192 / 257
192 水揚げ
しおりを挟む
洞窟からダラリとぶら下がっていた竜種が力無く縦穴の水面へと落ち、全容が明らかになると、その全長は歩数にしておよそ二百歩以上はあるだろうか。
その異常なまでの巨大さに誰もが色相竜としての存在に身を竦ませる。
しかしフィオレの健闘もあり成りかけ戦程の恐怖は感じておらず、倒す事の難しさに体が動かずにいるようだ。
何しろ洞窟から落ちて動かないとはいえ、今は水竜の領域である水の中である事から迂闊に飛び込むわけにはいかない。
こちらの攻撃は水に阻まれるうえに、動き出しでもすればまともに抵抗する事もできずに噛み殺される事になるだろう。
戦うとすれば水竜が動き出して岸に上がって来た時に限定されたものとなる。
「ねえ、明るいところなら呪闇も役に立つと思う?」
「目が退化してねーなら意味あるんじゃね?」
「そうね、捕捉する能力があっても一瞬なら効果はあるんじゃないかしら」
感知する能力があったとしても視界から得られる情報の方が多い為、視界を塞がれれば一瞬でも怯む事になるのは当然だ。
長時間視界を覆ったところで感知されてしまえば意味はなくなる為、ほんの一瞬か数える程度の時間しか効果はないと思えるが、戦闘ではその一瞬の隙を生むだけでも充分効果はあるだろう。
「とりあえずジェラルドに前抑えてもらってフィオレとレナは水竜の妨害、アリスは今回ソーニャと一緒に遊撃に回ってくれ。俺は奴を倒せるよういろいろ試してみる」
「マリオならやれるよ。頑張って」
「おうよ。任せろ」
日々成長していくフィオレやパーティーの要であるジェラルドには負けていられないと、マリオは自身のスラッシュのイメージを作り込んでいく。
ここしばらくの成長を見ても火力であるマリオとアリスが停滞している事から、パーティーの戦闘力としては伸び悩みを感じているところ。
いくら下位竜を圧倒できたところで世界規模の竜害ではその戦闘がいつまでも続くと考えれば、討伐速度がパーティーの体力を温存する事になり他の冒険者達の負担も減らす事になる。
やはり重要なのは圧倒的な攻撃力であり、ディーノのように一撃で上位竜を殺せるだけの火力がほしい。
マリオとしてはストリーム型である為連撃となってしまう事にはなるとしても、一度のスラッシュで討伐するだけの剣技がほしいところだ。
今日のこの水竜は戦闘慣れしていない個体とはいえ色相竜であり、戦いにくさや魔法出力、硬度も全てがマリオに必要な経験を与えてくれる。
初の本物の色相竜戦という危機に自身の絶対的な成長が必要であり、諦めずに挑み続ける事で大連撃を生み出し、この危機的状況に逆転の一手を掴み取る。
ピンチをチャンスに変えて考え続ける事が大事なのだ。
水竜が動き出すのに備え、斬撃のイメージに集中しながらその時を待つ。
降り続ける雨の中で意識を取り戻した水竜は、自身のダメージを把握しつつも水属性魔法によって止血、回復の為休息を取りたいところだが、岸には小さな人間達が集まっている為始末しようと叫び声をあげて威嚇する。
ここでまた超級の魔法を錬成しようものなら再び邪魔が入るだろうと、集めた雲が拡散しないよう維持しながらフィオレに注意を向け続ける。
大量に降り注ぐ雨によってわずかに水嵩が増しているが、まだ岸が水に沈む事はないものの、長期戦ともなればどれだけ水量が増すかはわからない。
できるだけ早いうちに討伐を済ませたいところだが、攻めるに攻められないこの地形はオリオンにとっては逃げ道のない檻のようなものだ。
水竜もそれがわかっているのかそう簡単に近付いて来るような事をせず、オリオンの動きに備えて警戒をしているようだが、このままでは平行線である為こちらから一手打とうとまずはフィオレが動く。
「ここまでの水竜の魔法特性から考えると岸に上げるには水嵩の低い今しかないと思うんだ。僕が引き付けるから皆んなはもっと背後に下がって水流に備えててくれるかな」
「んんっと……あ、水流起こすのに本体も移動する必要があるって事か?」
