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239 何故そうなる!?
しおりを挟む 聖銀との戦いが終わり、会場のお祭り騒ぎにも顔を出して帰りたかったのだが、とんでもない数の人々が声をかけてきたため、諦めて一旦控え所に避難してから宿へと戻ることにした。
会場ではまだ国王の周りに国お偉方が集まっており、先ほどの戦いを振り返ってはあーだこーだと語り合っていた。
そんなところに視線を向けていたのが悪かった。
「おーい!ディーノよ!こちらに来なさい!アリスとフィオレもおいで!」
面倒なことにセヴェリン伯爵からお呼びが掛かってしまった。
伯爵自体は問題ないが、他のお偉方との挨拶がとてもとても面倒なのだ。
「何かご用でしょうか義父様。まずは皆様にご挨拶をさせていただいても?」
うんうんと嬉しそうに頷くので、ディーノはドルドレイク家の養子になったことも含めて挨拶を済ませる。
これにはやはり貴族と思われる方々には驚かれ、以前依頼を受けた領地の者からは感謝やドルドレイク伯爵が羨ましいなどといった世辞の言葉をいただいた。
また、そのうち数人からはうちの娘が年頃で~などとお見合い話でもないが、紹介したいといった内容の話を振られたりもしたが。
アリスが怖いので笑って誤魔化すしかないディーノである。
「疲れているところ悪いのだが皆に紹介しておきたくてね。ここにいるのは私の良き友人達だよ。復興にもいろいろと協力してもらっていてね、息子を紹介せぬわけにはいかないだろう?」
お披露目の場としてはどうなのだろう。
実際戦ってるところを見せて、自分の息子はこれだけ戦えるのだと力を誇示することができるとすれば、貴族間でもセヴェリンの立場は高くなる。
あとは実力のある冒険者と繋がりを持つと国での発言力も上がるという話だったか。
そうなればディーノと繋がりを持つというだけでも彼らにはメリットがあり、復興に協力してもらっているお礼代わりといったところだろう。
ディーノとしては自分に害がなければセヴェリンに利用されても問題はないが、国での発言力……あっ、王族と同等の扱いとなればいろいろと事情も変わってくるのか。
あとは難易度の高い依頼なども指名しやすくなるとか、そういったこともありそうだが裏の事情はよくわからない。
「それはそれは。復興の支援をしていただいているとはつゆ知らず、大変失礼いたしました。今後ともお付き合いのほど、よろしくお願いいたします」
ディーノとしてはだいたいこんな感じでいいだろうくらいのつもりで言ってみた。
セヴェリンは少し驚きの表情で目を潤ませている、何故に?
ディーノが下手に出て言ってみたのが講じたのか、こちらこそよろしくとの言葉を多くいただいた。
どうやら言葉選びは正解だったらしい。
和やかな雰囲気でお偉方との挨拶会をしていると、国王からもお言葉をもらった。
「ディーノよ。聖銀を打ち負かすとは見事。ザックやエンベルトの名は国内に轟いてはおるが、パウルもランドも我が国の誇る最上位の戦士。それを打ち負かしたのであれば見事と言う他あるまい。褒美をやろうと思うが何か欲しいものはあるか?」
お褒めの言葉をもらえるだけでなく褒美もくれるというのか。
ただパウルと一戦交えるだけの予定がここまでの成果を上げることになるとは。
大事になったとはいえ結果として褒美までもらえるのなら、ある意味でマリオには感謝である。
しかし褒美と言われても何を求めればいいのか悩むところ。
ここでセヴェリンのためにもジャダルラック領の復興支援金を~というのも何か違う気がするし、自分が国に求めるものということでもいいだろうか。
「ありがとうございます。褒美を、と申されるのであれば市井にも娯楽を広めていただけないかと」
「ふむ。其方自身ではなく市井の者に娯楽をな。そのような褒美を求めるのは何故だ?」
