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異世界での生活
014 戦闘訓練
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「お、おはよう、千尋」
後ろを振り返るとコーヒーを持ったリゼがいた。
少し表情が固いがなんとか笑顔を作ってる。
違和感を覚えつつも「おはよう」と笑顔で返す千尋は、コーヒーを受け取って一口飲む。
「今日は何するの?」
「また冒険かなー 」
「そっか。お願いだから無理はしないでね」
「大丈夫だよー」と言う千尋だが、ミノタウロスと素手で戦ったなどと聞いては心配でたまらない。
「んー? リゼどうしたの? 」
「ううん、なんでもないわ」
笑顔で誤魔化すリゼだったが。
「なんか元気ないね。リゼは笑ってた方が可愛いよー?」
不意打ちを食らって赤面するリゼ。
昨夜レイラとミリーの二人に問い詰められた事を思い出し身悶える。
役所で宿屋の変更を報告して魔力測定。
千尋:レベル6 魔力量5,927ガルド
蒼真:レベル6 魔力量8,632ガルド
ミリー:レベル6 魔力量33,296ガルド
「なぜかレベルが二つ上がってる……」
「そんな事あるんですか!?」
「役所の人も初めて見たと言ってたぞ」
「やはり変だからじゃないですか?」
「変って言うな!」
「数値的には今日上がったんじゃないか? 今朝何かしなかったのか?」
「いつもの魔力操作かな…… あ、魔石も作った!」
「いつも通りか」
「魔石はちょっと違うかな。魔力量かなり込めたから一個しか作れなかったもん」
「だいたい千尋の魔力量をオレと同じと考えると魔石の魔力量は約4,000ガルドか?」
「んーん。魔石ってさ、作る時は魔力を二倍使うんだー。圧縮と固体化させるのに魔力を半分も使っちゃうんだよねー」
「なるほどな。半分の2,000ガルドくらいか」
「魔石作ってレベルあがったんですかね?」
「もっと魔力ほしいなーと思ったよ」
「そんな事でレベル上がるのか?」
「まぁいいかー」
「軽いですね」
「なんか今日も難易度高いのないですね」
クエストボードを見ながら残念そうな表情のミリー。
「難易度6なら一枚あるけどな」
「今日もクエストやるよね?」
「千尋は何かしたいのか? やりたい事あるならそっち優先するぞ」
「私も構いませんよー」
「いいの? じゃあさ、誰にも迷惑かからない所で試し撃ちしたいなー」
「それなら西に行けば岩場がありますよ! 誰も居ないしどうでしょう?」
「そこでいいな。行こうか」
アルテリア西部にある岩場。
千尋から後方20メートルほどのところで話す二人。
「何をする気なんでしょう?」
「以前作ってあったミスリル弾使うそうだ」
「そんなの作ってたんですか?」
「ああ、銃作った時にな。ミスリル弾にある条件をエンチャントしたらしい。まぁ普通に考えたら火や氷、雷とかだと思うが…… 千尋だしな」
「間違いなく変な事してきますよ!」
岩の壁から30メートルほど離れた千尋。
「じゃあいくよー!」
魔力を練り、地属性魔法で周りにある頭ほどの大きさの石を複数浮かせる。
「地属性? 銃でどうする気ですかね?」
「わからん」
銃を岩の壁目掛けて発砲。
そして同時に浮いていた石が無くなり、岩の壁がガラガラと崩れ落ちる。
「どうだったー?」
「…… 今何をしたんだ?」
「浮かせた石もあの壁に当たったんだよー」
「え? 見えませんでしたよ!?」
「うん、弾丸の速度で石も飛ばしたから!」
「おいおい……」
千尋が弾丸にエンチャントした条件。
【使用者の魔法が追従する】
魔法を使わず撃ち出せば普通のミスリルの弾丸だが、魔法を発動させた状態で発射した場合には魔法が弾丸の速度で追従する。