「うん。たぶんだけどね。水量が充分にあるからこそ有利な魔法かもしれないけど、今ならこの広い縦穴に流すには足りないと思うから」
「よーし。それならソーニャもフィオレのサポート頼む。水流の回避を手伝ってやってくれ」
「任せて!」
左方向へと駆け出したフィオレとソーニャ。
水竜の視線がフィオレを追い、粘性ある水弾がいくつも放たれると、それをフェイントを交えながら前後左右に回避して水竜を引き付ける。
ソーニャに向けた水弾はないものの、油断すれば足元に落ちた粘性ある水に足を捕らえられてしまう為フィオレについて行くのも難しい。
粘性ある水は地面に着弾と共に伸び広がる為、むしろ狙われている側の方が回避は楽かもしれないが。
放たれる水弾が数百を超え、周囲に飛び散った粘性ある水に逃げ場が少なくなって来たと思い始めた頃、最初のうちに着弾した部分は雨を吸収して大きく膨れ上がっていた。
ジェラルドに撃ち付けられていた粘性ある水弾も水流のブレスで洗い流された事から、一定の水量を超えると粘性を失うのではないだろうか。
また吸収するという事は粘性も薄まるのではないのだろうかとも考えられる。
もしそうであるならば今のこの雨が降る状況は水竜を相手にするのに都合が良く、粘液に捕らえられようと薄まってさえいれば脱出できない事もないだろう。
「ソーニャ、粘液の強度を確認してみて!」
「えっと……膨らんでる方?」
「うん!木の棒とかでいいから!」
「わかった!」
フィオレが水竜を引き付けている間にソーニャは膨らんだ粘液へと拾った棒を突き刺して引っ張ってみる。
すると多少の粘りはあるものの、簡単に引き抜く事ができた。
「思ったより柔らかいよ!」
「そっか!じゃあ後はお願いね!」
よくわからないままお願いされたソーニャだが、フィオレは迷わずぶくぶくに膨らんだ粘液へと飛び込んで全身を埋め込ませる。
足を捕われただけであれば追い討ちにと粘液を浴びる事になるかもしれないが、全身を粘液に埋めればこれを避けられると判断したのだろう。
するとフィオレを捕獲できたと判断した水竜は水の中に体を潜らせて魔法を錬成、溜まっていた水を全て利用した水流攻撃へと移行。
巨大な波がフィオレ目掛けて襲い掛かる。
しかし粘度の落ちた粘液はフィオレの力で脱出可能であり、水流が襲い掛かる前に這い出したところへソーニャが飛び付き、エアレイドを発動しての跳躍。
縦穴の壁面へと飛び上がって窪みにしっかりと掴まった。
巨大水流が粘液のあった地面を洗い流すと同時に水竜は波に乗ってフィオレが元いた位置を通過し、作戦が失敗に終わった事を理解しつつも元の水源まで戻ろうと水流操作を続ける水竜。
このまま突き進めば縦穴の外周を回って元の水源まで戻る事はできるかもしれないが、それをただ許すフィオレではない。
水流操作さえ阻害すれば水の流れは方向を失う事になり、怯んだ水竜をジェラルドが受け止める事で岸に上げる事ができるはず。
自身が水流に飲まれる事を覚悟の上で跳躍し、上空から最大威力のインパクトを込めた矢を放つ。
放たれた矢はうねりながら進む背中へと当たると強烈な衝撃を与え、前方では頭を跳ね上げた水竜が水面へと打ち付けられてそのまま水流に耐えていたジェラルドへとぶち当たる。
水流の勢いに加えて凶悪なまでの水竜の質量がのしかかる事になるが、フィオレのインパクトによって水流操作と攻撃としての体当たりを防いだ為耐え切れない程ではない。
水があらゆる方向へと引いていく中、水竜はその場に残され岸へ打ち上げられた状態となった。
「ぶふぇっ!なんか泥くせぇ、けど、打ち上がったしやるぞお前ら!」
「まずは私が!」
ジェラルドの背後に隠れて水流をやり過ごした他のメンバーは一斉に飛び出し、近距離からではあるがレナータの呪闇を込めた矢が水竜の左目に突き刺さり、視界を遮ると同時に体力を奪い取る。
レナータも同じだけのダメージを負う事にはなるとしても、一時的に視界を遮る事ができればそれでいい。
