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異世界での生活
001 異世界へ
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(なんだ?)
意識が一瞬飛んだように感じに目を細める。
千尋が目を開けてみると目の前には蒼真がおり、蒼真も千尋を見ている。
そして蒼真は驚いたような表情で千尋の後ろを指差す。
バッと後ろを振り返る。
「…… どこだ? ここは……」
辺りは見た事もない風景。
そして……
宙に浮かび、燃え上がる炎の球体。
その燃え上がる炎の中心には何もなく、ただ空間が燃えている。
轟と燃え上がる炎は熱を発し、千尋や蒼真にもジリジリと肌に熱を伝える。
炎の球体を見ていると次第に小さくなり、やがて消滅、それと同時に炎から発せられていた熱が消えた。
「君達は…… 誰だ!?」
不意に声をかけられた方を振り向くと、そこにはローブを着た人間がいた。
(他にも八人…… なんだこいつらは?)
ローブを着た男が驚きの混じった顔で千尋と蒼真を交互に見つめ、後ろの人物に声をかけた。
「リゼ、彼らは異世界の人間ではないか?」
リゼと呼ばれた女性。
日本人ではないブロンドの長い髪を腰まで伸ばし、幼さの残る表情から千尋達より若いのではないかと思われる。
とても可愛らしく綺麗な女の子だ。
青い瞳でこちらを見つめ、こちらに近づいてきて一言。
「そうね、間違いないわ。黒髪に制服…… 学生のようね。あなた達はどこの国の人かしら?」
どう見ても外国人。
しかし流暢に日本語で話しかけてきた。
「に…… 日本だけど」
千尋が答えたあとに蒼真が問いかける。
「オレ達は学校にいた。そしていつの間にかここにいた。ここは一体どこなんだ? そしてさっきの炎は何だ……」
千尋からも一言物申す。
「君、日本語話せるんだね。びっくり!」
千尋の一言に蒼真は少しイラっとしたようだが気づいていない。
リゼがフッと笑い、応える。
「私は日本語なんて話せないわよ。でも言葉は通じるのよね。まぁいいわ、ここはアースガルド。あなた達からすればここは…… 異世界よ」
(まじか!?)
千尋も蒼真も驚愕する。
異世界なんて物語の中でしか出て来ないような話でさすがに聞き入れられない話だ。
そしてリゼがもう一言。
「私も地球から来たのよ。もう七年も前になるけどね……」
自分達は異世界人。
そして今話しているブロンドの少女リゼも同じように地球から来た。
(しかも…… 七年も前に!?)
蒼真がまた問いかける。
「君は七年前にここに来たと言ったが元の世界には戻れるのか!?」
「いいえ、無理よ。私やあなた達がこの世界に来たのは偶然。呼び出す方法も無ければ戻す方法も無いのよ」
(いきなり詰んだ。もう戻れません。なにこれ、夢か?)
とりあえず蒼真の頬を引っ張ってみる千尋だが、逆に鼻を叩かれた。
痛いし夢ではなさそうだ。
蒼真は混乱してイライラしてそうだ。
リゼは少し呆れ顔でこちらを見ているが千尋は気にしない。
「蒼真、これはどういう事だろうな?」
「わからない。わからないがここは地球ではなく異世界? そして地球に戻る事はできない。わかってるのはこれだけだ。」
(まぁとりあえず……)
千尋はスマホを取り出してみる。
「圏外だね」
圏外だった。
「まぁ当然だな。電波がなければ時計とカメラと計算機くらいしか使えないだろう」
(ふん。甘いな蒼真)
「通信の要らないゲームもできる!」
リゼが画面を覗き込んでくる。
「ねぇ、それなに?」
「あぁ、これ? スマホだよ。リゼは見た事ないの? スマートフォン、携帯電話だよ」
「携帯電話!? この板が? ボタンほとんど無いじゃない」
千尋がスマホを操作して見せると、リゼは興味深々といった様子で覗き込んで来る。
「私が知ってる携帯電話じゃ無くなってるのね……」
リゼは落ち込んでいるが、まぁ七年も経ってるならわからないだろう。
晴れ渡った空を見上げる千尋と、地面を見つめてブツブツ言っている蒼真、そしてスマホでゲームをするリゼ。
(どうしたもんかな……)
(まぁくよくよ悩んでいても仕方がない。今はまず考えを切り替えないと!)
