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190 脱出
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フィオレが洞窟奥から戻って来てレナータが回復スキルを発動、ついでに水でずぶ濡れ状態を気にする事なく両手足を絡めて抱き着いていた。
フィオレの怪我は多くの打撲があったものの骨折などはなく、多少の出血もあったとしてもそう大きな怪我はなかった為それ程心配はいらないだろう。
「助けに行けなくて悪かったな。こっちも全滅する可能性あったからフィオレのしぶとさを信じるしかなかった」
「ん、僕は大丈夫。リーダーの判断としては正しいと思うよ。今は状況を振り返るよりあの竜種をどう倒すかを考える方が先決」
「そうなんだけど下手に強力な竜種より水属性ってのはやりづらくてな。水流に巻き込まれた時点で俺らは動けねーしよ」
この洞窟内は竜種の縄張りであると同時に侵入して来た敵を水責めにする為の狩場だ。
視界がないうえに水流に巻き込んでまともに抵抗できない状態にする事ができるこの場所は、全力で魔法スキルを発動する事ができなくとも敵を殺すだけならそう難しくはないはずだ。
今ここにいるオリオンでさえフィオレかジェラルドのどちらかがいなかっただけでも半壊、もしくは全滅していた事だろう。
「たぶん私達が抵抗できない事がわかってるからこの戦い方だけで攻めてくるつもりかもしれないわね」
「じゃあこの方法が意味ないってわかれば違う事してくるかな?」
「そう、かもな。波に飲まれたんじゃ戦えねーし別の戦法で来させた方が俺らとしてはやりようがあるかも。何かいい手があるのか?」
水の中では誰一人として戦う事ができない事から、思いつきでも何でも試してみる価値はあるだろう。
「こっちから水がこう、ぐるっと回って流れて行くんだよね。じゃあそれより手前で水が回って行ったら意味なくなるかなって」
フィオレの案はとても簡単だがこの広場全体に水が回り込むよりも、手前に壁を作って戻してやろうというものだ。
全ての水を防ぐ事はできないかもしれないが、水流がそれるだけでも竜種の進行方向は変わるかもしれない。
「それ採用。意味ねーなってわかれば嫌でも別の方法取るだろうし。で?どうすんだ?」
「僕が天井を崩すよ。もしかしたらいろいろ崩れたりするかもだから皆んなには出口前で待機してもらうけどね。僕が危なくなったらこのロープで引っ張って」
洞窟内の天井を崩す作戦ともなれば相当な危険な行為とも思えるが、すでに洞窟奥では一度試している為フィオレとしてはこの作戦に抵抗はない。
「じゃあ危ねぇけど頼むわ。しかし結構めちゃくちゃな事言うよなお前」
マリオもさすがは今のディーノとパーティーを組むだけの冒険者であると思わざるを得ない。
実際に今のディーノの戦いを見た事がないマリオとはいえ、マルドゥクやエンペラーホークを捕らえられる実力を持つともなれば次元の違う強さを持つのだという事くらいはわかる。
そんなディーノとパーティーを組みたい、横に並びたいと口にするだけでも並みの神経とは思えない。
仲間の為に命を張るディーノの事だ、フィオレが窮地に立たされれば助けに入ってくれる事もあるはずだが、それを自身がただ守られる事を許せるだろうか。
それこそディーノの危機には自身の限界を超えてでも助けに行く覚悟が必要であり、仲間として対等である為にも人の域を超えて成長する必要もある。
アリスはここしばらく壁にぶつかっているのか成長の兆しが見えず足踏みしているにも関わらず、フィオレの成長は止まる事はない。
