追放シーフの成り上がり

白銀六花

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238 最速戦決着

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 第三試合、ディーノとパウルの戦闘。

 息も続かないような多角戦闘を繰り広げ、二人の意識が外に向き始めると、先に仕掛けたディーノが爆破をもってパウルを払い退ける。
 やはり魔鋼製武器によって小規模な爆破にまで打ち消されてしまったが、パウルの導線を乱すことには成功。
 ディーノは防壁を蹴って空へと駆け上がる。
 しかしここまでに何度も爆破を試みたが全て魔力へと還元され、大気へと散ってしまうことから接触する直前に爆破することで発動させている。
 弾かれたパウルはディーノの姿を見失っており、ふと影が覆った瞬間に頭上から唐竹にユニオンが振り下ろされ、咄嗟に振り向くと同時に剣を掲げてそれを受ける。
 後方へと弾かれて地面を転がるも、追撃があるだろうと着地をした瞬間、パウルはエアレイドを発動。
 地面を大量に削り取りながら加速した。
 目の前まで迫っていたディーノはライトニングを振り被っていたところを双剣で防御に変更。
 パウルの斬り払いを受けて後方へと弾き飛ばされた。

 エアレイドの発動によって大きく前方へと駆け抜けたパウルは速度を殺さないよう防壁を蹴りながら大きく旋回。
 徐々に速度は落ちていくとしても超高速で駆けることが可能だ。
 地面に倒れ込む瞬間に背面に防壁を展開したディーノは一回転して態勢を立て直し、恐ろしい速度で旋回するパウルを見ると、威力で負けないよう身体能力を向上しつつ爆破を利用して右前方へと全力で駆け出した。
 爆破や雷撃を打ち込んだところで魔鋼によって魔力に還元され、成功したところで出せる威力は速度の乗ったパウルの一撃に耐えられるものではない。
 同じ魔鋼製武器とはいえパウルは攻撃に魔法を乗せないため、ディーノにはその効果が得られない。
 少し考えればわかることだったのだが、初の魔鋼製武器同士での戦いとなれば失念していたのも仕方がないことか。

 魔法攻撃という優位を失ったディーノはパウルと同じように補助として使用するしかないが、爆破加速と身体能力向上でエアレイドに対抗するのみ。
 ギフトに身体能力向上を乗せればステータスではパウルを大きく上回る。
 技術よりステータスがものを言う広範囲戦になればディーノの優位に違いはない。
 ディーノはギフトで1.5倍、身体能力向上でおよそ1.2倍のステータス強化ができるため、俊敏値が5500程度まで引き上げることができる。
 爆破で加速できるとはいえ停止状態からでは全速力までの到達が早くなるだけ。
 最高速から爆破したとすれば7000を超えるだろうか。
 対するパウルは素の俊敏値で3861となればこの速度差はそう簡単に埋まらない。
 ただエアレイドの強化量が2倍以上となれば最低でも7700を超えてくるということか。
 とはいえエアレイドは多用できないため爆破加速でいくらでも対応できそうだ。

 ディーノが最高速度に達したところでパウルへと方向を変え、パウルも防壁を踏み込みながらディーノへと向かう。
 上空を超高速で接近する二人が逆手に持った剣を激しく打ち付け合う。
 速度の乗った一撃、それも同等の速度を持った二人の剣戟は並の剣では砕けてしまいそうなほどの衝撃となり、互いに錐揉み状態になって弾き飛ばされた。

 防壁を何度か展開しながら減速して態勢を立て直し、肩から首にかけての痛みに正面からぶつかり合っては体が保たないと判断。
 試合であるため回復薬を使用することはできず、右腕の感覚もないことからライトニングを腰に提げ、左腕に持ち替えたユニオンで戦うしかない。
 おそらくはパウルも同じ状態だろう、左手に持ち替えて向かってくるはずだ。
 速度が落ちたため重力による加速を利用して駆け出すディーノ。
 パウルも態勢を立て直して上空を駆ける。

 パウルへと向かって駆け上がっていくディーノの速度は最大とはならないものの、ステータスで勝る分パウルよりも速い。
 先程と同じように斬撃をぶつけ合い、力負けして弾かれるパウル。
 スキルの再発動まではまだ少し時間が掛かり、このステータス差を抱えたままディーノの攻撃に耐えるとすれば至難の業。
 弾き飛ばされるたびに速度は落ちてディーノとの速度差は埋まらない。
 パウルの魔力値では爆破としては風魔法を発動することはできず、これを覆すにはやはりエアレイドの再使用時間を待つしかない。
 剣で受けるも腕ごと押し除けられては体に打撃を受けていく。
 威力こそある程度は抑えているとしても、ひたすら打ち据えられてはパウルとて体は保たない。
 対するディーノはエアレイドを使用される前にダメージを与えなくては一瞬で戦況をひっくり返される可能性もある。