「蒼真! 今は悩んでても仕方ない。急に異世界に放り込まれても何がなんだかわからんからいろいろ教えてもらおうよ!」
「相変わらず千尋は切り替え早いな…… うらやましい性格だよ…… ほんと」
言いながらリゼにこの世界について教えてくれないか頼んでみる蒼真。
「いいわ。この世界に来た先輩として教えてあげる」
上から目線できました。
リゼはローブの男達に仕事を抜けると断りをいれる。
千尋達にこの世界の説明をするからと伝えて場所を移動した。
(ここは…… 食堂かな?)
テーブルを挟んでリゼの向かいに座って説明を受ける千尋と蒼真。
テーブルにはカップと茶色の液体で、紅茶のようないい香りがする。
「美味しい」
「この世界にも紅茶があるんだな」
「私がこの世界に来た時からあったわ。コーヒーもあるわよ」
紅茶を飲んで気持ちが少し落ち着いた。
「まずは地球との大きな違いから言うと、そうね…… みんな魔法が使えることかしら」
「異世界ですねぇ」
「……」
「あと動物の代わりに人を襲う魔獣がいるわ」
「愛玩魔獣とかいませんか?」
「……」
「この世界にはたくさんの王国があるけど、言葉は全て共通よ」
「みんな日本語なんだね」
「……」
「だから私は日本語話せないってば!」
アホな返事をする千尋と終始無言の蒼真。
「まぁこの世界に来た以上はここで生活する為の知識と魔力の使い方を教えてあげる。魔力に関してはほぼ自主練になっちゃうけどね」
「オレ達も魔法使えるようになるの?」
「私達みたいな地球から来た人間は、この世界の人間より遥かに魔力が強いの。理由はこの世界で産まれた場合、赤ちゃんのうちに魔力に目覚めてレベル1になるでしょ? それに対して地球から来た人間は来た時の年齢でレベル1になるの。赤ちゃんと大人の魔力量では差が大きいから、地球人の方が魔力が高くなるのは当然よね」
王族や貴族、騎士の家系では六歳までに魔力操作を訓練するため、レベル2で相当な魔力量を得られるという。
レベル1から2に上がるまでの間の魔力操作練度で魔力の上昇率に違いが出るそうだ。
しかしこの世界で六歳まで魔力操作を訓練したとしても、地球人ほどは上昇しないという。
短期間でレベルを上げられる事も理由の一つかもしれないが。
「今のオレ達のレベルは?」
「魔力使えないでしょ? 今はゼロよ」
「なるほど、目覚めてないからか」
「あなた達は…… 十五歳以上よね? その年齢だとこの世界では普通に育ったとしてもレベル4相当の魔力量になるの。冒険者としてレベルを高めた場合、最大の10まで上げることも可能よ」
この世界では十五歳で大人という扱いだという。
二人は十七歳にしてレベル0、レベル1になるだけで大人としてのレベル4並みの魔力を得るという事だ。
最初から高い魔力を有し、世界に順応するため訓練する。
その結果レベルが上がるたびに魔力の上昇量がものすごいのだという。
「リゼはどうなんだ? 八歳でこの世界に来たんだろ?」
「八歳だとレベル1でレベル3並みの魔力を得られたわ」
「今のレベルは?」
「レベル7よ」
(ん? 七年でレベル7? さっきの話だとレベル10になれるとか言ってたが?)
