追放シーフの成り上がり

白銀六花

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91 魔法スキルカウンター

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 黄竜からある程度の距離を確保できたディーノはたった今起こった雷を打ち消した現象について少し考える。
 ユニオンは風の魔核以外は全て魔鋼で造られており、魔力伝導率が高い事から魔法スキルによる抵抗を受ける事なく素通りできる事はわかっていたのだが、その魔法スキルが打ち消されたあとどうなるかを考えた事はこれまでなかった。
 最初こそ魔力をヌメリのようなものであると感じ取りはしたものの、自身が風魔法スキルを使用するようになってからは敵の魔法スキルを受ける事なく回避のみで対応していた為、ユニオンによる打ち消し、相殺はここしばらくする必要もなかったのだ。
 しかし今対峙するのはモンスターの中でも最上位に位置する竜種、それも上位種ともなる黄竜が相手ともなれば回避するだけでは対処し切れずに、ここに来てようやくユニオンでの相殺をする機会が訪れた。
 そして通常のモンスターが使用する魔法スキルに比べて、込められる魔力量が数倍ともなる黄竜の魔力はユニオン内にも流し込んでいるディーノの魔力をも押し返し、留め切れない魔力を空気中に撒き散らす事となった。
 今もまだユニオン内に残る黄竜の魔力は徐々に流れ出てはいるものの、全てが空気中に拡散するまでは少し時間は掛かるだろう。
 そして元は黄竜の魔力であるとはいえ、同じ魔力であるならこれを自身の魔法として使用できないかと試してみる事にする。

 左方向へと向きを変えたディーノは追従する黄竜との距離を確認し、ユニオン内に残る黄竜の魔力へと爆風のイメージを込めると予想外の現象が起こった。
 ディーノの予想を超える超威力の爆風が巻き起こり、軌道が逸れたのか黄竜の横を通り過ぎていく。
 黄竜もその速度に反応が遅れて接触することはなかったものの、再びディーノを追って身を翻す。

 元々黄竜の魔力のみでスキルを発動するつもりだったディーノは自身の魔力も消費している事には気が付いたものの、一度に使用できる魔力がわずかに残っていた為、防壁を足場にして地面に落下しないよう空を駆け上がる。
 実のところディーノの魔法の使用方法は他のウィザードに比べればかなり特殊であり、通常は連続して魔法スキルを発動する事はできず、一度魔法スキルを発動した直後は魔力を引き出す為にもスキル待機時間が必要となるはずだ。
 単発魔法スキルでは魔法の発動前に魔力を引き出し、イメージを込めて事象を起こす為、一発ごとの威力は絶大だ。
 しかしディーノに限っては戦闘中は魔力を常に全身に張り巡らせており、その魔力を小分けにして使う事で何度でも風の事象を起こす事を可能としている。
 また、魔力を使用した後も常時一定量の魔力を引き出す事で全身を一時保管庫として使用しており、ディーノ自身も気付く事はないのだが、これはユニオンの鞘までもが魔鋼で造られている事が原因であり、腹部に近い腰の位置に鞘を挿している事から自動的に魔力が引き出されるような状態となっている。
 普段は魔力に意識を向けていない為か引き出されるような事はないものの、戦闘になれば風の防壁を張り巡らせようと、集中しなくとも魔力に意識は向いてしまう。
 そしてディーノのギフトは持続型のスキル特性を持ち、属性武器による魔法スキルにもその特性は反映されている。
 威力こそウィザードの全出力魔法スキルに比べれば劣るものの、自爆を恐れて威力を制御しているウィザードは全出力で放出する事もない。
 様々な理由からディーノの魔法スキルは多様性のある発動をする事が可能となっている。

 後方から黄竜は口内に魔力を集中させてブレスを吐き出し、低空から駆け上がったディーノに当たる事はなかったものの、放電現象が周囲に巻き起こるとディーノはユニオンで防御し魔力を周囲に撒き散らす。
 どうやら雷が魔力に還元されたとしてもユニオン内には留まるものの、ディーノの体内には入ってくる事はないようだ。
 わずかに引き出せた自身の魔力とユニオン内に残る黄竜の魔力とで再び爆風を放って距離をとり、黄竜の魔力を使用した風魔法について考えを巡らせる。
 ディーノが抱いたイメージではユニオン内にあった黄竜の魔力のみで爆風を放つつもりだったにも関わらず、実際に発動してみればユニオン内にあった魔力と同等量の魔力も消費して超威力の爆風として発動する結果となっている。
 その際のユニオン内にあった魔力量から考えれば、ディーノの放出できる魔力量よりも少なかった事から、体内にわずかに残る事となったようだ。
 そして今の爆風による加速ではそれ程大きな出力とはならず、体内に引き出せた自身の魔力を全て消費する事となったが、ユニオン内に残っていた魔力は事象とはならずにただの魔力として放出された分もあったものと考えられる。
 この事から自身の魔力以外を事象として使用する場合には同等近いの魔力が必要になるという事か。
 今後も確認する事はできないとしても、ある程度回数を重ねていけば感覚で何かが掴めるかもしれない。
 または黄竜程の上位モンスターではなく、魔法スキルの多用するモンスターを相手に検証すればもっと正確なデータが取れるだろう。

