追放シーフの成り上がり

白銀六花

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235 意気込み

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 第一試合のザックとマリオの戦いに会場の盛り上がりが冷めやらぬ中、魔鉄槍バーンを手に悔しそうに握り締めるアリスがいた。
 マリオとはこれまで共に多くの依頼をこなし、訓練に剣と槍とを重ね合わせて切磋琢磨してきたアリスだ。
 その悔しさはザックにマリオが負けたことにあるのか、はたまたマリオがここにきて更にアリスを上回る実力を見せてきたからなのかは本人にもわからない。
 今はただこの悔しさを力に変えて第二試合に臨むだけ。

「フィオレ。聖銀に勝つわよ」

「もちろん、僕は勝つつもりでいるけど」

 自信なさげに項垂れていたマリオとは違い、聖銀のエンベルトとランドを相手に最初から負けるつもりで挑む二人ではない。
 如何にステータスが自分達を上回ろうとも、モンスター戦にこそ最大の実力を発揮できる聖銀のメンバーだ。
 この試合はステータスだけが全てではなく、対人戦の経験がその差を縮めてくれる。
 ルール上でも殺しは禁止であり、最大出力の魔法は発動することができない。
 アリスの炎槍や爆槍も出力を落とす必要があるが、条件としてはどちらも同じ。
 戦闘経験とパーティーの結束力にこそ勝機がある。
 ウィザードランサーのアリスとアーチャーのフィオレ。
 対するはランサーアーチャーのランドとウィザードのエンベルト。
 前衛は当然の如くアリスとして、聖銀では前衛にランドを置くか、それとも素手のエンベルトか。
 戦い方の想像がつかないのがエンベルトであり、ディーノからは前衛のウィザードとも聞いているのだが、槍同士でランドが前衛になる可能性が高いか。
 どちらが前衛であろうとフィオレは後衛の妨害とアリスのサポートに徹するのみだ。



 ザックとマリオが場外へと降りて行き、代わりにクラリスが闘技場へとあがって拡声魔具を口元に寄せる。

『第一試合は素晴らしい接戦でした。勝利したザック選手は最強の名に恥じぬ見事な剣捌き。惜しくも敗北してしまったマリオ選手の鬼気迫る剣技には私も胸を熱くさせられました』

 会場内に再び拍手が響き渡り、さすがは最強、よくやったマリオと第一試合への称賛の声が巻き起こる。

『続く第二試合も期待しましょう。選手入場してください!』

 一礼して闘技場へと足を踏み入れるアリスとフィオレ、そして反対側からはランドとエンベルト。

『さあ、それでは第二試合の選手を紹介していきましょう!まずは聖王国最強のウィザードとして君臨し続けるエンベルト=ライアー!噂でこそ雷魔法の使い手と聞こえてくるものの、誰も見たことのないその戦いが今明らかに!』

 最強のウィザードとして君臨し続けるエンベルトは魔法スキル持ちの多い貴族からの人気が高く、読書好きが講じて本も出版していることから多くの愛読者もいる。
 その人気もこの歓声を聞けばよくわかるというものだ。

『もう一人、ランサーとしてもアーチャーとしても高水準の評価を持ち、前衛後衛どちらもこなす聖銀を陰から支える静かな実力者!ランド=フォーゲル!』

 聖銀の中ではどうしても地味な印象を受けるランドだ。
 森や自然を愛する変わり者ではあるが、実力に見合わぬ穏やかな性格を持つためか年齢問わず女性人気が高い。
 甲高い歓声が響き渡る。

『対するはブレイブと活動を共にする黒夜叉の紅一点、ウィザードの常識を覆し、前衛職への可能性を切り拓いた立役者!その美しい容姿にそぐわぬ超高火力のウィザードランサー、アリス=フレイリア!』

 多くの男性達からの歓声があがるが、女性達の反応は薄い。
 実力もあって見た目がいいとなれば人気も出そうなものだが、本人は極度の男性不信を公言しておきながら、巷で話題のディーノ=エイシスの恋人という意味のわからない立場にあることから、女性からは極端に評判が悪かったりする。