ジェラルドは盾で拳を隠しつつ、死角から右の拳を鼻先に叩き込んで横を向かせ、長い首が伸びているところへとマリオがストリームスラッシュ七連で斬り刻む。
斬撃の速度に意識を向けつつ流れるような剣舞を繰り出し、最後の一撃には全体重を乗せた剛の剣を振り下ろす。
剣舞の合間に無駄な力みがない事で体に軋みがなく、スキル発動後の硬直もわずかな時間で済む事から理想のスラッシュに一歩近付く事はできた。
剣の通り具合から考えても最後の一撃は今までで一番の攻撃力となっただろう。
そしてスラッシュの直後にマリオの顔の真横から突き抜かれた魔鉄槍バーンが傷口へと深々と突き刺さり、魔法の通りは悪くとも少しでもダメージを大きくしようと炎槍を放つ。
マリオから見ればやはりアリスも只者ではなく、仲間の攻撃に追加の一撃を加える事で不足した攻撃力を補う工夫をしてくる。
今の攻撃でもマリオのスラッシュよりもアリスの突きの方が攻撃力としては高かったはずだ。
体の表面を斬り広げるよりも内部に突き刺した方がダメージが大きくなるのは当然でもあるのだが。
絶叫する水竜は体を高く持ち上げる事で頭部への追撃を回避しつつ、蛇のように長い体をくねらせながら前脚を壁面へと立てて威嚇する。
水弾を放ってこないのは体を水に浸けていない事が原因か、それとも体内に取り込んでいる水量を維持するのか目的かは不明だが、粘液を撒き散らさないのであればむしろ助かるというもの。
ジェラルドが盾を掲げて駆け出し、それにマリオとアリスが続く。
しかしジェラルドの足元に水弾が放たれ、それを跳躍して躱したところに水竜の噛み付き攻撃が襲い掛かる。
咄嗟に盾を頭上に掲げるものの巨大な水竜の口に噛み付かれるのは必至。
それを後方から駆けていたマリオがジェラルドの肩を踏んで跳躍し、水竜の歯茎へと刃を突き立てる。
噛みつこうと頭を振り下げていた水竜も突然の痛みに頭の方向を変え、鼻先がジェラルドの盾にぶつかって窮地を回避。
マリオは水竜が頭を左へと向きを変えた事で弾かれ地面を転がった。
ジェラルドの危機にマリオが加速した事で急停止したアリスは、目の前を通り過ぎていく水竜の右前脚へとバーンを薙ぎ、鱗で覆われてはいない指の間へと刃を滑り込ませて付け根を斬り裂いた。
この長い胴体にはそう役に立ちそうもない前脚ではあるものの、痛覚に敏感な手脚であれば不快な痛みとなるはずだ。
蛇のように体をうねらせた水竜は地面へと腹這いになって怒りの咆哮をあげる。
そこへ近くまで流されていたフィオレが姿を隠したまま駆けつけており、マリオが斬り付けた左の首にある傷へと向けてインパクトの矢が射ち込まれ、水竜は自身の胴体へと首を叩き付けると、エアレイドを発動したソーニャからの刺突がフィオレの矢のすぐそばへと突き立てられた。
クリティカルポイントへの連続した攻撃により水竜のダメージは大きい。
のたうつように暴れ回る水竜はこれまでにない痛みに苦しみもがく。
そしてジェラルドは水竜の一撃を受けた事で地面へと打ち落とされ、下にあった粘液に絡め取られているところへ暴れる水竜の体がのしかかり、地面に埋まりながらもその重さに耐えていた。
すぐさまアリスの火球で相殺はしているものの、暴れる水竜に近付く事ができずにジェラルドの強度に任せるしかなかったが。
暴れていた水竜の動きが止まるとジェラルドはその異常なまでの腕力で水竜の体を押し退けて脱出し、体の状態を確認しつつ再び水竜に備えて身構える。
やはり陸上といえどこの戦いにくさに特化したような水竜相手に、迂闊に飛び込むのは危険なようだ。
しかし水竜が暴れている間にスキルの待機時間を終えたオリオンパーティーはいつでも仕掛けられる状態にあり、対する水竜は陸上に上げられた事で動きも鈍く追い詰められたような状況だ。
このまま押し切れればオリオンが勝ち、あらゆる攻撃に耐えてでも水中へと逃げ切れば水竜にも勝機がある。
倒す事は簡単ではなさそうではあるが、ここまで追い詰めて逃すつもりはない。
