器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

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異世界での生活

022 魔剣作り

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 翌日から作業に取り掛かる。

 千尋が素材の選定をしている時にリゼが気付いてしまった。
 あの出来事以降初めて二人きりになっている事に。
 顔を赤くしているリゼを見て、千尋は何かを察したのか微笑む。

 そして窓を開けて一言。

「リゼ、暑かったら窓開けなきゃ! 」

 全然察してないようです。

 ミスリル板を一枚選び出し、昨日話していたミスリルの性質や位置を板に書いて説明する。
 リゼは魔力を流し、目を閉じてミスリル内の魔力を探る。
 加工する時に魔力を端に寄せているが、その魔力を寄せる際の流れを判断する事で把握できるという。
 リゼも試してみるが全然わからなかった。
 千尋も感覚で選定しているのでうまく説明はできないようだ。

 千尋の説明では魔力の溜め込む部分がうまく刀身に入っていたとしても、先端側に魔力の流れやすい部分が少しでもあると溜め込む事ができないと言う。

 ミリーのメイスの柄の部分は魔力の流れやすいミスリル。
 先端に魔力を溜め込むミスリルと、それを固定している爪には方向を持たせているという。

 リゼのルシファーは柄の部分はメイスの残り、刃二十枚は板から切り出しただけでなく端材も利用している。
 理由は端材に魔力を溜め込む部分があったため先端側に利用した。

 そして唯一千尋の銃、ベルゼブブは魔力を溜め込む事はできない。
 理由は単純に必要ないから。
 精霊の器とする為にエンチャントしたのは千尋にとって想定外の事だった。





 いくら試しても判断がつかなかった為、素材選びは千尋に任せる事に。
 切り出してしまえばわかりやすいというのでそこで少しずつコツをつかもうという事になった。
 千尋が取り出した素材は縦2メートル、横1メートル、厚さ3センチの板だ。
 この一枚から一本分が切り出せるという。
 ラフに線を引き、溜め込む部分と流れやすい部分を記される。
 千尋は魔力の方向も説明してくれるがさっぱりわからない。

 リゼはミスリル内の魔力を寄せて、千尋は工具を当てて切り出していく。
 そして切り出されたミスリルに魔力を流して理解する。
 触れる部分によって魔力の流れが違うのだ。
 目を閉じて、感覚を研ぎ澄ませてわずかに判断できる程の微かな違い。
 この感覚をリゼは何度も確認して身体に染み込ませていく。
 千尋はリゼのそんな姿をジッと見守っている。
 リゼが納得いくまでひたすら待つ。



 目を開けて千尋を見るリゼ。
 感覚を研ぎ澄ませ、集中していた為額に汗が浮かび上がる。
 リゼにタオルを渡して少し休憩をする。

「いいの? こんなに時間をかけて」

「素材選びは武器を作る上で一番大事だと思うからねー」

「んー? 千尋何か企んでない?」

 何故か今回はリゼの素材選びに時間をかける千尋。何となく嫌な予感がするリゼ。

「ロナウドさんのはリゼに造ってもらおうと思ってね!」

「ええ!? ちょっとそんなの無理よ!?」

「仕上げや細部はオレがやるけど、リゼには素材選びから加工、磨き込みのほとんどをやってもらうよ!」

「本気で言って…… るわね 」

 千尋の目から本気度が伺える。

 先程切り出した素材に寸法や線を書き込み、剣の形に整えていく。
 この時に大事なのが魔力を寄せる者と加工する者の魔力制御。
 お互いの魔力制御の練度が高いほど加工が容易となる。
 そして手先が器用なうえ、地属性魔法が得意な千尋が使う工具捌きは一流と言っても過言ではない。
 さらにノームであるリクが魔力の制御を手伝ってくれる。
 ミスリルの素材が高度の高い金属とは思えないほどサクサクと削られていく。

 千尋は工具に対する魔力の流し方や魔力量など細かく説明しながら加工し、リゼも真剣に見聞きしている。
 千尋から見たリゼは着色などの作業を見る限りではかなりの器用さを持つ。魔力の練度も申し分ない。
 その事を伝えると嬉しそうに頬を染めていたが、やはりロナウドの剣を造るには自信がないようだ。

 レオナルドの剣は諸刃の剣。
 片刃の形が整ったところでリゼと替わる。
 リゼは恐る恐るながらも加工を進めていく。
 最初はぎこちない手付きで加工していたが、工具の切れ味や加工のし易さから次第に上達していった。

