追放シーフの成り上がり

白銀六花

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142 捕獲成功

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 空を駆けるディーノとさらに高い位置を旋回するフレースヴェルグ。
 飛行状態からはブレスのみで、快音波を発してこない事はディーノにとっては助かるところ。
 これで快音波まで使われては接近も難しくなる事から、討伐も捕獲も不可能となるだろう。
 フレースヴェルグも小さな人間がたった一人で挑んでくる事自体初めての経験であり、空を駆ける人間に出会ったのも初めてだ。
 捕食するにも小さな人間では食いごたえもなく、フレースヴェルグとしては戦う必要すらない存在であり、近付いて来るようであれば快音波で追い払えばいいだけだ。
 しかし今目の前にいるディーノは快音波もブレスにも対応するだけでなく、フレースヴェルグの体に一撃を浴びせた存在である事から敵として認識されている。

 ディーノが真下からではなく回り込むようにして駆け上がって来るのに対し、速度で上回るフレースヴェルグは追従するようにして後方に旋回。
 ディーノはブレスの射線上から外れようとさらに内側へと駆け込み、互いの距離が縮まっていくと、フレースヴェルグは大きく羽ばたく事で突風を巻き起こす。
 風魔法も含まれた突風であり、この羽ばたき自体に風魔法を織り交ぜたのか、それとも空を飛ぶ事自体に風魔法を利用しているのか、空に浮かぶようにして飛翔している事から後者である可能性の方が高い。
 だとするなら風魔法を相殺しつつその魔力を利用して爆破で返してもそれほど高い出力ともならず、ディーノの魔力消費も小さいだろうとフレースヴェルグに向かって跳躍し、ユニオンを薙ぐと同時にリベンジブラストを発動。
 翼の背面へと爆風を浴びたフレースヴェルグは飛行を阻害されて高度を落とし、突風を浴びるも加速していたディーノは負荷を受けつつもその場に停止、上体を傾かせてその後を追おうと駆け出した。
 ディーノが向かって来る事を警戒したフレースヴェルグは咄嗟に翼を畳んで急降下し、距離を稼げた事を確認すると再び空へと飛翔する。
 やはり速度で勝るフレースヴェルグを追うのはディーノといえども難しく、上空から向きを変えながら最短距離で追うもそう簡単に追いつく事はできない。
 このまま空中戦を続けても勝ち目は薄く、予定通り地上に落としたところで聖銀に対処してもらうべきだろうとマルドゥクの位置を探る。
 巨大なマルドゥクは見つかりやすくもあったが随分と離れた位置に待機しているようだ。



 ディーノとフレースヴェルグの戦いを見守る聖銀とマルドゥクに寄生したウル。

「んー、ディーノの奴も相当なもんだがさすがにあれを一人じゃ無理そうだな。俺らもやる必要があるかもしれねぇ」

「なに一人でやらせるつもりでいるんだよ。落としたら俺らの仕事じゃないっけか?」

 ザックはいつの間にかディーノ一人にやらせるつもりでいたようだが、当初の予定では打ち落とすまでがディーノの仕事のはずだとパウルも呆れ顔を見せる。

「ここに落としてくれりゃあな。でもどんどん遠くなってくし」

「あの鳴き声攻撃がなければ俺が射ち落とすって手もあるぞ。近付くにはウル、行けるか」

 快音波による不調に耐えられなかったランドではあるが、飛行状態からはブレスのみであるとするなら近付く事もできる。
 距離があるとはいえマルドゥクであれば真下まで行くのにそう時間はかからない。
 マルドゥクとしても快音波がなければ近付くのに問題はない。

「じゃあ射ち落とせたらパウルが先行して引き付けて。僕はあれを麻痺させてみるよ」

「お、久しぶりに俺らも連携とってみるか。じゃあ俺は~」

「ザックは要らない。鳥も死んじゃうから」

 普段全員で連携をとった戦いをする事がない聖銀ではあるが、各々高い能力を持つ事から状況を判断しながら最も効果的な対応で敵を討伐する事ができる。
 しかし攻撃力の高すぎるザックでは捕獲には向いておらず、斬撃によって殺してしまうか部分欠損となる可能性が高い。

 マルドゥクでフレースヴェルグとの距離を詰め、ランドのピアーススキルで射ち落とし、起き上がるまでに接近するパウルが引き付けつつ、エンベルトが雷撃を体内に叩き込む。
 条件さえ揃えば誰もが完璧に仕事をこなすだけの技量があるため不安はない。
 あとはディーノがフレースヴェルグの高度を落としてくれれば何とかなるが、今は山よりも高い位置で戦闘を繰り広げている為、とりあえず近付くまで行こうとマルドゥクは移動を開始した。



 フレースヴェルグを追うディーノも体力が無限にあるわけではない。
 これまでの空中戦でもっとも長い戦いとなったのが黄竜戦ではあるが、爆破加速をし続けるような全力疾走での空中戦を続ける程の体力は持ち合わせてはおらず、すでに息があがっていて上級回復薬で半ば強引に体力を維持している状況だ。
 対するフレースヴェルグは風魔法と翼による揚力とで速度を維持しており、巨大さと機動力の高さもある事から全てにおいて余裕がある。
 逃げ続けるだけでもディーノの体力は奪われていき、このままでは打ち落とす事すら叶わない。
 そして逃げ回られるという事はマルドゥクに乗る聖銀からも距離が離れてしまう事になる為、ディーノは一度体力が尽きたと思わせる為に失速し、高度を落としてフレースヴェルグの油断を誘う。
 この時、ディーノはマルドゥクが走り出した事にも気付いており、打ち落とすまでが自分の仕事だとばかりに普段取らないような行動に出たのだ。

