追放シーフの成り上がり

白銀六花

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119 リカントロープ

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 伯爵邸で二日間の休みを取ったのだが、忙しいセヴェリンは夜しか帰って来ない為、ザハールの訓練などもしつつバランタイン王国の良さを知ってもらおうと街の観光をして楽しんだ。
 ルーヴェべデル王国に比べれば豊かな暮らしをおくるバランタイン王国に、ザハールも戦争にならなくて本当に良かったと胸を撫で下ろしていた。
 今後ルーヴェべデルとの交易の窓口となるジャダルラック領であれば、要請があればいつでも協力したいと申し出る程にザハールはこの街が気に入った様子。
 まだ今後も復興作業で忙しいジャダルラック領にとってこれ程嬉しい申し出もないとセヴェリンも喜んでいた。

 ザハールの魔力訓練は順調に進んでおり、以前アリスから聞いた事があった方法で自在に魔力を操れるよう訓練を積んでいる。
 そのおかげもあって魔力を体外に引き出す事ができるようになり、いよいよパピィと同じように魔力の実体化に挑戦する。

 全身から黒い霧が発生し、ザハールは自身を巨大化させようと魔力を放出するが、形状は不定形なまま霧が揺らめくのみ。
 そこで巨大化するスキルではなくリカント化するスキルだと考えて魔力を放出すると、少し時間はかかったものの、ディーノが戦ったリカントよりも少し小さな個体へと変身した。
 おそらくは魔力の操作練度とイメージ不足が原因だとは思えるが、訓練を積んでいけばさらに大きくなる事も可能だろう。

『どうやら成功したみたいだね。少し視線も高くなったし本当にリカントロープになれるなんて……』

「こうして見ると魔力で変身したなんて思えないくらい本物っぽいな……ま、成功したみたいだしちょっと爆破していいですか?痛いかもしれないですけど」

『怖いが試してみよう』

 見た目と言葉遣いが合わないなと思いつつ、軽めの爆破をザハールにガードしてもらうと、思いの外魔法ダメージを軽減できるらしく軽く手を振るだけで回復薬は必要なさそうだ。

『痛いけど平気みたいだよ。もしかしたら竜種のブレスにもある程度は抵抗できるかもしれない』

 この時点で相当な強さを持つだろうと思えるが、ディーノとしてはこれに属性剣を持たせたいと考えているだけに、その強さは計り知れない。

 そしてもう一つ気になるのがフュージョンスキルを持つザハールにギフトを贈った場合にどうなるのか、試してみようと贈り物ギフトを渡して才能ギフトを発動すると、予想外にもザハールとグロウパピィが分離される事となった。
 ザハールが意識して分離したわけではないそうだが、人間であるザハールの肉体とモンスターであるパピィの肉体とが別のものであると認識できたと同時に分離していたとの事。
 しかしザハールは自分から望んでパピィと融合していた為、もう一度フュージョンを発動して人獣の姿へと戻った。
 これらの事からパラサイトとフュージョンは似ているようで大きく異なるスキルのように思える。

 とりあえずは明日の出発前にステータスを測定していこうと考え、二日目の夜にセヴェリンに属性剣の話をすると、先代ジャダルラック領主が買ったはいいが使わなかった物があるとの事で、それを友好の証にと受け取る事ができた。
 火属性の大剣であり、リカント化したザハールが持てばちょうど良さそうな剣だった。

 そしてルーヴェべデルに帰る前のステータス測定の結果。

 名前:ザハール=ルーヴェ
 攻撃:2116
 防御:1367
 俊敏:1673
 器用:428
 魔力:1204
 法力:18
 評価値:41(A級ウィザードファイター)

 大剣を使うウィザードファイターという事で測定してみたが、やはりウィザードという部分が邪魔をしてしまう為評価値としてはやや低めだ。
 六神獣となる者は竜種と融合するまでの間は戦いの術がない為、ルーヴェべデル流剣術を習得しているとの事で剣技もなかなかのもの。
 また、ザハールの場合は変身能力をスキルとして有している為、リカント化してのステータスはさらに上昇し、魔法軽減能力もある事からアリスに匹敵する強さを持つのではないかとさえ思える程だ。