その異常なまでの巨大さに誰もが色相竜としての存在に身を竦ませる。
しかしフィオレの健闘もあり成りかけ戦程の恐怖は感じておらず、倒す事の難しさに体が動かずにいるようだ。
何しろ洞窟から落ちて動かないとはいえ、今は水竜の領域である水の中である事から迂闊に飛び込むわけにはいかない。
こちらの攻撃は水に阻まれるうえに、動き出しでもすればまともに抵抗する事もできずに噛み殺される事になるだろう。
戦うとすれば水竜が動き出して岸に上がって来た時に限定されたものとなる。
「ねえ、明るいところなら呪闇も役に立つと思う?」
「目が退化してねーなら意味あるんじゃね?」
「そうね、捕捉する能力があっても一瞬なら効果はあるんじゃないかしら」
感知する能力があったとしても視界から得られる情報の方が多い為、視界を塞がれれば一瞬でも怯む事になるのは当然だ。
長時間視界を覆ったところで感知されてしまえば意味はなくなる為、ほんの一瞬か数える程度の時間しか効果はないと思えるが、戦闘ではその一瞬の隙を生むだけでも充分効果はあるだろう。
「とりあえずジェラルドに前抑えてもらってフィオレとレナは水竜の妨害、アリスは今回ソーニャと一緒に遊撃に回ってくれ。俺は奴を倒せるよういろいろ試してみる」
「マリオならやれるよ。頑張って」
「おうよ。任せろ」
日々成長していくフィオレやパーティーの要であるジェラルドには負けていられないと、マリオは自身のスラッシュのイメージを作り込んでいく。
ここしばらくの成長を見ても火力であるマリオとアリスが停滞している事から、パーティーの戦闘力としては伸び悩みを感じているところ。
いくら下位竜を圧倒できたところで世界規模の竜害ではその戦闘がいつまでも続くと考えれば、討伐速度がパーティーの体力を温存する事になり他の冒険者達の負担も減らす事になる。
やはり重要なのは圧倒的な攻撃力であり、ディーノのように一撃で上位竜を殺せるだけの火力がほしい。
マリオとしてはストリーム型である為連撃となってしまう事にはなるとしても、一度のスラッシュで討伐するだけの剣技がほしいところだ。
今日のこの水竜は戦闘慣れしていない個体とはいえ色相竜であり、戦いにくさや魔法出力、硬度も全てがマリオに必要な経験を与えてくれる。
初の本物の色相竜戦という危機に自身の絶対的な成長が必要であり、諦めずに挑み続ける事で大連撃を生み出し、この危機的状況に逆転の一手を掴み取る。
ピンチをチャンスに変えて考え続ける事が大事なのだ。
水竜が動き出すのに備え、斬撃のイメージに集中しながらその時を待つ。
降り続ける雨の中で意識を取り戻した水竜は、自身のダメージを把握しつつも水属性魔法によって止血、回復の為休息を取りたいところだが、岸には小さな人間達が集まっている為始末しようと叫び声をあげて威嚇する。
ここでまた超級の魔法を錬成しようものなら再び邪魔が入るだろうと、集めた雲が拡散しないよう維持しながらフィオレに注意を向け続ける。
大量に降り注ぐ雨によってわずかに水嵩が増しているが、まだ岸が水に沈む事はないものの、長期戦ともなればどれだけ水量が増すかはわからない。
できるだけ早いうちに討伐を済ませたいところだが、攻めるに攻められないこの地形はオリオンにとっては逃げ道のない檻のようなものだ。
水竜もそれがわかっているのかそう簡単に近付いて来るような事をせず、オリオンの動きに備えて警戒をしているようだが、このままでは平行線である為こちらから一手打とうとまずはフィオレが動く。
「ここまでの水竜の魔法特性から考えると岸に上げるには水嵩の低い今しかないと思うんだ。僕が引き付けるから皆んなはもっと背後に下がって水流に備えててくれるかな」
「んんっと……あ、水流起こすのに本体も移動する必要があるって事か?」
「うん。たぶんだけどね。水量が充分にあるからこそ有利な魔法かもしれないけど、今ならこの広い縦穴に流すには足りないと思うから」
「よーし。それならソーニャもフィオレのサポート頼む。水流の回避を手伝ってやってくれ」