 工具を取り替えながら使い方も説明していく。
 リゼは千尋が思った以上の器用さを発揮し、昼になる頃には成形まで終わるほどだった。

 午後から削りや面だしを行い、模様をつけていくところで一日が終わった。



 次の日も模様入れの続き。
 三日目からは刃付けと磨き込み。
 五日目にはガードとグリップ、ポンメルを造り、着色前で終える。





 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





 六日目からはスタッフ造りに移る。
 ほとんどの部分が魔力の流れやすいミスリルとなる為、素材選びは魔力の溜め込む球体分と刃の部分。
 球体部分は魔力の溜まる部分を円形に切り出し、接着の魔石で貼り合わせた物を球体に加工する。
 接着の魔石はミスリルの表面を溶かし、接着というよりも溶着のような反応をする魔石となる。
 ミリーのメイスも魔力を溜め込む部分は同じように作られている。

 十一日でスタッフも着色前まで完成した。





 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





 十二日目からはロナウドの剣を造る為、リゼが素材選びをする。
 千尋はただ見ているだけだ。
 半日以上かけてようやく一枚のミスリル板を選択。
 線を引きこの部分を使いたいと千尋に言う。
 千尋も素材の確認をし、部位や方向共に問題はなかった。
 図を書き込むのも千尋が指示を出してリゼが作業をする。
 千尋はミスリル内の魔力を寄せ、リゼが全ての加工を行なっていく。
 失敗のないよう丁寧に作業を行なっていく為、千尋が造るよりも遥かに時間がかかる。





 それから二十日ほどして着色前まではほぼ完璧な状態に完成した。
 色つけ作業はリゼがロナウドの剣を、千尋がレオナルドとレミリアの武器を行う。

 そして完成したのが王国に来てから一ヶ月が経過していた。
 鞘はレオナルドの剣を元に注文していたので、完成した時には届いていた。





 布で覆いレオナルドとレミリアに武器を渡す。

「これが私の剣か…… 美しい。何という輝きだろう!」

「レオナルド様。私のスタッフも見てください。まるで宝飾品のようですよ」

 二人とも満足そうに眺めている。





 レオナルドの剣は顔が映り込むほど磨き込んで、色は刀身が色の明るくなる魔石で白銀となり、装飾に明るめの水色とわずかに金を入れる。
 翼のようなガードも白銀色で、中央には青い球状の宝石のように作られている。
 とても鮮やかで美しい仕上がりとなった。
 そして溜められる魔力量はおよそ4,500ガルド。
 蒼真の刀に比べれば魔力の溜め込める部分の長さは無いものの、剣の幅が広い為魔力量は高い。



 レミリアのスタッフは顔が映るほど磨いた素地に白銀に着色して金色の装飾を入れ、彫刻された部分と線を掘ってそのまま色分けされた部分がある。
 スタッフの長さはレミリアの身長程もあり、スタッフではなくロッドとした。
 美しい模様に流麗さと滑らかさを持たせ、宝飾品と言える程美しい。
 魔力を溜め込むためのミスリルは球体とし、こちらも当然磨き込んである。
 金属ではない為透き通ることはないが、色を濃い緑色に染めてエメラルドのような輝きを放っている。
 そして刃の部分も金と銀で色分けされ、予定とは違う三枚の刃。
 片側に大きめの二枚と、反対側に小さめのを一枚の刃が付いている。
 千尋が一枚では物足りなさを感じて追加した。





 そしてリゼからもロナウドに布で包んだ剣を渡す。

「ロナウド様。これは私がロナウド様へと造った剣です。お受け取りください」

「これをリゼが!?」

 布を広げて剣を手に持つ。

 黒い剣。
 刀身の作りはレオナルドの剣と変わらないが、ガードの装飾や色が違う。
 刀身の色は黒いが、全て鏡面まで磨き込まれてある為、ブラッククロームのようになる。
 そして赤いラインが刃より内側に引かれている。
 ガードは悪魔の翼のようなデザインとし、翼の部分は黒く、中央に赤い宝石のような球体があり、金色の装飾が覆う。
 グリップは黒地に金の線で着色され、ポンメルにも赤い宝石のようなものがある。

 千尋が手掛けたのは鏡面仕上げのみ。
 ミスリルを鏡面に仕上げるのには、知識と魔力の性質変化が必要となる。
 リゼには今後の課題となるのだが遠くないうち出来るだろうと千尋は予想する。

 鞘を払い、抜き身の剣を見つめるロナウド。

「何という美しい剣じゃ。これを本当にリゼが? 宝剣と呼べるほどの美しさ…… それになんじゃろう、魔力が溜まる? これはまるで…… あ、いや、いかんいかん。なんでもない」

