追放シーフの成り上がり

白銀六花

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247 親父さん

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 国王への謁見を終えて、以前行きつけにしていた酒場で個室を借りたオリオンとエイシス劇団の協力者達。

「まずはディーノさん。これから我々一同よろしくお願いします」

 ローレンツに続いて「よろしくお願いします」と見目の良い十数名の男女が頭を下げる。
 ローレンツは元貴族だとして、他に女性二人は現役の貴族令嬢のように見えるのだが。

「こちらこそよろしくお願いします」

 もうアリスの親父さんに全て任せたらいいんじゃないかな。
 何もわからないディーノがやるより、多少なりとも国王と話を進めているローレンツが仕切って劇団をまとめあげればそれで充分。
 エイシス劇団?
 いやいや、フレイリア劇団でいいじゃないか。
 他の人達にも慕われてそうだしローレンツが仕切った方が上手くいくはずだ。
 んん、でも国王は許してくれないだろうな。
 残念だが話くらいは聞いておこう。

「私は座長に拝命されましたが、エイシス劇団の演劇を担当することになります。団長であるディーノさんには劇団で演じる脚本を手掛けてもらい、私が台本を起こします。あとは台本に従って演技の練習をする運びとなりますね。ええ。その後は劇団の演技を見てもらいながらディーノさんの方から修正を指示して頂いて完成度を高めていく次第となります」

 やっぱり脚本か。
 それならエイシス劇団じゃなくフレイリア劇団でもいいんじゃないだろうか。
 劇団任されるよりは脚本家として話を作っていた方がまだ気は楽だし、修正も完成度も何も素人が見たところで何も口出しできるものじゃない。
 脚本書いてローレンツに丸投げでいいような気がしてきた。
 演技を見るよう言われたらとりあえずOK出しておけば、あとは客前で披露するだけだし簡単だ。
 とりあえず今のところ都合のいいように捉えて頷いておく。

「楽器指導のキアーラ=フラットです。私はディーノ様の作成した物語からイメージに合わせた楽曲を何曲か用意します。ディーノ様のイメージに合えば良し、違うようでしたらお教えいただければ修正致しますわ。そこからエイシス楽団への演奏指導を行い、台本に合わせた音楽を提供する形となります」

 とは貴族令嬢と思われる一人の言。
 うん、なんだろう。
 また何か知らなかった名前が出てきたぞ?
 エイシス楽団とは……
 腑に落ちないけど演劇に音楽が加わると演出も盛り上がりそうだしとりあえず頷いておくか。

「舞踏指導担当のアデリーナ=ステップと申します。国王様からはまずは英雄伝説を披露したいと聞いておりますので、剣舞や殺陣たてといった指導を行うつもりです。通常の演技を座長が担当するのに対し、私は動きの大きな演技を担当する形となりますね」

 こちらも貴族令嬢と思われる女性である。
 舞踏団とか言われなくてよかった。
 いや、今言わなかっただけかもしれない。
 確かに英雄伝説の観劇をしたいと言ったが剣舞やらタテ?なんだそれは。
 もしかすると剣を使った演技のことかもしれないな。
 見栄えがして盛り上がりそうだし是非ともやってほしい。
 なかなかいい人選ではないだろうか。
 楽団はよくわからないし今は聞かなかったことにしておく。

「うーん、なるほど?とりあえずオレがやることは脚本作り、で合ってますかね」

「はい、まずは脚本が無くては何も進められません。楽器や簡単な演技練習などはできますが、本格的な練習は脚本がある程度できあがってからになりますね」

 ほうほう。
 でも最初は英雄伝説だし本買ってきて渡せばいいな。

「じゃあ明日にでも……」

「国王様からはディーノさんから真実の史実が明かされると聞いてますので劇団一同とても楽しみにしております。ディーノさんの語りとなればそれはそれは素晴らしい物語となるでしょう」

 ダメだった。
 真実の史実って国王様から聞いたゼイラムの歴史だし。
 市井で知られる歴史がひっくり返る内容だし。
 同じギフト発現者のディーノがそれを語るとなると……
 え!?
 ものすごく恥ずかしいことになるんじゃないか!?
 史実なのに!
 俺スゲーな物語になってしまう!!