「国王様や特権階級の皆様方であれば音楽や舞踏、盤遊戯他、様々な娯楽があるかと思いますが、市井の娯楽と言えるものは賭博や酒場くらいしか思い当たりません。しかしラフロイグでのテイムされた巨獣に対する民の反応はどうでしょうか。以前よりも多くの人々が集まり、巨獣を見物に来る者が後を立たないと聞いております」
これにはラフロイグ伯爵も喜んで広場を貸してくれているため、領地への集客に一役どころか多大な影響を与えているのではないだろうか。
街の人達も訪れるたびと歓迎してくれるあたりは、相当な利益に繋がっているとも考えられる。
「それに今日のこのイベントは……私としては不服ではありましたが、他領からも多くの観客が集まり、我々の戦いを日々の生活を忘れて楽しんでいたのではないでしょうか。舞踏や観劇を楽しむ、音楽を楽しむ。娯楽というのは日々の生活に潤いを与え、人々を豊かにしてくれるものだと感じているからです」
そうディーノが語るのは実のところクレートからの受け売りである。
精霊国への旅は様々な出会いを含め、王族や貴族階級の宴に加えて、ブラーガ家との繋がりがディーノの人生に大きな影響を与えている。
宴の席でも余裕ができたディーノは音楽や舞踏を観覧しながら料理や酒を楽しみ、市井にはない特権階級の生活を目の当たりにした。
音楽は心に安らぎと幸福感を与え、舞踏の流れるような美しい動きに心満たされるような思いを感じさせられた。
その善し悪しがわからないディーノでさえ感動を覚え、普段から贅沢な生活を送っているであろう特権階級をも満足させられるとなれば、娯楽とは人生においてどれだけの力を持つのかわからない。
普段の酒の席で冒険譚を語り合うのも楽しくもあるが、必死で生きる日々を語り合っているに過ぎず潤いのある生活とは言い難い。
ディーノの友人達との食事や酒の席でも、交わされるのは日々の生活を語り、互いに労い応援し合うといったものばかり。
特権階級と一般市民との格差と言われればそれまでかもしれないが、生活以外でも幸せを感じるひと時があってもいいのではないだろうか。
そんなことを感じ始めたディーノに衝撃を与えたのはクレートである。
あれほどの強者であるにも関わらず、風呂にこだわり食事には料理の段階から楽しみ、そして一度だけではあるがクレートの耳飾りから聞かせてもらった異世界の音楽。
魔の王の側近という立場から高性能な魔具を賜ったのかと思いきや、クレートが崇拝する魔の王は誰しもが幸せを感じる世界を目指して日々奔走しているとのこと。
自国に留まらず全ての国を巻き込んで仕事を生み出し、娯楽を広め、人々の生活を豊かにしようとありとあらゆる努力を惜しまない。
多忙を極める日々の中、笑顔を絶やさない魔の王は全ての国の人々に愛されているのだと、クレートは恋人に想いを寄せるかの如く語っていた。
ディーノとしても聞いた内容が本当であれば崇拝するのも頷けるが。
全ての国に娯楽を広めている魔の王がいるのだ、話のわかる聖王国国王も広めてくれてくれるのではないか、との期待からディーノが褒美として求めてみたわけだが。
「では娯楽がなければ民は幸せではない、と、其方は思っておるのだな?」
あまりいい反応ではなさそうだ。
「いいえ、今でも幸せを感じている者の方が多くいるでしょう。ですが今の幸せに楽しみが一つ増えるとすれば如何でしょうか。仕事への意欲にも繋がりますし、何よりも目標ができます。その娯楽を見るために、聴くためにお金を貯めて散財する。お金を貯めるためには仕事を増やす必要があり、労働力が増えれば仕事が回りお金も回る。経済にも影響が及ぶかと考えます」
反応が良くないなら金が回るとなればどうだろうか。
国益にも繋がるなら国王とて断りにくいはず。
そんなわけで適当な方便を垂れてみた。
国王付きの男が何やら書き殴り始めたが。
「ふむ。他には?」
まだ何か語れと……
