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124 ブレイブと黒夜叉
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ルーヴェべデルへと向かったディーノ達を見送ったアリスとフィオレ、ブレイブのメンバーは、これから竜種討伐の依頼を国から斡旋される事となるため、ギルドで依頼を探す事なくしばらく待つ必要があった。
しかし竜種討伐依頼を受注したとしてもお互いの能力を把握していなければ連携を取るのも難しく、この待機期間のうちに少し訓練しようという事でいつもの草原へとやって来た。
「じゃあ、どうすっかな。互いの手の内知るにはそれぞれ出来る事見せ合うか、それとも剣交えるなりしてみるか、どっちがいいと思う?」
そう問うマリオは以前壊れてしまった剣を新しく作り替え、胸元まで届きそうな程の長大な剣を背中に背負っている。
「それなら黒夜叉対ブレイブの模擬戦でいいんじゃないかしら。私達黒夜叉はパーティーではあるけど連携取るのは私とフィオレの二人だけだし」
以前のマルドゥク戦では三人で戦いはしたものの、ディーノが戦っている横から自分の届く攻撃を加えていただけであり、決して連携と呼べるものではなかった。
ディーノの戦闘範囲があまりにも広大である事から連携を取ることは限りなく難しく、もし可能であるとするならば、ディーノと同等の素早さを有した速度特化の冒険者、それもS級でも上位の限られた冒険者だけだろう。
「そっちは二人だけで……いや、二人でも俺達より格上か。しかも攻撃力の異常に高い。そうなるとこっちはジェラルドの防御力に掛かってんな」
「いや、アリスの炎槍は竜種も貫けるんだろ?流石にガイアドラゴンの盾でも貫通されたら俺死ぬぞ」
ジェラルドのプロテクションは最強の魔法使いであるエンベルトの雷撃や竜種のブレスにも耐える程の能力を持つのだが、収束された魔法攻撃に耐えられるかは不明である。
そしてエンベルトはジェラルドが耐えられるであろう威力まで出力調整をしていたが、アリスの炎槍は下減調整に限界があり、最小威力でさえもプロテクションを貫く可能性が高いのだ。
「私のは放出系じゃないから穂先を逸らせば防げるしジェラルドの盾捌きが重要なんじゃない?とりあえずは炎槍は使わないからやってみましょうよ」
アリスには風の防壁があるため炎槍が無くともある程度は戦える。
また、炎槍以外の魔法攻撃であれば一撃で殺してしまう事もないだろう。
「と、なるとバッシュスキルの方がアリスには効果的って事か。ふむ、勉強になる。だがいい経験にはなりそうだしな、やってみよう」
ジェラルドとしては背後には守るべき仲間がいる為これまでは正面から受けるだけに止まっていたのだが、今後は状況次第で攻撃を受け流し、マリオやソーニャがそれにあわせた動きを取れば戦いの幅は大きく広がる。
蓄積するダメージも小さくなり、レナータの回復も少なく済めば長期戦にも臨めるようになると考えれば、今後必要な能力となるのは間違いない。
ブレイブと黒夜叉は百歩程の距離をとって作戦を考え、準備ができたところで向き直る。
ブレイブは盾を掲げたジェラルドを先頭に右にソーニャ、左にマリオ、少し離れた後方にレナータが続いて走り出す。
対する黒夜叉はアリスを先頭にすぐ左後ろを追従するフィオレ。
互いの距離が縮まりフィオレがアリスの真後ろへ姿を隠すと、次の瞬間、ジェラルドの盾に衝撃が走り、予想を大きく上回るインパクトの威力によりマリオを巻き込んで後方へと弾き飛ばされた。
一瞬の出来事に視線がジェラルドを追うものの、見えない何かに草が踏み潰される瞬間をソーニャは視界の端に捉え、咄嗟に後方に跳躍して見えない存在から距離を取る。
すると勝利を確信したフィオレがダガーを前に突き出したまま姿を現し、ソーニャが回避した事に驚きの表情を見せる。