「任せて!」
左方向へと駆け出したフィオレとソーニャ。
水竜の視線がフィオレを追い、粘性ある水弾がいくつも放たれると、それをフェイントを交えながら前後左右に回避して水竜を引き付ける。
ソーニャに向けた水弾はないものの、油断すれば足元に落ちた粘性ある水に足を捕らえられてしまう為フィオレについて行くのも難しい。
粘性ある水は地面に着弾と共に伸び広がる為、むしろ狙われている側の方が回避は楽かもしれないが。
放たれる水弾が数百を超え、周囲に飛び散った粘性ある水に逃げ場が少なくなって来たと思い始めた頃、最初のうちに着弾した部分は雨を吸収して大きく膨れ上がっていた。
ジェラルドに撃ち付けられていた粘性ある水弾も水流のブレスで洗い流された事から、一定の水量を超えると粘性を失うのではないだろうか。
また吸収するという事は粘性も薄まるのではないのだろうかとも考えられる。
もしそうであるならば今のこの雨が降る状況は水竜を相手にするのに都合が良く、粘液に捕らえられようと薄まってさえいれば脱出できない事もないだろう。
「ソーニャ、粘液の強度を確認してみて!」
「えっと……膨らんでる方?」
「うん!木の棒とかでいいから!」
「わかった!」
フィオレが水竜を引き付けている間にソーニャは膨らんだ粘液へと拾った棒を突き刺して引っ張ってみる。
すると多少の粘りはあるものの、簡単に引き抜く事ができた。
「思ったより柔らかいよ!」
「そっか!じゃあ後はお願いね!」
よくわからないままお願いされたソーニャだが、フィオレは迷わずぶくぶくに膨らんだ粘液へと飛び込んで全身を埋め込ませる。
足を捕われただけであれば追い討ちにと粘液を浴びる事になるかもしれないが、全身を粘液に埋めればこれを避けられると判断したのだろう。
するとフィオレを捕獲できたと判断した水竜は水の中に体を潜らせて魔法を錬成、溜まっていた水を全て利用した水流攻撃へと移行。
巨大な波がフィオレ目掛けて襲い掛かる。
しかし粘度の落ちた粘液はフィオレの力で脱出可能であり、水流が襲い掛かる前に這い出したところへソーニャが飛び付き、エアレイドを発動しての跳躍。
縦穴の壁面へと飛び上がって窪みにしっかりと掴まった。
巨大水流が粘液のあった地面を洗い流すと同時に水竜は波に乗ってフィオレが元いた位置を通過し、作戦が失敗に終わった事を理解しつつも元の水源まで戻ろうと水流操作を続ける水竜。
このまま突き進めば縦穴の外周を回って元の水源まで戻る事はできるかもしれないが、それをただ許すフィオレではない。
水流操作さえ阻害すれば水の流れは方向を失う事になり、怯んだ水竜をジェラルドが受け止める事で岸に上げる事ができるはず。
自身が水流に飲まれる事を覚悟の上で跳躍し、上空から最大威力のインパクトを込めた矢を放つ。
放たれた矢はうねりながら進む背中へと当たると強烈な衝撃を与え、前方では頭を跳ね上げた水竜が水面へと打ち付けられてそのまま水流に耐えていたジェラルドへとぶち当たる。
水流の勢いに加えて凶悪なまでの水竜の質量がのしかかる事になるが、フィオレのインパクトによって水流操作と攻撃としての体当たりを防いだ為耐え切れない程ではない。
水があらゆる方向へと引いていく中、水竜はその場に残され岸へ打ち上げられた状態となった。
「ぶふぇっ!なんか泥くせぇ、けど、打ち上がったしやるぞお前ら!」
「まずは私が!」
ジェラルドの背後に隠れて水流をやり過ごした他のメンバーは一斉に飛び出し、近距離からではあるがレナータの呪闇を込めた矢が水竜の左目に突き刺さり、視界を遮ると同時に体力を奪い取る。
レナータも同じだけのダメージを負う事にはなるとしても、一時的に視界を遮る事ができればそれでいい。
ジェラルドは盾で拳を隠しつつ、死角から右の拳を鼻先に叩き込んで横を向かせ、長い首が伸びているところへとマリオがストリームスラッシュ七連で斬り刻む。
斬撃の速度に意識を向けつつ流れるような剣舞を繰り出し、最後の一撃には全体重を乗せた剛の剣を振り下ろす。