 ◇◇◇



 ルーヴェべデルの王宮へと戻ったディーノ達捕獲部隊。
 今回同時に四体を捕らえた為、国王への献上品としてグロウパピィを差し出し、これと融合したザハールは姿形はほとんど変わらないものの、スキルによりリカント化する事が可能であるとしてその姿を変貌させて見せる。
 そして少しだけ練習した炎の剣も披露する事でこの獣人化計画が有用なものであったと証明する。

『如何でしょう国王様。獣王国の戦士としても相応しいモンスターかと思われます』

「ううむ!人の姿を持ちながらもモンスターと同等の力を得るとは素晴らしい!さらにはリカント化などと……ザハールの言うように獣王国に相応しい戦士の姿である!」

 確かにこれまでの六神獣は全員が竜種と融合していたとの事で、獣王国と呼ぶには些か相応しくないようにも思える。
 そして人ではなく知性のある竜種という姿形で生活する必要があり、人間としての生活をおくる事はできなかったのだ。
 そんな国王の言葉に、六神獣のうち上位竜と融合していた者の目からは多くの涙が溢れ出る。
 地面にバシャバシャと流れ落ちる涙にどうしたのだろうとザハールに問いかけてみたところ、この涙を流す竜種に融合しているのはまだ二十代の女性との事だ。
 流石にまだ若い女性がフュージョンというスキルを持って生まれた事で、竜種として一生を過ごす事になったとすれば涙が流れるのも頷ける。
 ザハールの人獣としての姿を国王が認めたとするならば、自分も竜種の姿を捨てて人獣となる事を選ぶだろう。

「エレオノーラもザハールと同じ姿を望むのか?ふむ。だとするならば一度竜種としての命を奪う必要があるが、竜種を失うのは惜しいな……」

「あ、国王様。なにも死ななくても私のスキルで解除が可能だと思いますよ。竜種がどうなるかは知らないですけど」

「なっ、それは本当か!?だとするならば……いや、しかし生きたまま解除が可能だとするなら暴れ出すやもしれん。融合した者が寿命で死んだ場合には竜種も自我を取り戻すのでな」

 これまでに今聞いたような事があったのだろう、その場合には竜種を押さえ込んで使い回すのかもしれない。

「今後竜害が起こるとすれば竜種はいくらでも現れるでしょうし、もし殺していいならオレがやりますよ。バランタイン王国では装備の素材になるし。あ、でもザハールさんとかゲルマニュートさんも性能試したいですよね。上位竜相手ならちょうどいいかも」

 新たに手に入れたモンスターの力を試すのに上位竜が相手ではむしろ分が悪いのではないだろうか。
 ディーノも上位竜とは戦った事はないものの、ザックからは色相竜に比べれば随分と劣ると聞いている為、そう苦戦するような相手ではないと考えている。

「ふぅむ、少し待て。ディーノよ、フュージョンを解除できるというのは本当か?……それならば俺もグロウパピィと融合して上位竜を相手にしてみたいのだが」

 ディーノが頷くと国王も融合してみたいと自分のスキルを明かしてくる。

「それならリカント化するのに魔力操作の訓練が必要です。戦えるとすれば数日後になりますけどエレオノーラさん?は待ってもらえますか?」

 ディーノの質問に涙を流したまま何度もコクコクと頷く竜種の姿はなかなかに異様である。
 数日待つだけで人間の姿に戻れると思えば、嬉しさの方が遥かに勝るのだろう。
 国王はパピィの中から気に入った個体を選んでフュージョンを発動。
 国王の体内にパピィが融合され、手のひらに現れた肉級に驚きつつ人獣としての力を手に入れた事に嬉しそうな表情を見せる。
 念の為ディーノは許可を得て国王の元へと近付き、ギフトを発動して国王の融合を解除。
 死を選ばなくとも解除できる事を証明した。

 その後は再融合した国王の腹部から魔力を引き出し、しばらく魔力操作の訓練に付き合ってからこの日の面会を終えた。

 また、国王にディーノとの同行を求めたゲルマニュートは、自身も同じように魔法が使いたいとディーノから魔力を引き出してもらい、魔力操作の訓練をしながらわずかな風魔法を発動できる事に喜んでいた。
 魔法は威力を問わず事象を起こすだけであればすぐに発動できるのだ。
 そしてディーノからパピィと融合してはどうかと問われたゲルマニュートは、姿形は違えど人間とそう変わらない生活をおくれるのであれば、この最強種の体を手放したくはないとゲルマニュートとして生きていくのだと熱く語っていた。 
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