ジェラルドが弾き飛ばされたタイミングにあわせて火球を撃ち出したアリスと、それを予想していたレナータは呪闇を込めた矢を放って魔法を相殺。
魔鉄槍バーンを構えたアリスと足を止めたレナータだが、弾かれて伸し掛かってきたジェラルドを担ぐようにして潜り抜けたマリオがアリスに向かって右薙ぎの横一閃。
打ち上げるようにして逆風に斬り上げたアリスだったものの、その衝撃の軽さにゾクリと恐怖を覚えて風の防壁を大きく広げる。
目をギラリと輝かせたマリオのストリームスラッシュが発動し、以前を上回る最大の五連撃が振り抜かれた。
展開された風の防壁も広がりきっていなかった事もあり、二撃を槍で防いだものの一撃は胸鎧を掠め、冷や汗を流しながらスキル後のわずかな硬直の隙へと斬り込むアリス。
しかしマリオに担がれた事で地面に叩きつけられる事なく体勢を立て直したジェラルドが体当たりをしようとアリスへと向かい、すぐに対象を切り替えたアリスはジェラルドへと突きを繰り出した。
それをいつもの癖とはいえ真正面から受け止めてしまったジェラルドは、自身の敗北を認めて盾を手放し両手を挙げる。
しかしこの間に動き出したマリオはジェラルドの背後からぐるりと回り込んで、アリスへと剣を突き出した。
咄嗟に体を捻ると同時にバーンを引き戻したアリスは突きを右に受け、そこから剣戟と槍戟とが激しく交錯する。
フィオレが姿を現した事で身構えたソーニャは、ダガーを構えて再び走り出す。
フィオレもダガーを片手にソーニャとの間合いを見定めつつレナータの動きにも注意を向ける。
流石にアリスといえどもマリオとジェラルドを相手にしつつ遠距離の魔法矢にまでは対処し切れない。
ソーニャを相手にしながらもレナータの妨害をする必要があるだろう。
しかしソーニャの動きは予想以上に速く、ディーノやネストレに比べればまだ劣るものの緩急をつけた動きは他の者にはない速さを感じさせる。
これは走り込みの際に見て覚えた視覚的な素早さを錯覚させる技術であり、聖銀のパウルがただ走り込みに付き合うわけがないと思ったソーニャがその走りを思い出しながら独自に訓練して身に付けたもの。
本人はまだまだ改良の余地があると感じてはいるものの、他の者からすればかなり動きを判断し難い走法だ。
ソーニャの急速な接近にフィオレは逃げの一手で間合いをキープ。
跳躍に近い形の加速は方向転換がやや弱く、フィオレの戦闘経験がその隙を突いて間合いを保っている。
そんな状況でレナータが弓を番えたところでフィオレはその足元へと矢を放って呪闇を妨害。
しかしそれにあわせたソーニャがフィオレへと接近し、逆手に持ったダガーでエアレイドによる加速を乗せた一撃を腹部へ向けて一閃。
フィオレはすぐさま右手に持ち直したダガーでソーニャの一撃を受けつつインパクトを発動。
ソーニャは右上方に大きく弾かれ、フィオレは地面を滑るようにして弾き飛ばされた。
すぐに体勢を立て直した二人は互いに痺れる右手を振るいつつも再び臨戦体勢に入り、草原を駆けながら間合いの取り合いを再開する。
ここしばらくの冒険によりステータスをさらに伸ばしたマリオはアリスとの一対一での戦いにも引けを取らなかったものの、戦闘経験の差からその刃がアリスに届く事はなかった。
しかしアリスも驚くべきマリオの成長と勝利への執念は、ブレイブ内でも最低評価されていた以前のマリオとは別物。
レナータも援護をやめて見守る程であり、その戦いぶりにソーニャとフィオレも戦いをやめて二人の戦いを見つめていた。
荒々しかったマリオの剣戟も錬磨され、無駄を削ぎ落とされたその一振り一振りは我流とは思えない程に鋭く、剣術と呼べる程に美しい技の数々。
そう思わせるのはマリオが磨き続けたストリームスラッシュの完成度の高さだろう。
攻撃力の高い一撃必殺のスラッシュではない、全てが連撃で繋がる多撃必殺であるからこそ無駄のない剣戟を多く生み出す事に成功したのだ。
