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クレートが召喚されてから早二十日が過ぎ、この世界で振るえる実力を把握するとともに新たに得たスキルを自分のものとする為、ここしばらく訓練と称したモンスター討伐の日々を過ごしていた。
以前使用できた魔法が思ったように機能せず、肉体の強化や多くの魔法に制限がかかっているらしく、元の世界の半分の実力も出せないまでに能力が低下。
並みのモンスターであれば問題なく討伐する事はできるものの、この世界で最強とされる色相竜を相手にするにはやや不安が残る。
そこで福音者と呼ばれる【ゴスペル】スキルを持つ者によりクレートが得たスキルを調べてもらい、【ファントム】というセンテナーリオ精霊国では聞いた事がないというスキルである事が判明し、これを利用する事で不足分の実力を埋めようと考えた。
ファントムは自身の幻影を作り出す能力であり、出力を上昇させるようなスキルではないものの、使い方によっては出力以上に有用な能力とも言える。
しかしながらこのファントムスキルの使用は難しく、停止状態からであれば幻影を上手く動かす事ができるものの、動きながらでは思ったようには動いてはくれない。
自分と全く同じ動作はできる事から間合いを誤魔化す事はできるとしても、竜種を相手にした場合にはそれほど効果は得られないと考えられる。
やはり幻影が自分の思うように動いてこそファントムの能力を最大限に活かせる事となり、分身のように動かす事ができれば竜種といえども注意力が分散されて戦いを優位に運ぶ事もできるだろう。
しかし自分の動作と違う動きとなると一つの頭で考えるのは難しく、せめて本体とは対照的に動かす事ができれば分身に近い効果が得られるだろうとこれを訓練。
二十日近い時間がかかってしまったものの、何とか自分の思うような戦闘スタイルが確立した。
そして今、最終調整として高難易度のモンスター【クルエルティ】討伐依頼を受注し、デニスと召喚者達を連れて王都から離れた東の森の中へとやって来た。
クルエルティとは人間よりも一回り以上は大きな体長を持つヒヒのような姿をした生物であり、ペインスキルを持ち群れで狩りをするうえ、スキルを発動したまま嬲り殺しにして食するという残虐極まりないモンスターだ。
餌場を求めて森を転々としており、今回は人里近くを新たな餌場とした事から討伐依頼が発注されている。
ところがクルエルティはモンスター素材としての価値は低く、危険度に対して報酬が割に合わないとギルドでも誰も受けたがらない依頼となっていた。
これを困っている人がいるのならというのを建前としつつ、スキルの実験台にしようとクレートが受注して今に至る。
「まずいな。囲まれてる。クレート、本当にこの数相手に立ち回れるのか?」
「猿が群れたところで問題はない」
「うわわ、見える範囲だけでも二十は居ますしこれは危険過ぎますよ!?」
「セス兄大丈夫だよ。クレパパ最強だもん」
「な。クレパパなら余裕だって」
「あんたら、先生が勝つのは当然だとしてもセス兄が心配してるのは私達の事だよ?」
「じゃあデニス様を盾にするしかないね」
「勝手な事言うな。私が戦ったところでせいぜい一匹抑えるのが限界だ」
ギルドの依頼としては最高難易度のモンスターの群れ討伐だというのに子供達には余裕がありそうだ。
しかしこの場で最も警戒を強めているのはデニスであり、クレートは国お抱えの精霊召喚士であるデニスを守るつもりが一切ない事から襲われれば自分で対処するしかない。
これまでもさまざまな討伐依頼に同行しているが、そのことごとくでモンスターと戦う羽目になり、クレートは自分の戦闘を終えるとそのままデニスの戦いを見守っていた。
助けようともせずアドバイスもしない。
最初のうちは討伐依頼に同行したデニスを快く思わず、あわよくばモンスターに殺させようとでも考えているのかとも思ったが、クレートから向けられる視線はデニスの勝利を信じて疑わないものであり、困難な敵と相対しようと決してその表情は変わらない。
