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184 異世界料理2
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ディーノとクレートの戦いを終えて国王達の待つ馬車まで戻ると。
「其方らの戦いは人間同士の戦いとは思えんな。何よりクレートは色相竜戦では全力を出しておらんかったとは……」
「色相竜も所詮はモンスターだからな。ディーノに比べれば倒すのも難しくはない」
「クレートとてディーノを倒すのは容易ではなかったという事だな?」
「精霊魔導無しで信じられん強さだった。オレの魔法が十全だったとしても魔法だけでは勝てる自信はない」
「さすがはバランタイン聖王国の英雄という事か。其方にそこまで言わせるとは恐ろしき男よ」
クレートでさえディーノの強さがこれ程までとは思ってもみなかったが、この世界にもまだ他にも強者がいるという事だろう。
魔法に制限のかかる世界ではあるものの、魔核や魔石さえあれば魔法はスキルとして発動が可能であり、個人の能力次第ではディーノと並ぶまでに強くなれると考えれば少し期待ができる。
しかしディーノのように魔法スキルを連発できるものはこの世界には存在せず、ウィザード最強のエンベルトでさえスキルの発動は単発でしか使用ができない。
ユニオンとライトニングの鞘が魔鋼製である事から常に魔力を引き出せるディーノは特殊なのだ。
そしてディーノは使者団の元へ「いや~負けた負けた」と明るく戻り、落ち込んでいるかと思っていた使者団も少し安心する。
同時に最強と思われていたディーノが負ける姿などこれまで想像もつかず、この戦いに敗れた事が未だに信じられないという気持ちでいっぱいだ。
本人は勝敗よりも精霊と契約できた事の方が嬉しいらしく、自分の荷物から赤竜の魔核と黄竜の魔核を持ってクレートの方へと走って行った。
帰りの馬車の旅も大きな問題はなく、色相竜で腹を満たしたマルドゥクも現れる小型のモンスターを払い退けるだけ。
国王の馬車では伝説の魔狼マルドゥクと色相竜である緑竜とが戦った街として、キルデービルの復興について話が盛り上がっていたようだ。
今後は他国との交易も始まり、多くの人々が流れ込んでくる事も考えると国を今以上に発展させていく必要があり、観光地を一から作り始めるよりも、過去の街を復興させた方が早いだろうとの事。
食い散らかされてはいるが緑竜の素材もまだ残っている事から、頭蓋骨の展示や素材を使った装備なども飾り、クレートの記憶から拡大写真を掲載するなどとさまざまな案が出されたようだ。
これにはアークアビット拳王国のフェリクスの案も取り込みたいと、街づくりの話題で楽しい帰路となったようだ。
ディーノは帰りもマルドゥクの上に騎乗しているが、ミィとキィを呼び出して教育を進めていた。
さすがにマルドゥクに雷撃を落とされては堪らないが、親和性を高めると考えればなにも魔法だけにこだわる必要はなく、ディーノが話しかけながら遊んでやるだけでも精霊との関係は良好なものになるだろう。
ペットのようにも思えなくもないが、人の言葉を少しは理解できる精霊もまた可愛らしく、戦闘で昂った気持ちが和らいでいくディーノだった。
◇◇◇
王都へ帰った翌日。
クレートのお誘いに貧民街の手前にあるブラーガ家へとやって来たディーノとフェリクス。
護衛であるはずの二人も国交が結ばれた事で王都での護衛を外れ、自由に過ごしていいとの事で二人だけでブラーガ家を訪れた。
残念ながらウルはルーヴェベデル獣王国からの唯一の使者という事で使者団と共に王宮で会談となっている。
整えられた街並みはとても貧民街の手前という事を思わせない程手入れがされていたが、国王が訪問する一般家庭ともなればさすがに整備もするだろう。