遠距離魔法を得意とする千尋だが、全力で魔法を放ったとしても視認できる速度で発射される。
しかし、弾丸の速度で発射される魔法であれば回避するのも容易ではない。
これまで通常弾で戦闘を行なってきたが、魔獣相手に魔法無しではダメージが低く、それを補う為の魔法の弾丸だ。
「今までの弾丸だと魔獣にガードされちゃうから地属性魔法で質量弾にしたんだー。弾丸もライフル弾みたいに長くしたしファイアの魔石も魔力300! 弾速も数倍だよ!」
「まるで戦車だな」
「戦車ってなんですか!?」
「戦争に使われる兵器だ。今度千尋に絵を描いてもらうといい」
「魔力次第で質量もっと増やせるからちょっとズルいよねー」
「ズルいなんてもんじゃないだろ……」
「そうだ千尋。オレにも魔石を一つくれないか? 以前のでいいから」
蒼真に魔石を渡す。どうやら何かエンチャントするようだ。
その後は特に予定がなかったのでミリーの重力操作練習を手伝う。
千尋はミリーの魔法練習に付き合っていたわけではなかったので、蒼真から話を聞いてただけだった。
今ミリーができる魔力の放出、魔法の発動を見て千尋は顎に手を当てて一つ結論づける。
「ミリーは魔力を練れないね」
火属性は小規模な爆発をするが火にはならない。
風を操ることも水を操ることもできない。
重力魔法の発動も難しいだろうと予想する。
しかし地属性は別だ。
地属性に関しては体内での魔力のせいか肉体の強化はできる。
もちろん地面を操作したり石を浮かせたりはできない。重力魔法は地属性の一つとされているが魔力を練らないと発動できない。
ミリーは少し涙目になっていたが、千尋は問題ないという。
千尋の推測ではミリーは全身から魔力を放出できるが、魔力を練る事やまとめる事が出来ない為他の魔法に使用できないだろうとの事。
属性の中で唯一魔力を練らずに発動できる魔法が地属性。
そしてミリーは地属性による強化を肉体だけでなくメイスにもしている。
地属性の一つである物質操作は、自分の体に接触しているという条件であれば魔力を練る必要がない。
千尋の話を聞いて笑顔が戻るミリー。
「ムキムキならずに済むんですね!?」
よほど不安だったのだろう、泣きながら喜んでいるミリーだった。
ミリーが練習している間に魔石を作る千尋。
魔力が回復するまでの間はミリーの練習を見ている。
蒼真は素振りをしながら魔力の流れを刀に乗せて鍛錬する。
昼を過ぎたのだろう。
三人ともお腹が鳴り始めたので街へ戻る事にした。
ミリーは少し操作できるようになっていたので千尋から指示が出る。
「ねぇミリー。普段から魔法で常にメイスを操作しながら歩いてねー」
「普段からですか!?」
「そうだよ。無意識で動かせるくらいにね!」
「千尋さんは鬼ですね!」
あはははーっと笑いながら街へと戻った。
昼食を終え、再び役所クエストボード前に立つ三人。
「やはり高難易度のは無いな」
「せっかくのシルバーランクなのに」
「近場だとこの難易度5のクエストだけどやるか?」
「ミリーどうする?」
「…… 」
「余裕なさそうだね…… 」
「少し早いが今日も戦闘訓練しようか」
シルバーランクになった次の日からは、クエストを達成した後に毎日三人で戦闘訓練を行なっている。
はっきり言って仲間の方が魔獣より手強い。
常に一対二での戦闘。
リゼも仕事が終われば参戦し、一人側に参加しての二対二での訓練となる。
一日毎に入れ替わり、今日は蒼真が一人、千尋とミリーが組む日だ。
千尋は二人側の時は銃を使わない。それと訓練中はゴム弾を使用する。
リゼが加わると使用するのだが、もともと遠距離魔法を得意とする千尋である為銃が無くても戦える。
蒼真は魔力を練り上げて風魔法を纏い、ミリーに向かって一瞬で間合いを詰める。