命懸け、それも自分よりも一回りも二回りも格上のモンスターとの戦闘にデニスは致命傷を負う事なく勝利してきた。
そのおかげもあってか自身のスキル発動と精霊召喚までの時間が短縮され、さらには魔力の消費を抑える事にまで成功。
以前は一日に三発の精霊魔法で限界を迎えていたのだが、今では五発を撃ち出したとしても力尽きる事はない。
精霊召喚士の中でも頭ひとつ飛び出た実力を持つまでに成長している。
「さて、猿とはいえ数が多いしな。【シエン】に我が子らを守らせようか」
クレートの言葉に誘われて姿を表すのは紫色の炎を背中から噴き上げる二足歩行の火蜥蜴だ。
身長としてはピーナよりも低いが、頭の先から尻尾までの体長と見れば相当に長い。
体躯こそそれ程大きくはないとはいえ、背中から紫炎を噴き上げたその姿は翼のない炎の竜、その化身といった様相だ。
クレートが自分の魔法を確認する為最初の頃だけ顕現させていたシエンだが、デニスと召喚者達は知っている。
この火蜥蜴はクレートよりも強いという事を。
それもそのはず、クレートの魔法は元の世界に比べて大きく制限されている為本来の実力を発揮できず、シエンはクレートから魔力を引き出して無限に精霊魔法を行使できるのだ。
クレートの魔力消費は激しいものの人魔の持つ膨大な魔力量からそう簡単に枯渇する事はない。
シエンは尻尾をテシテシ、首をフリフリしながら周囲の警戒を始めた。
クレートは精霊剣と呼ばれる鈍色の長剣を片手に歩き出し、自分達のテリトリーに入ったと判断した高台にいるボス個体と思われるクルエルティが咆哮をあげると、一斉に群れが襲いかかってくる。
ボス個体のそばには二体が残っている事からクルエルティも幹部や側近といった組織のようなシステムがあるのかもしれない。
クレートへと向かうのは十二体のクルエルティ。
距離や個体差から速度にばらつきがあり、最初にクレートへと攻撃を仕掛けたのは前方と左方、後方からの一体ずつ。
棒立ちとなったクレートはその凶悪な爪刃で引き裂かれた……と思った瞬間、クルエルティは腹部に違和感を覚え、右方から向かってくるクルエルティへと斬撃を振るい始めたクレート。
違和感を感じたクルエルティは臓腑を撒き散らしながらその場に崩れ落ち、棒立ちの状態だったクレートはファントムスキルによる幻影であり、幻影を固定した事でその場に残した状態で再現する事ができている。
他のクルエルティもファントムを敵と認識している為その場へと殺到し、右方から押し寄せるクルエルティ三体を瞬殺したクレートは精霊剣から血を払って幻影を解除。
残る六体はクレート本体へと向き直り、咆哮をあげて再び襲いかかる。
前方に向かって駆け出したクレートはファントムであり、その背後を低い姿勢で追ったクレートはクルエルティとの接触に合わせて斬撃を振り上げ、同時に跳躍するとファントムを越えて背後を追うクルエルティを頭から両断する。
ファントムも跳躍してしまったが上手く戦闘を運べている為問題はない。
四体を相手に今度はファントムを右へ、自身は左へと対照的に走り出し、一体を正面から左逆袈裟に斬り上げるとそれをクルエルティは伏せる事で回避。
続く斬撃に警戒してクレートの左方向へと駆け抜けて距離を取る。
ファントムも同時に斬撃を振るっているが、これも回避して後方の仲間に背を預けて警戒を強め、駆け抜けた一体を無視したクレートがファントム側にいるクルエルティへと接近。
ファントムを警戒していたクルエルティのうち一体がクレート本体に気付き右の爪刃を振り抜くも、さらに加速したクレートは左肩に担ぐようにして掲げた精霊剣で右腕を斬り落としつつ、振り下ろす事で右足をも両断。
バランスを崩したクルエルティをよそにファントムと対峙していた個体を背中から斬り伏せる。