おそらくはオリオンが足手まといになりつつあると感じる中、マリオはフィオレから学ぶ事が多いはずだとこの戦いをどう運ぶのか見守る事にする。
今この水属性の竜種戦ではマリオ自身の攻撃力が鍵になるとすれば、学べるものは全て吸収するつもりで意識を集中させる。
洞窟奥からは竜種が岩から抜け出したであろう怒りの咆哮が響き渡り、フィオレは矢を番えて上方へと向けて最大威力でのインパクトを射ち込んだ。
ディーノの爆破を思わせる程の威力を持つ一矢は天井を砕き、大量の岩が崩落して分厚い壁面を作り出した。
フィオレが崩れた岩に巻き込まれる事はなかったものの、やはり洞窟内での崩落は見ていて心臓に悪い。
しかし竜種の進路を変えて奥へと戻すとすればもう少し長さが必要だろう。
このままでは少し手前で曲がって行くが、正面の壁にぶち当たる事になりそうだ。
だがそれはそれで都合がいいかもしれないと、出口に繋がる通路へと退避して竜種を待つ。
再び波を起こしたであろう轟音が鳴り響き、ジェラルドを盾にして通路で縦に並ぶオリオン。
大量の水が流れ進む中、通路まで流れてきた水は先の波に比べれば勢いが殺されている分そう焦る程のものではない。
下半身まで浸される程の水が流れ込んできたと思った矢先、波に乗ったまま竜種が崩れた岩壁に体を擦りながら方向を変え、正面の壁面へと激突して再び奥へと流されて行く。
竜種も今までは波に乗って泳いで戻っていたのかもしれないが、さすがに勢い着いたまま壁面へと激突しては流されて行くのも当然だ。
おそらくは何が起こったかすらもわかっていないだろう。
「今の相当効いたんじゃね?すっげー音したし」
「思ったより曲がったね。また来るかな?」
「お前達は少し楽しんでないか?」
洞窟奥からは水流の音に混じって竜種の悲鳴と思われる叫び声が響いてくる。
先に崩した岩にぶつかったか撥ね上げられたかしたのだろう、泳いで戻っていれば対処できたかもしれないが、流されて行ったとすればぶつかってもおかしくはない。
暴れ狂ったような水の音や衝撃音が聞こえてくる。
そして再び叫び声と共に轟音が鳴り響き、懲りる事なく同じ戦法で向かって来る竜種はやはり戦い慣れてはいないのだろう。
また水が流れ込んで来ると今度は学習したのか上手く曲がって行く竜種。
もう一度天井を崩そうかとも考えたのだが、インパクトの待機時間を終える前に来てしまった為諦めた。
しかしこれで意味がない事を理解すれば別の方法を取って来るのではないかと始めた作戦だ、この後の竜種の動きに期待する。
すると洞穴の中央部からゆっくりとこちらへと近づいて来た竜種は、オリオンを見つめながらも周囲の状況も確認する。
おそらくはインパクト持ちであるフィオレを警戒しての事だろう。
この狭い空間でも恐ろしい程のダメージを与えてくるフィオレは竜種にとって危険な存在だ。
出口への通路に最初にいた六人がいる事を把握した竜種は水弾を放って牽制する。
ところがこの水弾は粘性のある液体でありジェラルドの持つガイアドラゴンの盾にビチャビチャとへばりついていく。
「なんかネチャっとしてんな。竜種の痰か何かか?」
「なっ!?これ、そうなのか!?汚なっ!」
「水質変化させた水魔法でしょ?顔に浴びたら息できなくなるから気をつけた方がいいわよ」
粘性のある水弾はチェザリオもできなくもないのだが、見た目の汚いおっさんの粘液魔法はパーティーからも評判が悪かった。
特性としては優秀な魔法だとは思えるものの、やはり知性ある人間にはイメージも大事な要素である。
「でもここでネバネバさせてどうするつもりかな?盾で抑えて終わりじゃない?」
「盾で抑えるだけなら問題ないが前には出られそうにないぞ。こっちからは攻められん」
「たぶん様子見じゃないかな。こっちが仕掛けてこないか確認してるんだと思う」