剣舞の合間に無駄な力みがない事で体に軋みがなく、スキル発動後の硬直もわずかな時間で済む事から理想のスラッシュに一歩近付く事はできた。
剣の通り具合から考えても最後の一撃は今までで一番の攻撃力となっただろう。
そしてスラッシュの直後にマリオの顔の真横から突き抜かれた魔鉄槍バーンが傷口へと深々と突き刺さり、魔法の通りは悪くとも少しでもダメージを大きくしようと炎槍を放つ。
マリオから見ればやはりアリスも只者ではなく、仲間の攻撃に追加の一撃を加える事で不足した攻撃力を補う工夫をしてくる。
今の攻撃でもマリオのスラッシュよりもアリスの突きの方が攻撃力としては高かったはずだ。
体の表面を斬り広げるよりも内部に突き刺した方がダメージが大きくなるのは当然でもあるのだが。
絶叫する水竜は体を高く持ち上げる事で頭部への追撃を回避しつつ、蛇のように長い体をくねらせながら前脚を壁面へと立てて威嚇する。
水弾を放ってこないのは体を水に浸けていない事が原因か、それとも体内に取り込んでいる水量を維持するのか目的かは不明だが、粘液を撒き散らさないのであればむしろ助かるというもの。
ジェラルドが盾を掲げて駆け出し、それにマリオとアリスが続く。
しかしジェラルドの足元に水弾が放たれ、それを跳躍して躱したところに水竜の噛み付き攻撃が襲い掛かる。
咄嗟に盾を頭上に掲げるものの巨大な水竜の口に噛み付かれるのは必至。
それを後方から駆けていたマリオがジェラルドの肩を踏んで跳躍し、水竜の歯茎へと刃を突き立てる。
噛みつこうと頭を振り下げていた水竜も突然の痛みに頭の方向を変え、鼻先がジェラルドの盾にぶつかって窮地を回避。
マリオは水竜が頭を左へと向きを変えた事で弾かれ地面を転がった。
ジェラルドの危機にマリオが加速した事で急停止したアリスは、目の前を通り過ぎていく水竜の右前脚へとバーンを薙ぎ、鱗で覆われてはいない指の間へと刃を滑り込ませて付け根を斬り裂いた。
この長い胴体にはそう役に立ちそうもない前脚ではあるものの、痛覚に敏感な手脚であれば不快な痛みとなるはずだ。
蛇のように体をうねらせた水竜は地面へと腹這いになって怒りの咆哮をあげる。
そこへ近くまで流されていたフィオレが姿を隠したまま駆けつけており、マリオが斬り付けた左の首にある傷へと向けてインパクトの矢が射ち込まれ、水竜は自身の胴体へと首を叩き付けると、エアレイドを発動したソーニャからの刺突がフィオレの矢のすぐそばへと突き立てられた。
クリティカルポイントへの連続した攻撃により水竜のダメージは大きい。
のたうつように暴れ回る水竜はこれまでにない痛みに苦しみもがく。
そしてジェラルドは水竜の一撃を受けた事で地面へと打ち落とされ、下にあった粘液に絡め取られているところへ暴れる水竜の体がのしかかり、地面に埋まりながらもその重さに耐えていた。
すぐさまアリスの火球で相殺はしているものの、暴れる水竜に近付く事ができずにジェラルドの強度に任せるしかなかったが。
暴れていた水竜の動きが止まるとジェラルドはその異常なまでの腕力で水竜の体を押し退けて脱出し、体の状態を確認しつつ再び水竜に備えて身構える。
やはり陸上といえどこの戦いにくさに特化したような水竜相手に、迂闊に飛び込むのは危険なようだ。
しかし水竜が暴れている間にスキルの待機時間を終えたオリオンパーティーはいつでも仕掛けられる状態にあり、対する水竜は陸上に上げられた事で動きも鈍く追い詰められたような状況だ。
このまま押し切れればオリオンが勝ち、あらゆる攻撃に耐えてでも水中へと逃げ切れば水竜にも勝機がある。
倒す事は簡単ではなさそうではあるが、ここまで追い詰めて逃すつもりはない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,771
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる