追放シーフの成り上がり

白銀六花

文字の大きさ
上 下
134 / 257

134 決意を示す

しおりを挟む
 上位竜を討伐し終えたオリオンが集まり、この討伐戦の反省点をあげつつ自分達の戦いを評価する。

 フィオレは竜種を釣る為とはいえ迂闊に近付いた事により計画が破綻しかけた事を詫び、前回に続いて二回もの失敗に深く反省の色を見せている。
 しかしながら上位竜とは初の接敵であり、いかに危険な生物かを把握する事ができたとして特に責める者はいない。
 あの状況でほぼ無傷で戦線復帰できたのはフィオレであればこそと、対応能力の高さを誰もが認めていた。

 そしてそのフィオレの失敗の穴を埋めながらも最高の状況に運び込んだのがソーニャであり、上位竜の飛行速度をそのまま受け止めてはさすがにジェラルドも耐えられるものではなかったと、ソーニャの判断力に称賛の声があがる。
 ソーニャ自身も仲間を信じているのはもちろんだが、ここでジェラルドの負担を減らせれば好機を作りやすいと思っての行動だったらしく、自分の咄嗟の判断が正しかった事に笑顔を見せていた。

 レナータはそう目立った活躍とは言えないが、絶大な攻撃力を誇るアリスにとっては視界を奪い、意識を自分に向かないよう妨害してくれるだけでも炎槍の通りが格段に違うと、フィオレの援護とはまた違った良さがあるとしてこれを称賛。
 フィオレのインパクトでは敵の態勢を崩してしまうと同時に、アリスからも距離が離れてしまう為威力に差が出るのだ。
 やはり攻撃する側としては狙った的が動かない方が攻撃が確実なものとなる。

 ジェラルドは打ち合わせ通りに動いた結果が最初のターン、上位竜の転倒であり、動作によって押し潰されるのではないかという不安を抱えながらも、前進したその力強さは他の盾職にはないジェラルドだけのものだ。
 今回の作戦の要はやはりジェラルドであり、上位竜を相手にこれ程までの短時間で討伐できたのもあの転倒があってこそ。
 アリスはこの作戦が上手くいく確率は低いと感じていたのだが、これまでの戦いを振り返っても盾職が如何に有用かという事がわかったとジェラルドを絶賛。
 褒められるよりも罵られたいジェラルドとしては複雑な気持ちになるが、自分よりも格上と思われるアリスから褒められるという事は素直に喜ぶべきだろう。

 竜種さえも余裕で貫く攻撃力を誇るアリス。
 あらゆる状況に的確に対応していくフィオレ。
 質量をものともしない力と最強の防御力を誇るジェラルド。
 仲間の負担を減らそうと自分を危険に晒しながらも好機を生み出したソーニャ。
 トリッキーな動きと確かな攻撃力に的確な指示を出せるマリオ。
 アリスの攻撃を確実なものとしようと完璧に視界を遮ったレナータ。

 マリオは自分の良いところを見せられなかったと嘆いていたが、離れた位置で観戦していたチェザリオ達は、オリオンの強さを目の当たりにして自分達の未熟さを痛感する事となった。
 若者を守ろうと息巻いてはいたものの、実際には自分達の成長を止めて足踏みをしていたに過ぎず、竜種を前に恐怖を抱いた自分を情けないとさえ感じてしまう。
 オリオンでは戦いの前の打ち合わせでも自分達の成長を図る挑戦の姿勢があり、それを現実のものとする為の努力や覚悟の結果が上位竜戦の勝利へと導いている。
 そんな後輩達の姿に、前に進む努力こそ今自分達に必要なのだと拳を握り締めた。



 ◇◇◇



 上位竜討伐から五日後のラウンローヤに戻って来たオリオンとサガパーティー。
 ギルドで討伐の報告を行い、近々復活するであろうもう一体の上位竜の討伐の為、指示があるまでオリオンはラウンローヤに滞在する事となった。
 討伐の打ち上げをしようという事でサガ行きつけの酒場にて。

「それにしてもジェラルドがいると安定感が違うわね。どんなモンスターが相手でも私は攻撃に集中できるもの。やっぱり動きを止められるっていうのが大きいのよね~。もういっその事竜種討伐の旅が終わったらウチに来ない?」