「何となく嫌な予感がするのは私だけ?」
「いや、俺も嫌な予感しかしねぇ」
ここは出口への通路であり脱出しようと思えばロープを登って行く必要があるのだ。
簡単に逃げられるような場所ではない。
ここからもし突き落とされれば距離にして百歩分程の高さを落ちていく事になる。
この洞窟に入る前に見た縦穴は、洞窟側が穴が深くなっており、深く水が溜まっていた為水に飛び込む事にもなるだろう。
無事に着水できるかもわからないうえ、水属性の竜種の領域に飛び込んで戦う事は避けたいところ。
向こう側は少し高くなっているのか草木が生い茂っていたものの、縦穴を登れるような勾配はなかったはずだ。
「俺らだけ先に上がってもジェラルドは逃げるのは無理だな。俺らは下に飛び降りて岸まで泳ぐか」
「えっ、それ嘘でしょ!?さすがに高すぎるよ!?」
「このロープ結んである程度降りてからなら大丈夫じゃない?」
「私も持ってるからある程度低い位置までは降りられるかも」
弓矢を装備するフィオレとレナータは木を登って体を括り付ける事もある為ロープは常備してある。
この洞窟に降りる為のロープはパーティー用のロープである為長めの七十歩分程のものを用意してあり、この洞窟から下にまだ二十歩分は下がっているが、二人が持っているのは歩数で三十歩分のロープである為、繋ぎ合わせれば残りは二十から三十歩分程度の高さだ。
飛び降りても怪我もなく済むと考えられる。
「僕はジェラルドと一緒に残るから皆んな先に降りてて」
「悪いな。二人に負担かけちまって」
「気にするな。壁役はパーティーを守る為にあるんだからな」
ジェラルドとしては一人残されるよりはフィオレがいてくれるだけで心強い。
もしここに体当たりをされたまま外へと放り出されれば水面ではなく地面に叩きつけられる可能性もあるのだ。
プロテクションでダメージを軽減させたとしてもすぐには戦線復帰する事は難しいだろう。
ジェラルドとフィオレを残して出口へと走り進み、ロープを掴んで三本をしっかりと結び付けると、マリオから順に下へと降りて行って安全を確認する。
一番重いマリオが水面に落ちても大丈夫であれば他の三人も怪我を負う事はないだろう。
モンスターが泳いでいるわけではないが、まだ相当な高さがある為飛び込むのにも勇気が必要だ。
マリオも覚悟を決めて水の中へと飛び込んだ。
高い水飛沫をあげながら水中へと潜るマリオは装備の重さもあってかなり深くまで沈んでしまったが、水底に叩きつけられるという事もない。
浮上するのにやや命懸けになりそうではあるものの、冒険者は水の中に入る機会もある為、装備を着たままでも泳ぐ訓練は一応してある。
空気が上がって行く方向へと泳いで水面へと顔を出した。
「飛び降りても大丈夫だ!結構深いけど焦んなよ!ってソー……うぶぁっ!?」
ゴボボ……と沈められたマリオ。
マリオが浮かび上がったところにソーニャが飛び降りて肩に着地、勢いをマリオに全て押し付けて沈めたのだ。
「ソーニャありがとう!私も行くわね!」
ロープを滑り降りてきたアリスが先端まで来て水中へと飛び降りる。
レナータも飛び込んで四人が水面に浮かび上がる。
「何すんだよソーニャ。肩が外れるかと思ったぜ」
「あ、ごめん。私がソーニャにお願いしたの」
どうやらマリオを沈めるよう指示を出したのはアリスのようだが、装備の下がスカートである為見られたくなかったのだろう。
水中では見られてしまう事になるかもしれないが、最初から見られているよりはまだいいと判断したようだ。
ソーニャもレナータもショートパンツ型の装備な為、アリスだけがマリオを沈めたかったらしい。
「あー、まあ、ディーノに殴られるよりいいや。とりあえず岸まで泳ごうぜ」