ルアーナ王女はライナーが迎えに行くとの事で現地集合となっていた。
貴族の馬車が大通りにあった事からすでに到着している事だろう。
「いらっしゃいませ!ブラーガ家へようこそ!」
一般家庭を訪問した挨拶としてはおかしくはないだろうか。
家というよりは店という感覚なのかもしれない。
「お言葉に甘えてご馳走になりに来たよ。今日はよろしくな」
「ここここんにちは!」
フェリクスは相変わらずだが、ここ最近では使者団との会話でどもる事は少なくなってきている。
「来たか。入れ入れ。まだ昼には少し早いからな。まずは風呂にでも入ってゆっくりしていってくれ」
訪問して早々に風呂を勧めてくるのもどうかと思うが。
それでも風呂か……
ほとんどの宿では風呂など付いておらず、良くて沸かした湯と拭き布をもらえるか、高級な宿でようやく半身浸かれるだけの湯船がある程度。
ブラーガ家のような一般家庭にある風呂も半身浸かれるものだろう。
そう思いはするものの、久しぶりの風呂には是非とも入りたい。
「ごきげんよう。フェリクス様、ディーノ様。殿方から湯浴みをお先にどうぞ」
「え?いいんですか?王女様より先に入っても」
「構いませんわ。私は先にお茶をいただいておりますので」
確かに先に着いている為か、世話係と共にお茶を飲みながらお菓子を楽しんでいるようだ。
だが実のところ美容と健康には一番風呂はあまり良くないのだと王妃から聞いており、ブラーガ家ではフェリクス達の後に入ろうと決めていたのだが。
「ではお先に失礼します、ルアーナ様」
フェリクスに声をかけられたルアーナは嬉しそうに返事をし、ディーノとフェリクスとでまずは風呂に入る事にする。
そして風呂場はというと……
まさかの数人が肩まで浸かれそうな程に大きな湯船、そしてシャワーと呼ばれるお湯の出る機能まで備えた本格的なもの。
クレートから石鹸やシャンプーなどの説明を受け、体や頭を洗ってから湯船に浸かる。
湯船には網に入れられた果実が浮かんでおり、これがまたいい香りを出して日々の疲れを癒してくれる。
初めての肩まで浸かれる風呂は最高に気持ちが良く、王族であるフェリクスでさえもここまでいい湯に浸かったのは初めてとの事。
さっぱりとした気分で風呂を上がり、風呂上がりに装備を着るのも面倒だと上着は着ずに出て行く。
フェリクスも風呂上がりで暑いのか上着を着ずに出て行くが、筋肉が浮き出るインナー姿のこの男の迫力は凄まじい。
待っていた召喚者達でさえも「おおっ!?」と驚く程の鍛えられた肉体だ。
顔を赤くして見つめる女性達にとっては刺激的な体つきだったかもしれない。
「我が家の風呂はどうだった?なかなか悪くはないだろう」
「最高だった。王様が来たくなるのもわかる」
「もう生まれ変わった気分です」
ホワホワと気分良さげなフェリクスは今の姿が自然体だろう。
緊張が一切なければどもる事はない。
風呂上がりに冷たい飲み物をもらい、フェリクスに熱い視線を向け続けるルアーナ王女は世話係に引っ張られて風呂に連れて行かれた。
ブロー魔法と呼ばれる温風で髪を乾かされ、お菓子を摘みながら今のクレート達の生活の話を聞いておく。
やはり村興しをしているのは本当らしく、貧民街で仕事にも就けずに燻っていた者達を集めて温泉村を作っている最中との事。
ろくに働きもせずダラダラとしていた者は貧民街へとお帰りいただいたそうだが。
やはり仕事に就けない者というのは何かしらの問題を抱えた者が多く苦労も絶えないとの事だが、それらを上手くまとめるよう国王の側近だった男を村長として据えたそうだ。
国王の側近からまだ完成前の村の長となればとんでもない降格のようにも思えなくもないが、どうやら自分から望んで村興しに参加していたらしい。
問題ある者達と似たような変わり者という事だろう。
運営はしていないもののすでに温泉宿の本館は完成している為、いつでも遊びに来ていいそうだ。
