダメよ。私はあれを持って帰る!」
「…… チッ、好きにしろ」
「千尋、あれは敵みたいだな。狙われてるぞ?」
「気を付けて! あいつらは魔族…… とんでもない強さよ!」
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「以前私のパーティーを全滅させたのが魔族よ…… ヘインズとミランダは魔族に殺された!」
「なるほどな、ロナウドさん以上かもしれないって事か……」
「ハウザーさん! 皆さんとなるべくここから離れてください!」
魔力を練り上げる魔族の男、クエス。
一瞬で間合いを詰め、殴り飛ばされる蒼真。
同時にブシュッとクエスの頬から血が流れ、蒼真も殴られる瞬間に刀を薙いでいた。
血を拭いニタリとしながら黒い爪を伸ばすクエス。
風魔法を発動させて全身に纏う蒼真。
蒼真を中心として強風が巻き起こる。
ボッという音と共に二人が走り出す。
刃と爪の応酬。
蒼真が僅かに距離を取り風刃を放つ。
しかしクエスの方が若干速い。
風刃を躱したクエスは蒼真の左肩に爪を突き刺し、その勢いのまま吹っ飛ばす。
そこにミリーの爆裂魔法。
顔面目掛けて振り抜くメイスを左腕でガードするクエス。
爆破の威力で20メートルほど弾き飛ばされ、転がりながらも立ち上がる。
クエスの左腕は肉が捲れ上がり、血がダラダラと流れ出す。
左腕を握りしめ、捲れた肉を押さえ込む。
ミリーに怒りを込めた表情を見せるが、すぐに蒼真に向き直る。
蒼真は起き上がるがかなりのダメージを負っている。
左肩から血を流し、弾き飛ばされた事でフラフラだ。
額から流れ出す汗にも血が混じる。
初めて見せる蒼真の危機。
神経を研ぎ澄ませてイメージを固める。
魔力を練り上げ身体に風を、刀に風の渦を纏わせる。
クエスも魔力を練り、炎を身体から放つ。
再び駆け寄り、ぶつかり合う二人の攻撃。
爪を弾き、炎をかき消してクエスの左腕と共に脇腹ごと斬り裂く蒼真。
刀に纏った風の渦がクエスを吹っ飛ばす。
蒼真の攻撃で飛ばされたクエスは斬られた左腕を拾い、魔力を集中して腕をくっ付ける。
魔族は魔力による自己治癒が可能なようだ。
「貴様らなかなか強いな…… 必ず食ってやるからな!」
「クエス。次は私が遊ぶ番よ! そこの貴方、遊びましょう?」
クエスの前に出る魔族の女。
千尋を指差している。
「オレの相手か? イイよ!」
「待って千尋。私に譲って……」
構える千尋の前にリゼが割って入る。
「…… わかった。無理はしないでね」
躊躇いながらもリゼの強さなら問題ないと判断する千尋。
「なによー。貴方はどうでもイイのよー。どうでもイイから…… すぐ殺してあげる!」
魔力も練らずに突進して来る魔族の女、ネイ。
リゼは魔力を練りながらルシファーを振るう。
避けきれずに身体を切り裂かれるネイ。
驚いた表情をしながら全身にグッと力を入れて止血、止血されるだけでなく切り口もくっ付いたようだ。
ネイは魔力を練り、黒い爪を剣のように伸ばしてリゼに襲いかかる。
リゼはルシファーを薙いでネイに再度切り込む。
最初とは違い、ルシファーを爪で受け、躱し、弾く。
ネイは反撃は出来ずにいるが全ての斬撃を受けきっている。
「リッカ!」
リゼはリッカの氷魔法で魔族の女を凍りつかせる。
手加減は一切なし。
さらに凍らせた魔族をルシファーで貫き、ひたすら切り刻む。
「シズク!」
シズクの水魔法で大量の水を集め、複数の巨大な氷の槍をネイに叩き込む。
身体を砕いて凍りつき、次弾でまた砕いては凍らせるを繰り返す。
バラバラになったネイの体が氷の中に散っていく。
圧倒的な強さでリゼは魔族を倒した。
「チッ…… ネイの奴死んじまったのか」
ネイが死んだ事で舌打ちをするクエス。
リゼが戦っている間にミリーは蒼真の肩を回復させていた。
蒼真は腕が動くようになった事を確認し、刀を構えて魔力を練る。
「ラン。力を貸せ」
蒼真の体から暴風が吹き荒れ、刀を構える。
クエスも腕や脇腹の傷が消え、両手に黒爪を伸ばして構える。
お互い一拍の間を置いて疾走する。
目で追いきれない程の蒼真の速度にクエスは驚く。
蒼真の刀を全て受け、爪で反撃するクエス。
蒼真も受け流し、躱しながらも隙を探す。
両手のクエスに対し、一刀の蒼真は手数で不利になる。
魔族の腕力は尋常ではなく、蒼真の刀を片手で受けてなお弾き返すほどだ。
しかし蒼真は風刃を放ち、一撃斬り込むたびに爪をすり抜けてクエスの体を刻む。
それに対してクエスも風魔法で打ち返しているが、相殺しきれず次々と身体に切り傷が刻まれる。
全力で斬り込む蒼真に押され、クエスも受けきれなくなっていく。
防戦一方だになるクエスは、傷を受けながらも蒼真を払いのけて距離を取る。
魔力で傷を修復しながら蒼真を睨む。
「ぐうっ…… 人間ごときが…… 今日のところは引いてやる。次は貴様をバラバラァァア!!! 」
ミリーがメイスを振り抜いて爆破させた。
後頭部から弾け飛び、クエスも絶命した。
「引いてやるじゃないんですよ。黙って見逃がせるわけないじゃないですか」
容赦無いミリーだった。
魔族を魔石に還して回収する。
「なんか魔石でかいね!」
「サイクロプスのよりデカイな」
「この魔石は何に使えるんでしょうね?」
「爆発したりして……」
「私も魔族の魔石は初めてみたわ。人間の魔石だと魔法は発動しないけど…… 魔族のはどうなるのかしら」
「刀を当てればわかるか」
魔石を地面に置いて刀で触れるが何も起こらなかった。
戦闘が終わったことで騎士団と冒険者達が駆け寄り、全員無事である事を確認する。
「さっきの奴ら魔族って言ってたよな? まさか本当に魔族がいるとは思わなかったぜ」
「ハウザーも初めて見たの?」
「魔族なんて東の遥か向こうに住んでると聞いた事があるだけで、実際見たなんて奴は今までいなかったな」
「とりあえず奴らがこの街に魔獣を引き入れていたみたいだから今後街が襲われる事はないだろう」
エドワードは話をまとめ、王国に報告する必要があると言う。
冒険者パーティーのリーダーと騎士団は屯所で話をまとめる事となった。
ミリーもパーティーリーダーである為行かなくてはならないが、ミリーは魔力が回復出来ていない為表情が疲れきっている。
天照メンバーも全員が寝不足とダメージがある為、後日報告を受ける事となり解散となった。
冒険者達は千尋達に駆け寄り、話しをしたかったようだがアウラが引き止める。
疲れているだろうから休ませてあげようと必死で訴えていた。
四人の顔を見てみんな納得してくれたようだ。
後日お話しましょうと約束してそれぞれ解散した。
冒険者達は酒場に向かい店を開けてもらうそうだ。
酒場の店主も久々に夜に店を営業出来ると、大喜びで店を開けてくれたらしい。
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「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
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32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。


クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
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加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
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いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
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間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
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いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
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