「おい、ふざけんなよアリス。ウチの壁役引き抜こうとするんじゃねーよ」

「なぁ、ジェラルド。あたし達と一緒にパーティー組まないか?ルチアがジェラルドと組みたいって毎日うるさいんだ」

「はぁーん?お前らもパーティー立ち上げにウチのもん奪おうとすんじゃねー」

「ちょ、ちょっとロザリアっ!何言ってんの!?」

 上位竜討伐だけでなく帰りの道のりでも圧巻の強さを見せつけたジェラルドは、モンスターの襲来にも焦る事なく盾で受け止め、拳一つで叩きのめす暴虐のガーディアンだ。
 男嫌いなアリスやパーティーを組もうとしなかったロザリアでさえパーティーに誘いたくなるのも当然の実力を持つ。

「なに嬉しそうにソワソワしてんだジェラルドこら。さすがに怒るぞおい」

「いや、ついに俺もモテ期かと……」

「「「「そんなわけないだろ!」」」」

 と、何故か全力でサガのメンバーに否定されて凹むジェラルド。

「んん、いや、まぁジェラルドを欲しいってのはわかるんだがまぁいい。それよりちょっくら真面目な話だ。お前らから聞かされた竜害ってのぁ本当に来るんだろうな?」

「ああ、国の上層部もそれに向けて動いてる」

 上位竜を討伐したその日、チェザリオから何故オリオンは危険な竜種討伐の旅をしているのかと聞かれ、サガにも今後起こり得る世界規模の竜害について説明している。
 国から直接発表があるまでは伏せるように口止めはしておいたが、マリオの信用するサガであれば話しても問題はないと判断した。

「俺らもよぉ、四十も過ぎた冒険者としちゃ老害みてーなもんだがよぉ。覚悟ぁ決めたぜ。ここらで鍛え直して竜殺しの勲章をもらいにいく。お前らにゃ負けてらんねーもんなぁマリオ」

 竜殺しの勲章は複数の合同パーティーであったとしても、色相竜を倒す事で受勲する事ができる。
 ただし天災とも呼べる程の脅威である色相竜が相手では、如何に多くの戦士が集まろうとも、並の冒険者では命がいくつあっても足りない。
 それ相応の実力が、最低でも上位竜を何の苦もなく倒してみせる程の実力が必要となるだろう。
 サガはファイターとナイト、アーチャーに、チェザリオが意外にもウィザードセイバーというパーティーであり、近接と中距離、遠距離とバランスのいい構成だ。
 鍛え方次第では竜種に挑む事もできるようになるだろう。

「おっさん本気で言ってんのかよ。半端な覚悟じゃ色相竜なんて相手にできるもんじゃねーぜ?」

「当たり前ぇだ。俺らがマジになりゃすぐにお前らより強くなってみせるぜ」

「言ってくれるじゃねーか。俺はまだまだ強くなるぜ?待っててやる程お人好しじゃねーからな」

 その後挑発し合った二人は笑い出し、ライバルとして成長していく事を誓い合う。
 親子ほど歳の離れた二人だが、気の合う二人は友として今後何があろうとも生き残ってまた酒を呑み交わそうと、この日は互いの成長を願って酒を呑む。

「それにしてもよぉ。お前らいつも以上に動きが良かったんじゃねーか?ソーニャなんて特にだ。走るのも速えが回避速度はとんでもねーからな」

「むふふ~。私は走るのと回避とで緩急付けてるから余計に速く見えるのかも~、ってそれだけじゃないんだけどね!この黄竜装備のおかげだよ。私の場合は速さそのものより切り返しがしやすくなったかな~」

「黄竜装備だと?ほぉ、そんな高級そうなもん使ってんのか」

 黄竜装備と聞いてもそれが属性武器である事しか知らないチェザリオは、ソーニャの籠手を見ながら魔核がどこにあるのかと探している。

「俺ら全員黄竜装備持ってんだけどさ、上位竜戦から使おうって事でここに来るまで使ってなかったんだよ。前から使ってる俺も禁止されてたしよぉ」

「そりゃどんな効果なんだ?誰でも使えんのか?」

 と、チェザリオから質問が出た為マリオは自分がわかってる範囲で黄竜装備について説明。
 雷属性魔法による身体能力上昇と聞いて興味津々なチェザリオは、まだフィオレが一個持っていると聞き、自分が持っているいくつかの特殊な魔核と交換してもらおうと決意。
 黄竜の魔核ほどではなくともかなり希少な魔核である為、価値としてはそれなりに高い。
 王都にあるバーヴォの職人への紹介状を書いてもらう事として気分良くまた酒を煽り出す。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

処理中です...