このまま水中にいては竜種が追ってきた際に対処するのは難しい。
急いで岸に向かって泳ぎ出した。
フィオレの怪我は多くの打撲があったものの骨折などはなく、多少の出血もあったとしてもそう大きな怪我はなかった為それ程心配はいらないだろう。
「助けに行けなくて悪かったな。こっちも全滅する可能性あったからフィオレのしぶとさを信じるしかなかった」
「ん、僕は大丈夫。リーダーの判断としては正しいと思うよ。今は状況を振り返るよりあの竜種をどう倒すかを考える方が先決」
「そうなんだけど下手に強力な竜種より水属性ってのはやりづらくてな。水流に巻き込まれた時点で俺らは動けねーしよ」
この洞窟内は竜種の縄張りであると同時に侵入して来た敵を水責めにする為の狩場だ。
視界がないうえに水流に巻き込んでまともに抵抗できない状態にする事ができるこの場所は、全力で魔法スキルを発動する事ができなくとも敵を殺すだけならそう難しくはないはずだ。
今ここにいるオリオンでさえフィオレかジェラルドのどちらかがいなかっただけでも半壊、もしくは全滅していた事だろう。
「たぶん私達が抵抗できない事がわかってるからこの戦い方だけで攻めてくるつもりかもしれないわね」
「じゃあこの方法が意味ないってわかれば違う事してくるかな?」
「そう、かもな。波に飲まれたんじゃ戦えねーし別の戦法で来させた方が俺らとしてはやりようがあるかも。何かいい手があるのか?」
水の中では誰一人として戦う事ができない事から、思いつきでも何でも試してみる価値はあるだろう。
「こっちから水がこう、ぐるっと回って流れて行くんだよね。じゃあそれより手前で水が回って行ったら意味なくなるかなって」
フィオレの案はとても簡単だがこの広場全体に水が回り込むよりも、手前に壁を作って戻してやろうというものだ。
全ての水を防ぐ事はできないかもしれないが、水流がそれるだけでも竜種の進行方向は変わるかもしれない。
「それ採用。意味ねーなってわかれば嫌でも別の方法取るだろうし。で?どうすんだ?」
「僕が天井を崩すよ。もしかしたらいろいろ崩れたりするかもだから皆んなには出口前で待機してもらうけどね。僕が危なくなったらこのロープで引っ張って」
洞窟内の天井を崩す作戦ともなれば相当な危険な行為とも思えるが、すでに洞窟奥では一度試している為フィオレとしてはこの作戦に抵抗はない。
「じゃあ危ねぇけど頼むわ。しかし結構めちゃくちゃな事言うよなお前」
マリオもさすがは今のディーノとパーティーを組むだけの冒険者であると思わざるを得ない。
実際に今のディーノの戦いを見た事がないマリオとはいえ、マルドゥクやエンペラーホークを捕らえられる実力を持つともなれば次元の違う強さを持つのだという事くらいはわかる。
そんなディーノとパーティーを組みたい、横に並びたいと口にするだけでも並みの神経とは思えない。
仲間の為に命を張るディーノの事だ、フィオレが窮地に立たされれば助けに入ってくれる事もあるはずだが、それを自身がただ守られる事を許せるだろうか。
それこそディーノの危機には自身の限界を超えてでも助けに行く覚悟が必要であり、仲間として対等である為にも人の域を超えて成長する必要もある。
アリスはここしばらく壁にぶつかっているのか成長の兆しが見えず足踏みしているにも関わらず、フィオレの成長は止まる事はない。
おそらくはオリオンが足手まといになりつつあると感じる中、マリオはフィオレから学ぶ事が多いはずだとこの戦いをどう運ぶのか見守る事にする。
今この水属性の竜種戦ではマリオ自身の攻撃力が鍵になるとすれば、学べるものは全て吸収するつもりで意識を集中させる。
洞窟奥からは竜種が岩から抜け出したであろう怒りの咆哮が響き渡り、フィオレは矢を番えて上方へと向けて最大威力でのインパクトを射ち込んだ。