 空を縦横無尽に駆け回りながらパウルに斬撃を振るい続けるディーノ。
 何度も弾かれて加速することすらできないパウル。
 しかしディーノがパウルを打ち崩す前に待機時間を終え、正面から向かって来るディーノへとエアレイドを発動する。
 エアレイドは爆破加速とは違い、ゼロ加速からでも最大速度に達することが可能であり、一瞬でその距離を縮めると逆手に持った剣で左薙ぎに振り抜いた。
 しかしこれをディーノはまともに打ち合えば左腕も使えなくなると、振り被ったところで下方に向かって爆破加速で回避。

 空振りとなったパウルではあるが速度を殺さないよう空を駆け、下方から再び駆け上がってくるディーノへと向かっていく。
 このままぶつかり合えばパウルの方が速く、腕が壊れようとディーノを弾き飛ばすことはできる。
 この状況にディーノに残された手段は一つ。
 腰に提げたライトニングによって魔力は引き出されるのが早い。
 爆破をできるだけの魔力はあるが、爆破加速で速度差を埋めようにもわずかに足りない。
 だがしかし使用していない力がまだある。
 それはミィという風精霊の力。
 目の前に迫った両者が左剣を振り被り、ディーノは精霊へと渡した魔力で爆破を発動。
 リベンジブラスト並みの威力となった爆破加速はパウルの速度を上回り、ぶつかり合った瞬間にパウルの体が弾き飛ばされた。

 上空から弾き飛ばされつつも意識を保ったまま、いくつもの防壁を踏み砕いて地面へと着地したパウル。
 腕をだらりとぶら下げ、体をふらつかせて満身創痍な状態だ。
 力が入らないのか剣が手からこぼれ落ちた。
 そこへ速度を落としながら地面へと着地したディーノ。

「ははっ。まさかここまでやるとはな。俺の負けだ」

「こっちもギリギリだった。戦えてよかったよパウル」

 パウルの言葉にヴァレリオが判定を下して試合は終了。
 異次元の戦いに会場は大歓声で幕を閉じる。



 パウルとディーノは上級回復薬を飲んで場外に降りると、地面に座り込んで少し話をする。

「いや~参ったね。魔鋼武器なら魔法を完封できると思ったのに」

「まあ直接魔法だけならな。でもこいついなかったら負けてたのはオレの方だけど」

 言ってミィを指差す。
 緑色をした小さな人型精霊が羽をパタパタとしながらユニオンから飛び上がる。

「やっぱ精霊魔法って強いのか?精霊国では魔法の上位って言ってるらしいけど」

「オレの場合は出力二倍くらいにはなるかな。わかんないけど、大体」

 リベンジブラスト並みと思える威力とすればおよそ二倍と言ってもいいだろう。
 同じ魔力量で出力が上昇するのだからディーノとしては不思議な現象でもある。
 クレートの話では魔法はイメージ力が重要と言っていたが、いまいちよくわかっていないディーノである。

「二倍ってお前……考え方によってはスキルと一緒だろ。その~召喚勇者って奴も精霊魔法使うって話だったか」

「精霊魔法とあとなんだっけ、あっ精霊魔導!最後には変身してたけどあれは本当に勝てないな。一撃で死んだと思ったし」

 出力が低下していると言っていたクレートの一撃で死にかけたのだ。
 赤竜の魔核を渡してしまった今、本来の力で戦うこともできるとすれば恐ろしいまでの出力になっているはずだ。

「まだ他にもあんのかよ。とんでもねーな召喚勇者は。上には上がいるもんだな~」

「でもクレートは異世界人だし別物って考えた方がいいぞ。魔法世界の住人とオレらスキル世界の住人を一緒にしたらダメだろ。まあライナーもそうなんだけど」

 ふと思い返せばライナーのスキルを見たことがない。
 あまり使えるスキルではないのか、それとも常時発動系かはわからないが、魔法であれだけ戦えるなら使えないスキルでも問題ないような気もする。

「ライナー?誰だそれ」

「今うちで預かってる精霊国の召喚者。紹介してないっけか」

 ラフロイグに来て戦うことが決まってからは極力会わないようにしていたのだ。
 賭けもあるし聖銀とオリオンで仲良くしてたら八百長を疑われるとかなんとかヴァレリオから言われている。

「知らねーし。異世界人なんておもしろい奴もっと早く紹介してくれよ」

「今日は串焼き屋やってるんじゃないか?すごい行列できてるって話だけど」

「あれかよ!オレも食ったし美味かった!」

 いや、違うか。
 レシピを売り込んだとかなんとか言っていたような気もするが。
 とりあえずこの後紹介すればいいだろう。

 パウルとディーノで世間話をしているうちにクラリスが挨拶を済ませて解散となった。
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