体力を使い果たして地面に寝転がるマリオを見つめ、アリスは息を切らしながらもわずかに上回れた事に安堵の表情を浮かべていた。
しかし竜種討伐依頼を受注したとしてもお互いの能力を把握していなければ連携を取るのも難しく、この待機期間のうちに少し訓練しようという事でいつもの草原へとやって来た。
「じゃあ、どうすっかな。互いの手の内知るにはそれぞれ出来る事見せ合うか、それとも剣交えるなりしてみるか、どっちがいいと思う?」
そう問うマリオは以前壊れてしまった剣を新しく作り替え、胸元まで届きそうな程の長大な剣を背中に背負っている。
「それなら黒夜叉対ブレイブの模擬戦でいいんじゃないかしら。私達黒夜叉はパーティーではあるけど連携取るのは私とフィオレの二人だけだし」
以前のマルドゥク戦では三人で戦いはしたものの、ディーノが戦っている横から自分の届く攻撃を加えていただけであり、決して連携と呼べるものではなかった。
ディーノの戦闘範囲があまりにも広大である事から連携を取ることは限りなく難しく、もし可能であるとするならば、ディーノと同等の素早さを有した速度特化の冒険者、それもS級でも上位の限られた冒険者だけだろう。
「そっちは二人だけで……いや、二人でも俺達より格上か。しかも攻撃力の異常に高い。そうなるとこっちはジェラルドの防御力に掛かってんな」
「いや、アリスの炎槍は竜種も貫けるんだろ?流石にガイアドラゴンの盾でも貫通されたら俺死ぬぞ」
ジェラルドのプロテクションは最強の魔法使いであるエンベルトの雷撃や竜種のブレスにも耐える程の能力を持つのだが、収束された魔法攻撃に耐えられるかは不明である。
そしてエンベルトはジェラルドが耐えられるであろう威力まで出力調整をしていたが、アリスの炎槍は下減調整に限界があり、最小威力でさえもプロテクションを貫く可能性が高いのだ。
「私のは放出系じゃないから穂先を逸らせば防げるしジェラルドの盾捌きが重要なんじゃない?とりあえずは炎槍は使わないからやってみましょうよ」
アリスには風の防壁があるため炎槍が無くともある程度は戦える。
また、炎槍以外の魔法攻撃であれば一撃で殺してしまう事もないだろう。
「と、なるとバッシュスキルの方がアリスには効果的って事か。ふむ、勉強になる。だがいい経験にはなりそうだしな、やってみよう」
ジェラルドとしては背後には守るべき仲間がいる為これまでは正面から受けるだけに止まっていたのだが、今後は状況次第で攻撃を受け流し、マリオやソーニャがそれにあわせた動きを取れば戦いの幅は大きく広がる。
蓄積するダメージも小さくなり、レナータの回復も少なく済めば長期戦にも臨めるようになると考えれば、今後必要な能力となるのは間違いない。
ブレイブと黒夜叉は百歩程の距離をとって作戦を考え、準備ができたところで向き直る。
ブレイブは盾を掲げたジェラルドを先頭に右にソーニャ、左にマリオ、少し離れた後方にレナータが続いて走り出す。
対する黒夜叉はアリスを先頭にすぐ左後ろを追従するフィオレ。
互いの距離が縮まりフィオレがアリスの真後ろへ姿を隠すと、次の瞬間、ジェラルドの盾に衝撃が走り、予想を大きく上回るインパクトの威力によりマリオを巻き込んで後方へと弾き飛ばされた。
一瞬の出来事に視線がジェラルドを追うものの、見えない何かに草が踏み潰される瞬間をソーニャは視界の端に捉え、咄嗟に後方に跳躍して見えない存在から距離を取る。
すると勝利を確信したフィオレがダガーを前に突き出したまま姿を現し、ソーニャが回避した事に驚きの表情を見せる。
ジェラルドが弾き飛ばされたタイミングにあわせて火球を撃ち出したアリスと、それを予想していたレナータは呪闇を込めた矢を放って魔法を相殺。
魔鉄槍バーンを構えたアリスと足を止めたレナータだが、弾かれて伸し掛かってきたジェラルドを担ぐようにして潜り抜けたマリオがアリスに向かって右薙ぎの横一閃。