「音楽や舞踏は演奏する者も踊る者も特権階級の方々が教養として嗜まれているものが多いと存じます。楽器の演奏も舞踏も学ぶ機会がなくては一般市民にできるものではありません。しかし市井であれば他に新たな試みをしてみてはいかがでしょう。例えば役者に物語を演技をさせる劇団を立ち上げて、観劇などを楽しむのも良いかもしれません。雇用も増えますし経済効果も期待できるのではないかと考えます」
ディーノ自身よく頑張ったと褒めてやりたい。
クレートからいろいろと異世界話を聞いていなければここまで思いつかなかった。
魔の王はエイガやドラマなどという物語を観ることができる娯楽を広めていると聞いている。
他にも役者が演じる演劇というものもあるということならこれを推すしかない。
異世界のパクリだが仕方ない。
「ほう、役者が演じるとな?興味深い。続けよ」
まだ語らせる気か……
「そう、ですね。例えば物語の演目を聖王国の歴史、英雄物語などやりやすいのではないでしょうか。子供も知る内容ですのでこれを演じれば多くの者が興味を持ちます。他国にも聖王国の歴史を……」
必死で身振り手振りしながら多くを語ってみたディーノ。
物語なら本を出している者が考えればいくらでも出てきそうなものではあるが、ディーノは図鑑が好きなのであって本が好きなわけではない。
だが冒険者としての冒険譚なら語れるため、例え話として過去のオリオンでの話を交えながら物語をそれっぽく語ってみた。
一の時ほども語り続けただろうか。
ラフロイグ伯爵にした話もいくつか混ざってはいるが、ディーノの語りは情景を思い浮かべられるほどに精細であるため、国王他お偉方も満足そうに聞き入っていた。
「素晴らしい。ドルドレイク伯よ。其方の息子の話は実におもしろい。観劇を是非とも我が国ですすめていこうではないか」
違うんですけど。
観劇だけじゃなく娯楽を広めて欲しいんですけど。
セヴェリン伯爵も上機嫌に頷いてるけどそうじゃないんですよ。
「必要とあらば音楽や舞踏の講師もつけよう」
それなら……まあいいか。
褒美がもらえるはずなのに追い込まれる立場になるとは思わなかったが、娯楽が広まると考えれば安いもの。
クレートが言っていた観劇は是非とも見てみたい。
「まずは劇団を立ち上げませんとな。国王様、人員の手配をお任せいただいても?」
さっきからずーっと何やら書き続けていた文官の男が劇団を用意してくれるようだ。
「うむ。其方の人脈を使ってエイシス劇団を立ち上げてくれ」
ん?
エイシス劇団?
何故自分の姓が?
「ディーノよ。其方の劇団だ。期待しておるぞ」
「オレの!?あ、いや、私の劇団ですか!?」
「うむ。其方への褒美としてエイシス劇団を立ち上げ、こちらからは人員と必要経費を支払おう。実に楽しみよのぉ」
なんで!?
娯楽を広めて欲しいって話が何故か娯楽を広めたいに変わってる!
褒美どころか新たな仕事が舞い込んできたんですけど!?
「あの、私はですね……」
「ディーノよ。私もできる限り協力しよう。彼らも是非協力させてくれとのことでね、共に良いものを作っていこうではないか」
セヴェリン伯爵の友人達まで手伝ってくれるとは言うが、そうじゃない。
なんで劇団を立ち上げることになってしまったのか。
断るなら今だが、言い出したのが自分である以上は責任もあると言えばある。
なんか周りの期待がどんどん膨らんでるし断りにくくなってきた。
「我が国の民に尽くすその精神、素晴らしい。今でさえ幸せであると感じておる民の生活に、潤いまでも与えようという其方の気持ちに我は感動した。竜害に際し英雄として名を馳せようとする中、民に娯楽を与えたいなどとは……なかなかに言えるものではない。聖人の如き振る舞いよ」
やめてくれませんかね。
もう逃げられないようにわざと言ってるよね?
それに若干の嫌味にも聞こえるのは気のせいだろうか。
はい、そこ!
「素晴らしい!」とか拍手要らないから!