「期待してますディーノ様っ」

「楽しみにしてます~」

 あの国王マジか!!
 確かに国王から語られた史実には驚きも感動もあったけど……
 同じギフト発現者が語るのかぁぁ……
 別の人が語るのとでは聞こえ方が違ってくるじゃないか……

「ディーノ!俺らも楽しみにしてっからな!」

「最高の脚本を書くしかないな」

 うるさいなあいつら。
 悪気はないんだろうけど察してほしい。

 そんな悩めるディーノをよそにオリオンが勝手に「乾杯!」と飲み会を始めてしまった。
 集められた劇団員はそれほど裕福な暮らしをしているわけでもないのか、テーブルを埋め尽くすほどに並べられた料理に顔を綻ばせる。
 まあ好きに飲み食いすればいいだろう。
 オリオンの飲み会はわいわい騒ぐのが通例だし、楽しく飲んで食ってくれればそれでいい。



 あの国王はなかなか残酷なことをしてくれるが、やることになった以上は仕方がない。
 腹を括って脚本を書こうじゃないか。

「店で一番良い酒持ってきてくれ!」

 ヤケ酒である。
 もうなるようにしかならないなら酒でも呑んで嫌な気分を吹き飛ばすしかないのだ。

「よーっし!ディーノが呑むんなら盛り上がって行こうぜー!うぇーい、かんぱーいっ!」

「「「かんぱーい!!」」」

 悩みがない奴はいいよな。
 いや、マリオはちょっと前まで落ち込んでた時期もあったか。
 どうにかして巻き込んでやりたいけど脚本を書くだけだしな。
 一難去ってまた一難……
 いや、今は恥ずかしいだけか。
 恥ずかしくなるだけか。
 うん、とりあえず呑もう。
 呑んだらきっと楽しい世界が待っている。

 そんなヤケ酒を煽っていたところで隣に座った人物が声をかけてくる。
 座長のローレンツ=フレイリアである。

「ところでディーノさん。うちの娘、アリスがお付き合いをさせてもらっているようだね」

 そうだった。
 それも結構重要な案件だ。

「あ、はいお父さん!アリスさんとは少し前からお付き合いさせてもらってます!」

「そうかそうか。あの小さかった娘がもう男と付き合うような歳にね……」

 もう、と言うかアリスは十八歳のはずだが。
 男と付き合うにしては遅いくらいではないのだろうか。
 いや、親元を離れて冒険者をしていたアリスだし、親からすればまだまだ十五歳の娘との思い出しかないだろう。
 ここで再会したのならこれからは時々会うようにしたらいい。

「男が嫌いだと言ってたのに……」

「以前はそんなことも言ってましたね」

「今は君が憎くて仕方がないよ」

 親とはそういうものなのか。
 ん?
 憎まれてるのか!?

「まあ冗談だがね。アリスを大切にしてくれるならそれでいい。娘をよろしく頼むよ、ディーノさん」

 冗談か、よかった。

「こちらこそ劇団の件も含めてよろしくお願いします。あとディーノでいいです」

 恋人の父親からさん付けされるのは心苦しいしやめてほしいところだ。

「ではディーノ。そのうち私の妻にも会ってやってくれ。きっと喜ぶ」

「はい。会える日を楽しみにしてます」

 ローレンツがグラスを持ち上げてきたので合わせて打ち付ける。
 高級店ではないが香り豊かな良い酒を出す店で、酔っ払うのはもったいないくらいだ。
 ほどほどに酒と料理を楽しみながら親父さんの話でも聞かせてもらおうか。
 アリスを呼んで親子を並んで座らせ、もう一度乾杯し直してお互いに話を交わすことにした。
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