追放シーフの成り上がり

白銀六花

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163 センテナーリオ国王

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 イーヴォが去って広場にあるそこそこ高級な宿でディーノ達が少し遅めの夕食を摂っていると、そこへ駆け込んで来たのは先程他の貴族へと繋ぎを頼んだ兵士だ。
 その背後から続けて来た男は深々と頭を下げてから挨拶を始める。

「はじめまして、センテナーリオ精霊国で召喚士兵団の財務を任されております【ホルガー=フォン=ベルティーニ】と申します。この度は使者団の方々にとんだご無礼を働いたようで、私一人頭を下げたところでお許し頂けないとは思いますが何卒、お許しください」

 これにまともな人が来たと驚くディーノ。
 リエトとチェルソが挨拶を済ませ、本題に入る前に気になった事をピーノに質問する。

「フォンて何?」

「バランタイン聖王国ではなくなりましたが貴族の称号みたいなものです。以前は統治、仕事をしない貴族が多かった事から取り潰しになったなどという話はご存じでしょうか。その後は貴族も有能な者を召し抱えるようになった頃からですね、貴族称号を名乗る者は少なくなっていったようです」

「なるほど。ホルガーさんは仕事してるみたいだけどな」

「国によって時代は移り変わり方も違うものです。今ではバランタイン聖王国は能力の高い者こそ貴族や有権者ですからね。愚かな上流階級は必要ありませんから」

「何気に言い方キツいな。なんか恨みでもあるのか?」

「実は以前お仕えしていた……」

「はいそこまで!本題に入りにくいじゃないですか。申し訳ありませんベルティーニ様。少し賑やかな方々が多いもので」

「これからリエト様を褒め称えようという話ですが!?」

「それもやめて下さいね。慕ってくれるのは嬉しいですが……エルモも今のこの話を書き記す必要はありません。少し真面目にいきましょう」

 なかなかにグダグダな面会となってしまったが、イーヴォの件でもグダグダだった為もういろいろと諦めてもいいだろう。
 国王への謁見依頼と今後起こり得る竜害についてを端的に説明し、協力関係を築く事と交易の開始、人員の派遣依頼などについても説明した。
 どの国にもやはりスキルの偏りや専門のスキルなどがあり、部分的に特化する事になったとしても足りない部分が圧倒的に多い。
 バランタイン聖王国はかつて小国がいくつも連なってできた連合国であり、スキルの種類も他国に比べて多種多様にある。
 最もバランスのいい国とはなっているものの、他の国を含めれば今以上に物事が優位に運ぶのだから、協力関係を結ぶ事は被害を最小限に抑える為にも必要だ。
 しかしセンテナーリオ精霊国の場合は召喚の能力であり、他国の支援が必要かと考えた場合に少しわからない部分が多く、バランタインがそのスキルを求めてもセンテナーリオはバランタイン側のスキルを求めないかもしれないのだ。
 一通り要望を話し終えてお茶を啜るリエト。

「話はわかりました。しかしその竜害が事実となるかは起こってみなければわかりませんからね。それに備えて今動いているというのも大事な事だとは思います。協力関係も他国のスキルを考えれば必要なものも多くありますし、私としてはこの件をお受けしたいと考えますね。これまで小国としか交易していなかった事から、外の世界をまるで知らないとも思いますし私もバランタイン聖王国に行ってみたいですね」

 ホルガーもこの協力関係には賛成のようだが、結局は国王が決める事なので答えははっきりしない。
 それでもここに一人賛成派がいるのであれば心強く、何としてでもこの交渉を成功させたい。
 少しイーヴォの出方も気になるが……

「ホルガー様がバランタインを訪問してみたいというのであれば是非ともお連れさせて頂きますよ。海は王都から少し離れてはおりますが、平地の続く我が国もなかなかに美しいものですよ」