風呂から上がってきたルアーナ王女は至福の表情でホールへと現れた。
どうやら今回ルアーナ王女用にと用意されたシャンプーとコンディショナーを相当お気に召したらしく、自分の髪に触れては匂いを嗅いで嬉しそうな表情を浮かべている。
「私は今とても幸せです。お風呂だけで幸せいっぱいなのです」
「今から食事だが?」
「死んでしまうかもしれませんね」
ホワホワと幸せそうなのはよくわかる。
風呂上がりのフェリクスも似たようなものだったのだ。
「じゃあやめとくか」
「いえ!生き延びてまたここに来ますわ!」
いったい何を食わされるのかわからない会話だが、ブラーガ家の料理であれば間違いなく美味いはず。
ブロー魔法を受けつつ冷たい飲み物で火照った体を冷やす間にジーナが料理を盛り付け。
四人にブラーガ家特製料理が運ばれてくる。
高さのある深い器にスープが注がれており、スープの上には五枚の大きな肉と海苔、刻んだ薬味と思われるものと煮卵が乗せられている。
なんだろうこれは。
そして小皿に乗せられた白くて耳のような形をした焼いたもの。
付けだれに茶色の何かが添えられる。
もう一品は少し小さい皿に盛られたライス料理だ。
おそらくは味付けされたライスだが香りからして食欲をそそる香ばしさ。
「まあ食ってくれ。今日はここしばらく我が家で研究を進めているラーメンと、餃子と炒飯をつけたラーメンセットだ。納得の出来まではあと一つといったところだがこのままでもなかなかイケる」
肉を退けると出てきたのはスープに浸かった麺であり、珍しいちぢれた麺を使った料理のようだ。
これを二本の棒で……ルアーナはこの食器を巧みに使って麺を持ち上げて口に運んでいる。
それを真似してみるもなかなかに難しく、とりあえずは麺を持ち上げる事に成功したら口に運んですするのみ。
口が火傷しそうな程熱いスープに浸かっていたようだが食べられない事もない。
味は濃厚かつ複雑な味。
どんな味付けをしたかもわからない程にさまざまな食材を使用しているのだろう。
茶色くも透き通ったスープにどれだけの味を溶け込ませているのか、調理法が全くわからない程に美味い料理【ラーメン】。
とろみのないスープであるはずなのにちぢれた麺がスープを掬い上げ、適度な噛み応えを持ちつつも喉越しがよく味も薄れない。
肉は……しっとりとしていてジューシーかつ、味付けされて煮込まれてあるのかラーメンのスープにはないまた別の味。
肉の臭みは一切なく、口の中で解けていく肉の食感はこれまで食べてきた肉からは想像もつかない程の柔らかさ。
煮卵までもが甘辛く味付けされていて、半熟に火が通った黄身が濃厚さを引き立てる。
ラーメン一つでここまで満足させる料理なのだ。
餃子と炒飯も食べれば死んでしまうのではないだろうか。
まずは餃子から食してみる事にする。
クレートの説明では茶色の付けだれに他の調味料も好みで追加して味を調整するらしい。
まずはそのまま食べてみる。
表面の焼け目はパリっとしていながらモチモチとした食感に加え、中からはたっぷりの肉野菜が口いっぱいに旨味を広げてくれる。
優しい塩味があってこのままでも充分に美味しい料理なのだが、付けだれと調味料とで味変できるとすれば味の可能性は無限大。
さすがに言い過ぎか。
だがこれでライスを食べたいと思わせるだけの満足感があり実に美味しい。
そして炒飯はというと。
とにかく香りが素晴らしい。
食欲誘う香りは口の中に自然と唾が溜まるほどの悪魔の香り。
食べやすいようにと細かく刻まれた肉や野菜と混ざり合うライス。
口に含むともうこれだけでいい、そう思わせるだけの旨味が広がり、パラパラと解けていくライスは通常のライスにはない特別な炒め方をしたからこそ生み出せる食感だろう。
どれもが主役となれるだけの味を持ちながら、これら三点が合わさってのラーメンセット。
恐ろしい程のお得感と満足感。