ファントムもクレートと同じ動作を取る為、クルエルティをすり抜けながらでも残る一体へと斬撃を振っており、これを視界にとらえた個体は伏せる事で幻の剣を回避。
体を回転させながら跳躍したクレートはクルエルティの視界から外れながらその伏せた体へと斬撃を振り下ろした。
最初に駆け抜けていた個体は再びクレートへと向かっており、クレートと接触する少し前にファントムを一瞬駆け出させたところで消失。
この一瞬目の前に出現したファントムに速度を緩めたクルエルティは、一歩踏み込んだクレートの左逆袈裟によって地に伏した。
右の手足を失った個体の喉へと精霊剣を突き刺して十二体の討伐を終え、残るはボス個体とその側近か何かの二体。
そしてデニスや子供達へと向かうクルエルティは……
子供達を守る火の精霊シエンは炎のブレス、尻尾による炎の薙ぎ払い、飛び掛かりからの身体発火によって八体のクルエルティを焼き殺していた。
最初周囲に炎のサークルを生み出していた為子供達が襲われる事はなく、距離を詰める事ができずにいたクルエルティを次々と始末していったシエンの戦いは一方的な蹂躙劇と言っていいだろう。
最後の二体に限っては逃げ出そうとしたところを炎の特大ブレスで焼き殺したのだからその出力は尋常なものではない。
絶叫しながら炎に包まれる姿は子供達のトラウマになるのではないかという心配もあるが、この二十日近い期間を毎日モンスター討伐の見学をしている為かすでに慣れたもの。
モンスターに囲まれるスリルを味わっているかの如く、キャッキャとその戦いを見守っていたようだ。
そしてそのすぐそばではデニスが双頭刃式の槍を手にしながら精霊魔法で薙ぎ払うという方法で戦う、センテナーリオ精霊国ならではの精霊槍術を駆使し、一体のクルエルティを相手に奮闘していた。
クルエルティともなれば精霊国でも討伐できる者は少なく、成長したデニスとはいえそう簡単に倒せるものではない。
それどころか身体能力の高さからデニスの槍術では一撃与える事も難しい相手だ。
そしてクルエルティに地の精霊魔法を二度放つも、直撃させる事は叶わず掠めるに留めている。
精霊魔法であるだけにその出力は高く、拳大の石礫を全身押し潰すだけの数を高速で叩き込む。
直撃すればクルエルティといえども耐えられるものではない……はずだ。
しかし身体能力の高くないデニスはというと、ダメージ覚悟でクルエルティと接触するも、ピアースによる攻撃を腹部に受けてあまりの痛みに悶絶。
クルエルティの胸にも槍による一撃を突き刺しはしたものの、致命傷とはならなかったようだ。
追撃されてはかなわないと痛みに堪えて立ち上がり、スピリチュアルスキルの待機時間が終えるのを待ちながら警戒を強める。
痛みと恐怖に全身から脂汗が噴き出し、槍を握りしめる両腕も小刻みに震えている。
クルエルティも身体能力が低いと見たデニスの反撃に胸の傷を抑えながら警戒心を高め、この人間をどう殺すべきかと考えながら狙いを定める。
待機時間を終える前に動き出したクルエルティの右爪刃を槍で払い、左爪刃との連続した攻撃にも槍を交互に繰り出す事で防ぎ続ける。
クルエルティの攻撃はわずかに体を掠めるだけでも恐ろしい程の痛みが走り、腹部への一撃を裂帛の叫びをあげながら痛みに耐えて槍を振るう。
腕を掠めればこの連撃に耐え切れず負けが確定するこの状況で、致命傷とならないのであれば腹部にまで意識は向けていられない。
突き付けられる攻撃ではなく振り回される爪刃であるため、槍さえ上手く捌ければ致命傷はないはずだ。
しかしここで捌ききれずに左腿を掠めた瞬間バランスを崩したデニス。
これを好機と見たクルエルティは右肩へと爪刃を突き立て、デニスの槍を封じた事に勝利を確信したのだが、ここでデニスはスキル待機時間を終えた事によりクルエルティの真上から精霊召喚、そして精霊魔法を浴びせる。
デニスの前で夥しい数の石礫に叩き潰されたクルエルティはまだ意識を残しており、起き上がろうとしたところに槍を突き立てて討伐した。