ミリーは物質操作を使用している為か反応が鈍い。
振り下ろされる蒼真の袈裟斬りに合わせ、千尋が蒼真の右側から腹部目掛けて掌底を打ち込む。
体を引いてギリギリで回避する蒼真。
追い討ちをかける千尋に対し、蒼真の左脚からの上段蹴り。
余裕をもって右腕でガードする千尋。
その隙をついてミリーが蒼真に背後からメイスを振り下ろす。
蒼真は体を捻って転がるように避ける。
そのまま後方に距離をとる蒼真に肉薄する千尋。
右薙ぎに向けられる刀を千尋は伏せて回避。
千尋は顎下を狙った右裏拳で反撃するが、蒼真は左腕で受ける。
同時に腹部への前蹴りで転がる蒼真。
立ち上がって刀を構える。
そこに走りこんだミリーの追撃。
脚を踏ん張り、メイスを刀で受ける蒼真は鍔迫り合い状態になる。
ミリーの背後から駆け寄った千尋の左掌底。
ミリーを押し退け、バックステップして回避する蒼真。
「ミリーどぉ? 調子出てきた?」
「まだ意識しないとメイスを魔法で振り回せませんね!」
「今日はこっちが二人。リゼが来るまで時間があるし少しずつ慣れていこう」
「はい!」
息を整えつつ次の攻撃に備える蒼真に、千尋は地属性魔法で足元の地面を突き上げる。
千尋の魔法は予備動作や魔力を練る様子がない為、蒼真も油断した。
体勢を崩した蒼真に駆け寄る二人。
二人の接近を許した蒼真は、後方に下がりながら千尋の肩目掛けて左袈裟斬り。
千尋は柄頭を左掌底で受け、爆破して蒼真を仰け反らせる。
蒼真の胴を目掛けてメイスが向かい、いつもより振りが速く、回避できずに胸当てを打たれて弾き飛ばされる蒼真。
まずは千尋とミリーの一勝。
蒼真を回復して二戦目を開始する。
二時間ほど経過し、時刻は十六時を過ぎていた。
リゼと合流する為街へ戻っていく。
本日の戦績。
千尋ミリー組の十三戦十三勝。
いつもの事だが一人側は一勝すらできていない。
「このあとどこでやる?」
「さっきの岩場もなかなか良かったな」
「砂漠はどうですか?」
「砂漠は足取られるからね、そういう場所での訓練もありかもしれないねー」
「そうだな、砂漠でやろうか」
訓練の場所は決まっていない。
理由はどんな地形でも戦えるようにする為だ。
宿屋前に行くと戦闘用の装備をしたリゼが待っていた。
淡いピンク色のドレスのような耐火服に鋼鉄製の胸当て、手甲、腰当て、ブーツを履き、髪は黒いリボンで留められている。
そしてルシファーだが全長約150センチほどもある。
リゼの身長は160センチな為、体に対してかなりの大きさの武器だ。
鞘は腰から下げ、柄を下に、剣先を斜め上になるよう装備している。長剣のように見えるが、刃節が外れる為抜刀するのも問題はない。
以前の装備は魔法使い然としていたためローブを纏いスタッフを持っていた。
実戦訓練を始める際に、武器とローブが合わないとミリーに指摘された為に新しく購入した。
千尋がリゼの装備を羨ましがっていたのは言うまでもない。
アルテリア南部砂漠に着いて早速訓練を始める。
リゼのルシファーを躱すのは容易ではない。速度を測ることはできないが恐ろしく速い。
約5メートルの範囲で縦横無尽に舞う刃はどこから襲ってくるか予測もつかない。
さらに鞭のように使用した場合には先端速度は音速を超え、100メートル先の敵をも一瞬で貫く。
ただし、距離が離れた場合には狙いを定めるのが難しく、そう簡単には当たらないのだが。
ミリーは魔力を範囲内に広げる。
千尋は銃を構えて地属性魔法で拳大の石を浮かせる。
蒼真は風魔法を纏い、リゼはルシファーを抜いて魔力を練る。
先に動くのは千尋とミリー。
千尋の撃つ銃弾をルシファーが弾く。
ミリーが駆け千尋も追う。
蒼真も前に出てミリーに斬り込む。
刀をメイスで受けるミリーにルシファーが襲いくる。
ミリーの背後で爆発音。
範囲内で自由に爆発できる魔力を防御に利用している。
ミリーに気をとられている隙に、リゼの肩目掛けて撃ち込む弾丸は土の壁に阻まれる。
それを狙っていた千尋は土壁を爆破して目眩しとし、横から石の弾幕を放つ。
焦りつつもリゼはルシファーを引き戻し、石を全て叩き落とす。
ミリーは蒼真の斬撃を全て受けきり、蒼真の風魔法の乗った斬り込みを全て爆裂魔法の乗せたメイスで受けている。
そこに隙を作る為、千尋が蒼真の背中に銃弾を撃ち込むが回避される。
体勢の崩れた蒼真を見てミリーが攻めに転じる。
爆裂魔法を乗せたメイスの乱打。
地属性魔法に慣れてきたのかいつもよりかなり速い速度で打ち込まれ、蒼真も防戦一方になる。
リゼからの反撃がない。
そう思った瞬間地面から飛び出してきたルシファー。
ギリギリで回避したがバランスを崩す千尋。
そこにリゼの火属性魔法が数発叩き込まれる。
グッと堪えた千尋は全ての火球を消してリゼに接近する。
風魔法で千尋を遠ざけようとするリゼに対して銃を撃つが、背後から襲いくるルシファーに対応が間に合わず背中に直撃。
ミリーの乱打に押されていた蒼真も一旦距離をとって魔法を発動。
ミリーを中心に砂嵐を起こして攻め込む。
ミリーの爆裂魔法は砂嵐に反応して威力が弱まり、視界を奪われたところで蒼真の刀がに肩に触れる。
右半身を向けていたミリーだったが、背後から近づいた蒼真に反応できなかった。
「ぬぅ……」
「むぅ…… 強いですね」
その後も一時間ほど繰り返す戦闘訓練だったが、リゼと蒼真の八戦八勝となった。
これまでの戦闘訓練でリゼの敗北は一度もなかったのだが、ここにきて相当な接戦まで持ち込めるようになっていた。
以前は三人がかりでも相手にならなかった程だ。
リゼの強さは異常とも言える程だった。
「千尋、あれ使わないのか?」
蒼真は納得いかないといった表情で問う。
「魔石はあるけどミスリル弾を持って来てない! それに当たったら死んじゃうよ!?」
「それなら仕方ないか」
「私は最初に聞いてました」
「ねぇ、あれってなぁに?」
「千尋の魔法を弾丸に乗せるんだ」
「今朝の魔石で作った弾丸?」
「うんっ!」
「リゼも知ってたのか」
「今朝千尋が魔石作ってる時に目一杯魔力込めてみたら? って作ったのがそれよ。それで結果はどうだったの?」
「発射と同時に魔法も着いて行くね。いい感じだったよー。ついでにレベルも上がってたし! あははっ」
「レベル6になったの? おめでとう! 」
「あと少しでリゼを連れ出せるよー!」
「高難易度クエスト次第ですけどねー」
「私の仕事もあと少し残ってるけどね……」
「そろそろ街に戻ろうか」
今日の訓練はこれで終わりにした。
後ろを振り返るとコーヒーを持ったリゼがいた。
少し表情が固いがなんとか笑顔を作ってる。
違和感を覚えつつも「おはよう」と笑顔で返す千尋は、コーヒーを受け取って一口飲む。
「今日は何するの?」
「また冒険かなー 」
「そっか。お願いだから無理はしないでね」
「大丈夫だよー」と言う千尋だが、ミノタウロスと素手で戦ったなどと聞いては心配でたまらない。
「んー? リゼどうしたの? 」
「ううん、なんでもないわ」
笑顔で誤魔化すリゼだったが。
「なんか元気ないね。リゼは笑ってた方が可愛いよー?」
不意打ちを食らって赤面するリゼ。
昨夜レイラとミリーの二人に問い詰められた事を思い出し身悶える。
役所で宿屋の変更を報告して魔力測定。
千尋:レベル6 魔力量5,927ガルド
蒼真:レベル6 魔力量8,632ガルド
ミリー:レベル6 魔力量33,296ガルド
「なぜかレベルが二つ上がってる……」
「そんな事あるんですか!?」
「役所の人も初めて見たと言ってたぞ」
「やはり変だからじゃないですか?」
「変って言うな!」
「数値的には今日上がったんじゃないか? 今朝何かしなかったのか?」
「いつもの魔力操作かな…… あ、魔石も作った!」
「いつも通りか」
「魔石はちょっと違うかな。魔力量かなり込めたから一個しか作れなかったもん」
「だいたい千尋の魔力量をオレと同じと考えると魔石の魔力量は約4,000ガルドか?」
「んーん。魔石ってさ、作る時は魔力を二倍使うんだー。圧縮と固体化させるのに魔力を半分も使っちゃうんだよねー」
「なるほどな。半分の2,000ガルドくらいか」
「魔石作ってレベルあがったんですかね?」
「もっと魔力ほしいなーと思ったよ」
「そんな事でレベル上がるのか?」
「まぁいいかー」
「軽いですね」
「なんか今日も難易度高いのないですね」
クエストボードを見ながら残念そうな表情のミリー。
「難易度6なら一枚あるけどな」
「今日もクエストやるよね?」
「千尋は何かしたいのか? やりたい事あるならそっち優先するぞ」
「私も構いませんよー」
「いいの? じゃあさ、誰にも迷惑かからない所で試し撃ちしたいなー」
「それなら西に行けば岩場がありますよ! 誰も居ないしどうでしょう?」
「そこでいいな。行こうか」
アルテリア西部にある岩場。
千尋から後方20メートルほどのところで話す二人。
「何をする気なんでしょう?」
「以前作ってあったミスリル弾使うそうだ」
「そんなの作ってたんですか?」
「ああ、銃作った時にな。ミスリル弾にある条件をエンチャントしたらしい。まぁ普通に考えたら火や氷、雷とかだと思うが…… 千尋だしな」
「間違いなく変な事してきますよ!」
岩の壁から30メートルほど離れた千尋。
「じゃあいくよー!」
魔力を練り、地属性魔法で周りにある頭ほどの大きさの石を複数浮かせる。
「地属性? 銃でどうする気ですかね?」
「わからん」
銃を岩の壁目掛けて発砲。
そして同時に浮いていた石が無くなり、岩の壁がガラガラと崩れ落ちる。
「どうだったー?」
「…… 今何をしたんだ?」
「浮かせた石もあの壁に当たったんだよー」
「え? 見えませんでしたよ!?」
「うん、弾丸の速度で石も飛ばしたから!」
「おいおい……」
千尋が弾丸にエンチャントした条件。
【使用者の魔法が追従する】
魔法を使わず撃ち出せば普通のミスリルの弾丸だが、魔法を発動させた状態で発射した場合には魔法が弾丸の速度で追従する。
遠距離魔法を得意とする千尋だが、全力で魔法を放ったとしても視認できる速度で発射される。
しかし、弾丸の速度で発射される魔法であれば回避するのも容易ではない。
これまで通常弾で戦闘を行なってきたが、魔獣相手に魔法無しではダメージが低く、それを補う為の魔法の弾丸だ。
「今までの弾丸だと魔獣にガードされちゃうから地属性魔法で質量弾にしたんだー。弾丸もライフル弾みたいに長くしたしファイアの魔石も魔力300! 弾速も数倍だよ!」
「まるで戦車だな」
「戦車ってなんですか!?」
「戦争に使われる兵器だ。今度千尋に絵を描いてもらうといい」
「魔力次第で質量もっと増やせるからちょっとズルいよねー」
「ズルいなんてもんじゃないだろ……」
「そうだ千尋。オレにも魔石を一つくれないか? 以前のでいいから」
蒼真に魔石を渡す。どうやら何かエンチャントするようだ。
その後は特に予定がなかったのでミリーの重力操作練習を手伝う。
千尋はミリーの魔法練習に付き合っていたわけではなかったので、蒼真から話を聞いてただけだった。
今ミリーができる魔力の放出、魔法の発動を見て千尋は顎に手を当てて一つ結論づける。
「ミリーは魔力を練れないね」
火属性は小規模な爆発をするが火にはならない。
風を操ることも水を操ることもできない。
重力魔法の発動も難しいだろうと予想する。
しかし地属性は別だ。
地属性に関しては体内での魔力のせいか肉体の強化はできる。
もちろん地面を操作したり石を浮かせたりはできない。重力魔法は地属性の一つとされているが魔力を練らないと発動できない。
ミリーは少し涙目になっていたが、千尋は問題ないという。
千尋の推測ではミリーは全身から魔力を放出できるが、魔力を練る事やまとめる事が出来ない為他の魔法に使用できないだろうとの事。
属性の中で唯一魔力を練らずに発動できる魔法が地属性。
そしてミリーは地属性による強化を肉体だけでなくメイスにもしている。
地属性の一つである物質操作は、自分の体に接触しているという条件であれば魔力を練る必要がない。
千尋の話を聞いて笑顔が戻るミリー。
「ムキムキならずに済むんですね!?」
よほど不安だったのだろう、泣きながら喜んでいるミリーだった。
ミリーが練習している間に魔石を作る千尋。
魔力が回復するまでの間はミリーの練習を見ている。
蒼真は素振りをしながら魔力の流れを刀に乗せて鍛錬する。
昼を過ぎたのだろう。
三人ともお腹が鳴り始めたので街へ戻る事にした。
ミリーは少し操作できるようになっていたので千尋から指示が出る。
「ねぇミリー。普段から魔法で常にメイスを操作しながら歩いてねー」
「普段からですか!?」
「そうだよ。無意識で動かせるくらいにね!」
「千尋さんは鬼ですね!」
あはははーっと笑いながら街へと戻った。
昼食を終え、再び役所クエストボード前に立つ三人。
「やはり高難易度のは無いな」
「せっかくのシルバーランクなのに」
「近場だとこの難易度5のクエストだけどやるか?」
「ミリーどうする?」
「…… 」
「余裕なさそうだね…… 」
「少し早いが今日も戦闘訓練しようか」
シルバーランクになった次の日からは、クエストを達成した後に毎日三人で戦闘訓練を行なっている。
はっきり言って仲間の方が魔獣より手強い。
常に一対二での戦闘。
リゼも仕事が終われば参戦し、一人側に参加しての二対二での訓練となる。
一日毎に入れ替わり、今日は蒼真が一人、千尋とミリーが組む日だ。
千尋は二人側の時は銃を使わない。それと訓練中はゴム弾を使用する。
リゼが加わると使用するのだが、もともと遠距離魔法を得意とする千尋である為銃が無くても戦える。
蒼真は魔力を練り上げて風魔法を纏い、ミリーに向かって一瞬で間合いを詰める。
ミリーは物質操作を使用している為か反応が鈍い。
振り下ろされる蒼真の袈裟斬りに合わせ、千尋が蒼真の右側から腹部目掛けて掌底を打ち込む。
体を引いてギリギリで回避する蒼真。
追い討ちをかける千尋に対し、蒼真の左脚からの上段蹴り。
余裕をもって右腕でガードする千尋。
その隙をついてミリーが蒼真に背後からメイスを振り下ろす。
蒼真は体を捻って転がるように避ける。
そのまま後方に距離をとる蒼真に肉薄する千尋。
右薙ぎに向けられる刀を千尋は伏せて回避。
千尋は顎下を狙った右裏拳で反撃するが、蒼真は左腕で受ける。
同時に腹部への前蹴りで転がる蒼真。
立ち上がって刀を構える。
そこに走りこんだミリーの追撃。
脚を踏ん張り、メイスを刀で受ける蒼真は鍔迫り合い状態になる。
ミリーの背後から駆け寄った千尋の左掌底。
ミリーを押し退け、バックステップして回避する蒼真。
「ミリーどぉ? 調子出てきた?」
「まだ意識しないとメイスを魔法で振り回せませんね!」
「今日はこっちが二人。リゼが来るまで時間があるし少しずつ慣れていこう」
「はい!」
息を整えつつ次の攻撃に備える蒼真に、千尋は地属性魔法で足元の地面を突き上げる。
千尋の魔法は予備動作や魔力を練る様子がない為、蒼真も油断した。
体勢を崩した蒼真に駆け寄る二人。
二人の接近を許した蒼真は、後方に下がりながら千尋の肩目掛けて左袈裟斬り。
千尋は柄頭を左掌底で受け、爆破して蒼真を仰け反らせる。
蒼真の胴を目掛けてメイスが向かい、いつもより振りが速く、回避できずに胸当てを打たれて弾き飛ばされる蒼真。
まずは千尋とミリーの一勝。
蒼真を回復して二戦目を開始する。
二時間ほど経過し、時刻は十六時を過ぎていた。
リゼと合流する為街へ戻っていく。
本日の戦績。
千尋ミリー組の十三戦十三勝。
いつもの事だが一人側は一勝すらできていない。
「このあとどこでやる?」
「さっきの岩場もなかなか良かったな」
「砂漠はどうですか?」
「砂漠は足取られるからね、そういう場所での訓練もありかもしれないねー」
「そうだな、砂漠でやろうか」
訓練の場所は決まっていない。
理由はどんな地形でも戦えるようにする為だ。
宿屋前に行くと戦闘用の装備をしたリゼが待っていた。
淡いピンク色のドレスのような耐火服に鋼鉄製の胸当て、手甲、腰当て、ブーツを履き、髪は黒いリボンで留められている。
そしてルシファーだが全長約150センチほどもある。
リゼの身長は160センチな為、体に対してかなりの大きさの武器だ。
鞘は腰から下げ、柄を下に、剣先を斜め上になるよう装備している。長剣のように見えるが、刃節が外れる為抜刀するのも問題はない。
以前の装備は魔法使い然としていたためローブを纏いスタッフを持っていた。
実戦訓練を始める際に、武器とローブが合わないとミリーに指摘された為に新しく購入した。
千尋がリゼの装備を羨ましがっていたのは言うまでもない。
アルテリア南部砂漠に着いて早速訓練を始める。
リゼのルシファーを躱すのは容易ではない。速度を測ることはできないが恐ろしく速い。
約5メートルの範囲で縦横無尽に舞う刃はどこから襲ってくるか予測もつかない。
さらに鞭のように使用した場合には先端速度は音速を超え、100メートル先の敵をも一瞬で貫く。
ただし、距離が離れた場合には狙いを定めるのが難しく、そう簡単には当たらないのだが。
ミリーは魔力を範囲内に広げる。
千尋は銃を構えて地属性魔法で拳大の石を浮かせる。
蒼真は風魔法を纏い、リゼはルシファーを抜いて魔力を練る。
先に動くのは千尋とミリー。
千尋の撃つ銃弾をルシファーが弾く。
ミリーが駆け千尋も追う。
蒼真も前に出てミリーに斬り込む。
刀をメイスで受けるミリーにルシファーが襲いくる。
ミリーの背後で爆発音。
範囲内で自由に爆発できる魔力を防御に利用している。
ミリーに気をとられている隙に、リゼの肩目掛けて撃ち込む弾丸は土の壁に阻まれる。
それを狙っていた千尋は土壁を爆破して目眩しとし、横から石の弾幕を放つ。
焦りつつもリゼはルシファーを引き戻し、石を全て叩き落とす。
ミリーは蒼真の斬撃を全て受けきり、蒼真の風魔法の乗った斬り込みを全て爆裂魔法の乗せたメイスで受けている。
そこに隙を作る為、千尋が蒼真の背中に銃弾を撃ち込むが回避される。
体勢の崩れた蒼真を見てミリーが攻めに転じる。
爆裂魔法を乗せたメイスの乱打。
地属性魔法に慣れてきたのかいつもよりかなり速い速度で打ち込まれ、蒼真も防戦一方になる。
リゼからの反撃がない。
そう思った瞬間地面から飛び出してきたルシファー。
ギリギリで回避したがバランスを崩す千尋。
そこにリゼの火属性魔法が数発叩き込まれる。
グッと堪えた千尋は全ての火球を消してリゼに接近する。
風魔法で千尋を遠ざけようとするリゼに対して銃を撃つが、背後から襲いくるルシファーに対応が間に合わず背中に直撃。
ミリーの乱打に押されていた蒼真も一旦距離をとって魔法を発動。
ミリーを中心に砂嵐を起こして攻め込む。
ミリーの爆裂魔法は砂嵐に反応して威力が弱まり、視界を奪われたところで蒼真の刀がに肩に触れる。
右半身を向けていたミリーだったが、背後から近づいた蒼真に反応できなかった。
「ぬぅ……」
「むぅ…… 強いですね」
その後も一時間ほど繰り返す戦闘訓練だったが、リゼと蒼真の八戦八勝となった。
これまでの戦闘訓練でリゼの敗北は一度もなかったのだが、ここにきて相当な接戦まで持ち込めるようになっていた。
以前は三人がかりでも相手にならなかった程だ。
リゼの強さは異常とも言える程だった。
「千尋、あれ使わないのか?」
蒼真は納得いかないといった表情で問う。
「魔石はあるけどミスリル弾を持って来てない! それに当たったら死んじゃうよ!?」
「それなら仕方ないか」
「私は最初に聞いてました」
「ねぇ、あれってなぁに?」
「千尋の魔法を弾丸に乗せるんだ」
「今朝の魔石で作った弾丸?」
「うんっ!」
「リゼも知ってたのか」
「今朝千尋が魔石作ってる時に目一杯魔力込めてみたら? って作ったのがそれよ。それで結果はどうだったの?」
「発射と同時に魔法も着いて行くね。いい感じだったよー。ついでにレベルも上がってたし! あははっ」
「レベル6になったの? おめでとう! 」
「あと少しでリゼを連れ出せるよー!」
「高難易度クエスト次第ですけどねー」
「私の仕事もあと少し残ってるけどね……」
「そろそろ街に戻ろうか」
今日の訓練はこれで終わりにした。
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魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ!
【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】
※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
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商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。
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主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。
――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました――
風景が目まぐるしく移り変わる。
天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。
移り変わる景色こそは、
第一天 ヴィロン。
第二天 ラキア。
第三天 シャハクィム。
第四天 ゼブル。
第五天 マオン。
第六天 マコン。
それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。
気付けば明星は、玉座に座っていた。
そこは天の最高位。
第七天 アラボト。
そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。
――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。

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本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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