 海、という言葉が出たようにセンテナーリオの王都は海に面しており、緩い斜面を遠く下って行った先には広大に広がる海がある。
 バランタイン聖王国にもマーカーズ領などは海に面している為、海産物で有名で栄えた街となる。
 ディーノも一度行った事があるが、依頼達成後には新鮮な魚をつまみに酒を楽しんだ美食の街である。
 また行きたいとは思っているもののなかなか行く機会がなかったが、今ここも海沿いの街であるなら海産物を楽しめる。
 今日の夕食も確かに魚料理はあるものの、焼き魚や煮物ばかりで気付かなかった。
 メニューを見て生の海産物を注文するディーノだった。

 国王への謁見依頼は明日以降となるとの事で、やはり待たされる事にはなりそうだが、知らせに来るのはディーノ達が活動を始める前の昼の二の時頃になるそうだ。
 それまでに知らせがない場合にはその日は自由となり、王都観光を楽しむ事ができる。
 ディーノとしては数日間お呼びが掛からなくても問題ない条件での待機期間となり、海産物の食べ歩きに海での水泳、ギルドを覗いてみたりサモンスキルを見に行ったりと、楽しい日々が過ごせそうである。



 ◇◇◇



 そして三日後。
 二日目以降はホルガーの用意した来賓用の邸に宿泊し、楽しい日々を過ごしていたディーノ達の元へ使いの者がやって来た。

「明日の昼七の時に王城へと参られるようお願い致します。その後は歓迎の宴なども催されるとの事ですので是非ともご参加下さい」

「宴かぁ……」と落ち込むのはディーノだけであり、リエト達は感謝の言葉を伝えて使いを帰した。
 やはり挨拶地獄はディーノの苦手とするところであり、立って酒を飲む事自体あまり好きではないと感じている。
 料理をちまちまと取っては食べる前に挨拶を交わす。
 一口食べてはまた挨拶を交わす。
 酒を手に持っては飲む前に挨拶。
 もういっそ大声で自己紹介してしまいたいと思えるような地獄のループである。
 しかしそれでも貴族の礼儀であるならそれに従うしかなく、ここで礼節を欠こうものならイーヴォと同じだ。
 ここは歓迎の宴、宴だと考えるから辛く感じるのであり、挨拶会と考えればそう辛くないのでは?
 宴といえば冒険者としては楽しい馬鹿騒ぎの場であり、いちいち挨拶など交わしているような席ではない。
 飲んで食って歌って騒ぐ楽しい席こそ宴であり、辛いなどと感じるものではない。
 それなら挨拶会と割り切って、食事や酒はオマケ程度に考えればそう辛くないのかもしれない。
 ウルのように上流階級の男を演じる……そうだ、演者として立てば苦もなく乗り切れる。
 ディーノの脳内で歓迎の宴=演劇の舞台と切り替える事にした。

 とりあえずはこの三日目はまだ自由である事から観光を楽しむ事にする。

 ちなみにこの二日のうちに起こった事の一つにマルドゥク襲撃事件がある。
 兵士の間を擦り抜けて放たれた精霊魔法が、敵意に気付いて起き上がったマルドゥクの胸元を直撃し、怒ったマルドゥクはその犯人となる男を叩きのめして朝まで足で押さえ付けていたのだ。
 この状況を兵士はしっかりと見届けており、国際問題にするよりはいいだろうと犯人を捕縛し、尋問にかけるとの事で連行されていった。
 もしこれが複数人であった場合にはそれら全てを叩きのめそうと暴れ回った事だろう。
 たった一人の襲撃者であった事に胸を撫で下ろした。

 しかし翌日も現れたという襲撃者が複数いた事で少し騒ぎは大きくなる。
 敵意を向けられたマルドゥクが立ち上がり、精霊魔法が放たれる前に唸り声をあげると同時に、待機していた兵士達が襲撃者を捕えに駆け回る。
 大捕物になってしまったものの、十人もの襲撃者が捕らえられる事となったのだ。
 いずれも雇われた冒険者や荒くれ者であり、指示を出した犯人の名前は知らなかったようだが、大方予想はつく。
 というよりは一人しかいない。
 たまたまマルドゥクが暴れる事なく済んではいるが、もしダメージが大きかったりした場合にはこの辺一体が焼け野原となるのだ。
 国家反逆罪で罰せられる事間違いないだろう。



