追放シーフの成り上がり

白銀六花

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234 ザックvsマリオ

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 いよいよ聖銀vsオリオンの戦いの時間がやってきた。
 銀色の天幕を張った控え所には聖銀、黒い天幕側には黒夜叉とマリオが待機。

 闘技場に上がったクラリスは拡声魔具を使用して開催を宣言する。

『ラフロイグ領へお越しの皆様、ようこそお出でくださいました。只今より聖銀vsオリオンの実戦形式試合を開催します!』

 大歓声が巻き起こる。
 本当に大事になったなと思わなくもない。
 クラリスが司会進行すると挨拶し、まずはルール説明を~とのことだが、殺したり汚い手を使うなということくらいか。
 審判はヴァレリオがやるそうだ。

『それでは、第一試合の選手入場!』

 誰から選ばれたわけではないが選手という扱いらしい。
 だが入場と声がかかれば出ていくしかない。
 一礼してマリオとザックが闘技場に上がる。

『では選手を紹介しましょう!まずは聖王国が誇る四聖戦士、過去最高の攻撃値を有しながらも今もまだ更新し続ける最強ファイター!聖銀、ザック=ノアール!』

 聖王国で最も有名な冒険者であるザックの人気は凄まじい。
 割れんばかりの歓声が上がり、多くの席からザックコールが聞こえてくる。

『対するはここ最近で最も勢いのあるブレイブのリーダー!世にも珍しい連撃型のストリームスラッシュの使い手!マリオ=グレッチャー!』

 聖王国内ではまだまだ有名とは言えないブレイブだが、ラフロイグギルドの冒険者からは人気があり、観客席の一角が異常な盛り上がりを見せている。

『試合を前に両者の意気込みを聞いてみましょう!ザック選手、一言どうぞ!』

 拡声魔具を受け取ったザック。

『最強がどんなもんか教えてやるよ』

 自信満々にそう告げたザック。
 実際に最強であるが故にマリオがその実力を引き出せるかどうかが見どころになりそうだ。

『余裕のある強者の一言!これに対するマリオ選手は!』

 マリオも拡声魔具を受け取って一言。

『じゃあお手柔らかに頼むっす』

 最初から自信なさげである。
 それもそのはず、実力で劣るのは当然としても戦闘前の身体測定ならぬステータス測定では、お互いのジョブに関するステータスを知ることができるのだ。
 ザックやマリオの場合はファイターであるため攻撃値、ウィザードランサー等重複ジョブのアリスなどは魔力値と攻撃値など、ジョブの評価に関わるステータスが公開されている。
 表立っては明言しないものの、ステータス値から賭ける対象を選べるようギルド側が考えたオッズの操作だ。

 ザック=ノアール
 攻撃:5534
 オッズ:1.0倍

 マリオ=グレッチャー
 攻撃:2785
 オッズ:5.7倍

 残念ながらステータスが二倍近くも差があるとなればまともな賭けは成立しない。
 この数値から見るにザックvsマリオ戦では主催者側の利益はほぼ無いものとして考えているのだろう。
 それでもマリオに賭けた者がゼロということはなさそうだが、ギャンブラーかマリオと関わりのある者が賭けたものと考えられる。
 応援してくれているラフロイグギルドの冒険者も何人かはマリオに賭けてくれたのではないだろうか。

『マリオ選手、私もラフロイグギルド職員として応援しています!気合い入れていきましょう!では、試合開始となります!』

 クラリスが闘技場から降りて審判であるヴァレリオが二人の間に立つ。

「ザック。マリオをあんま見縊るんじゃねーぞ?こいつはなかなかにおもしれー奴だからよ」

「知ってるよ。どんだけ成長したのか期待してるぜ」

 一時期マリオの稽古をつけてやったザックなのだ。
 あれからステータスを徐々に伸ばしてきてはいるがそう簡単に埋まる数値差ではない。
 それでもこの短期間に多くのモンスターを討伐し続け、最初あれだけ苦戦していた下位竜どころか上位竜までも倒せるまでに成長しているのだ。
 成長率で言えばザックはほんのわずかなもの、マリオの場合は攻撃値だけでも三割以上も上昇させている。
 同じファイターであるにも関わらず戦い方の違いから他のステータスも大きく変化しているはずだ。
 ザックとて楽しみで仕方がない。

