追放シーフの成り上がり

白銀六花

文字の大きさ
上 下
247 / 257

247 親父さん

しおりを挟む
 国王への謁見を終えて、以前行きつけにしていた酒場で個室を借りたオリオンとエイシス劇団の協力者達。

「まずはディーノさん。これから我々一同よろしくお願いします」

 ローレンツに続いて「よろしくお願いします」と見目の良い十数名の男女が頭を下げる。
 ローレンツは元貴族だとして、他に女性二人は現役の貴族令嬢のように見えるのだが。

「こちらこそよろしくお願いします」

 もうアリスの親父さんに全て任せたらいいんじゃないかな。
 何もわからないディーノがやるより、多少なりとも国王と話を進めているローレンツが仕切って劇団をまとめあげればそれで充分。
 エイシス劇団?
 いやいや、フレイリア劇団でいいじゃないか。
 他の人達にも慕われてそうだしローレンツが仕切った方が上手くいくはずだ。
 んん、でも国王は許してくれないだろうな。
 残念だが話くらいは聞いておこう。

「私は座長に拝命されましたが、エイシス劇団の演劇を担当することになります。団長であるディーノさんには劇団で演じる脚本を手掛けてもらい、私が台本を起こします。あとは台本に従って演技の練習をする運びとなりますね。ええ。その後は劇団の演技を見てもらいながらディーノさんの方から修正を指示して頂いて完成度を高めていく次第となります」

 やっぱり脚本か。
 それならエイシス劇団じゃなくフレイリア劇団でもいいんじゃないだろうか。
 劇団任されるよりは脚本家として話を作っていた方がまだ気は楽だし、修正も完成度も何も素人が見たところで何も口出しできるものじゃない。
 脚本書いてローレンツに丸投げでいいような気がしてきた。
 演技を見るよう言われたらとりあえずOK出しておけば、あとは客前で披露するだけだし簡単だ。
 とりあえず今のところ都合のいいように捉えて頷いておく。

「楽器指導のキアーラ=フラットです。私はディーノ様の作成した物語からイメージに合わせた楽曲を何曲か用意します。ディーノ様のイメージに合えば良し、違うようでしたらお教えいただければ修正致しますわ。そこからエイシス楽団への演奏指導を行い、台本に合わせた音楽を提供する形となります」

 とは貴族令嬢と思われる一人の言。
 うん、なんだろう。
 また何か知らなかった名前が出てきたぞ?
 エイシス楽団とは……
 腑に落ちないけど演劇に音楽が加わると演出も盛り上がりそうだしとりあえず頷いておくか。

「舞踏指導担当のアデリーナ=ステップと申します。国王様からはまずは英雄伝説を披露したいと聞いておりますので、剣舞や殺陣たてといった指導を行うつもりです。通常の演技を座長が担当するのに対し、私は動きの大きな演技を担当する形となりますね」

 こちらも貴族令嬢と思われる女性である。
 舞踏団とか言われなくてよかった。
 いや、今言わなかっただけかもしれない。
 確かに英雄伝説の観劇をしたいと言ったが剣舞やらタテ?なんだそれは。
 もしかすると剣を使った演技のことかもしれないな。
 見栄えがして盛り上がりそうだし是非ともやってほしい。
 なかなかいい人選ではないだろうか。
 楽団はよくわからないし今は聞かなかったことにしておく。

「うーん、なるほど?とりあえずオレがやることは脚本作り、で合ってますかね」

「はい、まずは脚本が無くては何も進められません。楽器や簡単な演技練習などはできますが、本格的な練習は脚本がある程度できあがってからになりますね」

 ほうほう。
 でも最初は英雄伝説だし本買ってきて渡せばいいな。

「じゃあ明日にでも……」

「国王様からはディーノさんから真実の史実が明かされると聞いてますので劇団一同とても楽しみにしております。ディーノさんの語りとなればそれはそれは素晴らしい物語となるでしょう」

 ダメだった。
 真実の史実って国王様から聞いたゼイラムの歴史だし。
 市井で知られる歴史がひっくり返る内容だし。
 同じギフト発現者のディーノがそれを語るとなると……
 え!?
 ものすごく恥ずかしいことになるんじゃないか!?
 史実なのに!
 俺スゲーな物語になってしまう!!