ディーノの爆破を思わせる程の威力を持つ一矢は天井を砕き、大量の岩が崩落して分厚い壁面を作り出した。
フィオレが崩れた岩に巻き込まれる事はなかったものの、やはり洞窟内での崩落は見ていて心臓に悪い。
しかし竜種の進路を変えて奥へと戻すとすればもう少し長さが必要だろう。
このままでは少し手前で曲がって行くが、正面の壁にぶち当たる事になりそうだ。
だがそれはそれで都合がいいかもしれないと、出口に繋がる通路へと退避して竜種を待つ。
再び波を起こしたであろう轟音が鳴り響き、ジェラルドを盾にして通路で縦に並ぶオリオン。
大量の水が流れ進む中、通路まで流れてきた水は先の波に比べれば勢いが殺されている分そう焦る程のものではない。
下半身まで浸される程の水が流れ込んできたと思った矢先、波に乗ったまま竜種が崩れた岩壁に体を擦りながら方向を変え、正面の壁面へと激突して再び奥へと流されて行く。
竜種も今までは波に乗って泳いで戻っていたのかもしれないが、さすがに勢い着いたまま壁面へと激突しては流されて行くのも当然だ。
おそらくは何が起こったかすらもわかっていないだろう。
「今の相当効いたんじゃね?すっげー音したし」
「思ったより曲がったね。また来るかな?」
「お前達は少し楽しんでないか?」
洞窟奥からは水流の音に混じって竜種の悲鳴と思われる叫び声が響いてくる。
先に崩した岩にぶつかったか撥ね上げられたかしたのだろう、泳いで戻っていれば対処できたかもしれないが、流されて行ったとすればぶつかってもおかしくはない。
暴れ狂ったような水の音や衝撃音が聞こえてくる。
そして再び叫び声と共に轟音が鳴り響き、懲りる事なく同じ戦法で向かって来る竜種はやはり戦い慣れてはいないのだろう。
また水が流れ込んで来ると今度は学習したのか上手く曲がって行く竜種。
もう一度天井を崩そうかとも考えたのだが、インパクトの待機時間を終える前に来てしまった為諦めた。
しかしこれで意味がない事を理解すれば別の方法を取って来るのではないかと始めた作戦だ、この後の竜種の動きに期待する。
すると洞穴の中央部からゆっくりとこちらへと近づいて来た竜種は、オリオンを見つめながらも周囲の状況も確認する。
おそらくはインパクト持ちであるフィオレを警戒しての事だろう。
この狭い空間でも恐ろしい程のダメージを与えてくるフィオレは竜種にとって危険な存在だ。
出口への通路に最初にいた六人がいる事を把握した竜種は水弾を放って牽制する。
ところがこの水弾は粘性のある液体でありジェラルドの持つガイアドラゴンの盾にビチャビチャとへばりついていく。
「なんかネチャっとしてんな。竜種の痰か何かか?」
「なっ!?これ、そうなのか!?汚なっ!」
「水質変化させた水魔法でしょ?顔に浴びたら息できなくなるから気をつけた方がいいわよ」
粘性のある水弾はチェザリオもできなくもないのだが、見た目の汚いおっさんの粘液魔法はパーティーからも評判が悪かった。
特性としては優秀な魔法だとは思えるものの、やはり知性ある人間にはイメージも大事な要素である。
「でもここでネバネバさせてどうするつもりかな?盾で抑えて終わりじゃない?」
「盾で抑えるだけなら問題ないが前には出られそうにないぞ。こっちからは攻められん」
「たぶん様子見じゃないかな。こっちが仕掛けてこないか確認してるんだと思う」
「何となく嫌な予感がするのは私だけ?」
「いや、俺も嫌な予感しかしねぇ」
ここは出口への通路であり脱出しようと思えばロープを登って行く必要があるのだ。
簡単に逃げられるような場所ではない。
ここからもし突き落とされれば距離にして百歩分程の高さを落ちていく事になる。