「ディーノの劇団楽しみにしてるね!」
「私もできるだけ協力するし、ディーノなら絶対に成功させられるわ。頑張りましょう!」
何故フィオレとアリスまでもが乗り気なのか。
冒険者業が二の次になってしまってもいいのだろうか。
近々色相竜に挑む予定の二人が協力だの楽しみだの言っている場合ではないというのに。
「我も其方であれば成功させると信じておる。期待しておるぞ」
もうこれは褒美じゃなくて王命だし。
嵌められた気分だが逃げられない。
「仰せのままに……」
ただ頷くしかないだろう。
会場ではまだ国王の周りに国お偉方が集まっており、先ほどの戦いを振り返ってはあーだこーだと語り合っていた。
そんなところに視線を向けていたのが悪かった。
「おーい!ディーノよ!こちらに来なさい!アリスとフィオレもおいで!」
面倒なことにセヴェリン伯爵からお呼びが掛かってしまった。
伯爵自体は問題ないが、他のお偉方との挨拶がとてもとても面倒なのだ。
「何かご用でしょうか義父様。まずは皆様にご挨拶をさせていただいても?」
うんうんと嬉しそうに頷くので、ディーノはドルドレイク家の養子になったことも含めて挨拶を済ませる。
これにはやはり貴族と思われる方々には驚かれ、以前依頼を受けた領地の者からは感謝やドルドレイク伯爵が羨ましいなどといった世辞の言葉をいただいた。
また、そのうち数人からはうちの娘が年頃で~などとお見合い話でもないが、紹介したいといった内容の話を振られたりもしたが。
アリスが怖いので笑って誤魔化すしかないディーノである。
「疲れているところ悪いのだが皆に紹介しておきたくてね。ここにいるのは私の良き友人達だよ。復興にもいろいろと協力してもらっていてね、息子を紹介せぬわけにはいかないだろう?」
お披露目の場としてはどうなのだろう。
実際戦ってるところを見せて、自分の息子はこれだけ戦えるのだと力を誇示することができるとすれば、貴族間でもセヴェリンの立場は高くなる。
あとは実力のある冒険者と繋がりを持つと国での発言力も上がるという話だったか。
そうなればディーノと繋がりを持つというだけでも彼らにはメリットがあり、復興に協力してもらっているお礼代わりといったところだろう。
ディーノとしては自分に害がなければセヴェリンに利用されても問題はないが、国での発言力……あっ、王族と同等の扱いとなればいろいろと事情も変わってくるのか。
あとは難易度の高い依頼なども指名しやすくなるとか、そういったこともありそうだが裏の事情はよくわからない。
「それはそれは。復興の支援をしていただいているとはつゆ知らず、大変失礼いたしました。今後ともお付き合いのほど、よろしくお願いいたします」
ディーノとしてはだいたいこんな感じでいいだろうくらいのつもりで言ってみた。
セヴェリンは少し驚きの表情で目を潤ませている、何故に?
ディーノが下手に出て言ってみたのが講じたのか、こちらこそよろしくとの言葉を多くいただいた。
どうやら言葉選びは正解だったらしい。
和やかな雰囲気でお偉方との挨拶会をしていると、国王からもお言葉をもらった。
「ディーノよ。聖銀を打ち負かすとは見事。ザックやエンベルトの名は国内に轟いてはおるが、パウルもランドも我が国の誇る最上位の戦士。それを打ち負かしたのであれば見事と言う他あるまい。褒美をやろうと思うが何か欲しいものはあるか?」
お褒めの言葉をもらえるだけでなく褒美もくれるというのか。
ただパウルと一戦交えるだけの予定がここまでの成果を上げることになるとは。
大事になったとはいえ結果として褒美までもらえるのなら、ある意味でマリオには感謝である。
しかし褒美と言われても何を求めればいいのか悩むところ。
ここでセヴェリンのためにもジャダルラック領の復興支援金を~というのも何か違う気がするし、自分が国に求めるものということでもいいだろうか。
「ありがとうございます。褒美を、と申されるのであれば市井にも娯楽を広めていただけないかと」
「ふむ。其方自身ではなく市井の者に娯楽をな。そのような褒美を求めるのは何故だ?」
「国王様や特権階級の皆様方であれば音楽や舞踏、盤遊戯他、様々な娯楽があるかと思いますが、市井の娯楽と言えるものは賭博や酒場くらいしか思い当たりません。しかしラフロイグでのテイムされた巨獣に対する民の反応はどうでしょうか。以前よりも多くの人々が集まり、巨獣を見物に来る者が後を立たないと聞いております」