「期待してますディーノ様っ」

「楽しみにしてます~」

 あの国王マジか!!
 確かに国王から語られた史実には驚きも感動もあったけど……
 同じギフト発現者が語るのかぁぁ……
 別の人が語るのとでは聞こえ方が違ってくるじゃないか……

「ディーノ!俺らも楽しみにしてっからな!」

「最高の脚本を書くしかないな」

 うるさいなあいつら。
 悪気はないんだろうけど察してほしい。

 そんな悩めるディーノをよそにオリオンが勝手に「乾杯!」と飲み会を始めてしまった。
 集められた劇団員はそれほど裕福な暮らしをしているわけでもないのか、テーブルを埋め尽くすほどに並べられた料理に顔を綻ばせる。
 まあ好きに飲み食いすればいいだろう。
 オリオンの飲み会はわいわい騒ぐのが通例だし、楽しく飲んで食ってくれればそれでいい。



 あの国王はなかなか残酷なことをしてくれるが、やることになった以上は仕方がない。
 腹を括って脚本を書こうじゃないか。

「店で一番良い酒持ってきてくれ!」

 ヤケ酒である。
 もうなるようにしかならないなら酒でも呑んで嫌な気分を吹き飛ばすしかないのだ。

「よーっし!ディーノが呑むんなら盛り上がって行こうぜー!うぇーい、かんぱーいっ!」

「「「かんぱーい!!」」」

 悩みがない奴はいいよな。
 いや、マリオはちょっと前まで落ち込んでた時期もあったか。
 どうにかして巻き込んでやりたいけど脚本を書くだけだしな。
 一難去ってまた一難……
 いや、今は恥ずかしいだけか。
 恥ずかしくなるだけか。
 うん、とりあえず呑もう。
 呑んだらきっと楽しい世界が待っている。

 そんなヤケ酒を煽っていたところで隣に座った人物が声をかけてくる。
 座長のローレンツ=フレイリアである。

「ところでディーノさん。うちの娘、アリスがお付き合いをさせてもらっているようだね」

 そうだった。
 それも結構重要な案件だ。

「あ、はいお父さん!アリスさんとは少し前からお付き合いさせてもらってます!」

「そうかそうか。あの小さかった娘がもう男と付き合うような歳にね……」

 もう、と言うかアリスは十八歳のはずだが。
 男と付き合うにしては遅いくらいではないのだろうか。
 いや、親元を離れて冒険者をしていたアリスだし、親からすればまだまだ十五歳の娘との思い出しかないだろう。
 ここで再会したのならこれからは時々会うようにしたらいい。

「男が嫌いだと言ってたのに……」

「以前はそんなことも言ってましたね」

「今は君が憎くて仕方がないよ」

 親とはそういうものなのか。
 ん?
 憎まれてるのか!?

「まあ冗談だがね。アリスを大切にしてくれるならそれでいい。娘をよろしく頼むよ、ディーノさん」

 冗談か、よかった。

「こちらこそ劇団の件も含めてよろしくお願いします。あとディーノでいいです」

 恋人の父親からさん付けされるのは心苦しいしやめてほしいところだ。

「ではディーノ。そのうち私の妻にも会ってやってくれ。きっと喜ぶ」

「はい。会える日を楽しみにしてます」

 ローレンツがグラスを持ち上げてきたので合わせて打ち付ける。
 高級店ではないが香り豊かな良い酒を出す店で、酔っ払うのはもったいないくらいだ。
 ほどほどに酒と料理を楽しみながら親父さんの話でも聞かせてもらおうか。
 アリスを呼んで親子を並んで座らせ、もう一度乾杯し直してお互いに話を交わすことにした。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...