追放シーフの成り上がり

白銀六花

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111 マルドゥクが走る

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 今回ラフロイグに到着した際に大混乱を招いてしまった事から、伯爵からは王都に向かう前に、先に使者を送ってマルドゥクの存在を国民に知らせておくべきとして、ラフロイグに三日間滞在するよう指示が出されている。

 早く王都に戻りたかったフィオレは落ち込んだものの、少し時間のできたウルとしてはこの三日間の休日はエルヴェーラとの関係を親密にするチャンスだと喜んでいた。
 ただしウルがエルヴェーラとデートをするのであればディーノが監視につく必要もあるのだが。

 ディーノとしても早く王都に向かいたいとは思いつつ、混乱を招いては王の不況を買うかもしれないとしてこの指示に従うつもりだ。
 また、アリスの魔鉄槍バーンが壊れてしまっている事から、ファブリツィオに直してもらおうと修理に出している。

 打ち上げ中に話していたレナータへのプレゼント選びに付き添い、ウルもこの日の日中はエルヴェーラとのデートを諦めて一緒に何がいいかと相談する。
 女性の扱いが上手そうなウルが一緒であればとてもいいプレゼントが選べるだろう。
 エルヴェーラも仕事の関係上急な休みを取るわけにもいかず、二日分の仕事をこなしつつもクラリスへの教育や冒険者の対応と大忙しな一日を送っているはずだ。



 ◇◇◇



 王都へ出発の日。
 ラフロイグ到着後は寝て過ごしていたマルドゥクの四日間の公開も終了だ。
 ディーノ達の買い物中には多くの人々から声をかけられ、広場も管理している区画長からはマルドゥクを綺麗に洗いたいとの希望により、前日にはウルが寄生して、ボランティアで集まった人々の手によってマルドゥクの超巨体を洗浄。
 ディーノのギフトによって炎熱を使用する事で全身を乾かし、少し薄汚れて見えたマルドゥクも艶のある美しい白狼へと変貌している。
 抜けた体毛は針のように強靭ではあるものの、弾力もあり切れにくい事、また耐火耐熱素材ともなれば何か特別な装備にも使えそうである。
 抜け毛はボランティアに集まってくれた人々が自由にしていいと言うと、今後もまた洗いたいと誰もが協力の意思を示してくれた。
 今後もラフロイグでマルドゥクの洗浄を行うとすれば、ラフロイグの特産品としてマルドゥク装備も売られるようになるかもしれない。
 他にもディーノ達がマルドゥクに騎乗するという事で、馬車造りの工房がマルドゥク用の装具を用意してくれている。
 これはラフロイグ伯爵からの指示であり、マルドゥクのひだの根元に固定できるよう造られており、立ち乗り用として掴まる為の金属のバーと足の衝撃緩和用の仕掛けを組み込まれた特製装具だ。
 荷台も後方に取り付けられてはいるものの、かなりの振動がある為割れ物などはしっかりと固定する必要がありそうだが。
 もしかすると伯爵は自分達が乗る事も考えて装具造りの指示を出したのかもしれない。

 馬車はギルドに返却し、ラフロイグの多くの人々に見送られて王都へと出発する。
 街の中をゆっくりと歩き進み、街道へと出ると少し道を外れ、大気を突き破るかの如き速度で駆け出した。



 ラフロイグを出発したのが昼二の時。
 王都が見える位置までたどり着いたのが昼三の時まであと少し。
 およそ一時程で馬車二日間の旅路を走破したマルドゥクは驚異の速度と言っていいだろう。
 ディーノが全力で走ったとしてもまだもう少し時間は掛かるうえ、マルドゥクはこれでまだ全速力ではないのだから恐ろしい。
 もし本気で走ろうものならアリスやフィオレの体が耐え切れない事もあり、ウルが意識的に速度を落として走っているのだ。

 王都に近付いたあたりからは速度を落として走り進み、城門前の兵士に挨拶してギルドを目指す。
 話が通っているとはいえ最強の巨獣の迫力に足が震え、兵士も身動き取れずに膝から崩れ落ちてしまったが。

 国から知らされている為混乱は起こっていないものの、騒めく王都内では人々を集め、ギルド前ではブレイブを始めとした多くの冒険者達が待機していた。

「騒がせて悪いな。こいつがオレ達が捕獲して来たマルドゥクだ。ルーヴェべデルのウルが寄生してるから害はない、安心してくれ」

「あ~、うん。でも怖えわ。よくこんなの捕獲できたな。あとで話聞かせてくれ」

 ブレイブも下位とはいえ竜種との戦闘を経験しているが、それよりも一回り大きなマルドゥクに体も竦んでしまうようだ。
 ジェラルドなどはマルドゥクの突進を受け止められる自信がないのか口を開けて見上げている。

「んじゃ今夜な。で、マリオ。今から国王様んとこ行くからお前らブレイブも乗れよ」

「え……はぁっ!?国王様に!?なんで俺達が!?」

「あれ?信用するパーティー連れて来いって国王様から命令された~って言わなかったっけか?」

 ディーノは勲章授与後の話し合いで国王から指示を受けており、ギフトを最大限活かせる者達を集めておくよう言われている。
 ただし竜害の際に最前線で戦える者でなくてはならず、ディーノの信用のおける冒険者をと言われればブレイブ以外にないだろう。
 何故ならマリオとジェラルド、レナータは四年もの間ディーノのギフトを受け続けていたのだから。

「確かに聞い、たが……本当に俺達でいいのかよ」

「あ?当然だろ。お前らが戦ってればオレは気にせず安心して寝てられるし、ゆっくり酒飲んで食事もできる。だからしっかり働けよ」

 オリオンからディーノを脱退させた過去があったとしても、ディーノが危機に陥った状況でも逃げる事なく命懸けで戦える者達だ。
 もしディーノに何かあった場合に全てを任せられるとすればブレイブのマリオとジェラルド、レナータだ。
 そして短い期間ではあったがディーノが育てたソーニャもいる。
 これ程頼もしいパーティーをディーノは他に知らない。

「言い方!俺達が下僕みてぇじゃねぇか!」

「下僕!?」

 マリオの言葉に何故か嬉しそうな反応を見せるジェラルドにディーノは気付かない。

「行こうよマリオ。言い方はあれだけどディーノが信用してるって言ってるんだから素直になろ」

「まあ、行くけどよ。国王様の命令って事なら仕方ねぇしな。俺達がディーノのケツ支えてやろうぜ」

「ねぇディーノ、私も?」

「当然。ソーニャはバランタイン最強のシーフになんるだからな」

「わーい!」とエアレイドを発動して跳躍したソーニャはマルドゥクの装具へと着地。
 ディーノに抱きつこうとしてアリスに阻止されていた。

 マルドゥクが身を伏せ、梯子を降ろしてマリオ達を乗せたら王城へと向かう。
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