追放シーフの成り上がり

白銀六花

文字の大きさ
上 下
87 / 257

87 ディーノの過去

しおりを挟む
 黒夜叉の三日間の休みを終えたものの、まだアークトゥルスが戻ってこない事からもう一日休みを取る事にした。
 ギルドにはすでに討伐を終えたとの連絡が入っており、拠点となっていた街で休んでから戻って来るのだろうと、領主邸でくつろいでいたディーノは、この日急遽休みをとったセヴェリンから呼び出されて養子に来ないかと誘われる事となった。

「強要するつもりはないが我々には子供がいなくてな。親族から養子をとも考えていたのだが、ディーノと過ごすうちに君が私の息子ならばどれ程幸せな事かと思うようになってね。ソフィアも私と同じ気持ちのようだしどうだろう、考えてはくれまいか」

 ソフィアはセヴェリンの妻であり、すぐ隣に座って微笑みながら頷いている。
 多くの知識を持つ聡明な女性で、ここ数日もディーノ達と冒険の話や各地の様々な話をしながら仲の良い親子のようにして過ごしており、アリスとフィオレにも優しく親しみやすい女性である。

「ありがたい申し出ですが……オレは伯爵様にそのように言ってもらえるような者ではありません。失礼ではありますがお断りさせて頂きます」

 頭を下げてセヴェリンの誘いを断るディーノ。

「私も無理を言っているのはわかっているんだが、理由を聞かせてもらってもいいかね」

 優しい表情から真面目な表情へと一変させたセヴェリン。
 しかし断られる事がわかっていたのか表情が変わったとしても雰囲気は変わらない。

「伯爵様はオレの事を調べていますよね。オレは生まれこそ商人の息子ですが……一年程の間、盗賊に育てられていた時期があります」

 ディーノは孤児院に入る前、商人の息子として何不自由ない生活を送っていたのだが、隣街への旅の途中で盗賊に遭遇し、父を斬り殺され、母は盗賊共に嬲り犯されながら死んでいく様を見せつけられている。
 そして捕らえた子供はスキルを確認してから他国へと売り渡される事となっていた為生き残り、スキルが珍しかったディーノは売られる事にはならず、ギフトを発動するよう指示を出されて盗賊と共に過ごす事になる。

 何日かに一度の人間狩り。
 盗賊のする事は残虐極まりないものであり、多くの人々を嬲り、犯し、殺して奪う。
 目の前で起こる地獄の一端をディーノは自分のスキルが担っているものと知りつつも、振われる暴力に怯えて拒絶する事もできなかったという。
 討伐隊が結成されるも、その盗賊団の実力は確かなものであり、ディーノのギフトでわずかにでも上昇したステータスで、多くの冒険者達をも葬り続けていた。
 最終的にはSS級パーティーが出向く事で盗賊団は壊滅し、同じように盗賊として殺してほしいと望んだがそれは叶わず、ディーノを助け出した冒険者に他の誰かを助けられる強い男になるよう諭されたとの事。
 その時から冒険者に強く憧れを抱いたディーノは、強くなろうと努力に努力を重ねてSS級パーティーまで上り詰め、パーティーを追放された後からは、助けを必要とする者達の為にも緊急クエストの全てを受注してきたのだと語る。

「ふむ……君は優しい男だ。罪を人一倍感じていたのだろう。しかしそれでも君を我が家に迎え入れたいという気持ちは変わらんよ。今しばらく考えてみてくれんかね」

 ディーノの過去を聞かされてもまだセヴェリンは引き下がるつもりはない。
 元々の調査から知っていての申し出であり、ディーノから聞かされたとしてもセヴェリンの気持ちは変わるはずもないのだ。
 すぐに答えが欲しいわけではなく、しばらくの間考えて欲しいとディーノに優しい笑顔を向ける。

「生涯オレの罪が晴れる事はありません。ただ今後生きていくうえでオレの生き様がどうあるか、何を成し遂げるのか、自分を認め、誰もが認める存在となれたその時には……返事をさせて頂きます」