打ち上げるようにして逆風に斬り上げたアリスだったものの、その衝撃の軽さにゾクリと恐怖を覚えて風の防壁を大きく広げる。
目をギラリと輝かせたマリオのストリームスラッシュが発動し、以前を上回る最大の五連撃が振り抜かれた。
展開された風の防壁も広がりきっていなかった事もあり、二撃を槍で防いだものの一撃は胸鎧を掠め、冷や汗を流しながらスキル後のわずかな硬直の隙へと斬り込むアリス。
しかしマリオに担がれた事で地面に叩きつけられる事なく体勢を立て直したジェラルドが体当たりをしようとアリスへと向かい、すぐに対象を切り替えたアリスはジェラルドへと突きを繰り出した。
それをいつもの癖とはいえ真正面から受け止めてしまったジェラルドは、自身の敗北を認めて盾を手放し両手を挙げる。
しかしこの間に動き出したマリオはジェラルドの背後からぐるりと回り込んで、アリスへと剣を突き出した。
咄嗟に体を捻ると同時にバーンを引き戻したアリスは突きを右に受け、そこから剣戟と槍戟とが激しく交錯する。
フィオレが姿を現した事で身構えたソーニャは、ダガーを構えて再び走り出す。
フィオレもダガーを片手にソーニャとの間合いを見定めつつレナータの動きにも注意を向ける。
流石にアリスといえどもマリオとジェラルドを相手にしつつ遠距離の魔法矢にまでは対処し切れない。
ソーニャを相手にしながらもレナータの妨害をする必要があるだろう。
しかしソーニャの動きは予想以上に速く、ディーノやネストレに比べればまだ劣るものの緩急をつけた動きは他の者にはない速さを感じさせる。
これは走り込みの際に見て覚えた視覚的な素早さを錯覚させる技術であり、聖銀のパウルがただ走り込みに付き合うわけがないと思ったソーニャがその走りを思い出しながら独自に訓練して身に付けたもの。
本人はまだまだ改良の余地があると感じてはいるものの、他の者からすればかなり動きを判断し難い走法だ。
ソーニャの急速な接近にフィオレは逃げの一手で間合いをキープ。
跳躍に近い形の加速は方向転換がやや弱く、フィオレの戦闘経験がその隙を突いて間合いを保っている。
そんな状況でレナータが弓を番えたところでフィオレはその足元へと矢を放って呪闇を妨害。
しかしそれにあわせたソーニャがフィオレへと接近し、逆手に持ったダガーでエアレイドによる加速を乗せた一撃を腹部へ向けて一閃。
フィオレはすぐさま右手に持ち直したダガーでソーニャの一撃を受けつつインパクトを発動。
ソーニャは右上方に大きく弾かれ、フィオレは地面を滑るようにして弾き飛ばされた。
すぐに体勢を立て直した二人は互いに痺れる右手を振るいつつも再び臨戦体勢に入り、草原を駆けながら間合いの取り合いを再開する。
ここしばらくの冒険によりステータスをさらに伸ばしたマリオはアリスとの一対一での戦いにも引けを取らなかったものの、戦闘経験の差からその刃がアリスに届く事はなかった。
しかしアリスも驚くべきマリオの成長と勝利への執念は、ブレイブ内でも最低評価されていた以前のマリオとは別物。
レナータも援護をやめて見守る程であり、その戦いぶりにソーニャとフィオレも戦いをやめて二人の戦いを見つめていた。
荒々しかったマリオの剣戟も錬磨され、無駄を削ぎ落とされたその一振り一振りは我流とは思えない程に鋭く、剣術と呼べる程に美しい技の数々。
そう思わせるのはマリオが磨き続けたストリームスラッシュの完成度の高さだろう。
攻撃力の高い一撃必殺のスラッシュではない、全てが連撃で繋がる多撃必殺であるからこそ無駄のない剣戟を多く生み出す事に成功したのだ。
体力を使い果たして地面に寝転がるマリオを見つめ、アリスは息を切らしながらもわずかに上回れた事に安堵の表情を浮かべていた。
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