「今日もまた胸借りるつもりでいくっすね」

 自信なさげではあるものの緊張はしていないようだ。
 黄竜剣を右に構えて開始を待つ。

「どうせならオレを本気にさせてみろ」

 ザックも肩に担いだ魔鋼製巨剣を握り締めて開始の合図を待つ。

「それじゃあいい戦いを期待する。第一試合、はじめ!!」

 ヴァレリオの開始の合図と同時に駆け出したマリオ。
 ザックの想像よりも大きく素早さを伸ばしていたことに驚きつつ、浅く踏み込んだマリオからの右逆袈裟を体を傾けるようにして躱し、黄竜剣を潜り抜けたと同時に横一文字に巨剣を振るう。
 重く鋭い踏み込みがスラッシュでもない一撃を恐ろしいまでの威力に引き上げるが、マリオの斬撃はあくまでもフェイントであり、振り抜いた黄竜剣を引き戻しつつさらに一歩踏み込む。
 超至近距離まで接近したことによりその強力な一撃の付け根部分を受けることで威力を最小限に抑えつつ、それでも耐えられないだろうと深く沈み込んで頭上に受け流す。
 黄竜剣を滑らせた巨剣がガードへと当たる反動を利用して腕を引き絞り、振り抜いたばかりのザックへと逆風に斬り込んだ。
 至近距離からの斬撃であるため体重を乗せ切ることはできなくとも、ザックの態勢を崩せるだけでも好機を作り出せる。
 しかし歴戦の猛者であるザックはそれほど甘くはない。
 黄竜剣が斬り上げ始める直前に踏み込むことで前傾になったマリオと接触し、その体重差からマリオの体が宙を舞う。
 背中から倒れ込むも後方へと転がってザックとの距離を保ち、黄竜剣を構えて低い姿勢に立ち上がる。
 追い討ちを警戒したがザックは片眉をあげてマリオを見据えていた。

 再び開始と同じく距離をとっての仕切り直し。
 開始時は肩に担いでいた巨剣を右に構え、左足を前にしてマリオへと向き直るザック。

「来い」

 地を這うようにして駆け出したマリオは、ザックの正面よりやや左側へと向かっていく。
 対するザックはマリオの動きに目を向けたまま動かず、間合いを見計らってから一歩前へ。
 踏み込みと同時に右袈裟に振り下ろされる巨剣に合わせ、マリオは黄竜剣で身体能力を向上させて瞬間的に加速。
 ザックの想定よりも深く踏み込んでの右逆袈裟を振り上げる。
 タイミングをずらされたザックの袈裟斬りとマリオの逆袈裟斬りとがぶつかり合い、鈍い金属音を響かせながらその威力が拮抗する。
 目を見開くザックとこれで終わらせまいとさらに前に出るマリオ。
 押し除けるまでには至らないもののザックは前に出ることができず、一拍の睨み合いから互いに払い除け合うと斬撃の応酬が始まった。
 威力で勝るザックの斬撃に対し、マリオは真っ向から受けることはせずに斬り払いによって力を逃して対抗する。
 斬撃の速度ではマリオにやや分があり、竜種すら叩き斬れるほどの巨剣を持つザックは細かい斬撃を得意とせず、マリオは体格には見合わない大剣を振るいながらも腕の振りに剣を乗せることでコンパクトな至近距離での戦いを強いる。
 一見派手には見えない斬撃の応酬ではあるが、見るものが見ればこの圧倒的なステータス差を埋めるマリオの技術は絶技と呼んでいいほどに凄まじい。
 本来であれば斬撃一つ重ねただけでも弾き飛ばされるザックの剣戟だ。
 剣を重ねること自体が自殺行為であり、正面から相対するべき相手ではない。
 一瞬のミスが命取りになるであろう全ての斬撃を払い除け、受け流し、態勢を崩しては攻勢に回ろうと剣を振るう。

 今この戦いを見守る全ての観客がこの状況を想像していなかっただろう。
 聖王国最強の、いや、人類史上最強のファイターを相手に対等に戦うマリオは、以前の仲間の陰に隠れていたファイターではない。
 今代の英雄パーティーのリーダーとしての充分な資格を持つ。
 そしてこの場にいるブレイブの仲間達は、マリオの可能性を疑うことはない。
 今はまだ発展途上のマリオでは届かないかもしれなくとも、今後も成長し続け、ファイターとして完成したマリオであれば……
 ザック=ノアールをも討ち破り、最強へと至ることを信じている。

 ザックとマリオの剣戟を重ね合うこと二百を超え、息が続かなくなってきたところで更に踏み込んでいくマリオ。
 左袈裟を受け流し、返す刃が逆袈裟として振り上げられたところを斬り払う。
 ザックの巨剣が頭上へと持ち上がり、マリオの黄竜剣も右上方へと振り上げられたところからストリームスラッシュを発動。
 右袈裟からの一撃目をザックはバックステップを挟んで対処する。
 一撃目を回避すると二撃目の左薙ぎを振り下ろしで受け、三撃目の回転斬りを逆袈裟からの斬り払いで流し……最大連撃数である十五撃目が唐竹に振り下ろされた。
 スラッシュ後の硬直したマリオと、唐竹斬りを頭上に掲げた巨剣で受け止めたザック。

「最後は焦っちまったみてーだな。だがいい戦いだった。またやろうぜマリオ=グレッチャー」

 黄竜剣を払い除け、体を浮かせたマリオの胴へと巨剣を叩き付けた。
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