「二年前に冒険者は辞めたの…… パーティーが全滅しちゃってね……」
「…… ごめん、悪い事聞いたね」
「ん、大丈夫」
表情は大丈夫とは言ってないが……
しばしの沈黙。
話題を切り替える為辺りを見回す蒼真。
「あれは文字か?」
壁に貼り付けられた紙に何かが書いてあり、それを指差して聞いてみる。
「そう、この世界の文字よ。文字も各国共通だから覚えないとね。古代文字もあるけど難しいしそれは今は要らないわね」
「先生、よろしくお願いします」
「宿題も出すわよ」
と薄く笑いながら答えるリゼ。
「しばらくはこの研究所にある宿泊所に寝泊まりしてもらうとして……」
「宿に泊まろうにも金ないしね」
「寝泊まりできるのは助かる」
ここは魔法の研究所だという事だったが、簡易的ではあるが宿泊施設や食堂がある。
住むためにあるわけではないが、泊まりがかりでの研究という事もある為そこそこ住みやすく作られているそうだ。
いろいろと話しを聞いたけど、ここが異世界である事はやはり受け入れ難い事実。
「じゃあ、さ…… 魔法見る?」
魔法ってのはさっき見た炎の事かなと思いつつも見たいと告げる。
「じゃあ訓練所行きましょう」
リゼのあとをついて行く。
外の広い敷地。
歩いてきた道は石畳だったが、訓練所の地面は土、そして奥の方には池もある。
「ここは魔法を練習する場所。あなた達が練習するのもここになるわ」
まず見せてもらったのは火属性魔法。
手のひらから炎があがり、手を薙ぐと炎の波が放出された。
「火属性魔法は火として使う場合はこんな感じね。火球として相手に当てたとしても爆発とかはしないの。爆発させるには魔力量だったり他の条件を加える必要があるわ」
なるほど。
ゲームであるような火属性魔法だと爆発するが、この世界での火属性魔法はあくまでも火。
燃焼という魔法のようだ。
次に水の魔法。
池の前に行き、水を操る。
「水属性魔法は水を操ることができる魔法よ。生活する上で最も使用する事の多い魔法ね」
質問してみたが水を生み出す事はこの世界では出来ないらしい。
それならば空気中の水分から作り出すという事はできるのでは?
まぁ空気中に水分があるという概念がないのかもしれない。
今度は風の魔法を見せてもらう。
風が強くなり、嵐のような突風が巻き起こった。
「風属性魔法は言うまでもなく風を起こせるの。魔力を高めると密度が上がって風で切りつける事もできるわ」
想像通りの魔法でした。
「風属性魔法から雷を作ったりできるのかな?」
「雷魔法は精霊魔法や魔法陣を使えばできるはずよ。風魔法からの雷魔法…… というわけではないと思うわ」
通常の魔法として雷を発生させられる人間は今のところ存在しないとの事。
イメージ力不足なだけの気もしなくもない。
地属性魔法は説明から始まった。
「地属性魔法は主に強化に使ってるわ。肉体や装備を強化して使用してるわね。あとは建物を建てたり、武器を作る鍛治職人だったり物を作る職人さん達が主に使ってるわ。冒険者は細かな造形とか無理だから、敵の攻撃を防ぐ壁を作ったり石を飛ばしたりしても使うわね」
と言って見せてくれた。
地面が不自然に盛り上がり、人の大きさ程もある土の壁ができた。
そのあと拳ほどの石を浮かせて飛ばして見せてくれた。
属性魔法としてはこの四つがあげられるらしいが、他にもいろいろな事も可能らしい。
字を覚えたら自分達で調べてみなさいとの事。
やはり魔法が使えるのは嬉しい。
地球ではあり得なかった魔法が自分の意思で使えるなど夢物語でしかない。
期待に胸を膨らませる千尋。
午後から魔力に目覚めさせるという事で、とりあえず昼食を食べようと誘われた。
リゼに従い食堂へと戻る。
リゼは研究者としてここに配属されているわけではない。
異世界者として自ら編み出した魔法を買われ、アルバイトのように研究に参加しているそうだ。
仲間達に千尋達の事で今日の仕事を断ったみたいだ。
「悪いな。仕事中だろうに」
「平気よ。私も元地球から来たわけだし、以前この世界の人から受けた恩をあなた達に返すと考えれば問題ないわ」
「そっか、ありがとう」
蒼真と一緒に礼を言う千尋。
昼食はパンとサラダとスープ。
パンにはハムと焼いた卵が挟まれており、シンプルながらなかなか美味しかった。
意識が一瞬飛んだように感じに目を細める。
千尋が目を開けてみると目の前には蒼真がおり、蒼真も千尋を見ている。
そして蒼真は驚いたような表情で千尋の後ろを指差す。
バッと後ろを振り返る。
「…… どこだ? ここは……」
辺りは見た事もない風景。
そして……
宙に浮かび、燃え上がる炎の球体。
その燃え上がる炎の中心には何もなく、ただ空間が燃えている。
轟と燃え上がる炎は熱を発し、千尋や蒼真にもジリジリと肌に熱を伝える。
炎の球体を見ていると次第に小さくなり、やがて消滅、それと同時に炎から発せられていた熱が消えた。
「君達は…… 誰だ!?」
不意に声をかけられた方を振り向くと、そこにはローブを着た人間がいた。
(他にも八人…… なんだこいつらは?)
