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243 緑竜
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上空へと舞い上がろうとした緑竜をインパクトで射ち落としたフィオレ。
ジェラルドは双盾に切り替えて緑竜に向かって駆け出し、レナータはすぐ近くまで飛ばされてきたマリオへとヒールを発動する。
アリスは炎槍を放つ直前だったこともあって部分的に相殺したことでダメージを軽減している。
緑竜のはるか後方へと飛ばされたソーニャのことが気掛かりではあるが、ディーノの通常の爆破に比べれば防壁の爆散の威力は大したことはない。
まずは射ち落とされた緑竜への追撃を優先するべきだ。
翼を跳ね除けられたことで回転するように落ちた緑竜は、右前足のダメージもあって地面に頭を打ってしまい動きが鈍い。
緑竜が起き上がる前に接近したジェラルドは、その左顎へと右の盾刃を突き立てると質量任せに頭を打ち払う。
ただ緑竜もこのまま追撃を許すまいと痛む右前足に耐えて上体を起こすと、ジェラルドに向かって右前足を払う。
これを左盾で上方に払い上げつつ、目の前にきた肘関節部へと盾刃を見舞う。
痛みを覚えつつ緑竜も自身の攻撃にも耐えられる人間がいるとなれば、一人に手間取っている場合ではないと、後足で体を起こして後方に回転。
尾による払い除けをジェラルドに向けて叩き付ける。
さすがに下方向からの質量攻撃にはジェラルドも耐えられるはずがなく、後方へと向かって弾き飛ばされた。
ジェラルドが弾き飛ばされるのを横目に、接近していたアリスが着地した緑竜へと迫る。
ディーノのように爆破を短時間で使用できるわけではないため、色相竜戦での爆破加速はそう使う機会はないだろう。
左爪を払うようにして振り向ける緑竜と、跳躍からぽよぽよの防壁を利用して回避するアリス。
まともに受ければ一撃で戦闘不能になりそうな一撃に冷や汗を流しながら眼前へと迫り、バーンを引いて炎槍を突き出すアリス。
これに緑竜は防壁を展開することである程度の相殺とアリスの体を押し退けて直撃を避ける。
体表に熱が伝わるもののダメージとしては残らない緑竜は、小さな人間を相手に選択したのは旋風のブレスではなく風の球弾。
顔の周囲に展開された六個の風球がアリスへと迫る。
炎槍を放ったばかりで魔力を引き出せていないアリスは絶体絶命の危機。
右に回避行動をとるも迫り来る風球がアリスを追う。
そこへ山なりに射られた矢が防壁の穴を通過して緑竜の左目元に突き刺さり、発動した呪闇が視界を遮った。
これに驚いた緑竜は顔を払って矢をへし折るも、呪闇は鏃に込めて射るためすぐには解除されることはない。
アリスに迫った風球は狙いが定まらずに地面に接触すると、高威力の爆破が地面を抉り取った。
一発でも戦闘不能に陥りそうな風球となればオリオンにとってはブレスよりも厄介な魔法攻撃だ。
しかし今は六個の風球だったとしても相手は色相竜である。
嫌な予感しかしない。
呪闇を払い除けようと踠く緑竜と、風球という危機から脱したアリス。
そしてレナータの回復もそこそこに、戦闘に復帰したマリオがアリスを通り過ぎて緑竜へと接近。
先に付けた傷口へと向かって再びストリームスラッシュを発動し、防壁に阻まれるのもかまわず剣を振い続ける。
一連、二連、三連と防壁に斬撃を振るうことで突き破ることに成功し、空振りの四連、五連で距離を詰めると胸元の傷口へと刃が届く。
最大斬撃数まで振るうことはできなくとも十一連までの傷痕を残して地面に着地。
マリオに続いてアリスも跳躍すると、バーンを振り上げて唐竹に斬り込んだ。
今ここで炎槍が撃てないのを悔やみつつ、地面に着地すると潰されないようマリオと左右に分かれて距離をとる。
しかし緑竜は視界を遮られつつも、今度は体を横方向へと回転させて二人を払い除けようと尾を振り向けた。
アリスは多少引き出せた魔力で防壁を展開しながら跳躍して回避。
マリオは剣を頭上に掲げて身を伏せ、地面すれすれに振り向けられる尾を剣の腹で防ぎ強引に潜り抜けた。
