器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花

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序章

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 高校三年生になった千尋ちひろ蒼真そうま
 特に変わったことのない普通の学生生活を送っている二人。

 千尋は女友達の多い中性的な顔立ちの十七歳。
 残念ながら彼女はいない。
 身長は170センチと高くもなく低くもなく、痩せ型で女の子に見間違う程度には綺麗な男だ。
 千尋は勉強が特にできるというわけでもなく、常に中の中から中の下といったところか。
 どちらかと言うと天才肌で、好きな事や興味がある事にだけ無駄に勉強や努力をする為、少し偏った知識を持つ。
 そして手先が器用で物を作らせたら何でも作る。手先を使った仕事なら何でもできそうである。

 蒼真は物静かなイケメン十七歳。
 彼女はいるが周りからあまり知られていない。
 身長180センチの筋肉質な男だ。
 勉強もスポーツもどちらもできる文武両道とはこの男の為にありそうな言葉だ。
 真面目な性格で常に努力をする千尋とは真逆なタイプ。
 そして千尋の女友達にも蒼真狙いの女の子が数名いるようだ。

 この二人は小学生からの付き合いで仲も良く、登校する時も常に一緒だ。

 千尋の親の影響で漫画や映画が好きな二人。休みの日は一日中読んでいる事もあるくらいだ。漫画は親が買ってくるので買う事はない。
 映画は二人で借りて観るので金額も半分で済む。

 千尋は読書と称してラノベを読む。
 ファンタジーな世界が大好きで、普段からゲームも人並み…… 以上にやっているかもしれない。
 あとは兄の影響でサバゲーもする。兄は社会人で千尋の装備はほとんどが兄のお下がりだ。
 去年の誕生日には欲しかった電動ガンを買ってもらい、千尋の宝物の一つとなっている。
 サバゲーを始めてからは銃についての知識や戦闘についても勉強をした。
 細身とはいえサバゲーには運動能力や体力も必要だ。もっとこうなりたい! という意欲の元、多少なりとも努力はしている。
  
 蒼真は剣道部で毎日汗を流す。
 家に帰っても予習復習をする真面目な男。
 以前から剣術道場にも通っており、居合刀は孫六兼元を使用する。
 何故兼元かというと、居合刀選びをしていた際に千尋がカッコいいと言ったのを選んだだけ。特に拘りもないので全く問題はない。





 そんな二人がある日同じ夢を見た。
 ファンタジーな世界で魔獣の軍勢に戦いを挑む夢を。
 千尋の隣には蒼真が居て、他にも武器を握りしめた仲間がいる。
 夢から覚めると仲間の顔も着ていた装備も思い出せないが、千尋と蒼真はお互いの表情を覚えていた。
 襲い来る数万ともなる魔獣の軍勢に、わずか数名で立ち向かう。
 恐怖を感じる事はない。
 信じられる仲間と共に奴等を倒す。
 それだけを胸に、駆け出したところで目が覚めた。
  




 登校途中に千尋と蒼真は夢の話をする。
 驚く事に二人は同じ夢を見ていた。
 確かにお互い信じられる友人で、背中を預けても安心できると思う。

 夢の話を笑い話にして学校にたどり着いた。





 その日の授業が終わり、放課後に教師から荷物を運ぶよう頼まれた。
 第二理科室から実験用の機材と標本を第一理科室に運んでほしいとの事。

 二人で第二理科室に向かい、千尋は台車を押しながら理科室に入る。

 第二理科室。
 そこはある部活で使用されている部屋だ。
 床には魔法陣が描かれ、真っ黒なカーテンで日が遮られている。
 そう、ここは魔法研究部の部室として利用されているのだ。
 床に描かれた魔法陣だけでなく、端に寄せられた机の上には魔導書や魔道具、ロウソクなどが置かれている。
 そして机の上や床には赤いシミがあり、いたる所に飛び散っている。

(まさか血じゃないよな……)
 
 少し寒気がした千尋と蒼真。





 あまり長居もしたくないので理科準備室から頼まれていた物を探す。
 理科準備の中も真っ黒な遮光カーテンが引かれ、気味が悪いので明け放つ。棚にも黒い布が被せられており、その中から探さないといけないと思うと気が滅入る。黒い布を剥がすと魚やカエルの開かれた標本がある。これも頼まれていたので持っていく予定だ。
他にもガスバーナーやホース、他にもいろいろと紙にある物を探して運ばなくてはならない。

 探すだけでも時間がかかり、まずは大きな物から運び出す事にした。





 台車に乗せて第一理科室まで移動する途中で何人か女友達から声をかけられる千尋。
 どさくさに紛れて蒼真にも声をかける女友達は、もちろん蒼真に気がある女の子。
 キャーキャー言いながら去って行った。





 第一理科室に着くと教師が待っていた。

 台車の荷物を机の上に置き、また第二理科室に戻る。

 何故荷物を運ぶのか。
 何故か魔法研究部の部員数が年末から二倍に増え、第二理科室にある機材を運び出す必要がでた為だ。

 フラスコやビーカー、薬品など割れ物が多い為、慎重に運ぶ。





 何度か運んで最後の荷物。
 カエルや魚のホルマリン漬け。

「オレは無理。これは嫌だ」

 蒼真が拒否する。

「なんだ? 蒼真はカエルが怖いのか?」

 千尋は知ってて言う。

「臭い、汚い、気持ち悪いは千尋の担当と決めたじゃないか」

「ぶほっ…… なんでオレがそんなの担当するんだよ! オレだって嫌だ!」

「頼む千尋。オレの一生に一度のお願いだ」

「ダメだ。今まで何度もそれ言われた! よし、じゃあじゃんけんで決めよう」

 別に千尋は自分でやってもいいのだがちょっとした意地悪のつもりだ。

「よし、わかった。絶対に勝つ!」

 アッサリ乗る蒼真。

 魔法陣の中央に立つ二人。
 お互いに右手を引いて掛け声を合わせる。

「最初はグー…… じゃん、けん……」

 二人は気付いていない。
 この時、足元が光輝いている事を。

「ほい!!」

 じゃんけんはあいこだったが強烈な光が二人を包み込む。
 目を開いていられない程の強烈な光。

「千尋!? なんだこれは!?」

「オレだって知らないよ! 蒼真じゃないのか!?」





 そのまま光に飲み込まれる二人。

 光が収まった時、円形にくり抜かれた第二理科室の床。

 そこに二人の姿はなかった。



 
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