これにはラフロイグ伯爵も喜んで広場を貸してくれているため、領地への集客に一役どころか多大な影響を与えているのではないだろうか。
街の人達も訪れるたびと歓迎してくれるあたりは、相当な利益に繋がっているとも考えられる。
「それに今日のこのイベントは……私としては不服ではありましたが、他領からも多くの観客が集まり、我々の戦いを日々の生活を忘れて楽しんでいたのではないでしょうか。舞踏や観劇を楽しむ、音楽を楽しむ。娯楽というのは日々の生活に潤いを与え、人々を豊かにしてくれるものだと感じているからです」
そうディーノが語るのは実のところクレートからの受け売りである。
精霊国への旅は様々な出会いを含め、王族や貴族階級の宴に加えて、ブラーガ家との繋がりがディーノの人生に大きな影響を与えている。
宴の席でも余裕ができたディーノは音楽や舞踏を観覧しながら料理や酒を楽しみ、市井にはない特権階級の生活を目の当たりにした。
音楽は心に安らぎと幸福感を与え、舞踏の流れるような美しい動きに心満たされるような思いを感じさせられた。
その善し悪しがわからないディーノでさえ感動を覚え、普段から贅沢な生活を送っているであろう特権階級をも満足させられるとなれば、娯楽とは人生においてどれだけの力を持つのかわからない。
普段の酒の席で冒険譚を語り合うのも楽しくもあるが、必死で生きる日々を語り合っているに過ぎず潤いのある生活とは言い難い。
ディーノの友人達との食事や酒の席でも、交わされるのは日々の生活を語り、互いに労い応援し合うといったものばかり。
特権階級と一般市民との格差と言われればそれまでかもしれないが、生活以外でも幸せを感じるひと時があってもいいのではないだろうか。
そんなことを感じ始めたディーノに衝撃を与えたのはクレートである。
あれほどの強者であるにも関わらず、風呂にこだわり食事には料理の段階から楽しみ、そして一度だけではあるがクレートの耳飾りから聞かせてもらった異世界の音楽。
魔の王の側近という立場から高性能な魔具を賜ったのかと思いきや、クレートが崇拝する魔の王は誰しもが幸せを感じる世界を目指して日々奔走しているとのこと。
自国に留まらず全ての国を巻き込んで仕事を生み出し、娯楽を広め、人々の生活を豊かにしようとありとあらゆる努力を惜しまない。
多忙を極める日々の中、笑顔を絶やさない魔の王は全ての国の人々に愛されているのだと、クレートは恋人に想いを寄せるかの如く語っていた。
ディーノとしても聞いた内容が本当であれば崇拝するのも頷けるが。
全ての国に娯楽を広めている魔の王がいるのだ、話のわかる聖王国国王も広めてくれてくれるのではないか、との期待からディーノが褒美として求めてみたわけだが。
「では娯楽がなければ民は幸せではない、と、其方は思っておるのだな?」
あまりいい反応ではなさそうだ。
「いいえ、今でも幸せを感じている者の方が多くいるでしょう。ですが今の幸せに楽しみが一つ増えるとすれば如何でしょうか。仕事への意欲にも繋がりますし、何よりも目標ができます。その娯楽を見るために、聴くためにお金を貯めて散財する。お金を貯めるためには仕事を増やす必要があり、労働力が増えれば仕事が回りお金も回る。経済にも影響が及ぶかと考えます」
反応が良くないなら金が回るとなればどうだろうか。
国益にも繋がるなら国王とて断りにくいはず。
そんなわけで適当な方便を垂れてみた。
国王付きの男が何やら書き殴り始めたが。
「ふむ。他には?」
まだ何か語れと……
「音楽や舞踏は演奏する者も踊る者も特権階級の方々が教養として嗜まれているものが多いと存じます。楽器の演奏も舞踏も学ぶ機会がなくては一般市民にできるものではありません。しかし市井であれば他に新たな試みをしてみてはいかがでしょう。例えば役者に物語を演技をさせる劇団を立ち上げて、観劇などを楽しむのも良いかもしれません。雇用も増えますし経済効果も期待できるのではないかと考えます」
ディーノ自身よく頑張ったと褒めてやりたい。
クレートからいろいろと異世界話を聞いていなければここまで思いつかなかった。