 ◇◇◇



 ホルガーと共に王宮を訪れたディーノ達は、謁見の間というよりはおそらくはこの場で宴が開催されるであろう大広間へと案内される。
 国王が玉座へと座り、その前に跪いて声をかけられるのを待つ。

「跪かずとも楽にして良い。これまで関わる事のなかった他国の使者がこの王宮へと参るのは何代ぶりとなるのか。我にもわからんが歓迎するぞ、三国の使者達よ。我こそはセンテナーリオ精霊国第四十一代国王【ヘルムート=イージドール=ローマン=センテナーリオ】である。マルドゥクなどという巨狼を従えて来たと聞いておるが、ルーヴェベデル獣王国とは面白い国よのぉ。それと伝説の英雄を語り継ぐバランタイン聖王国と隣国のアークアビット拳王国。いずれも大国であり三国揃っての訪問とあれば其方らの言葉にもそれなりの信頼度も高かろう。内容を聞かせてもらうか」

「ではバランタイン聖王国、リエト=テッサーリよりお話しさせて頂きます」

 と、リエトからの説明が始まり、ところどころに国王からの質問が入る部分をチェルソが回答と補足を加えて説明していく。
 一人が語るよりも二人で同じ答えを持って説明した方が信憑性も上がるというもの。
 ここ最近での竜種目撃情報の多さやルーヴェベデルの食糧難についても説明がなされ、ここにウルも会話に参加しながら協力関係についても話が進んでいく。
 ディーノはウルのこの器用さに少し感心しつつ、背後ではこの会話の内容をカリカリと書き留めるピーノとエルモの姿に視線を移す。
 国王と対話を続けるリエトとチェルソ、そしてウル。
 ディーノとフェリクスはこの場に取り残された感があるが、ディーノの方はすぐに話題が振られる事になった。

「我が国で最も重要とされるスキル、ギフト発現者であるディーノ=エイシスです。彼は冒険者として単独で色相竜と戦い、マルドゥクの捕獲にも成功した聖戦士と同等かそれ以上の実力を持つ者にございます」

 リエトの紹介に一歩前に出て一礼するディーノ。
 国王の鋭い視線に晒されようとも涼しい顔で見返す胆力を持っている。

「ディーノよ。色相竜と戦えるというのは本当か?その実力をこの精霊国で示せるのか?」

「実力を示せというのであれば剣を振るうまで。ご要望とあらばお見せしますが」

「ふむ。その自信の程を確かめたい。冒険者であるなら我が国にいる色相竜討伐を依頼しようか。確実に仕留めねばこの王都にも被害が出る故責任は重大であるが、この依頼受ける覚悟はあるか?」

「喜んでお受け致しましょう」

 ここに来て予想もしていなかった色相竜戦が回ってきた。
 王都にも被害が出る可能性があるとすればそう遠くない位置にいる事が考えられ、空中戦でもあまり広範囲に渡って駆け回るわけにはいかないだろう。
 それでも黄竜程の最上位個体はそう多くないはずであり、街を壊滅させる程の被害拡大もないだろう。
 そしてここ最近手に入れたライトニングを使用しての初の全力戦闘であり、今から戦う時が待ち遠しい。

「ふむ。その目に迷いが見られん事から本気のようだな。後日、我らと共に色相竜討伐の旅へと出向くとしよう」

 どうやら国王も観戦したいようだ。
 周囲の貴族達もざわざわと声を上げている事から、大勢での色相竜観戦ツアーになりそうな気もする。

「さて、もう一人おるようだが其方は?」

「アークアビット拳王国第八王子フェリクス=ヴィート=アークアビット。本日は先生、チェルソ殿の護衛として精霊国に参りました。なに分未熟者ですのでご容赦を」

「未熟者……か。随分と鍛えておるようだが高みを目指す心意気を認めよう。よし、隣国の王子とあらば其方の話も聞きたい。宴の席を設ける故楽しんでくれ」

 貴族達が両脇に控える中、多くの従者達がテーブルや料理、酒を運び込み、ステージに上がった楽団が音楽を流し出す。
 広間はあっという間に宴会場となって貴族達も料理や酒を取ってそれぞれ挨拶を交わし出した。
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