「何を言おうとしたんですか? 父上」

「儂の立場からして言うてはならんような事じゃ」

「気になりますわ、お父様」

 頬に手を当てて訝しむレミリア。

「うーむ……」

 剣に魔力を込め、炎を剣に纏わせて薙ぐ。

「これは……」

「言いたい事はハッキリ言えと私にはよく言うではありませんか」

 顎に手を当てて考え込むロナウド。

「うーむ…… 他の者には内緒じゃぞ? この大陸には五つの国があるのは知っとるな? そのそれぞれの国に聖剣と呼ばれる宝剣がある。それは代々王に受け継がれているものなんじゃ。儂が聖騎士長になった頃に王に呼ばれた事があってな、聖剣を手にする事が一度だけあったんじゃ。聖剣自体は我々の持つ騎士の剣に多少装飾を施してあるが、魔力を溜めて魔法を放つ事が可能じゃった。その威力はミスリルの剣とは比べ物にはならなくてなあ……」

「おお! この剣に似てますね!」

「じゃがこれは聖剣より凄いのお」

「…… それは言うてはならん事ですね」

 顔を引攣らせるレオナルド。

「聖剣とは各国の宝。国そのものと言っても良いものじゃ。それより優れた剣があるとしたらこの一振りで国が買えるかもしれんのぉ」

「「「「「え!?」」」」」

「ちょっと待ってください! 聖騎士の剣ていくらぐらいするんですか!?」

「ミスリルの剣じゃからな。相場が二千万ほどじゃな」

 ミスリルの剣は安い物でも1,000万リラを超える。そして一級品武器ともなると6,000万リラ以上、1億を超えるものもある。

「え!? じゃあ私のこのメイス…… とんでもない値段なんじゃないですか!?」

「この剣に負けぬ性能じゃとすると…… 何百億どころか貴族が私財を投げ打ってでも買う者がおるかもしれんな。まぁそれ以上の価値はあるがのぉ」

「ふおおお…… なんか怖くなってきましたよ。私は知らずに千尋さんからとんでもない物を貰ってたんですね」

 メイスを握り締めながら千尋を見るミリー。

「お主らはその価値をわからずに持っておるようじゃがな。どれもが国を揺るがす程の物と言ってよい。千尋の銃は千尋にしか使えんから何とも言えんが」

「値段はどうでも良いよ。三人とも気に入ってくれればねっ!」

 値段や価値の話を聞いても何とも思っていなさそうな千尋だった。

「もちろん気に入ったよ! 私の想像を遥かに超えていたくらいだ。気に入らないわけがないだろう」

 剣を掲げて子供のように喜ぶレオナルド。

「私も気に入りました。こんな素敵なものを造って戴けるなんて嬉しい限りです」

 嬉しそうに抱えるレミリア。

「儂までもらってしまって良いものか…… じゃがこれは一度手にすると手放したくはないのぉ」

「気に入って頂けたようで良かったです」

 嬉しそうに剣を持つロナウドを見て、リゼは自分の手で造って良かったと心からそう思った。

「リゼのは確か魔剣と言ったか。儂のも魔剣として名が欲しいのぉ」

「ロナウド様の持つその黒の剣は魔剣デュランダルと名付けてあります」

 もちろん千尋が付けた名前だ。

「レオナルドのは魔剣レーヴァテイン。レミリアのはケリュケイオンだよ!」

「オレ達がいた世界の伝説の武器の名前だな」

 千尋が地球上の伝説の武器名を付けていることに蒼真はすぐに気が付いたようだ。

「まったくわかりません!」

 ミリーは知るはずもない。
 ちなみにミリーのメイス【ミルニル】。
 これはミョルニルじゃないしなーと少し名前を変えただけ。
  
「ふむ、これから私の持つ剣は魔剣デュランダルじゃ。どうじゃリゼ、似合うかの?」

「はい! とてもお似合いです!」

 嬉しそうに問うロナウドにリゼも笑顔で応えた。

「父上。久しぶりに稽古をつけてはくださいませんか?」

「そうじゃな。試してみるかレオナルド!」

 早足で訓練場へと向かう二人。

「仕方ないですねー」

 と言いながらレミリアもついていくのできっと自分も試すのだろう。





「あのさぁ、各国にある聖剣て全部騎士の剣なんだよね?」

「どの国も一人の騎士が魔の軍勢から人々を守り、そこに国を築いたって言われてるわね」

「各国の初代王って…… たまたま当たり引いただけなんじゃないの?」

「偶然魔力の溜め込める部分が剣先にあったという事だな」

「言うてはならんらしいですよ!」

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