体を一回転させた緑竜は後足で後方に跳躍すると、翼に風を受けて空に舞い上がる。
風魔法による飛翔となれば翼を羽ばたかせることなく舞い上がることが可能なようだ。
今はまだフィオレのスキル待機時間が過ぎておらず、射ち落とすことができない。
地上戦でなんとか戦えていたとしても、ここから空中戦を強いられれば厳しい戦いになること必至。
「まずいわね。まだ逃げるとは思えないけど空から攻撃してこられたら防ぎようがないもの」
「こっちが散らされてるのも問題だな。ジェラルドのとこまで退がろうぜ」
「先に行ってて!」
尾で弾き飛ばされたジェラルドではあったが、立ち上がってこちらに向かってはいるようだ。
マリオは緑竜に背を向けて走り出し、アリスは魔力の引き出せた量を確認しながら緑竜の動きに備える。
ジェラルドがレナータのところまで戻って来たところで緑竜は防壁を展開し直し、下方に見えるアリス、ジェラルドとレナータ、そこに向かって走るマリオを確認。
狙いを一人で待ち構えるアリスへと向ける。
上空で体を前傾にしてアリスに向かって滑空し始め、速度を上げながら接近してくる。
出力としては七割程度になりそうだが魔力を引き出したアリスは緑竜の攻撃に備えるも、予想に反して攻撃ではなく防壁による押し潰しを狙ってきた。
緑竜の展開した防壁はアリスの防壁を破砕するに充分な厚みと質量を持ち、ここで炎槍で迎え討ったとしても確実に地面に叩き付けられる。
咄嗟に魔法を切り替えてバーンの先端から爆槍を発動し、炎槍よりも射出距離の長い爆風が防壁の一部を相殺して緑竜の顔に直撃。
アリスは足で踏ん張ることはせず、爆槍の噴射力を利用して後方へと退避。
緑竜相手に風魔法の威力は大きくないとしてもその身を逸らすことには成功する。
緑竜もこの抵抗は想定していなかったのか、上方へと体を持ち上げると飛翔し直し、目の前に空いた防壁の穴から旋風のブレスを放つ。
顔を傾けながら吹き荒らすブレスは周囲の建物や瓦礫を撒き散らし、オリオンにも質量弾として叩き付けられる。
狙いこそ定まってはいないものの旋風によって瓦礫が四方八方に飛び散り、高速で飛んでくる瓦礫にジェラルドはマリオとレナータを伏せさせて双盾で守る。
アリスもわずかに引き出せた魔力で防壁を展開することで直撃を避ける。
ブレスが途切れ、舞い上がった瓦礫が地面へと降り注ぐ中、次に緑竜が防壁の解除とともに発動したのは地面から巻き起こる竜巻だ。
あらゆる物を空へと巻き上げていく竜巻にオリオンはなす術もない。
近くにあった建物へと駆け込んで体を固定し、巻き上げられないよう耐えるのみ。
最強種の魔法生物、色相竜という災害がフレイリア領を襲う。
ステルスで隠れ潜むフィオレも、どこかに飛ばされてしまったソーニャも身動きを取ることができない状況だろう。
竜巻もそう長い時間続く魔法ではなかったようだが、次に周囲に展開したのは数え切れないほどの風球。
竜巻がおさまったことで崩れた建物の陰から出てきたオリオンも、こればかりは回避するしかないと上空を見上げながら地面へと降り注ぐ風球に回避行動をとる。
ジェラルドでも二人は庇い切れないだろうとマリオはレナータを任せてその場を離れる。
地面が抉り取られるほどの爆破が次々と起こり、ジェラルドは回避できなかった風球を左右の双盾で払い除けつつレナータへの被弾も防ぐ。
素早さのあるマリオやアリスは爆風を浴びつつも剣や槍で払い除けながら全ての直撃を避ける。
しかし地面に全ての風球が着弾しようとする直前、緑竜は広範囲音波攻撃を発動すると風球が一斉に爆発した。
地面での爆発よりも拡散力がある分ダメージとしては大きいうえ、音波攻撃によって身動きが取れない状態だ。
さすがにレナータを庇いながらでは全てを防ぎ切れなかったジェラルドも耳を塞いで蹲り、マリオは目の前での爆破の衝撃を防げなかったのか地面を転がっている。
アリスは魔力の高さから音波攻撃に耐性があるとはいえ、前後左右からの爆発によって視界が回る。
やはり色相竜とは、以前戦った成り掛けの赤竜や例外とされた水竜、様々な属性の上位竜に比べても隔絶する魔法能力を有しているようだ。
音波攻撃を終えると魔法スキルの待機時間に入ったのか、翼を羽ばたかせて浮揚し、粉塵の舞う地面へと視線を向ける。