クレートからはラーメンが伸びる前に食えと言われて最初にラーメンから完食する事となった。
「其方らの戦いは人間同士の戦いとは思えんな。何よりクレートは色相竜戦では全力を出しておらんかったとは……」
「色相竜も所詮はモンスターだからな。ディーノに比べれば倒すのも難しくはない」
「クレートとてディーノを倒すのは容易ではなかったという事だな?」
「精霊魔導無しで信じられん強さだった。オレの魔法が十全だったとしても魔法だけでは勝てる自信はない」
「さすがはバランタイン聖王国の英雄という事か。其方にそこまで言わせるとは恐ろしき男よ」
クレートでさえディーノの強さがこれ程までとは思ってもみなかったが、この世界にもまだ他にも強者がいるという事だろう。
魔法に制限のかかる世界ではあるものの、魔核や魔石さえあれば魔法はスキルとして発動が可能であり、個人の能力次第ではディーノと並ぶまでに強くなれると考えれば少し期待ができる。
しかしディーノのように魔法スキルを連発できるものはこの世界には存在せず、ウィザード最強のエンベルトでさえスキルの発動は単発でしか使用ができない。
ユニオンとライトニングの鞘が魔鋼製である事から常に魔力を引き出せるディーノは特殊なのだ。
そしてディーノは使者団の元へ「いや~負けた負けた」と明るく戻り、落ち込んでいるかと思っていた使者団も少し安心する。
同時に最強と思われていたディーノが負ける姿などこれまで想像もつかず、この戦いに敗れた事が未だに信じられないという気持ちでいっぱいだ。
本人は勝敗よりも精霊と契約できた事の方が嬉しいらしく、自分の荷物から赤竜の魔核と黄竜の魔核を持ってクレートの方へと走って行った。
帰りの馬車の旅も大きな問題はなく、色相竜で腹を満たしたマルドゥクも現れる小型のモンスターを払い退けるだけ。
国王の馬車では伝説の魔狼マルドゥクと色相竜である緑竜とが戦った街として、キルデービルの復興について話が盛り上がっていたようだ。
今後は他国との交易も始まり、多くの人々が流れ込んでくる事も考えると国を今以上に発展させていく必要があり、観光地を一から作り始めるよりも、過去の街を復興させた方が早いだろうとの事。
食い散らかされてはいるが緑竜の素材もまだ残っている事から、頭蓋骨の展示や素材を使った装備なども飾り、クレートの記憶から拡大写真を掲載するなどとさまざまな案が出されたようだ。
これにはアークアビット拳王国のフェリクスの案も取り込みたいと、街づくりの話題で楽しい帰路となったようだ。
ディーノは帰りもマルドゥクの上に騎乗しているが、ミィとキィを呼び出して教育を進めていた。
さすがにマルドゥクに雷撃を落とされては堪らないが、親和性を高めると考えればなにも魔法だけにこだわる必要はなく、ディーノが話しかけながら遊んでやるだけでも精霊との関係は良好なものになるだろう。
ペットのようにも思えなくもないが、人の言葉を少しは理解できる精霊もまた可愛らしく、戦闘で昂った気持ちが和らいでいくディーノだった。
◇◇◇
王都へ帰った翌日。
クレートのお誘いに貧民街の手前にあるブラーガ家へとやって来たディーノとフェリクス。
護衛であるはずの二人も国交が結ばれた事で王都での護衛を外れ、自由に過ごしていいとの事で二人だけでブラーガ家を訪れた。
残念ながらウルはルーヴェベデル獣王国からの唯一の使者という事で使者団と共に王宮で会談となっている。
整えられた街並みはとても貧民街の手前という事を思わせない程手入れがされていたが、国王が訪問する一般家庭ともなればさすがに整備もするだろう。
ルアーナ王女はライナーが迎えに行くとの事で現地集合となっていた。
貴族の馬車が大通りにあった事からすでに到着している事だろう。
「いらっしゃいませ!ブラーガ家へようこそ!」
一般家庭を訪問した挨拶としてはおかしくはないだろうか。
家というよりは店という感覚なのかもしれない。
「お言葉に甘えてご馳走になりに来たよ。今日はよろしくな」
「ここここんにちは!」
フェリクスは相変わらずだが、ここ最近では使者団との会話でどもる事は少なくなってきている。
「来たか。入れ入れ。まだ昼には少し早いからな。まずは風呂にでも入ってゆっくりしていってくれ」
訪問して早々に風呂を勧めてくるのもどうかと思うが。
それでも風呂か……
ほとんどの宿では風呂など付いておらず、良くて沸かした湯と拭き布をもらえるか、高級な宿でようやく半身浸かれるだけの湯船がある程度。
ブラーガ家のような一般家庭にある風呂も半身浸かれるものだろう。
そう思いはするものの、久しぶりの風呂には是非とも入りたい。
「ごきげんよう。フェリクス様、ディーノ様。殿方から湯浴みをお先にどうぞ」
「え?いいんですか?王女様より先に入っても」
「構いませんわ。私は先にお茶をいただいておりますので」
確かに先に着いている為か、世話係と共にお茶を飲みながらお菓子を楽しんでいるようだ。
だが実のところ美容と健康には一番風呂はあまり良くないのだと王妃から聞いており、ブラーガ家ではフェリクス達の後に入ろうと決めていたのだが。
「ではお先に失礼します、ルアーナ様」
フェリクスに声をかけられたルアーナは嬉しそうに返事をし、ディーノとフェリクスとでまずは風呂に入る事にする。
そして風呂場はというと……
まさかの数人が肩まで浸かれそうな程に大きな湯船、そしてシャワーと呼ばれるお湯の出る機能まで備えた本格的なもの。
クレートから石鹸やシャンプーなどの説明を受け、体や頭を洗ってから湯船に浸かる。
湯船には網に入れられた果実が浮かんでおり、これがまたいい香りを出して日々の疲れを癒してくれる。
初めての肩まで浸かれる風呂は最高に気持ちが良く、王族であるフェリクスでさえもここまでいい湯に浸かったのは初めてとの事。
さっぱりとした気分で風呂を上がり、風呂上がりに装備を着るのも面倒だと上着は着ずに出て行く。
フェリクスも風呂上がりで暑いのか上着を着ずに出て行くが、筋肉が浮き出るインナー姿のこの男の迫力は凄まじい。
待っていた召喚者達でさえも「おおっ!?」と驚く程の鍛えられた肉体だ。
顔を赤くして見つめる女性達にとっては刺激的な体つきだったかもしれない。
「我が家の風呂はどうだった?なかなか悪くはないだろう」
「最高だった。王様が来たくなるのもわかる」
「もう生まれ変わった気分です」
ホワホワと気分良さげなフェリクスは今の姿が自然体だろう。
緊張が一切なければどもる事はない。
風呂上がりに冷たい飲み物をもらい、フェリクスに熱い視線を向け続けるルアーナ王女は世話係に引っ張られて風呂に連れて行かれた。
ブロー魔法と呼ばれる温風で髪を乾かされ、お菓子を摘みながら今のクレート達の生活の話を聞いておく。
やはり村興しをしているのは本当らしく、貧民街で仕事にも就けずに燻っていた者達を集めて温泉村を作っている最中との事。
ろくに働きもせずダラダラとしていた者は貧民街へとお帰りいただいたそうだが。
やはり仕事に就けない者というのは何かしらの問題を抱えた者が多く苦労も絶えないとの事だが、それらを上手くまとめるよう国王の側近だった男を村長として据えたそうだ。
国王の側近からまだ完成前の村の長となればとんでもない降格のようにも思えなくもないが、どうやら自分から望んで村興しに参加していたらしい。
問題ある者達と似たような変わり者という事だろう。
運営はしていないもののすでに温泉宿の本館は完成している為、いつでも遊びに来ていいそうだ。
風呂から上がってきたルアーナ王女は至福の表情でホールへと現れた。
どうやら今回ルアーナ王女用にと用意されたシャンプーとコンディショナーを相当お気に召したらしく、自分の髪に触れては匂いを嗅いで嬉しそうな表情を浮かべている。