この洞窟に入る前に見た縦穴は、洞窟側が穴が深くなっており、深く水が溜まっていた為水に飛び込む事にもなるだろう。
無事に着水できるかもわからないうえ、水属性の竜種の領域に飛び込んで戦う事は避けたいところ。
向こう側は少し高くなっているのか草木が生い茂っていたものの、縦穴を登れるような勾配はなかったはずだ。
「俺らだけ先に上がってもジェラルドは逃げるのは無理だな。俺らは下に飛び降りて岸まで泳ぐか」
「えっ、それ嘘でしょ!?さすがに高すぎるよ!?」
「このロープ結んである程度降りてからなら大丈夫じゃない?」
「私も持ってるからある程度低い位置までは降りられるかも」
弓矢を装備するフィオレとレナータは木を登って体を括り付ける事もある為ロープは常備してある。
この洞窟に降りる為のロープはパーティー用のロープである為長めの七十歩分程のものを用意してあり、この洞窟から下にまだ二十歩分は下がっているが、二人が持っているのは歩数で三十歩分のロープである為、繋ぎ合わせれば残りは二十から三十歩分程度の高さだ。
飛び降りても怪我もなく済むと考えられる。
「僕はジェラルドと一緒に残るから皆んな先に降りてて」
「悪いな。二人に負担かけちまって」
「気にするな。壁役はパーティーを守る為にあるんだからな」
ジェラルドとしては一人残されるよりはフィオレがいてくれるだけで心強い。
もしここに体当たりをされたまま外へと放り出されれば水面ではなく地面に叩きつけられる可能性もあるのだ。
プロテクションでダメージを軽減させたとしてもすぐには戦線復帰する事は難しいだろう。
ジェラルドとフィオレを残して出口へと走り進み、ロープを掴んで三本をしっかりと結び付けると、マリオから順に下へと降りて行って安全を確認する。
一番重いマリオが水面に落ちても大丈夫であれば他の三人も怪我を負う事はないだろう。
モンスターが泳いでいるわけではないが、まだ相当な高さがある為飛び込むのにも勇気が必要だ。
マリオも覚悟を決めて水の中へと飛び込んだ。
高い水飛沫をあげながら水中へと潜るマリオは装備の重さもあってかなり深くまで沈んでしまったが、水底に叩きつけられるという事もない。
浮上するのにやや命懸けになりそうではあるものの、冒険者は水の中に入る機会もある為、装備を着たままでも泳ぐ訓練は一応してある。
空気が上がって行く方向へと泳いで水面へと顔を出した。
「飛び降りても大丈夫だ!結構深いけど焦んなよ!ってソー……うぶぁっ!?」
ゴボボ……と沈められたマリオ。
マリオが浮かび上がったところにソーニャが飛び降りて肩に着地、勢いをマリオに全て押し付けて沈めたのだ。
「ソーニャありがとう!私も行くわね!」
ロープを滑り降りてきたアリスが先端まで来て水中へと飛び降りる。
レナータも飛び込んで四人が水面に浮かび上がる。
「何すんだよソーニャ。肩が外れるかと思ったぜ」
「あ、ごめん。私がソーニャにお願いしたの」
どうやらマリオを沈めるよう指示を出したのはアリスのようだが、装備の下がスカートである為見られたくなかったのだろう。
水中では見られてしまう事になるかもしれないが、最初から見られているよりはまだいいと判断したようだ。
ソーニャもレナータもショートパンツ型の装備な為、アリスだけがマリオを沈めたかったらしい。
「あー、まあ、ディーノに殴られるよりいいや。とりあえず岸まで泳ごうぜ」
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森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
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