音波が止んだことでジェラルドは盾を握りしめながら緑竜を見上げ、レナータは傷を癒そうとヒールを発動している。
マリオは震えながら体を起こし、アリスは目眩からバーンを杖代わりにして耐えている。
すでに状況は緑竜に優位となっているが、ここに遠く離れた位置まで飛ばされたソーニャが戻って来る。
緑竜はスキル待機時間とはいえレナータのヒールを見て態勢を立て直されるのを嫌ったのか、身を翻してマリオ目掛けて飛翔して来た。
ジェラルドの位置からは離れており、アリスもまだ助けに行ける状態ではない。
直撃まではしていなくともマリオは音が何も聞こえないほどに爆風を浴びている。
マリオを守ろうとソーニャが駆ける中、フィオレからのインパクトの一矢が緑竜の首左側へと突き刺さる。
クリティカルポイントへと与えられた衝撃により、声もあげずに地面に落下した緑竜。
顔の右側から地面に叩きつけられ、縦に回転すると崩れた建物を破壊しながら背を打ち付ける。
フィオレのステルス発動も限界となり姿を現してしまうも、スキル待機時間の今が好機と緑竜に向かって駆け出した。
今動けるのはソーニャと回復途中のジェラルドだけであり、マリオとアリスをレナータに任せて緑竜へと向かう。
「ジェラルドは緑竜をボコボコにして引き付けて!ソーニャはまた急所狙いでまとわりつこうか!」
「任せろ」
「また飛ばされたら嫌だにゃ~」
その時はその時である。
崩れた建物に引っかかって仰向け状態から体を起こすのに手間取っている緑竜に対し、足の遅いジェラルドが殴り掛かる前にはたどり着いたソーニャ。
ソーニャが急所狙いで緑竜にまとわりつくとしても、正面からジェラルド一人では耐えられないだろうと緑竜の死角に隠れ潜む。
体に勢いを付けて起き上がる緑竜に飛び付き、肩部から背に乗り込んだソーニャ。
気付かれそうなところをジェラルドが殴り掛かり、鼻先に深い傷を残しながらその威力から後方へと頭を押しやる。
このまま攻め続けられまいと繰り出された左前足での叩きつけを右盾で防ぎ、手のひらに左の双盾を突き立てた。
両前足に傷を負った緑竜ではあるが命懸けの戦いとなれば痛みを気にしているほど柔ではない。
飛び掛かるようにして噛み付き攻撃を繰り出し、左右の双盾で防ぐもその強靭な顎の力はジェラルドの腕力でも耐えられない。
しかし俊速のソーニャが翼の付け根へとたどり着き、フィオレのかけ声を受けて急所へとダガーを突き立てた。
深い傷を残した急所に再び突き込まれたダガーに、絶叫をあげて苦しむ緑竜。
ジェラルドは解放されて危機を脱したがすぐには攻撃に移ることができない。
フィオレはインパクトがなくともクリティカルポイントへと矢を射り、その痛みからまた一歩後方へと退がらせた。
以前の黄竜戦を思い返せばもうすぐスキル待機時間を終えて風魔法を行使してくるが、フィオレのインパクトの再使用は間に合いそうにない。
今はクリティカルポイントを射つことでダメージを蓄積させようと速射で矢を射り続ける。
一矢突き刺さるたびに後退する緑竜ではあったが、マリオとアリスが復帰する前にスキル待機時間を終えてしまう。
展開した風の防壁によって矢が弾かれ、急所の傷へとザクザクとダガーを突き込み続けたソーニャも押し除けられ、再び後方へと滑り落ちていく。
ダメージによって人間から距離を取りたい緑竜は防壁を爆散してジェラルドとフィオレ、ソーニャを弾き飛ばした。
ジェラルドは双盾に切り替えて緑竜に向かって駆け出し、レナータはすぐ近くまで飛ばされてきたマリオへとヒールを発動する。
アリスは炎槍を放つ直前だったこともあって部分的に相殺したことでダメージを軽減している。
緑竜のはるか後方へと飛ばされたソーニャのことが気掛かりではあるが、ディーノの通常の爆破に比べれば防壁の爆散の威力は大したことはない。
まずは射ち落とされた緑竜への追撃を優先するべきだ。
翼を跳ね除けられたことで回転するように落ちた緑竜は、右前足のダメージもあって地面に頭を打ってしまい動きが鈍い。
緑竜が起き上がる前に接近したジェラルドは、その左顎へと右の盾刃を突き立てると質量任せに頭を打ち払う。
ただ緑竜もこのまま追撃を許すまいと痛む右前足に耐えて上体を起こすと、ジェラルドに向かって右前足を払う。
これを左盾で上方に払い上げつつ、目の前にきた肘関節部へと盾刃を見舞う。
痛みを覚えつつ緑竜も自身の攻撃にも耐えられる人間がいるとなれば、一人に手間取っている場合ではないと、後足で体を起こして後方に回転。
尾による払い除けをジェラルドに向けて叩き付ける。
さすがに下方向からの質量攻撃にはジェラルドも耐えられるはずがなく、後方へと向かって弾き飛ばされた。
ジェラルドが弾き飛ばされるのを横目に、接近していたアリスが着地した緑竜へと迫る。
ディーノのように爆破を短時間で使用できるわけではないため、色相竜戦での爆破加速はそう使う機会はないだろう。
左爪を払うようにして振り向ける緑竜と、跳躍からぽよぽよの防壁を利用して回避するアリス。
まともに受ければ一撃で戦闘不能になりそうな一撃に冷や汗を流しながら眼前へと迫り、バーンを引いて炎槍を突き出すアリス。
これに緑竜は防壁を展開することである程度の相殺とアリスの体を押し退けて直撃を避ける。
体表に熱が伝わるもののダメージとしては残らない緑竜は、小さな人間を相手に選択したのは旋風のブレスではなく風の球弾。
顔の周囲に展開された六個の風球がアリスへと迫る。
炎槍を放ったばかりで魔力を引き出せていないアリスは絶体絶命の危機。
右に回避行動をとるも迫り来る風球がアリスを追う。
そこへ山なりに射られた矢が防壁の穴を通過して緑竜の左目元に突き刺さり、発動した呪闇が視界を遮った。
これに驚いた緑竜は顔を払って矢をへし折るも、呪闇は鏃に込めて射るためすぐには解除されることはない。
アリスに迫った風球は狙いが定まらずに地面に接触すると、高威力の爆破が地面を抉り取った。
一発でも戦闘不能に陥りそうな風球となればオリオンにとってはブレスよりも厄介な魔法攻撃だ。
しかし今は六個の風球だったとしても相手は色相竜である。
嫌な予感しかしない。
呪闇を払い除けようと踠く緑竜と、風球という危機から脱したアリス。
そしてレナータの回復もそこそこに、戦闘に復帰したマリオがアリスを通り過ぎて緑竜へと接近。
先に付けた傷口へと向かって再びストリームスラッシュを発動し、防壁に阻まれるのもかまわず剣を振い続ける。
一連、二連、三連と防壁に斬撃を振るうことで突き破ることに成功し、空振りの四連、五連で距離を詰めると胸元の傷口へと刃が届く。
最大斬撃数まで振るうことはできなくとも十一連までの傷痕を残して地面に着地。
マリオに続いてアリスも跳躍すると、バーンを振り上げて唐竹に斬り込んだ。
今ここで炎槍が撃てないのを悔やみつつ、地面に着地すると潰されないようマリオと左右に分かれて距離をとる。
しかし緑竜は視界を遮られつつも、今度は体を横方向へと回転させて二人を払い除けようと尾を振り向けた。
アリスは多少引き出せた魔力で防壁を展開しながら跳躍して回避。
マリオは剣を頭上に掲げて身を伏せ、地面すれすれに振り向けられる尾を剣の腹で防ぎ強引に潜り抜けた。
体を一回転させた緑竜は後足で後方に跳躍すると、翼に風を受けて空に舞い上がる。
風魔法による飛翔となれば翼を羽ばたかせることなく舞い上がることが可能なようだ。
今はまだフィオレのスキル待機時間が過ぎておらず、射ち落とすことができない。
地上戦でなんとか戦えていたとしても、ここから空中戦を強いられれば厳しい戦いになること必至。
「まずいわね。まだ逃げるとは思えないけど空から攻撃してこられたら防ぎようがないもの」
「こっちが散らされてるのも問題だな。ジェラルドのとこまで退がろうぜ」
「先に行ってて!」
尾で弾き飛ばされたジェラルドではあったが、立ち上がってこちらに向かってはいるようだ。
マリオは緑竜に背を向けて走り出し、アリスは魔力の引き出せた量を確認しながら緑竜の動きに備える。
ジェラルドがレナータのところまで戻って来たところで緑竜は防壁を展開し直し、下方に見えるアリス、ジェラルドとレナータ、そこに向かって走るマリオを確認。
狙いを一人で待ち構えるアリスへと向ける。
上空で体を前傾にしてアリスに向かって滑空し始め、速度を上げながら接近してくる。
出力としては七割程度になりそうだが魔力を引き出したアリスは緑竜の攻撃に備えるも、予想に反して攻撃ではなく防壁による押し潰しを狙ってきた。
緑竜の展開した防壁はアリスの防壁を破砕するに充分な厚みと質量を持ち、ここで炎槍で迎え討ったとしても確実に地面に叩き付けられる。
咄嗟に魔法を切り替えてバーンの先端から爆槍を発動し、炎槍よりも射出距離の長い爆風が防壁の一部を相殺して緑竜の顔に直撃。
アリスは足で踏ん張ることはせず、爆槍の噴射力を利用して後方へと退避。
緑竜相手に風魔法の威力は大きくないとしてもその身を逸らすことには成功する。
緑竜もこの抵抗は想定していなかったのか、上方へと体を持ち上げると飛翔し直し、目の前に空いた防壁の穴から旋風のブレスを放つ。
顔を傾けながら吹き荒らすブレスは周囲の建物や瓦礫を撒き散らし、オリオンにも質量弾として叩き付けられる。
狙いこそ定まってはいないものの旋風によって瓦礫が四方八方に飛び散り、高速で飛んでくる瓦礫にジェラルドはマリオとレナータを伏せさせて双盾で守る。
アリスもわずかに引き出せた魔力で防壁を展開することで直撃を避ける。
ブレスが途切れ、舞い上がった瓦礫が地面へと降り注ぐ中、次に緑竜が防壁の解除とともに発動したのは地面から巻き起こる竜巻だ。
あらゆる物を空へと巻き上げていく竜巻にオリオンはなす術もない。
近くにあった建物へと駆け込んで体を固定し、巻き上げられないよう耐えるのみ。
最強種の魔法生物、色相竜という災害がフレイリア領を襲う。
ステルスで隠れ潜むフィオレも、どこかに飛ばされてしまったソーニャも身動きを取ることができない状況だろう。
竜巻もそう長い時間続く魔法ではなかったようだが、次に周囲に展開したのは数え切れないほどの風球。
竜巻がおさまったことで崩れた建物の陰から出てきたオリオンも、こればかりは回避するしかないと上空を見上げながら地面へと降り注ぐ風球に回避行動をとる。
ジェラルドでも二人は庇い切れないだろうとマリオはレナータを任せてその場を離れる。
地面が抉り取られるほどの爆破が次々と起こり、ジェラルドは回避できなかった風球を左右の双盾で払い除けつつレナータへの被弾も防ぐ。
素早さのあるマリオやアリスは爆風を浴びつつも剣や槍で払い除けながら全ての直撃を避ける。
しかし地面に全ての風球が着弾しようとする直前、緑竜は広範囲音波攻撃を発動すると風球が一斉に爆発した。
地面での爆発よりも拡散力がある分ダメージとしては大きいうえ、音波攻撃によって身動きが取れない状態だ。
さすがにレナータを庇いながらでは全てを防ぎ切れなかったジェラルドも耳を塞いで蹲り、マリオは目の前での爆破の衝撃を防げなかったのか地面を転がっている。
アリスは魔力の高さから音波攻撃に耐性があるとはいえ、前後左右からの爆発によって視界が回る。
やはり色相竜とは、以前戦った成り掛けの赤竜や例外とされた水竜、様々な属性の上位竜に比べても隔絶する魔法能力を有しているようだ。
音波攻撃を終えると魔法スキルの待機時間に入ったのか、翼を羽ばたかせて浮揚し、粉塵の舞う地面へと視線を向ける。
音波が止んだことでジェラルドは盾を握りしめながら緑竜を見上げ、レナータは傷を癒そうとヒールを発動している。
マリオは震えながら体を起こし、アリスは目眩からバーンを杖代わりにして耐えている。
すでに状況は緑竜に優位となっているが、ここに遠く離れた位置まで飛ばされたソーニャが戻って来る。
緑竜はスキル待機時間とはいえレナータのヒールを見て態勢を立て直されるのを嫌ったのか、身を翻してマリオ目掛けて飛翔して来た。
ジェラルドの位置からは離れており、アリスもまだ助けに行ける状態ではない。
直撃まではしていなくともマリオは音が何も聞こえないほどに爆風を浴びている。
マリオを守ろうとソーニャが駆ける中、フィオレからのインパクトの一矢が緑竜の首左側へと突き刺さる。
クリティカルポイントへと与えられた衝撃により、声もあげずに地面に落下した緑竜。
顔の右側から地面に叩きつけられ、縦に回転すると崩れた建物を破壊しながら背を打ち付ける。
フィオレのステルス発動も限界となり姿を現してしまうも、スキル待機時間の今が好機と緑竜に向かって駆け出した。
今動けるのはソーニャと回復途中のジェラルドだけであり、マリオとアリスをレナータに任せて緑竜へと向かう。
「ジェラルドは緑竜をボコボコにして引き付けて!ソーニャはまた急所狙いでまとわりつこうか!」
「任せろ」
「また飛ばされたら嫌だにゃ~」
その時はその時である。
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ソーニャが急所狙いで緑竜にまとわりつくとしても、正面からジェラルド一人では耐えられないだろうと緑竜の死角に隠れ潜む。
体に勢いを付けて起き上がる緑竜に飛び付き、肩部から背に乗り込んだソーニャ。
気付かれそうなところをジェラルドが殴り掛かり、鼻先に深い傷を残しながらその威力から後方へと頭を押しやる。
このまま攻め続けられまいと繰り出された左前足での叩きつけを右盾で防ぎ、手のひらに左の双盾を突き立てた。
両前足に傷を負った緑竜ではあるが命懸けの戦いとなれば痛みを気にしているほど柔ではない。
飛び掛かるようにして噛み付き攻撃を繰り出し、左右の双盾で防ぐもその強靭な顎の力はジェラルドの腕力でも耐えられない。
しかし俊速のソーニャが翼の付け根へとたどり着き、フィオレのかけ声を受けて急所へとダガーを突き立てた。
深い傷を残した急所に再び突き込まれたダガーに、絶叫をあげて苦しむ緑竜。
ジェラルドは解放されて危機を脱したがすぐには攻撃に移ることができない。
フィオレはインパクトがなくともクリティカルポイントへと矢を射り、その痛みからまた一歩後方へと退がらせた。
以前の黄竜戦を思い返せばもうすぐスキル待機時間を終えて風魔法を行使してくるが、フィオレのインパクトの再使用は間に合いそうにない。
今はクリティカルポイントを射つことでダメージを蓄積させようと速射で矢を射り続ける。
一矢突き刺さるたびに後退する緑竜ではあったが、マリオとアリスが復帰する前にスキル待機時間を終えてしまう。
展開した風の防壁によって矢が弾かれ、急所の傷へとザクザクとダガーを突き込み続けたソーニャも押し除けられ、再び後方へと滑り落ちていく。
ダメージによって人間から距離を取りたい緑竜は防壁を爆散してジェラルドとフィオレ、ソーニャを弾き飛ばした。
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スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
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この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
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スキルを手にしてから早5年――。
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突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
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それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
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隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
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能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
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