「私は今とても幸せです。お風呂だけで幸せいっぱいなのです」
「今から食事だが?」
「死んでしまうかもしれませんね」
ホワホワと幸せそうなのはよくわかる。
風呂上がりのフェリクスも似たようなものだったのだ。
「じゃあやめとくか」
「いえ!生き延びてまたここに来ますわ!」
いったい何を食わされるのかわからない会話だが、ブラーガ家の料理であれば間違いなく美味いはず。
ブロー魔法を受けつつ冷たい飲み物で火照った体を冷やす間にジーナが料理を盛り付け。
四人にブラーガ家特製料理が運ばれてくる。
高さのある深い器にスープが注がれており、スープの上には五枚の大きな肉と海苔、刻んだ薬味と思われるものと煮卵が乗せられている。
なんだろうこれは。
そして小皿に乗せられた白くて耳のような形をした焼いたもの。
付けだれに茶色の何かが添えられる。
もう一品は少し小さい皿に盛られたライス料理だ。
おそらくは味付けされたライスだが香りからして食欲をそそる香ばしさ。
「まあ食ってくれ。今日はここしばらく我が家で研究を進めているラーメンと、餃子と炒飯をつけたラーメンセットだ。納得の出来まではあと一つといったところだがこのままでもなかなかイケる」
肉を退けると出てきたのはスープに浸かった麺であり、珍しいちぢれた麺を使った料理のようだ。
これを二本の棒で……ルアーナはこの食器を巧みに使って麺を持ち上げて口に運んでいる。
それを真似してみるもなかなかに難しく、とりあえずは麺を持ち上げる事に成功したら口に運んですするのみ。
口が火傷しそうな程熱いスープに浸かっていたようだが食べられない事もない。
味は濃厚かつ複雑な味。
どんな味付けをしたかもわからない程にさまざまな食材を使用しているのだろう。
茶色くも透き通ったスープにどれだけの味を溶け込ませているのか、調理法が全くわからない程に美味い料理【ラーメン】。
とろみのないスープであるはずなのにちぢれた麺がスープを掬い上げ、適度な噛み応えを持ちつつも喉越しがよく味も薄れない。
肉は……しっとりとしていてジューシーかつ、味付けされて煮込まれてあるのかラーメンのスープにはないまた別の味。
肉の臭みは一切なく、口の中で解けていく肉の食感はこれまで食べてきた肉からは想像もつかない程の柔らかさ。
煮卵までもが甘辛く味付けされていて、半熟に火が通った黄身が濃厚さを引き立てる。
ラーメン一つでここまで満足させる料理なのだ。
餃子と炒飯も食べれば死んでしまうのではないだろうか。
まずは餃子から食してみる事にする。
クレートの説明では茶色の付けだれに他の調味料も好みで追加して味を調整するらしい。
まずはそのまま食べてみる。
表面の焼け目はパリっとしていながらモチモチとした食感に加え、中からはたっぷりの肉野菜が口いっぱいに旨味を広げてくれる。
優しい塩味があってこのままでも充分に美味しい料理なのだが、付けだれと調味料とで味変できるとすれば味の可能性は無限大。
さすがに言い過ぎか。
だがこれでライスを食べたいと思わせるだけの満足感があり実に美味しい。
そして炒飯はというと。
とにかく香りが素晴らしい。
食欲誘う香りは口の中に自然と唾が溜まるほどの悪魔の香り。
食べやすいようにと細かく刻まれた肉や野菜と混ざり合うライス。
口に含むともうこれだけでいい、そう思わせるだけの旨味が広がり、パラパラと解けていくライスは通常のライスにはない特別な炒め方をしたからこそ生み出せる食感だろう。
どれもが主役となれるだけの味を持ちながら、これら三点が合わさってのラーメンセット。
恐ろしい程のお得感と満足感。
クレートからはラーメンが伸びる前に食えと言われて最初にラーメンから完食する事となった。
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