ローブを着た男が驚きの混じった顔で千尋と蒼真を交互に見つめ、後ろの人物に声をかけた。
「リゼ、彼らは異世界の人間ではないか?」
リゼと呼ばれた女性。
日本人ではないブロンドの長い髪を腰まで伸ばし、幼さの残る表情から千尋達より若いのではないかと思われる。
とても可愛らしく綺麗な女の子だ。
青い瞳でこちらを見つめ、こちらに近づいてきて一言。
「そうね、間違いないわ。黒髪に制服…… 学生のようね。あなた達はどこの国の人かしら?」
どう見ても外国人。
しかし流暢に日本語で話しかけてきた。
「に…… 日本だけど」
千尋が答えたあとに蒼真が問いかける。
「オレ達は学校にいた。そしていつの間にかここにいた。ここは一体どこなんだ? そしてさっきの炎は何だ……」
千尋からも一言物申す。
「君、日本語話せるんだね。びっくり!」
千尋の一言に蒼真は少しイラっとしたようだが気づいていない。
リゼがフッと笑い、応える。
「私は日本語なんて話せないわよ。でも言葉は通じるのよね。まぁいいわ、ここはアースガルド。あなた達からすればここは…… 異世界よ」
(まじか!?)
千尋も蒼真も驚愕する。
異世界なんて物語の中でしか出て来ないような話でさすがに聞き入れられない話だ。
そしてリゼがもう一言。
「私も地球から来たのよ。もう七年も前になるけどね……」
自分達は異世界人。
そして今話しているブロンドの少女リゼも同じように地球から来た。
(しかも…… 七年も前に!?)
蒼真がまた問いかける。
「君は七年前にここに来たと言ったが元の世界には戻れるのか!?」
「いいえ、無理よ。私やあなた達がこの世界に来たのは偶然。呼び出す方法も無ければ戻す方法も無いのよ」
(いきなり詰んだ。もう戻れません。なにこれ、夢か?)
とりあえず蒼真の頬を引っ張ってみる千尋だが、逆に鼻を叩かれた。
痛いし夢ではなさそうだ。
蒼真は混乱してイライラしてそうだ。
リゼは少し呆れ顔でこちらを見ているが千尋は気にしない。
「蒼真、これはどういう事だろうな?」
「わからない。わからないがここは地球ではなく異世界? そして地球に戻る事はできない。わかってるのはこれだけだ。」
(まぁとりあえず……)
千尋はスマホを取り出してみる。
「圏外だね」
圏外だった。
「まぁ当然だな。電波がなければ時計とカメラと計算機くらいしか使えないだろう」
(ふん。甘いな蒼真)
「通信の要らないゲームもできる!」
リゼが画面を覗き込んでくる。
「ねぇ、それなに?」
「あぁ、これ? スマホだよ。リゼは見た事ないの? スマートフォン、携帯電話だよ」
「携帯電話!? この板が? ボタンほとんど無いじゃない」
千尋がスマホを操作して見せると、リゼは興味深々といった様子で覗き込んで来る。
「私が知ってる携帯電話じゃ無くなってるのね……」
リゼは落ち込んでいるが、まぁ七年も経ってるならわからないだろう。
晴れ渡った空を見上げる千尋と、地面を見つめてブツブツ言っている蒼真、そしてスマホでゲームをするリゼ。
(どうしたもんかな……)
(まぁくよくよ悩んでいても仕方がない。今はまず考えを切り替えないと!)
「蒼真! 今は悩んでても仕方ない。急に異世界に放り込まれても何がなんだかわからんからいろいろ教えてもらおうよ!」
「相変わらず千尋は切り替え早いな…… うらやましい性格だよ…… ほんと」
言いながらリゼにこの世界について教えてくれないか頼んでみる蒼真。
「いいわ。この世界に来た先輩として教えてあげる」
上から目線できました。
リゼはローブの男達に仕事を抜けると断りをいれる。
千尋達にこの世界の説明をするからと伝えて場所を移動した。
(ここは…… 食堂かな?)
テーブルを挟んでリゼの向かいに座って説明を受ける千尋と蒼真。
テーブルにはカップと茶色の液体で、紅茶のようないい香りがする。
「美味しい」
「この世界にも紅茶があるんだな」
「私がこの世界に来た時からあったわ。コーヒーもあるわよ」
紅茶を飲んで気持ちが少し落ち着いた。
「まずは地球との大きな違いから言うと、そうね…… みんな魔法が使えることかしら」
「異世界ですねぇ」
「……」
「あと動物の代わりに人を襲う魔獣がいるわ」
「愛玩魔獣とかいませんか?」
「……」
「この世界にはたくさんの王国があるけど、言葉は全て共通よ」
「みんな日本語なんだね」
「……」
「だから私は日本語話せないってば!」
アホな返事をする千尋と終始無言の蒼真。
「まぁこの世界に来た以上はここで生活する為の知識と魔力の使い方を教えてあげる。魔力に関してはほぼ自主練になっちゃうけどね」
「オレ達も魔法使えるようになるの?」
「私達みたいな地球から来た人間は、この世界の人間より遥かに魔力が強いの。理由はこの世界で産まれた場合、赤ちゃんのうちに魔力に目覚めてレベル1になるでしょ? それに対して地球から来た人間は来た時の年齢でレベル1になるの。赤ちゃんと大人の魔力量では差が大きいから、地球人の方が魔力が高くなるのは当然よね」
王族や貴族、騎士の家系では六歳までに魔力操作を訓練するため、レベル2で相当な魔力量を得られるという。
レベル1から2に上がるまでの間の魔力操作練度で魔力の上昇率に違いが出るそうだ。
しかしこの世界で六歳まで魔力操作を訓練したとしても、地球人ほどは上昇しないという。
短期間でレベルを上げられる事も理由の一つかもしれないが。
「今のオレ達のレベルは?」
「魔力使えないでしょ? 今はゼロよ」
「なるほど、目覚めてないからか」
「あなた達は…… 十五歳以上よね? その年齢だとこの世界では普通に育ったとしてもレベル4相当の魔力量になるの。冒険者としてレベルを高めた場合、最大の10まで上げることも可能よ」
この世界では十五歳で大人という扱いだという。
二人は十七歳にしてレベル0、レベル1になるだけで大人としてのレベル4並みの魔力を得るという事だ。
最初から高い魔力を有し、世界に順応するため訓練する。
その結果レベルが上がるたびに魔力の上昇量がものすごいのだという。
「リゼはどうなんだ? 八歳でこの世界に来たんだろ?」
「八歳だとレベル1でレベル3並みの魔力を得られたわ」
「今のレベルは?」
「レベル7よ」
(ん? 七年でレベル7? さっきの話だとレベル10になれるとか言ってたが?)
「二年前に冒険者は辞めたの…… パーティーが全滅しちゃってね……」
「…… ごめん、悪い事聞いたね」
「ん、大丈夫」
表情は大丈夫とは言ってないが……
しばしの沈黙。
話題を切り替える為辺りを見回す蒼真。
「あれは文字か?」
壁に貼り付けられた紙に何かが書いてあり、それを指差して聞いてみる。
「そう、この世界の文字よ。文字も各国共通だから覚えないとね。古代文字もあるけど難しいしそれは今は要らないわね」
「先生、よろしくお願いします」
「宿題も出すわよ」
と薄く笑いながら答えるリゼ。
「しばらくはこの研究所にある宿泊所に寝泊まりしてもらうとして……」
「宿に泊まろうにも金ないしね」
「寝泊まりできるのは助かる」
ここは魔法の研究所だという事だったが、簡易的ではあるが宿泊施設や食堂がある。
住むためにあるわけではないが、泊まりがかりでの研究という事もある為そこそこ住みやすく作られているそうだ。
いろいろと話しを聞いたけど、ここが異世界である事はやはり受け入れ難い事実。
「じゃあ、さ…… 魔法見る?」
魔法ってのはさっき見た炎の事かなと思いつつも見たいと告げる。
「じゃあ訓練所行きましょう」
リゼのあとをついて行く。
外の広い敷地。
歩いてきた道は石畳だったが、訓練所の地面は土、そして奥の方には池もある。
「ここは魔法を練習する場所。あなた達が練習するのもここになるわ」
まず見せてもらったのは火属性魔法。
手のひらから炎があがり、手を薙ぐと炎の波が放出された。
「火属性魔法は火として使う場合はこんな感じね。火球として相手に当てたとしても爆発とかはしないの。爆発させるには魔力量だったり他の条件を加える必要があるわ」
なるほど。
ゲームであるような火属性魔法だと爆発するが、この世界での火属性魔法はあくまでも火。
燃焼という魔法のようだ。
次に水の魔法。
池の前に行き、水を操る。
「水属性魔法は水を操ることができる魔法よ。生活する上で最も使用する事の多い魔法ね」
質問してみたが水を生み出す事はこの世界では出来ないらしい。
それならば空気中の水分から作り出すという事はできるのでは?
まぁ空気中に水分があるという概念がないのかもしれない。
今度は風の魔法を見せてもらう。
風が強くなり、嵐のような突風が巻き起こった。
「風属性魔法は言うまでもなく風を起こせるの。魔力を高めると密度が上がって風で切りつける事もできるわ」
想像通りの魔法でした。
「風属性魔法から雷を作ったりできるのかな?」
「雷魔法は精霊魔法や魔法陣を使えばできるはずよ。風魔法からの雷魔法…… というわけではないと思うわ」
通常の魔法として雷を発生させられる人間は今のところ存在しないとの事。
イメージ力不足なだけの気もしなくもない。
地属性魔法は説明から始まった。
「地属性魔法は主に強化に使ってるわ。肉体や装備を強化して使用してるわね。あとは建物を建てたり、武器を作る鍛治職人だったり物を作る職人さん達が主に使ってるわ。冒険者は細かな造形とか無理だから、敵の攻撃を防ぐ壁を作ったり石を飛ばしたりしても使うわね」
と言って見せてくれた。
地面が不自然に盛り上がり、人の大きさ程もある土の壁ができた。
そのあと拳ほどの石を浮かせて飛ばして見せてくれた。
属性魔法としてはこの四つがあげられるらしいが、他にもいろいろな事も可能らしい。
字を覚えたら自分達で調べてみなさいとの事。
やはり魔法が使えるのは嬉しい。
地球ではあり得なかった魔法が自分の意思で使えるなど夢物語でしかない。
期待に胸を膨らませる千尋。
午後から魔力に目覚めさせるという事で、とりあえず昼食を食べようと誘われた。
リゼに従い食堂へと戻る。
リゼは研究者としてここに配属されているわけではない。
異世界者として自ら編み出した魔法を買われ、アルバイトのように研究に参加しているそうだ。
仲間達に千尋達の事で今日の仕事を断ったみたいだ。
「悪いな。仕事中だろうに」
「平気よ。私も元地球から来たわけだし、以前この世界の人から受けた恩をあなた達に返すと考えれば問題ないわ」
「そっか、ありがとう」
蒼真と一緒に礼を言う千尋。
昼食はパンとサラダとスープ。
パンにはハムと焼いた卵が挟まれており、シンプルながらなかなか美味しかった。
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