以前使用できた魔法が思ったように機能せず、肉体の強化や多くの魔法に制限がかかっているらしく、元の世界の半分の実力も出せないまでに能力が低下。
並みのモンスターであれば問題なく討伐する事はできるものの、この世界で最強とされる色相竜を相手にするにはやや不安が残る。
そこで福音者と呼ばれる【ゴスペル】スキルを持つ者によりクレートが得たスキルを調べてもらい、【ファントム】というセンテナーリオ精霊国では聞いた事がないというスキルである事が判明し、これを利用する事で不足分の実力を埋めようと考えた。
ファントムは自身の幻影を作り出す能力であり、出力を上昇させるようなスキルではないものの、使い方によっては出力以上に有用な能力とも言える。
しかしながらこのファントムスキルの使用は難しく、停止状態からであれば幻影を上手く動かす事ができるものの、動きながらでは思ったようには動いてはくれない。
自分と全く同じ動作はできる事から間合いを誤魔化す事はできるとしても、竜種を相手にした場合にはそれほど効果は得られないと考えられる。
やはり幻影が自分の思うように動いてこそファントムの能力を最大限に活かせる事となり、分身のように動かす事ができれば竜種といえども注意力が分散されて戦いを優位に運ぶ事もできるだろう。
しかし自分の動作と違う動きとなると一つの頭で考えるのは難しく、せめて本体とは対照的に動かす事ができれば分身に近い効果が得られるだろうとこれを訓練。
二十日近い時間がかかってしまったものの、何とか自分の思うような戦闘スタイルが確立した。
そして今、最終調整として高難易度のモンスター【クルエルティ】討伐依頼を受注し、デニスと召喚者達を連れて王都から離れた東の森の中へとやって来た。
クルエルティとは人間よりも一回り以上は大きな体長を持つヒヒのような姿をした生物であり、ペインスキルを持ち群れで狩りをするうえ、スキルを発動したまま嬲り殺しにして食するという残虐極まりないモンスターだ。
餌場を求めて森を転々としており、今回は人里近くを新たな餌場とした事から討伐依頼が発注されている。
ところがクルエルティはモンスター素材としての価値は低く、危険度に対して報酬が割に合わないとギルドでも誰も受けたがらない依頼となっていた。
これを困っている人がいるのならというのを建前としつつ、スキルの実験台にしようとクレートが受注して今に至る。
「まずいな。囲まれてる。クレート、本当にこの数相手に立ち回れるのか?」
「猿が群れたところで問題はない」
「うわわ、見える範囲だけでも二十は居ますしこれは危険過ぎますよ!?」
「セス兄大丈夫だよ。クレパパ最強だもん」
「な。クレパパなら余裕だって」
「あんたら、先生が勝つのは当然だとしてもセス兄が心配してるのは私達の事だよ?」
「じゃあデニス様を盾にするしかないね」
「勝手な事言うな。私が戦ったところでせいぜい一匹抑えるのが限界だ」
ギルドの依頼としては最高難易度のモンスターの群れ討伐だというのに子供達には余裕がありそうだ。
しかしこの場で最も警戒を強めているのはデニスであり、クレートは国お抱えの精霊召喚士であるデニスを守るつもりが一切ない事から襲われれば自分で対処するしかない。
これまでもさまざまな討伐依頼に同行しているが、そのことごとくでモンスターと戦う羽目になり、クレートは自分の戦闘を終えるとそのままデニスの戦いを見守っていた。
助けようともせずアドバイスもしない。
最初のうちは討伐依頼に同行したデニスを快く思わず、あわよくばモンスターに殺させようとでも考えているのかとも思ったが、クレートから向けられる視線はデニスの勝利を信じて疑わないものであり、困難な敵と相対しようと決してその表情は変わらない。
命懸け、それも自分よりも一回りも二回りも格上のモンスターとの戦闘にデニスは致命傷を負う事なく勝利してきた。
そのおかげもあってか自身のスキル発動と精霊召喚までの時間が短縮され、さらには魔力の消費を抑える事にまで成功。
以前は一日に三発の精霊魔法で限界を迎えていたのだが、今では五発を撃ち出したとしても力尽きる事はない。
精霊召喚士の中でも頭ひとつ飛び出た実力を持つまでに成長している。
「さて、猿とはいえ数が多いしな。【シエン】に我が子らを守らせようか」
クレートの言葉に誘われて姿を表すのは紫色の炎を背中から噴き上げる二足歩行の火蜥蜴だ。
身長としてはピーナよりも低いが、頭の先から尻尾までの体長と見れば相当に長い。
体躯こそそれ程大きくはないとはいえ、背中から紫炎を噴き上げたその姿は翼のない炎の竜、その化身といった様相だ。
クレートが自分の魔法を確認する為最初の頃だけ顕現させていたシエンだが、デニスと召喚者達は知っている。
この火蜥蜴はクレートよりも強いという事を。
それもそのはず、クレートの魔法は元の世界に比べて大きく制限されている為本来の実力を発揮できず、シエンはクレートから魔力を引き出して無限に精霊魔法を行使できるのだ。
クレートの魔力消費は激しいものの人魔の持つ膨大な魔力量からそう簡単に枯渇する事はない。
シエンは尻尾をテシテシ、首をフリフリしながら周囲の警戒を始めた。
クレートは精霊剣と呼ばれる鈍色の長剣を片手に歩き出し、自分達のテリトリーに入ったと判断した高台にいるボス個体と思われるクルエルティが咆哮をあげると、一斉に群れが襲いかかってくる。
ボス個体のそばには二体が残っている事からクルエルティも幹部や側近といった組織のようなシステムがあるのかもしれない。
クレートへと向かうのは十二体のクルエルティ。
距離や個体差から速度にばらつきがあり、最初にクレートへと攻撃を仕掛けたのは前方と左方、後方からの一体ずつ。
棒立ちとなったクレートはその凶悪な爪刃で引き裂かれた……と思った瞬間、クルエルティは腹部に違和感を覚え、右方から向かってくるクルエルティへと斬撃を振るい始めたクレート。
違和感を感じたクルエルティは臓腑を撒き散らしながらその場に崩れ落ち、棒立ちの状態だったクレートはファントムスキルによる幻影であり、幻影を固定した事でその場に残した状態で再現する事ができている。
他のクルエルティもファントムを敵と認識している為その場へと殺到し、右方から押し寄せるクルエルティ三体を瞬殺したクレートは精霊剣から血を払って幻影を解除。
残る六体はクレート本体へと向き直り、咆哮をあげて再び襲いかかる。
前方に向かって駆け出したクレートはファントムであり、その背後を低い姿勢で追ったクレートはクルエルティとの接触に合わせて斬撃を振り上げ、同時に跳躍するとファントムを越えて背後を追うクルエルティを頭から両断する。
ファントムも跳躍してしまったが上手く戦闘を運べている為問題はない。
四体を相手に今度はファントムを右へ、自身は左へと対照的に走り出し、一体を正面から左逆袈裟に斬り上げるとそれをクルエルティは伏せる事で回避。
続く斬撃に警戒してクレートの左方向へと駆け抜けて距離を取る。
ファントムも同時に斬撃を振るっているが、これも回避して後方の仲間に背を預けて警戒を強め、駆け抜けた一体を無視したクレートがファントム側にいるクルエルティへと接近。
ファントムを警戒していたクルエルティのうち一体がクレート本体に気付き右の爪刃を振り抜くも、さらに加速したクレートは左肩に担ぐようにして掲げた精霊剣で右腕を斬り落としつつ、振り下ろす事で右足をも両断。
バランスを崩したクルエルティをよそにファントムと対峙していた個体を背中から斬り伏せる。
ファントムもクレートと同じ動作を取る為、クルエルティをすり抜けながらでも残る一体へと斬撃を振っており、これを視界にとらえた個体は伏せる事で幻の剣を回避。
体を回転させながら跳躍したクレートはクルエルティの視界から外れながらその伏せた体へと斬撃を振り下ろした。
最初に駆け抜けていた個体は再びクレートへと向かっており、クレートと接触する少し前にファントムを一瞬駆け出させたところで消失。