魔の王はエイガやドラマなどという物語を観ることができる娯楽を広めていると聞いている。
他にも役者が演じる演劇というものもあるということならこれを推すしかない。
異世界のパクリだが仕方ない。
「ほう、役者が演じるとな?興味深い。続けよ」
まだ語らせる気か……
「そう、ですね。例えば物語の演目を聖王国の歴史、英雄物語などやりやすいのではないでしょうか。子供も知る内容ですのでこれを演じれば多くの者が興味を持ちます。他国にも聖王国の歴史を……」
必死で身振り手振りしながら多くを語ってみたディーノ。
物語なら本を出している者が考えればいくらでも出てきそうなものではあるが、ディーノは図鑑が好きなのであって本が好きなわけではない。
だが冒険者としての冒険譚なら語れるため、例え話として過去のオリオンでの話を交えながら物語をそれっぽく語ってみた。
一の時ほども語り続けただろうか。
ラフロイグ伯爵にした話もいくつか混ざってはいるが、ディーノの語りは情景を思い浮かべられるほどに精細であるため、国王他お偉方も満足そうに聞き入っていた。
「素晴らしい。ドルドレイク伯よ。其方の息子の話は実におもしろい。観劇を是非とも我が国ですすめていこうではないか」
違うんですけど。
観劇だけじゃなく娯楽を広めて欲しいんですけど。
セヴェリン伯爵も上機嫌に頷いてるけどそうじゃないんですよ。
「必要とあらば音楽や舞踏の講師もつけよう」
それなら……まあいいか。
褒美がもらえるはずなのに追い込まれる立場になるとは思わなかったが、娯楽が広まると考えれば安いもの。
クレートが言っていた観劇は是非とも見てみたい。
「まずは劇団を立ち上げませんとな。国王様、人員の手配をお任せいただいても?」
さっきからずーっと何やら書き続けていた文官の男が劇団を用意してくれるようだ。
「うむ。其方の人脈を使ってエイシス劇団を立ち上げてくれ」
ん?
エイシス劇団?
何故自分の姓が?
「ディーノよ。其方の劇団だ。期待しておるぞ」
「オレの!?あ、いや、私の劇団ですか!?」
「うむ。其方への褒美としてエイシス劇団を立ち上げ、こちらからは人員と必要経費を支払おう。実に楽しみよのぉ」
なんで!?
娯楽を広めて欲しいって話が何故か娯楽を広めたいに変わってる!
褒美どころか新たな仕事が舞い込んできたんですけど!?
「あの、私はですね……」
「ディーノよ。私もできる限り協力しよう。彼らも是非協力させてくれとのことでね、共に良いものを作っていこうではないか」
セヴェリン伯爵の友人達まで手伝ってくれるとは言うが、そうじゃない。
なんで劇団を立ち上げることになってしまったのか。
断るなら今だが、言い出したのが自分である以上は責任もあると言えばある。
なんか周りの期待がどんどん膨らんでるし断りにくくなってきた。
「我が国の民に尽くすその精神、素晴らしい。今でさえ幸せであると感じておる民の生活に、潤いまでも与えようという其方の気持ちに我は感動した。竜害に際し英雄として名を馳せようとする中、民に娯楽を与えたいなどとは……なかなかに言えるものではない。聖人の如き振る舞いよ」
やめてくれませんかね。
もう逃げられないようにわざと言ってるよね?
それに若干の嫌味にも聞こえるのは気のせいだろうか。
はい、そこ!
「素晴らしい!」とか拍手要らないから!
「ディーノの劇団楽しみにしてるね!」
「私もできるだけ協力するし、ディーノなら絶対に成功させられるわ。頑張りましょう!」
何故フィオレとアリスまでもが乗り気なのか。
冒険者業が二の次になってしまってもいいのだろうか。
近々色相竜に挑む予定の二人が協力だの楽しみだの言っている場合ではないというのに。
「我も其方であれば成功させると信じておる。期待しておるぞ」
もうこれは褒美じゃなくて王命だし。
嵌められた気分だが逃げられない。
「仰せのままに……」
ただ頷くしかないだろう。
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ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
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