『続いては黒夜叉のアーチャーとして活躍し、どんな苦境をも乗り越えてきた若き天才!その可愛らしさで疲れた心を癒してくれる私の天使!フィオレ=ロマーノ!』

 選手の紹介にしては随分と私情が含まれているのではないだろうか。
 わりとなんでも言いたいことを好き放題言っているクラリスにストレスがあるとは思えないのだが。
 遠くから「私のだ!」と叫ぶのはレナータだろうか。

 そして四人のステータスとオッズも公開されている。

 エンベルト=ライアー
 魔力:4273

 ランド=フォーゲル
 攻撃:2837
 器用:2934

 オッズ:1.3倍

 アリス=フレイリア
 攻撃:2334
 魔力:2993

 フィオレ=ロマーノ
 器用:2952

 オッズ:3.0倍

 やはり聖銀の人気は高く、まだ実績として表に出てこないアリスとフィオレでは、勝利することも難しいと考えられているのだろう。
 実際に色相竜ともソロで戦えるような二人を相手に、まだ色相竜に挑むことすら躊躇う二人では無謀な挑戦であるとも言える。
 しかしこの試合は竜種戦ではなく対人戦であることから、普段とは全く条件は違う。
 会場にいる誰もがステータスにばかり目を向ける中、アリスもフィオレも全く気にすることなくただ純粋に戦いに臨むだけである。

『それでは意気込みをお聞かせください』

 まずはエンベルトが拡声魔具を受け取って一言。

『聖王国の歴史を読み解く第二巻、近日発売予定』

 これに会場内が大きく湧いた。
 特に貴族席からの拍手喝采が凄まじい。
 国王やセヴェリンまでもが立ち上がって拍手している。
 とても人気の本のようだが戦いへの意気込みは全く含まれていない。

 続いてはランドが受け取って一言。

『聖王国の端から端までグルメ旅、再販確定』

 これにも一部の席が大いに湧いた。
 なに?なんなんだ?
 聖銀はみんな本を出版してるのか?
 再販ということはすでに出版済みで売り切れ状態ということか?
 それより戦いへの意気込みはどこいった?

『ありがとうございます。会場内も凄まじい盛り上がりを見せています。では黒夜叉からもどうぞ!』

 クラリスも適当だな~とも思わなくもない。
 意気込みは一切ないのに完全にスルーだ。
 アリスへと拡声魔具を渡す。

『ステータスが全てじゃないってことを教えてあげるわ』

 アリスは挑戦者として臨む以上、試合のルールを最大限利用してでも勝利を掴むつもりだ。
 最大出力でスキルを発動できない状況であれば、格上相手でも戦いようはいくらでもある。

 最後にフィオレから。

『僕には目標があるんだ。でもごめんね。それは君達より先にあるから、そこを退いてもらうよ』

 さすがはフィオレである。
 最強パーティーである聖銀を前にして痺れるほど挑発的なセリフを吐く。
 これにエンベルトとランドも「いいね」と不敵な表情を浮かべる。
 やはり挑戦者はこうでなくては。

『フィオレ選手最高です!キュンときました!アリス選手も頑張ってください!それでは第二試合を開始しましょう!』

 自由だなこいつとヴァレリオが思う中、クラリスは闘技場から去っていく。

「じゃあ双方、出力だけは気を付けてくれ。第二試合、はじめ!」

 黒夜叉は当然の如く前衛にアリス、後衛にフィオレが控え、無策に駆け出すことなく聖銀を見据える。
 対する聖銀はエンベルトが前衛、そしてランドまでもがランサーとして前衛で戦いに臨む。
 黒夜叉にとっては想定外、しかし聖銀は四人全てがソロで活動できる実力者揃い。
 パーティー戦でありながら連携をとるつもりもないのかもしれない。
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