この一瞬目の前に出現したファントムに速度を緩めたクルエルティは、一歩踏み込んだクレートの左逆袈裟によって地に伏した。
右の手足を失った個体の喉へと精霊剣を突き刺して十二体の討伐を終え、残るはボス個体とその側近か何かの二体。
そしてデニスや子供達へと向かうクルエルティは……
子供達を守る火の精霊シエンは炎のブレス、尻尾による炎の薙ぎ払い、飛び掛かりからの身体発火によって八体のクルエルティを焼き殺していた。
最初周囲に炎のサークルを生み出していた為子供達が襲われる事はなく、距離を詰める事ができずにいたクルエルティを次々と始末していったシエンの戦いは一方的な蹂躙劇と言っていいだろう。
最後の二体に限っては逃げ出そうとしたところを炎の特大ブレスで焼き殺したのだからその出力は尋常なものではない。
絶叫しながら炎に包まれる姿は子供達のトラウマになるのではないかという心配もあるが、この二十日近い期間を毎日モンスター討伐の見学をしている為かすでに慣れたもの。
モンスターに囲まれるスリルを味わっているかの如く、キャッキャとその戦いを見守っていたようだ。
そしてそのすぐそばではデニスが双頭刃式の槍を手にしながら精霊魔法で薙ぎ払うという方法で戦う、センテナーリオ精霊国ならではの精霊槍術を駆使し、一体のクルエルティを相手に奮闘していた。
クルエルティともなれば精霊国でも討伐できる者は少なく、成長したデニスとはいえそう簡単に倒せるものではない。
それどころか身体能力の高さからデニスの槍術では一撃与える事も難しい相手だ。
そしてクルエルティに地の精霊魔法を二度放つも、直撃させる事は叶わず掠めるに留めている。
精霊魔法であるだけにその出力は高く、拳大の石礫を全身押し潰すだけの数を高速で叩き込む。
直撃すればクルエルティといえども耐えられるものではない……はずだ。
しかし身体能力の高くないデニスはというと、ダメージ覚悟でクルエルティと接触するも、ピアースによる攻撃を腹部に受けてあまりの痛みに悶絶。
クルエルティの胸にも槍による一撃を突き刺しはしたものの、致命傷とはならなかったようだ。
追撃されてはかなわないと痛みに堪えて立ち上がり、スピリチュアルスキルの待機時間が終えるのを待ちながら警戒を強める。
痛みと恐怖に全身から脂汗が噴き出し、槍を握りしめる両腕も小刻みに震えている。
クルエルティも身体能力が低いと見たデニスの反撃に胸の傷を抑えながら警戒心を高め、この人間をどう殺すべきかと考えながら狙いを定める。
待機時間を終える前に動き出したクルエルティの右爪刃を槍で払い、左爪刃との連続した攻撃にも槍を交互に繰り出す事で防ぎ続ける。
クルエルティの攻撃はわずかに体を掠めるだけでも恐ろしい程の痛みが走り、腹部への一撃を裂帛の叫びをあげながら痛みに耐えて槍を振るう。
腕を掠めればこの連撃に耐え切れず負けが確定するこの状況で、致命傷とならないのであれば腹部にまで意識は向けていられない。
突き付けられる攻撃ではなく振り回される爪刃であるため、槍さえ上手く捌ければ致命傷はないはずだ。
しかしここで捌ききれずに左腿を掠めた瞬間バランスを崩したデニス。
これを好機と見たクルエルティは右肩へと爪刃を突き立て、デニスの槍を封じた事に勝利を確信したのだが、ここでデニスはスキル待機時間を終えた事によりクルエルティの真上から精霊召喚、そして精霊魔法を浴びせる。
デニスの前で夥しい数の石礫に叩き潰されたクルエルティはまだ意識を残しており、起き上がろうとしたところに槍を突き立てて討伐した。
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「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
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