 黄竜との距離を確認しようと視線を後方に向けると、顎下から雷を地面に落としながら飛行する姿が目に映る。
 このまま追いつかれた場合にはまた雷を受け止める必要があるのだが、出力調整できない風魔法はディーノの戦い方には向いていない。
 もしまた雷を受けた場合には大気に拡散した方がいいだろうと考えながら、迫る地面に意識を向け着地体勢をとる。
 ディーノは持ち前の俊敏値で地面を駆け、魔力がある程度引き出せるまでは逃げ回ろうと右へ左へと進路を変えながら黄竜から落とされる雷に注意を向けて走り続ける。
 魔法スキル待機時間がこれにあたり、わずかに引き出せるだけでもディーノは使用する事ができるものの、単発スキルでは黄竜の相手はできないだろうと最大まで引き出すつもりのようだ。
 やはり機動性は地面を駆けるディーノの方が高く、空を舞う黄竜は大きく旋回しながらディーノを追い続ける。



 回避し切れない雷はユニオンで受け止め、流し込まれた魔力を拡散させながらスキル待機時間を待ったディーノ。
 百を数える頃になるとスキル待機時間を終えて、腹部から魔力を引き出す事ができなくなったところで空へと駆け上がる。
 黄竜はスキル待機時間に入ったのかツノの輝きは収まり、顎下からの雷も放たれる事はない。
 そう距離は離れていない為、ディーノは爆風を放って黄竜へと接近。
 振り抜かれた右前足を躱して空を駆け、再び首筋の傷に向けてユニオンを突き刺すと、黄竜は絶叫して地面へと落下。
 巻き込まれないようディーノは再び空を駆けるが、黄竜は大地を深く抉りながら地面に滑り込む。
 どうやら背面側は硬質な鱗で守られているものの、鱗を剥がせば前面側よりも痛みを感じやすいようだ。
 または顎下から胸、腹部にかけてスキルの放出器官となっているのが原因か。

 地面に伏して唸り声をあげている黄竜へと爆風による加速で急降下、飛行できないようにしようと翼の間へと着地してユニオンを突き立てたディーノ。
 弱点とも言える翼の付け根部分を突き刺された黄竜は、絶叫して左右の翼を畳むと痛みのあまりか横倒しとなり悶え苦しむ。
 ディーノはユニオンを突き刺したまま爆破しようとしたものの、翼に挟まれまいとそれを回避し、横に転げた黄竜から軽く跳躍して回転するようにして翼にユニオンを振るい、全出力での爆破を浴びせる。
 さすがに巨大な黄竜を浮かび上がらせるだけの橈骨ともなれば強度は高く、表皮はわずかに弾け飛んだものの折れる事はない。
 ユニオンで少し斬り込めた程度とすれば相当な強度と言えるだろう。
 横倒れとなった黄竜の左翼を駆け上がり、揚力を得る為の飛膜を斬り裂いてから地面に飛び降り距離を取る。

 痛みに苦しんだ黄竜はブレスを三度立て続けに吐き出すと、地面を駆けていたディーノは爆風を放ってそれを回避。
 ディーノの姿を確認した黄竜は怒りのままに飛び掛かる。
 形振り構わず襲い来る黄竜の左右前足からの攻撃にディーノも回避に専念し、胸から放出された雷をユニオンで受け止めると、カウンターとばかりに渾身の爆破で右前足を払い除けた。
 ディーノの全出力の爆破以上となった威力に前足の爪を一本吹き飛ばし、バランスを崩した黄竜の顔へと飛び上がると左目にユニオンを突き刺した。
 しかし黄竜ともなれば並の竜種よりも分厚い角膜を持っており、失明させるには至らない。
 それでも痛みは感じたのか悲鳴をあげながらディーノを薙ぎ払おうと闇雲に左前足を振り回す。
 目元から跳躍していたディーノは地面へと降り立ち、暴れている黄竜を見上げていると、ディーノの場所を察知している黄竜は再び雷を顎下から放出。
 ユニオンで掻き消して大気へと魔力を霧散させていく。
 これまで何度か雷を受ける事になったが、元が魔力である為か魔力伝導率の高いユニオンに向かって落ちる事でディーノに直撃する事はない。
 誰も知る事のない魔鋼の性質であり、購入した価値どころか全てを投げ打ってでも購入すべき最強の武器ではないかとさえ思えてくる程の性能だ。
 次にファブリツィオに依頼する予定の左用武器をダメ元でも魔鋼で造れないか相談してみようと考えつつ、わずかに引き出せた魔力で爆破を発動。
 雷撃の合間に振われる前足による攻撃を弾き飛ばし、再び落とされる雷を受け払って黄竜のスキルを消耗させていく。

 しかしディーノの体力も無限にあるはずもなく、息はあがり汗を散らしながらこのスキル戦に必死に食らい付く。
 この力の拮抗する戦いに獰猛な笑みを浮かべたまま。
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