「そうか。では答えを聞ける日も遠くないな。ソフィアよ、今後の社交会ではディーノの英雄譚を広める事にしよう」

「ええ、そうしましょう。今から楽しみで仕方がないわ」

 実のところディーノの存在はすでに貴族間では有名になっており、ラフロイグ伯爵から国王の耳にまで届く事になっている。
 まだ表立って聞こえてくる事はないものの、誰もが認める存在というのであればセヴェリンやソフィアとしては一年と掛からないのではないのかとさえ思っている。
 しかしディーノはそんな事になっているとは知るはずもなく、本人の気付かないところで英雄ディーノの存在が囁かれ始めているのだ。



 セヴェリンもソフィアも満足そうに養子の話題を終え、新しく淹れたお茶を飲みながら休みを満喫していると。
「きゃぁぁぁあ!!」という悲鳴が遠くから聞こえてくる。
 声からしてアリスの悲鳴だが、今はアリスとフィオレは連携の訓練をしていたはずだ。
 立ち上がったディーノは「失礼します」と言い残して部屋を飛び出して行く。
 声の聞こえた方向はわからないが、邸の使用人が「あちらです!」と指差してくれる為、ディーノは迷わず駆け出した。
 セヴェリンとソフィア、エンリコも部屋を出て使用人に案内されながらそちらへと向かう。

 ディーノがたどり着いた場所は邸の大浴場であり、主人であるセヴェリンが邸にいる時にだけ入浴する事ができる。
 タオルで胸を隠したアリスは顔を真っ赤にしながら脱衣場の前の床に座っており、涙目になってディーノに抱きつく。

「どうした!?なんかあったのか!?」

「フィ、フィオレがぁ……」と声を震わせながら脱衣場を指差す。

「ディーノと同じ……ディーノと同じのがぁ……うぐっ……ついてたのぉ、うあぁあんっ」

 そこに立っていたフィオレはタオルで前を隠しているが全裸であり、おそらくは訓練で汗をかいた為に一緒に風呂に入ろうとしたのだろう。

「あのね、僕は一緒に入るのはダメだって言ったんだけどね。アリスに脱がされちゃったの」

「あー……そうか。悪い。フィオレは悪くないや。アリス、言ってなかったがフィオレは男なんだ。一緒に風呂に入るのはダメだぞ」

 そうなのだ。
 ディーノはフィオレが男である事を知っていた。
 男性女性問わず振り返りたくなる程に可愛らしい顔をしており、身長もアリスと同じくらいと男にしては低めである。
 中性的ともとれるハスキーボイスの僕っ子。
 アリスには自分よりも年下の女の子とでも思っていたのだろう。
 しかしディーノは気を失ったフィオレを抱えた事があり、その際の骨格のつくりから男である事に気付いていた。
 男が苦手なアリスにこれを伝えるべきか悩んだものの、バイアルドの件もあって性別不詳や同性愛者など、理解できない男と教えては連携も難しいと思ったディーノはアリスに知らせていなかったのだ。

「だってぇ……フィオレ、あんなに可愛いのに?」

「うん。可愛くても男だ」

「ディーノとぉ、同じのがついてる?」

「うん。あんま人前で言う事じゃないけど」

「うあぁぁぁあんっ」とまた泣き出すアリスだが、フィオレには何も罪はない。
 ただ女の子のように可愛らしく生まれてしまったのだ。
 知っていたのに言い忘れていたディーノが反省すべきだろう。
 フィオレも「僕って言ってるんだから知ってると思ってた」と悪気も何もない。
 そこへやって来たセヴェリンとソフィアも「男!?」と驚く程にはフィオレは可愛いのだ。
 エンリコは「ご存知なかったので?」と、衣類の洗濯や身の回りの世話をしていた使用人達は知っていたようだが。

 とりあえずフィオレを裸にしておくわけにもいかずに風呂に入ってもらい、アリスが落ち着くまでディーノは頭を撫で続けた。
 今後アリスとフィオレの連携に影響が出なければいいなと思いながら……
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

処理中です...