 それにあっさりと引っ掛かってしまうのはモンスターの知能の低さ故か。
 これまで自身に食らいついて来るようなモンスターもおらず、人間など敵とすら認識していなかったフレースヴェルグは、地上へ向かうディーノを殺そうと身を翻す。
 ディーノと同じようにマルドゥクがこちらに向かって来ている事にも気付いてはいるが、攻撃が届かない程上空に逃げれば問題はないと判断。

 放出された風の砲弾がディーノに迫り、それを先と同じように上方へと躱すも、性質が違うのか砲弾に巻き込まれるようにして吹き飛ばされたディーノ。
 地面に向かって落とされるのを防壁を展開して叩き付けられるのを防ぐも、そこに再び吐き出されたブレス攻撃。
 竜巻が生まれ、巻き込まれたディーノは上空へと吹き上げられた。

 上空へ舞い上がるディーノを追うフレースヴェルグではあったものの、動作を阻害する為の殺傷能力の低い魔法である事で身構えていたディーノとしては、リスクを抱えつつも接近する為の絶好の機会でもある。
 距離を見計らいながら竜巻を相殺し、口を開いて向かって来るフレースヴェルグの頭目掛けてリベンジブラストを叩き込む。
 最大出力とはいかないもののブレスの一部を相殺した魔力である為、ディーノのチャージされた魔力のほとんどを失う一撃だ。
 高速で打ち落とされたフレースヴェルグは地面に叩きつけられる瞬間に風の障壁を展開して爆散、衝突を回避するもそこに全速力で駆け込んだマルドゥクの右前足が炸裂する。
 噛み付かれては殺してしまいかねないが、爪を隠した一撃であればフレースヴェルグも打撃のダメージだけだ。
 ランドの出番は無くなってしまったものの、打ち落とした今の状況は想定の範疇であり、パウルがエアレイドで一気に距離を詰めつつ首筋に剣を突き立てる。
 叫び声をあげたところで警戒するも、快音波ではなかった事でフレースヴェルグの気を引こうと前に出る。
 そしてむくりと起き上がりながら、全身を風の防壁で保護するも、背面へと回り込んだエンベルトの雷撃に部分的に相殺、突破されてしまい、体内が爆散するのではないかという程強力な雷撃を浴びて体を弛緩させた。
 地面に倒れ伏したフレースヴェルグに、あとはサーヴァのテイムが成功するまで雷撃を追加で叩き込めばいいだろう。

「あ、ディーノお疲れ様。苦戦してたね」

「空中戦もイイよなー。俺も風の属性剣買おうかな」

 エンベルトとパウルが声を掛けたところ、ディーノはフレースヴェルグの背面側に着地。
 膝から崩れ落ちる程に体力を消費したディーノは地面に座り込む。

「っだー!!もう!必死で叩き落としたのに地面では一瞬かよ!オレめちゃくちゃ頑張ったのに!」

 憤慨するディーノもこれ程まで一瞬で倒してしまうとは思ってもみなかったのだろう。
 全力で走り回ってようやく叩き落としたのにも関わらず、勝負は一瞬ともなればやはり面白くはないだろう。
 仮にもしディーノが地面で戦ったとしてもここまで短時間で倒せる自信はないが。

「あれは俺らじゃ無理だからな~。ディーノ以外は逃げられて終わりだし」

「でもさぁ!オレ頑張ったし、せっかく役割分担して倒したんだからみんなでお疲れ~ってしようと思ったのに……疲れてねーじゃん!くそぉ……」

 パタリと地面に寝転がったディーノ。
 オリオン脱退以降はほぼソロでの戦闘しかしてこなかったディーノとしては、捕獲を成功させたならみんなで労い合いたかった。
 少し可哀想だなと思いつつ、頑張ってくれた弟分に何か買ってやろうと思うパウルとエンベルトだった。



 のしのしと近付いてくるマルドゥクとその上に乗った聖銀の他三名。

「おう、皆の者お疲れぃ!ディーノには結構苦労させたな、ありがとよ」

「過去最高難易度だったけど!?感謝の気持ちが軽くねぇ!?」

 どうやら拗ねてしまったようだが、普段は穏やかで大人びたディーノも兄貴分に囲まれれば少し子供のようにも見えてくる。

「んん。じゃあ俺のコレクションから異国のモンスター図鑑大全を贈呈してやろう。お前の図鑑程の詳細は載ってねーんだがモンスターの種類だけなら六百種だ。世界に十冊しかねぇお宝本だぜ?」

「オレの図鑑の四倍!?本当にくれるのか!?嘘じゃないよな!?」

「おう、マジでやるよ。持ち歩いてはねーから今度王都の……ケイトに渡しとくからよ。よし、サーヴァはテイムしに行ってこい!」

「やったー!」と喜ぶディーノは放っておいて、最大の目的であるテイムに取り掛かる。
 テイムにはフュージョンやパラサイトのような支配する強制力はないが、能力の高い冒険者である程モンスターとの親和性が高くなり、強力なモンスターでもテイムできるようになる。
 サーヴァは1級まで上り詰めたテイマーであり、その能力の高さはルーヴェべデル獣王国でも随一と言えるだろう。



 その後五回もの雷撃を浴びせたところで無事テイムが成功し、サーヴァは首を傾げながらこんな簡単に成功するとは思っていなかったとこぼす。
 本来であれば屈服させた状態から餌付けを行い、少しずつ慣らしていく事でテイマーに従順なモンスターになるとの事。
 どうやらエンベルトの雷撃は強制的に躾ける事ができる魔法でもあったらしい。
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